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小説「廃屋の町」(第125回)

2017年12月31日ニュース

「買収した方からすれば、相手に飲食を提供した見返りに票をもらえるわけですし、買収された方からすれば、自分や家族の票をあげる見返りに、飲食の提供を受けるわけですし、お互いがそれぞれ便宜を受ける関係になってしまうからです。一方で、事件として警察に摘発されれば、お互いが罪に問われるといった不利益を被るという関係にもなります」米山が言った。
「一蓮托生の関係ってことか」甘木が呟いた。
「もう一つ井上事務所に取材に行って気づいたことがあったよ」髙橋が言った。
「何だい?気付いたことって?」風間が尋ねた。
「ホワイトボードのスケジュール表に、井上市長のミニ集会の日程がびっしりと書き込まれていたんだ。ミニ集会は、土日は事務所で平日は午後7時から町内会の集会所で行っているらしいだが、平日のミニ集会は一日5か所も入っている日もあったね」高橋が言った。
「ええ!一日に5か所もできるのかよ?井上市長は、日中公務があるから、平日は夜間にしか政治活動はできないけど、1か所で1時間は掛かるとして5時間にもなる。移動時間も含めればそれ以上の時間が掛かる。5か所もやれば翌日になってしまうよ。高齢な井上市長の体力を考えれば、無理なスケジュールだよ」風間が言った。
「ところがミニ集会に費やす時間は1か所当たり2,30分になっているんだ」高橋が言った。
「そんな短い時間で、井上市長の選挙公約、確か『六つの光』だったと思ったけど、それを説明できるの?全然時間が足りないよ」風間が言った。
「ミニ集会では、井上市長の選挙公約が載っているパンフレット『六つの光』を配った後、市長の挨拶があってそれで終わり。井上市長は次の会場に向かうというパターンみたいだね」高橋が言った。
「たったそれだけ?わざわざ井上市長の公約を聞きに集会所に集まったのに、市長の挨拶だけで終わりじゃ、有権者に失礼じゃないの?」久保田が言った。
「ミニ集会を開催する本当の目的は別のところにあるみたいだね」高橋が言った。
「何だい?別の目的って?」風間が尋ねた。
「飲み食いさせて票を集めようということさ」高橋が言った。
「それは、もしかして買収ってこと?」甘木が言った。
「ミニ集会の表向きの理由は井上市長の選挙公約の説明会になっているけど、本当の目的は、集会に集まった有権者に飲食を提供して投票をお願いすることみたいだね。ミニ集会は井上市長の後援会「将進会」が取り仕切っているようだが、「将進会」は町内会を単位にして網の目のように張り巡らされている。この前、井上事務所に取材で行ったら、別室にいる後援会の幹部連中が町内会の世話役に電話を掛けて、ミニ集会が終わった後の宴会の打ち合わせをしている話を、偶然に聞いてしまったんだ」
 高橋が言った。
「ミニ集会に参加する人は井上市長の話を聞きたくて集まるんじゃなくて、タダで飲み食いができるからじゃないの?時間も夜だからね。集まるのは男性がほとんどだと思うけどね」風間が言った。
「タダかどうか分からないけど、参加者から会費を取っているとしても、僅かな金額だと思うけどね。一方、土日や祝日の昼間に井上事務所で行われる集会には女性が多いって聞いているよ。参加者には松花堂弁当や高級和菓子が付いているからね」高橋が言った。
「いずれのケースも公職選挙法違反の買収にあたります!」米山が語気を強めて言った。
「夜は酒で男性票を釣って、昼は弁当やお菓子で女性票を釣る。お金が幾らあっても足りないわ」
 久保田が言った。
「金のかからない選挙にしようと、公職選挙法で選挙費用の上限額が定められていますが、選挙費用が上限額をオーバーしても、オーバーした分を隠してしまえばそれまでですよ。いずれにしても、買収は、候補者だけではなく有権者としてのモラル・自覚に関わる問題ですよ。選挙権は憲法が保障する基本的人権の一つです。この天賦の権利がお金で捻じ曲げられてしまうのは、民主主義の危機です。何とも嘆かわしいことです」米山が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第124回)

2017年12月29日ニュース

「飲み食いをさせる場所ってどこかしら?まさか、向かいにある居酒屋『寄り道』ってこと?」
 久保田が言った。
「そうかも知れないね。作業服を着て来店すれば生ビールが半額になるって触れ込みだろう。店の壁には井上市長の選挙用のポスターが貼ってあって、建設会社の社員が友人を居酒屋に連れて行って飲み食いさせる。アルコールが回っていい気分になった友人に、井上市長のポスターを見せて投票を依頼する。充分考えられるシナリオだね」風間が言った。
「タダで飲み食いさせるってこと?」久保田が尋ねた。
「タダにすると相手が嫌がるので、少しだけ負担してもらうってことはあるかもね」高橋が言った。
「健ちゃんの話を聞いて思い出したけど、建設会社を経営している私の親戚の人が『寄り道』に行った時の話よ。スーツを着た若い人が作業服姿の人に『先輩、ごちそうさまでした』って言っているのを見たそうよ」久保田が言った。
「恵ちゃんの親戚の人が作業服を着て『寄り道』に行ったの?」高橋が言った。
「そうそう、生ビールが半額になるっていうから行ったんだって。そうしたら、店の人から、『お客さんは田沼市にお住いですか?』って聞かれて、『いいえ、違います』って答えたら、それきりだったそうよ。」
「恵ちゃんの親戚の人が田沼市に住んでいるって言えば、生ビールがタダになったかもしれないよ」
 風間がにやにやしながら言った。
「分かっていれば、そう言ったかもね。それと店の中には井上市長のポスターが張ってあったそうよ」久保田が言った。
「やっぱりそうか。米山さん、居酒屋の中に候補者のポスターを張ることは違反にならなんですか?」
 風間が尋ねた。
「居酒屋のように不特定多数の人が出入りする場所で、立候補予定者のポスターを掲示すれば、事前運動にあたりますね」遠山が答えた。
「事前運動?」風間が尋ねた。
「立候補の届出前に選挙運動を行うことです。選挙運動は立候補の届出を行った日から投票日の前日まで行われます。市長選挙の場合、選挙期間は7日間です」米山が答えた。
「この事務所には甘木君のポスターが張っているけど、それは大丈夫なの?」久保田が尋ねた。
「この事務所のように、特定の人しか出入りできない場所に掲示されているのであれば問題はありません。ただし、通行人に見せようとして通りに向けてポスターを張っていればば、アウトですが……」
 米山が言った。
「違反した場合は罰則があるんですか?」風間が尋ねた。
「1年以下の禁固又は30万円以下の罰金です」米山が答えた。
「買収に比べれば、刑が軽いですね」甘木が言った。
「そうですね。それに、違反しても警察からの警告で終わってしまうことが多くて、警告を無視すれば別ですが、刑罰が科せられることはめったにないようです。さっきも言ったように、選挙犯罪の中で最も刑罰が重いのは買収です。警察の取り締まりも、当然厳しくなります。しかし、買収はなかなか表に出てきません。買収した者も買収された者もウインウインの関係になってしまうため、事件として発覚しにくいんです」米山が言った。
「ウインウインの関係って?」久保田が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第123回)

2017年12月27日ニュース

「長野日刊新聞の記事とか、政財界信州の3月号が影響しているんじゃないかい?特に、政財界信州では、元市役所職員の坂井さんの自殺と、公正取引委員が行った市立病院の官製談合疑惑の調査とを関連付けて書いてあったね」風間が言った。
「多分そういったことも、井上市政の支持率低下として世論調査に表れたんだろうね」高橋が言った。
「自殺した坂井さんは杉田君の部下だった人でしょう?」久保田が言った。
「そう、財政係長だったそうだよ」高橋が言った。
「杉田君から自殺した坂井さんについて詳しい話を聞きたいと思っているんだけど、全然連絡がないわ。それに杉田君や木下君は一度も事務所に顔を見せていないわ。どうしてかしら?」
 久保田が言った。
「仕方がありませんよ。政治的中立性を求められている一般職の公務員は政治行為が制限されていますから」米山が六法全書を開いて、地方公務員法第36条を説明した。
「市役所の中では、市長選に影響するような情報を外部に漏らさないようにと、緘口令が敷かれているらしいよ。特に、杉田や木下は甘木の中学時代の同級生ということで、二人の動向は総務部長や産業建設部長に監視されているらしいよ。市役所の中だけじゃないよ。杉田と木下の二人が甘木の事務所に出入りすれば、直ぐに井上市長の耳に届くからね。それというのも、向かい側にある居酒屋『寄り道』の防犯カメラが甘木の事務所に向けられているからね」高橋が言った。
「もしかして、この事務所の中に盗聴器が仕掛けられているってこともあるんじゃないかい?」
 風間が心配になって、机の下を覗いた。
「ここには隠すものなんか、何もないわよ。むしろ、隠すことがあるのは井上陣営の方でしょう!」
 久保田が言った。
「現在こちらが一歩リードしている状況を踏まえて、井上陣営は、これからどんな手を打ってくるんだろうか?」甘木が言った。
「恐らく実弾を用意すると思うよ」高橋が言った。
「実弾って現金のこと?」久保田が尋ねた。
「そう、現金を配って票を集めるんじゃないだろうか?」高橋が言った。
「それをやれば、買収罪になります」
 米山修二は公職選挙法第221条から223条の買収罪について説明した後、
「このように買収罪は、数ある選挙違反の中でも、重い刑罰が科せられる悪質な選挙犯罪ですから、警察当局も厳しく取り締まっています。この買収罪は、買収した本人だけではなく、買収された人も同じ刑罰が適用されます。また、後援会、会社、労働組合、宗教団体、業界団体などの組織を使って選挙運動が行われている場合、後援会長など、その組織を総括する立場にある人が買収罪に問われ刑が確定すると、連座制が適用され、候補者の当選が無効になり、一定期間立候補できなくなります」と言って話を締めくくった。
「今の米山さんの説明だと、特定の候補者に投票をしてもらおうと有権者に直接、現金を配るというのは、受け取る側からすれば、かなり抵抗があるんじゃないだろうか?受ける方の立場から考えると、飲み食いなどの経費を負担してもらう供応接待の方が抵抗は少ないんじゃないだろうか?」
 甘木が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第122回)

2017年12月25日ニュース

「こんにちは、米山です。これ、皆さんで召し上がってください」
 事務所に入った元田沼市職員の米山修二が菓子折りを久保田に渡した。
 菓子折りを開けた久保田が、
「あら、美味しそうなイチゴのショートケーキ。ごちそうさまです。早速、頂きましょう」と言って、その場にいる4人に熱いコーヒーと一緒に配った。
「高橋、今日は取材?」甘木が尋ねた。
「半分は取材で、半分は情報提供だそうよ」久保田が言った。
「何だい、情報提供って?」甘木はコーヒーカップを手に持って尋ねた。
「一つは選挙情勢についてだよ。多分知っていると思うけど、県議選は無競争になりそうだよ」
 高橋が言った。
「最初の頃、民自党の元国会議員の秘書をやった手島って人が県議選に出るって噂が流れていたけど。その話はなくなったんだね?彼が出れば、保守票が割れて現職の山田県議は苦戦するだろうとみていたけどね」風間が言った。
「手島さんはまだ年齢も40代と若いんで、県議になる前に市議になって、政治家経験を積んだ上で、次になるのか、その次になるのか分からないけど、山田県議の後継者として県議選に出るということで、話がまとまったらしいよ。何でも田沼クラブの最年長者の山崎光蔵市議が今期限りで市議を引退するので、その後継候補として、手島さんが市議選に出るらしいよ」高橋が言った。
「それだけで、県議選の出馬を取り止めにするかしら?手島って人は秘書時代に政治資金の着服事件を起こしたって聞いたことがあるわ。立候補を取りやめる条件にお金を要求したんじゃないの?」
 久保田が言った。
「お金を使って立候補を辞退させれば、立候補辞退等の買収罪になりますよ」
 元田沼市選挙管理委員会事務局長の米山修二が、公職選挙法第223条を説明した。
「手島に立候補をやめさせるために、お金を使ったかどうかは分からないけど、県議選は今回も無競争になりそうだよ。一方、市長選挙の方は、こちらも最初、市議会副議長の小林俊二さんが市長選に出るつもりでいたけど、井上市長が4期目も当選すれば、次の選挙には出ないで、小林さんに禅譲することで話がついたらしいんだ」高橋が言った。
「あのケチで有名な小林副議長がタダで立候補をやめたなんて信じられないわ。お金をもらって立候補を取りやめたんじゃないの?」
 久保田が言った。
「そうだとすれば、それも立候補辞退等の買収罪になりますよ」米山が言った。
「その結果、市長選は現職の井上市長と新人の甘木が四つに組むという構図だね」高橋が言った。
「八百長試合が発覚した大相撲は人気に陰りが出てきましたが、市長選挙は大入りが期待できそうですね」米山の冗談で一瞬、場が白けた。
「さっきの話の続きだけど、県議選の田沼市選挙区は市長選の選挙区と重なることから、民自党の長野県連は、現職の井上市長を推薦していることもあって、県議選と併せて市長選についての世論調査も一緒に行ったそうなんだが、甘木が頭一つリードしているって結果が出たそうだよ」
「ええ!それってホントなの?」久保田が驚いた様子で言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第121回)

2017年12月23日ニュース

「ごめんください。こちらは、甘木さんの事務所でしょうか?」
 30代くらいの女性3人が甘木の事務所を訪ねてきた。
「はい、そうですが。どちら様ですか?」久保田恵子が尋ねた。
「私たちは子育て中の主婦ですが、甘木さんに是非、市長に当選してもらいたくて千羽鶴を持ってきました。これを甘木さんに渡して下さい」女性グループの代表が久保田に千羽鶴を渡した。 
「わあ、すごい!こんなに大きな千羽鶴。どうもありがとうございます。甘木は間もなく戻ってくると思いますので、どうぞ、お掛けになってお待ちください」久保田は3人に椅子を勧めた。
「私たちは同じ団地で活動している子育てグループです。現在子育て中の7人のママが集まって『ひまわりクラブ』というサークルを作って活動しています。実は、去年の暮れに甘木さんともう一人の方が、私たちが住んでいる団地に、市長選挙に出られるということで挨拶回りに来られたんです。甘木さんが私の家にお出でになった時、丁度、私たち3人が家に居まして、お二人から子育てについて困っていることがあったら何でもいいから聞かせてもらいたいって言われ、私たちグループが日頃から思っていることを、お二人にお話ししました。そしたら、甘木さんから、私が市長になったらすぐにやりますって、おっしゃっていただき、本当に心強く思いました。グループの会合でそのことを話したら、甘木さんが市長になれば、田沼市の子育て環境がもっと良くなるんじゃないかってことになったんです。甘木さんを市長にするために、私たちができることは何かしらって考えていたら、千羽鶴がいいよってことになって、私たち7人が3か月掛けて折りました」
 久保田が入れたココアを飲み終えた3人は、この後の予定があるといって、帰って行った。
「『祈必勝』か。為書きなんかより、ずっと御利益があるよ」
 高橋が千羽鶴に吊るされている短冊を手に取って言った。
「女性グループの代表の方から、当選したらこの封筒の中に入っている札に取り換えてくださいって言ってたわ」久保田が白い封筒を高橋に渡した。
「封じ口が開いているね。ちょっと、なかを覗いてみようか」
 高橋が封筒の中から短冊を取り出した。短冊には「祝当選」と書いてあった。
「さっきの女性たちは勝利の女神らしいね。甘木たちが帰って来たようだ。恵ちゃん、この封筒は仕舞っておいて」
 高橋は「祝当選」の短冊を封筒に戻して久保田に渡した。久保田は封筒を事務机の抽斗に入れた。
「ただいま帰りました」と言って、甘木と風間が帰ってきた。
「お帰りなさい」久保田が言った。
「どうしたんだい?この大きな千羽鶴は。『祈当選』と書いてあるけど?」風間が言った。
「『ひまわりクラブ』っていう子育て中のママさんグループが届けてくれた千羽鶴よ。甘木君には絶対、市長に当選してもらって、子育て環境を充実させて欲しいって言っていたわよ」久保田が答えた。
「もしかして、風間と二人で新興住宅地を回っていた時に、子育てについていろいろと意見や要望をもらった家があったけど、その家の中にいた女性グループかな?」甘木が言った。
「そうみたいね。この千羽鶴、7人で3か月掛けて折ったそうよ」久保田が答えた。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第120回)

2017年12月21日ニュース

 3月中旬、市長選挙が1か月後に迫っていた。
「こんにちは、甘木はいますか?」
 地域新聞「月刊たぬま新報」編集長の高橋義男が甘木の事務所を訪ねた。
「あら、高橋君じゃないの?甘木君は健ちゃんと出掛けているわ。もうすぐ戻ってくると思うけどね」
 事務所番をしていた久保田恵子が答えた。
「今日は取材?」
「半分は取材で、半分は情報提供だよ」
「何、情報提供って?井上陣営に関する情報ってこと?」
 久保田は熱いコーヒーを入れたカップを高橋の前に置いた。
「2人が来てから話すよ。恵ちゃんが入れてくれたコーヒーのようにホットな情報だよ」
「どんな情報かしら。楽しみだわ。でも記者っていいわね、取材であれば、遠慮なく、候補者の選挙事務所には出入りできるんだもの」
「普通の記者ならそうだろうけど、僕の場合は、井上陣営から甘木の同級生だっていうレッテルを張られているから、警戒されて核心部分はなかなか聞き出せないね」
「井上事務所の中ってはどんな感じなの?」
「選対本部長の遠山議長と、井上市長の後援会長を務めている田沼市土地改良区の松本正蔵理事長が選対副部長として、事務所に常駐しているみたいだよ。この前、事務所に行った時は、数名の女の人がパンフレットの仕分け作業をしていたね。それと作業服を着た人たちがパンフレットを車に積み込んでいたよ」
「作業服姿の人って、もしかして建設会社から動員された人たちじゃないの?」
「作業服に会社の名前が入っていたから、そうだと思うよ。事務所の壁には業界団体の推薦書がびっしりと貼ってあったよ。それに為書きもあったよ」髙橋が言った。
「為書き?」
「選挙の時に『何某候補の為に』として『祈必勝』などと大書して選挙事務所に届ける激励ビラのことだよ。主に国会議員や県議会議員が激励ビラを届けることが多いみたいだね」
「向こうは業界団体丸抱えの組織選挙だから仕方がないわね。それに比べてうちの事務所は寂しいわね。私たち同級生の寄せ書きしかないわ」
「そんなことはないよ。僕たち同級生が心を込めて書いた寄せ書きに勝るものはないよ。形だけの推薦書や為書きなんか、何の御利益もないよ」
「高橋君の寄せ書きには『為せば成る』って書いてあるけど、どういう意味?」
「正しくは『為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり』というんだ。やればできる、やる気があれば必ずやりとげられる、という意味だよ。江戸時代中期の米沢藩、今の山形県だけど、その9代目藩主の上杉鷹山が詠んだ歌だよ。アメリカのオバマ大統領が『イエス、ウィキャン』って言葉をよく使っていたけど、それと同じ意味だよ」
「そうね。選挙まで残りわずか。気合を入れて頑張りましょう」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第119回)

2017年12月19日ニュース

「ところで、オタクの集票システムの値段は幾らだね?」
「両手で3本です」
「300万円かね?」
「御冗談を。一桁違います」
「3000万円!大層な値段を吹っ掛けてきたな!」
「お客様の資力に合わせた金額です。3000万円の内訳は着手金として2000万円。残りの1000万円は成功報酬です」
「分かった。オタクに頼むよ」
「ありがとうございます。井上さまが当選できるように当社の社運をかけて取り組んでまいります」
「よろしく頼むよ。ところで甘木陣営の事務所には営業に行ったの?」
「私どもの仕事は商売でやっています。資力の無いところ、利益の出ない所には行きません」
 遠山は思わず苦笑をした。
 井上陣営は前回の市長選と同様に今回も組織戦で臨む。県議選は今回も無競争となることがほぼ決まったことから、井上市長の後援会だけでなく山田県議の後援会組織も活用した票集めを行うことになった。それと新年度予算事業を前面に出した業界団体への働きかけもある。選対本部長の遠山は現職と新人の一騎打ちになった4年前の市長選挙を思い出した。現職の強みを生かした組織戦に大胡坐をかいていたら、後半、新人に追い上げられて僅差での勝利だった。
 今回の選挙も現・新一騎打ちの構図だ。高齢化が進んで、井上市長と山田県議の後援会組織のフットワークは4年前と比べて落ちている。業界団体に井上支持を働きかけても社員とその家族など末端、細部まで現職支持が広がるかどうかは分からない。遠山は、先日、息子や娘に現職支持を頼んだところあっさりと断られたことを思い出した。会社の朝礼で井上市長に投票するようにと社長の話があったことを、息子と娘から聞いていた遠山であるが、業界団体に働きかけても、案外、効果がないのかもしれないと思った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第118回)

2017年12月17日ニュース

「このアンケート調査は抽出範囲を広げて2回実施します。投票に行くけど投票先が決まっていない人はだんだんと絞られてきます。私どもはこの層に対して候補者の最終予想得票数の通知とアンケートに対する謝礼として商品券を配ります。実はこれだけでは歩留まり5割には届かないのです。このリストには世帯主の氏名、住所、電話番号が載っていますので、お客様の方でこのリストを活用した票集めをしていただきたいのです。例えば、掲載されている住所にパンフレットを送付することもできます。また、アンケート調査の2番目の質問が『市の政策に何を望むか』という項目になっていますが、回答の五番目『分からない』を除けば、景気が32%、生活が21%、福祉が19%、教育が11%の順になっています。新年度予算の中から景気や生活に密着した事業を抜き出して予算額と一緒にパンフレットに掲載すれば、政策を重視する有権者層には効果的です。現職の強みは予算編成権を持っていることです」遠山は思わず笑った。
「政策ねえ。義理人情で票を集める片田舎の選挙に政策なんかは要らないんじゃないか?」
「政策と言うと何か仰々しいイメージを抱きますが、政策を利益分配と言い換えると分かりやすくなります。有権者は自分たちの利益になる政策や事業を支持します。建設業界が公共事業予算の増額を要望するのと同じことです」
「そういう意味ではオタクと同じにようにウチも金券を配った方が効果的じゃないか?」
「お客様がそれをやれば公職選挙法違反の『買収』(法221条違反)になります」
「そうか。ところでオタクが提案する、この集票システムを使った選挙で勝った実績はあるのかね?」
「昨年10月に行われた戸板市長選挙です」
「なに!『戸田の軌跡』と言われているあの選挙か!」
 人口約15万人の戸板市の市長選挙が昨年10月に行われた。市長選挙は現職と保守系の新人で争われた。盤石な態勢で臨んだ現職が大差で新人に敗れた。「戸板の軌跡」と言われ、予期せぬ選挙結果にいろいろな憶測が飛び交っていた。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第117回)

2017年12月15日ニュース

「これからは企業秘密に関わることなので詳細は申し上げられませんが、少しだけお話させていただきます。私どもはアンケート調査を告示日までに1回、告示後に1回、合計2回実施します。1回目の調査はサンプル数を10分の3に増やして実施します。2回目は10分の5と更に増やして実施します。この2回のアンケート調査から投票に行くけど投票先はまだ決めていない人のリストを作成してこちらに提供します。このリストの使い方はお任せします。私どもはこのリストに載った人たちにアンケート調査の謝礼として商品券を送ります。その際に、井上氏、甘木氏の順で最終予想得票数のメモを同封します。井上氏が僅差で甘木氏を追っているという状況を示したメモです」
「それはどういう意味だね?」
「自分の一票で選挙結果、つまり当落が変わってくるということを演出するためです。ウグイス嬢が『もう一歩です、もう一歩です』と言うのと同じことです。同封する商品券は投票所まで御足労いただくための足代です」
「商品券を配るのは買収にあたるんじゃないか?」
「候補者が商品券を配れば買収になりますが、私ども調査会社が謝礼を配るのは、何ら問題はありません。それと私どもがやる仕事がもう一つあります」
「それは何だね?」
「誰が候補者になっても最初から棄権する20%の人たちを投票所に行かせることです」
「最初から棄権する人の首に縄でも掛けて無理やり投票所に連れて行くつもりかね?」
「御冗談がお好きですね。この調査は2回行いますので、第1の質問に対して2回とも行かないと回答した人から投票所の入場券を現金で買い取ります。買い取った入場券を使って替え玉投票をさせます。これは立派な公職選挙法違反の『詐欺投票』(法237条違反)になります」
「投票所には市の職員や立会人がいるから、入場券を持ってきた人物が本人でないことは直ぐにばれてしまうよ」
「性別、年齢は本人に似せた替え玉を使うので心配はいりません。また替え玉には素性の知られていない人物を使います。それと、替え玉投票に利用する投票所は有権者が多い市街地の投票所です。住民が頻繁に入れ替わる市街地では、近所に知らない人が住んでいても不審に思うことがないからです。特に市街地のアパートには素性が知られていない人が沢山住んでいます。絶対に投票に行かない人が投票に行きますので投票率は若干上がります。替え玉投票の歩留まりは2割とみています。85000票の2割掛ける2割で約3400票がお客様の票に上積みされます。ただしこの票は純増分です」
「さっき説明のあった投票に行くけど投票先が決まっていない人は何割くらいうちの票に取り込めるんだね?」
「こちらの歩留まりは五割とみています。13600票の5割で約6800票です。こちらの票を取り込めば相手候補は同じ票数が奪われます。つまりは票差が約13600票となります」
「投票に行くけど投票先が決まっていない人のリストはオタクからもらえるそうだが、ウチはそのリストをどのように使えばいいんだね?」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第116回)

2017年12月13日ニュース

 一人の男が井上陣営の選挙事務所を訪ねて来た。
「ごめんください」
「どちら様ですか?」事務所にいた選対本部長の遠山信一は男に尋ねた。
「初めまして、私はこういう者です」
 男は遠山に名刺を差し出した。男から差し出された名刺には「岡本政治経済研究所 所長 岡本聡」と記入されていた。
「どういうご用件でしょうか?」
「私どもの研究所では、この4月に行われる田沼市長選挙に関して、1月下旬に電話によるサンプリング調査を実施しました。今日はその結果を持ってきました」
 遠山は電話によるアンケート調査があったことを家族から聞いていた。岡本は遠山に資料を見せながら、調査結果についての説明を始めた。岡本が示した市長選挙のサンプリング調査には次の4つの質問項目が設定されている。
1.投票に行くかどうか(①行く、②行かない、③分からない)
2.市の政策に何を望むか(①福祉、②教育、③生活、④景気、⑤分からない)
3.市長に誰が適任か(①井上氏、②甘木氏、③分からない)
4.性別は(①男性、②女性)
 サンプリング調査は市内の全世帯の10分の1にあたる3200世帯を無作為に抽出して行われた。調査日は1月23日。調査結果は、抽出した3200世帯に電話を掛けて回答のあった830世帯を分析したものだ。結果表には、1から4までの質問に回答した人数と割合が印字されている。第3の「市長に誰が適任か」という質問に対しては520人が回答している。
 遠山は「市長に誰が適任か」の調査結果に目を向けた。甘木氏135人(26%)、井上氏105人(20%)、分からない280人(54%)という数字が書いてあった。また、その下には甘木氏16129票、井上氏9537票、分からない30294票という票数が書いてあった。甘木と井上の票差があまりにも開いていたことから、遠山は驚いた。
「この調査結果を見ると、ウチの陣営が不利になっているようだが……。田沼市の有権者は約85000人いる。『誰が市長に適任か』の質問に回答した520人は有権者数の僅か0.6%じゃないか。こんな少ない人数を調べて出した調査結果では信用できないね」
 遠山は電卓をたたきながら言った。
「確かに抽出した3200世帯は田沼市の全世帯の1割弱ですし、実際に回答した830人は全有権者の1%弱です。しかし、回答した830人は全有権者85000人の投票行動を代表しています。有権者全体を代表している証拠は、回答した男女別の比率を見れば分かります。男性が48.4%、女性が51.6%です。この男女比は田沼市が直近に行った人口統計の男女比とほぼ同じになっています」
「分かったよ。それでどうなるの?」
「今回の市長選挙の投票率を前回の市長選挙と同じ66%に設定します。理由は今回の市長選挙は、現職と新人の一騎打ちになった前回市長選挙と同じ構図になっているからです。66%の投票率をもとに最終的に投票に行く人数を出すと約56000人になります。残りの29000人は、最初から棄権する人たちです。次に、1の『投票に行くかどうか』の質問で、投票に行くと答えた人が30%、投票に行くかどうか分からないと答えた人が50%です。残り20%の人は投票に行かないと答えた人です。投票に行く30%の人は投票先が既に決まっています。問題は投票に行くかどうか決めていない50%の人たちです。この人たちは選挙の告示日が近づくにつれて、必ず投票に行く人と都合や天候によって投票に行かない人とに分かれてきますが、都合や天候によって投票に行くかどうか分からない人も投票先が決まれば必ず投票に行きます。投票に行くかどうか分からない50%と前回市長選で棄権した34%の差は16%です。この16%にあたる13600票は投票に行くけれども投票先を決めていない票です。この票をこちらの陣営に取り込めば勝算は充分にあります」
「要するにどうすればウチが勝てるんだね。分かり易く説明してもらいたい」
 遠山は顔をしかめて言った。
(作:橘 左京)

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