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小説「祭ばやし」(第10回)

2017年1月31日ニュース

 徹たち家族が暮らしている住宅街は最寄り駅に近い場所にある。向かいに住む元教員の藤田さんの話では、戦後生まれの第一次ベビーブーム世代が子育て世代となった昭和40年代後半に持ち家を求めてこの住宅団地に殺到したという。車が普及していなかった当時、鉄道を使って会社勤めをしていた子育て中の若者は、駅の近くに造成されたこの住宅団地に家を建てたという。小学校の教員をしていた藤田さんもこの住宅団地が売りに出された初期に土地を買って家を建てたそうだ。徹の家の周辺には、藤田さんのように元教員の方が大勢住んでいる。
 徹がこの町内に住んでみて感じたことは、予想以上に進む少子高齢化だ。農村部だけではなく市街地でも少子高齢化が静かに進んでいるようだ。日中、通りを歩いている人はお年寄りばかりだ。朝晩の散歩も犬を連れた高齢者が多い。学校の登下校時に数名の小学生や中学生が家の前を通る姿が見える以外に、普段、外で遊ぶ子供の姿を目にすることはほとんどない。徹が暮らす町内は世帯数が百二十戸余りあるが、春香と同学年の子供は三人しかいない。春香が通う小学校も一学年一クラスだ。農村部だけでなく市街地にある小学校も児童数が少しずつ減っている。ここ数年、農村部にある小規模校では統廃合が続いているという。
 徹が卒業した小学校と中学校は三十五年程前に統廃合となり、当時の木造校舎は取り壊され、跡地には校舎があったことを記した石碑が建っている。春香が通う小学校も児童数が減ってくれば統合されるのだろうか。徹はこの町内に移り住んで、そんな不安を感じ始めていた。また空き家が増えているのも気にかかる。毎晩、夜になっても明かりが点灯していない家は空き家だ。近所にはこのような空き家が増えている。この町に引っ越して来たばかりの頃、「野上さんのお家は、毎日、賑やかでいいですね。羨ましいわ」と、隣に住むおばあさんから言われたことがあった。どうやら家の中で春香の出す声や走る音が隣の家まで届いたらしい。そのおばあさんは昨年、特養施設に移った。ずーと一人暮らしだったおばあさんの家は空き家になってしまった。近所には管理されないまま放置され、やがて朽ちて廃屋になってしまった空き家も何軒かある。徹の暮らす町内にある住家の2割近くは空き家だ。残り8割の家に住んでいる住民の多くは高齢者だ。
 徹の実家がある農村集落では高齢化がもっと進んでいる。今や65歳以上の高齢者が半数を超える「限界集落」だ。徹の実家のある集落でも空き家が増えている。空き家のほとんどは管理されず放置されたままだ。空き家はやがては雪の重みで崩壊して廃屋になる。老夫婦二人で住んでいた家が一人暮らしの家になり、一人暮らしの家が空き家になり、やがては廃屋になる。住民の高齢化と住家の老朽化。「老いる町」は今や地方に共通する老化現象だ。
(作:橘 左京)

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エッセイ「植育」(橘 左京 作)

2017年1月30日ニュース

 ナス、トマト、キュウリ、ピーマン、カボチャ、トウモロコシ、スイカなど、色とりどりの夏野菜を使った料理が我が家の食卓に並ぶ。農家で生まれ育った妻は時々、実家に帰っては旬の野菜をもらってくる。五歳の娘は果肉が赤いトマトやスイカ、粒が黄色いトウモロコシが大好きだ。一方、独特の青臭い風味と苦味があるピーマンは苦手だ。ピーマンはニンジンやグリーンピースなどと共に子供が嫌いな野菜の筆頭に挙げられることが多い。管理栄養士の資格を持つ妻はピーマンの青臭さを取り除こうと料理に工夫を凝らしているが、娘はなかなか食べてくれない。…
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小説「祭ばやし」(第9回)

2017年1月29日ニュース

 ピーシャラ ピーシャラ
 ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
 トコトン トコトン
 チンチン、カンカン
 今日は最後の練習日。公園には大勢の見物客がいた。太鼓の練習に参加している子供たちの母親や祖父母たちだ。3日前から本番を意識した練習になった。和太鼓2台と樽太鼓4台を使って子供たちが交代で練習している。今まで下駄のような板を叩いて練習していた春香と雄太君は樽太鼓を叩いている。
 ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
 トコトン トコトン
「その調子。いいぞ!今日が最後だからね。気合を入れてがんばって!」
 指導役の井上さんの声に熱がこもる。
 ピー
 練習の終了を告げるホイッスルが鳴った。
 集まった子供たちの前で井上さんの最後の講評が始まった。
「練習は今日で全て終了しました。1週間前から始めた練習ですが、笛や鉦のリズムに合わせて上手に叩けるようになりました。お祭りの日には大勢の人がやってきて、皆さんが太鼓を叩く姿を見ていますが、緊張しないで普段どおりに叩いてください。丸一週間、練習が続いたので疲れがたまっていると思います。明日と明後日はゆっくり体を休めてください。お祭りは24日と25日の2日間の日程で行われます。24日は午後3時、25日は午後3時半に山車が出ます。15分前には公園に集合してください」
 井上さんの話は続いた。
「最後にお祭りの時に着る法被を配ります。青い法被は男の子用です。紅い法被は女の子用です。間違わないように持って帰ってください」
 練習を終えた春香が紅い法被を持って徹のもとに戻った。徹と春香は家路についた。
「ただいま」
 春香が台所に居る由紀子に帰宅を告げる。
「お帰りなさい。春香、スイカでも食べる。冷えているわよ」
 由紀子が冷えた西瓜を載せたお盆を居間に運んだ。お盆には銀杏切りにした西瓜が並んでいる。春香は西瓜を食べ終わると、早速、持って帰った紅い法被を試着した。小柄な春香には少し大きかったようだ。法被の袖に両腕を通した春香の姿を見て、徹は思わず高笑いした。法被姿の春香が筒袖を着て両腕を伸ばした恰好の奴凧に見えたからだ。
「お父さん。何がそんなに可笑しいの」
「だって春香の格好が奴凧に似ているからだよ」
「何よ、お父さんって嫌い」
 由紀子も貰い笑いした。機嫌を損ねた春香の頬がぷっくらと膨らんできた。今度はお多福のような顔になった。徹はじっと笑いをこらえた。
(作:橘 左京)

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小説「祭ばやし」(第8回)

2017年1月27日ニュース

 ピーシャラ ピーシャラ
 ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
 トコトン トコトン
 チンチン、カンカン
 太鼓の練習が始まって6日目。からっとした秋の夜風が公園を通り抜ける。
「今晩は」
「今晩は」
 公園には先着の見学者がいた。3、4歳くらいの女の子と父親だ。父親はベンチに腰を掛けて太鼓の練習を見ていた。一方、女の子の方は地面に落ちている小石を拾い集めては一か所に積み上げている。
「パパ、おっきな石を見つけてきたよ」
 女の子は拾ってきた大きな石を父親に見せた。
「本当だ。おっきいね。」父親は答えた。
 小石を集めては積み上げる女の子の様子を見ていた徹は、「賽の河原」の話を思い出した。賽の河原は此岸と彼岸の境界を流れる三途川の河原だ。幼い子供が親より先に現世を去ると、親を悲しませるだけでなく親孝行の功徳も積んでいないことから、子供は三途川を渡れず賽の河原で石の塔婆作りをしなければならない。塔婆が完成する頃になると、鬼が現れて積み上げた石を崩す。ガラ、ガラと音を立てながら崩れる塔婆。子供たちの石積みと鬼のいじめが永遠に続く。やがて地蔵菩薩が現れてこの苦行から子供を救うという仏教説話だ。
 
 徹には5歳年上の雄一という長兄がいた。雄一は長男ということもあって、田んぼ仕事で忙しい両親に代わって、徹や健二の面倒を見てくれた。徹が小学一年生の時に雄一は水の事故で亡くなった。徹は四十数年前の出来事を思い出した。お盆が終わって夏休みも残りわずかとなったある日。夏の強い日差しが地面を照り付けていた。雄一の誘いで兄弟三人は魚捕りに出掛けることになった。健二は自分の自転車で、まだ自転車を運転できないに徹は雄一の自転車の荷台に乗せてもらい、里山の麓を流れる小川に向かった。この小川は子供たちの遊び場になっていた。まだ学校にプールがなかった頃で、水のきれいなこの小川で、子供たちは水遊びや魚捕りをして遊んだ。
 三人が小川に着くと、他に子供の姿はなかった。夏休みの宿題に追われているのだろうか。お盆前に来た時には大勢の子供が水遊びをしていたのだが、今日は徹たち三人だけだった。水中眼鏡とシュノーケルを付けた雄一は、手にヤスを持って川に潜った。獲物のウグイをヤスで突き刺すためだ。徹と健二は川岸でたも網を持ってウグイの群れを追った。二人は網を持って川面から顔を出した岩を渡っていた。
「わー」
 どぼーんと、何か大きなものが川面を叩く音がした。徹が濡れた岩に足を滑らせて川に転落したのだ。
「兄ちゃん、助けて!」
 徹の悲鳴と助けを求める声を聞いた健二であったが、急な流れに身を捕られた徹の体を捉えることができなかった。
「雄一兄ちゃん、助けて!徹が川に落ちてそっちに流れていくよ!」
 健二が大声を上げて雄一に助け求めた。徹の体が流れ下る先で川に潜って魚を捕っていた雄一が水中から体を出して、流れてきた徹の体をやっとの思いで掴んだ。徹の体を掴んだ雄一は川岸で待機していた健二に徹の体を預けたが、今度は雄一の体が急流に押し流されて押されて、川面から姿を消した。
(雄一兄ちゃんごめんね)
 今日は雄一の命日。兄の命と引き換えでもらったこの命。徹は自責の念に駆られながら人生を送ってきた。
 ピー
 練習の終わりを告げるホイッスルが鳴った。
「はい。今日の練習はこれで終わりにします。初日と比べて上手に叩けるようになりました。バチはゆっくり、まっすぐに上から下に降ろすこと。そうすると大きな音が出ます。それでは後片付けをして帰ります」
 指導役の井上さんの号令で子供たちはいっせいに動き出した。後片付けを終えた春香が徹のもとに戻った。
「春香、家に帰ろうか」
「うん。お父さん、お月さまが雲の間から出てきたよ」
「そうだね。今晩のお月さまは三日月だね」
 満月から5日が経って丸い形が三分の一ほど欠けた三日月になって夜空に浮かんでいた。公園を出た徹は春香の手を握って家路についた。
(作:橘 左京)

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小説「祭ばやし」(第7回)

2017年1月25日ニュース

 ピーシャラ ピーシャラ
 ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
 トコトン トコトン
 チンチン、カンカン

 太鼓の練習が始まって4日目。日中は蒸し暑い空気に包まれていたが、先ほど降った夕立が打ち水となって、公園に涼風が吹き込んだ。
「今晩は」
「今晩は」
 徹と春香が公園に着くと二人の先客がいた。小学低学年らしき女の子とその母親がベンチに座っている。
 ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
「お兄ちゃん、太鼓を叩くのが上手になったわね。聡美も4年生になったら太鼓を叩けるわよ」
 母親が娘の方に顔を向けて言った。
「どうしようかな。わかんない」
 女の子は戸惑った様子で答える。
 突然、女の子は立ち上がって近くにある鉄棒に向かった。女の子は梯子を横にしたような鉄棒に捕まって、足を宙に浮かべながら、手長猿のように両手を器用に使って梯子の端から端へと渡り歩いた。
 この公園には遊具が二つ設置してある。梯子のような鉄棒とシーソーである。シーソーは夏祭りの期間だけ取り外される。シーソーが設置されている場所に山車を仮置きするためだ。徹は春香とこの公園に遊びに来ることがあるが、子供の姿を見ることはほとんどない。春香の好きな遊具が揃っている隣の町内会の公園に行くこともある。この公園には滑り台とブランコが設置されている。それに砂場もある。サッカーなどボール遊びができるスペースもあるが、この公園でも遊んでいる子供の姿を目にすることは少ない。
 ピー
 ホイッスルが鳴った。
「はい、今日の練習これで終わりにします。笛や鉦との連携がうまくできるようになりました。明日も休まずに参加してください」
 井上さんの講評を聞いた後、子供たちはいつものように後片付けを始めた。
「博、こっちよ」隣のベンチに女の子と座っていた母親が、後片付けを終えた子供たちに声を掛けた。
 青色のTシャツを着た男の子が母親の待つベンチにやって来た。
「お母さん、見に来ていたの」
「そうよ。お兄ちゃんが太鼓を叩くのを見たいって、聡美が言うもんだから、一緒に来たのよ。博が太鼓を叩けるのも今年が最後ね。気合が入っているわね」
「もちろんだよ。今年が最後だからね。僕は来年、中学生になるから太鼓は卒業だけど、聡美は来年、4年生になるから、僕の代りに太鼓を叩けばいいよ」
「どうする?聡美」母親が娘に聞いた。
「分かんない」娘が答えた。
 三人は提灯が消えて暗くなった公園を後にした。徹も春香と家路についた。
「ただいま」
 春香が玄関を開けて由紀子に帰宅を告げる。
「お帰りなさい」
 台所に居る由紀子が答えた。
「お母さん、冷たいものが食べたいわ。何かある」
「西瓜でも食べる。冷えているわよ。あなたもどうぞ」
 由紀子が皿に盛った西瓜を居間に持ってきた。皿に盛られた角切りの西瓜をフォークで刺して食べる。
ザクザク
 冷たい西瓜の果肉と果汁が徹と春香の体を冷ました。西瓜は夏を代表する果物だ。農家で育った徹が子供の頃から覚えている夏の味だ。徹は西瓜を食べながら子供の頃を思い出した。当時の農家にはまだ冷蔵庫は普及していなくて、畑から採ってきた西瓜は丸ごと井戸水や冷たい小川に入れて冷やしておいた。夕飯を食べた後、冷たくなった西瓜を外から持ってきて家族みんなで食べた。徹が子供の頃の家は祖父母、両親、兄弟三人の三世代七人家族だった。子供たちは八等分された半月状の西瓜を食べ終わるやお盆に盛った銀杏切りの西瓜に手を伸ばす。すると「こら、まだ食べるところが残っているぞ。もっときれいに食べろ」と父親によく叱られた。
 子供たちが食べ終えた西瓜の皮には紅い果肉がまだ残っている。この部分は甘くないので子供たちは食べずに残してしまう。父親の叱責は苦労して育てた食べ物を粗末に扱うなという生産者のメッセージが込められていたのだ。徹は角切りされた西瓜をフォークで食べながら、子供の頃に比べるとなんと上品な食べ方だろうと思った。
(作:橘 左京)

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小説「祭ばやし」(第6回)

2017年1月23日ニュース

 ピーシャラ ピーシャラ
 ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
 トコトン トコトン
 チンチン、カンカン
 太鼓の練習が始まって今日で三日目。徹はいつものようにベンチに腰を掛けて春香の練習を見守った。
 りーん、りーん、りーん
 暗くなった公園の草むらから秋の虫たちの声が聞こえる。昼間はジー、ジーと蝉の声が騒々しく家の中に侵入してくるが、夜になると柔らかな虫の声が周囲の家々に浸透してくる。
 ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
 和太鼓の練習をしている二人の男の子のバチさばきが滑らかになった。2台の太鼓のリズムがそろってきたようだ。
 トコトン、トコトン
 樽太鼓から少し離れた場所で、春香と雄太君は先輩たちと一緒に木の板を叩いて練習している。樽太鼓のリズムと少しずれているようだ。
 ピーシャラ、ピーシャラ
 太鼓のそばで篠笛を演奏しているのは二人。一人は祭典委員の中村さんで、もう一人は中村さんのお孫さんで中学2年の剛志君だ。
 チンチン、カンカン
 太鼓の練習を見守りながら鉦を叩いているのは井上さんだ。井上さんの娘さんで中学1年の香織さんと交代で鉦を叩いている。
 井上さんの話では篠笛や鉦の演奏は元々中学生が担当していたが、成り手の中学生が見つからなくて困っているという。
 ピー
 井上さんがホイッスルを鳴らした。
「はい、今日の練習はこれで終わりにします。笛や鉦の音とだんだんと合うようになってきました。この調子で頑張ってください」
 子供たちは井上さんの講評を聞いた後、後片付けを始めた。徹は後片付けを終えた春香と家路についた。
 りーん、りーん、りーん
 家に帰る道すがら秋の虫たちの声が聞こえてくる。
「お父さん、虫が鳴いているよ。もしかして鈴虫?」
「そうだね。鈴虫の声だね」
 徹は思わず童謡「虫の声」を口ずさんだ。
「あれ松虫が 鳴いている ちんちろ ちんちろ ちんちろりん…」
「私、その歌、知っているよ」
「春香、一緒に歌おうか。最初からね」
「あれ松虫が 鳴いている ちんちろ ちんちろ ちんちろりん あれ鈴虫も 鳴き出した りんりんりんりん りいーんりん 秋の夜長を 鳴き通す ああおもしろい 虫のこえ」
(作:橘 左京)

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エッセイ「スローな旅で得られた濃厚な旅情」(橘 左京 作)

2017年1月22日ニュース

 
 鉄道や路線バスなど公共交通が発達していない地方に住んでいると、通勤や買い物、通院などに車を使う機会が多い。地方で暮らす人にとって車は生活必需品だ。旅行に出掛ける時も、公共交通を使うよりも車の方が何かと便利だ。車を使えば時間を無駄にせずに、目的地に直行できるし、帰りも直帰できる。観光地では車に旅行鞄を置いて手ぶらで散策できる。また一台の車を数人で使えば燃料費など一人当たりの交通費も割安になる。効率性、利便性、経済性から考えると、公共交通よりも車の方に軍配があがる。車を使った旅行にはこのような長所がある反面、短所もある。あそこも見たい、ここも見たいと、観光地をてんこ盛りにしたバスツアーに参加したことがあるが、どうしても一か所あたりの滞在時間は短くなってしまい、多くは土産物店での買い物に費やされる。また、観光地に着くたびにバスを乗り降りしなければならない煩わしさもある。観光地をたくさん見て回った割には、疲れだけが体に残って、思い出として残った場所がなかったということもある。…
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 エッセイ「スローな旅で得られた濃厚な旅情」は、「ライブラリー」の「文芸」コーナーにアップされました。

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小説「祭ばやし」(第5回)

2017年1月21日ニュース

 ピーシャラ ピーシャラ
 ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
 トコトン トコトン
 チンチン、カンカン
 太鼓の練習が始まって2日目。徹はベンチに座って春香の練習を見守った。お盆が過ぎた頃から朝晩の空気がひんやりとしている。少しずつ秋の気配が感じられるようになった。今夜は満月の夜だ。月明かりに照らされた地面の上で子供たちの影が動く。
 トコトン、トコトン
 太鼓から少し離れた場所で、春香と雄太君は先輩たちのバチさばきを見ながら慣れない手つきで木の板を叩いている。
 ピー
 練習の終わりを告げるホイッスルが鳴った。
「はい。今日の練習はこれで終わりにします。だんだんと上手に叩けるようになりました。この調子で頑張ってください。太鼓はゆっくり叩くと大きな音が出ます。6年生の木村君と鈴木君は今年が最後の太鼓になるので、しっかりと練習をして本番に備えて下さい」
 指導役の井上さんの講評を聞いた後、子供たちは後片付けを始めた。後片付けを終えた春香がベンチで待つ徹のもとに戻った。
「春香、家に帰ろうか」
「うん」
 突然、春香が立ち止まって夜空を見上げた。
「お父さん、まんまるいお月さまが出ているよ」
 見上げると雲間から顔を出した満月が見える。
「春香、見てごらん。ウサギが餅つきをしているよ」
「えー。ほんとに!」
 月齢がほぼ十五日なので新月から約十五日が経つと満月になる。満月の夜は十五夜。もう1か月もすれば中秋の名月が見られる。徹は思わず口ずさんだ。
「うさぎ うさぎ なに見てはねる」
「春香も一緒に歌う」
「うさぎ うさぎ なに見てはねる 十五夜お月さま 見てはねる」
(作:橘 左京)

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小説「祭ばやし」(第4回)

2017年1月19日ニュース

 ピーシャラ ピーシャラ
 ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
 トコトン トコトン
 チンチン、カンカン
 篠笛の音に導かれて和太鼓と樽太鼓の音が続く。最後に鉦の音が太鼓のリズムを整える。電線に沿って吊るされた五色の提灯が灯されて、薄暮の公園が明るくなった。
「元気がないぞ。もっと大きく叩いて」
 井上さんが子供たちに声を掛けた。井上さんの声を受けて子供たちの練習に熱が入る。
 徹の時計の針は午後七時を指した。
 ピー 井上さんがホイッスルを鳴らした。
「時間になりました。練習はここまで。みんな、こっちに集まってください」
 井上さんが子供たちに号令を掛ける。
「今日の練習はこれで終わりにします。練習は今日から一週間あるので休まないで参加してください。それでは後片付けをして帰ります」
 練習を終えた子供たちは、各自、自分が使った道具を物置小屋に戻した。初めて練習に参加した春香と雄太君は練習に使った板を、数人の子供たちと一緒にテントの中に入れた。後片付けを終えた子供たちに向かって井上さんは、
「これは子供会で作ったミニ灯篭です。白い紙に好きな絵を描いて灯篭に張り付けてください。出来上がった灯篭はお祭りが終わるまで玄関前に吊してください」と、言って子供たちに灯篭を配った。
 井上さんから渡されたミニ灯篭を持って春香がベンチで待っていた徹のところに戻った。
「お疲れさま。春香、初めての練習で疲れただろう」
「うん、少しだけ。おとうさん、これ持って」
 春香から受け取ったミニ灯篭は三辺が三十センチ程の長さに組まれた立体型の木の枠だ。灯篭の側面の枠には紙を貼り付けた痕跡があった。この灯篭にはどんな絵が貼ってあったのだろうか。徹は持ち帰ったミニ灯篭に春香が描いた家族三人の似顔絵と家内安全、無病息災の文字を入れて通りに面した車庫の入口に飾った。

 ミニ灯篭を持った子供たちが保護者と三々五々に家路についた。公園の周りは暗闇に包まれている。
「春香、みんな家に帰って行くよ。春香も家に帰って、お父さんと花火を上げようか」
「まだここに居たいの」
「どうして」
「提灯が見たいの」
「練習が終わったから、もうすぐ提灯は消えるよ」
  間もなく提灯の灯りが消えて、公園も真っ暗になった。
「春香、早く家に帰らないとお化けが出るぞ」
「お化け怖いよ。お父さん、早く帰ろうよ」
「春香は弱虫だな」
 徹は春香の手を取って街灯で照らされた足元を気にしながら家路についた。
 家に帰った徹は蝋燭に火をつけて玄関前の床に置いた。袋から線香花火を二本取り出して一本を春香に渡した。春香は手にした線香花火を蝋燭の火に近付けた。火の付いた線香花火からプツ、プツと弾けるような音が流れた。花火の先に小さな赤い玉が現れ、パチ、パチと音を立てながら四方八方に火花を飛ばし始めた。
「わー。きれい」春香が声を上げた。
 火花の飛び散る範囲が徐々に狭まってきた。火花の勢いが衰え、小さくなった火の玉が縮んで、プシューと音を立てながらコンクリートの床に落ちていった。
「今日はこれでおしまい。また明日しようね」
「うん」
(作:橘 左京)

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小説「祭ばやし」(第3回)

2017年1月17日ニュース

 例大祭の時期になると、町内会から「仁和加(にわか)」という山車が参加して町内を巡行する。この山車に乗って太鼓、篠笛、鉦などのお囃子を演奏するのが地元の小中学生だ。小学4年生の春香も今年から「仁和加(にわか)」に乗って太鼓を叩く囃子方になった。例大祭が始まる10日程前から、囃子方を務める小学生が町内の公園に集まって練習を始める。今日はその初日だ。練習は午後6時に始まる。

「あら、もうこんな時間だわ。春香、もうすぐ太鼓の練習が始まるわよ」
 由紀子がテレビを見ている春香に声を掛ける。
「あ、そうだった。お父さん、一緒に来て」
 春香が風呂からあがった徹を誘った。
「行ってきます」
 徹と春香は練習会場の公園に出掛けた。2人が公園に着くと十数人ほどの小学生が集まっていた。春香の同級生の雄太君もいる。
「今晩は、雄太君。今日から練習だね。がんばろうね。」
「春香ちゃん、今晩は。僕は小さい頃からお祭りを見ているから、ばっちりだよ。」
 二人で挨拶を交わした。
 公園の一角にある物置小屋から出された山車(仁和加)がブルーシートに包まれた状態で置かれていた。練習初日とあって子供たちの保護者も公園に集まっていた。公園には祭り用のテントが張られ、電線に沿って赤、黄、青、緑、橙の5色の提灯がそれぞれ2個ずつ順番に吊り下げられていた。
「お晩でございます。春香ちゃんも今年から囃子方ですか」
 向かいに住む藤田さんが徹に声を掛けた。
「藤田先生、お晩になりました。春香も4年生なり今年から太鼓を叩けるようになりました」
 藤田さんは小学校の元教員だ。20年ほど前に春香が通う小学校の校長を最後に退職したそうだ。八十過ぎの藤田さんは老いてなお矍鑠としている。藤田さんは現在、奥さんと二人でこの町で暮らしている。藤田さんには3人の子供がいるが、3人の子供たちも小学生の時に「仁和加(にわか)」の囃子方を務めたそうだ。毎年、夏祭りの時期になると隣町に嫁いだ娘さんが2人の孫を連れて実家に戻り、祭りに参加している。

「これから太鼓の練習を始めますので、こっちに集まってください」
 子供会の役員をしている井上さんが子供たちに号令を掛けた。
「今日から22日まで、この公園で太鼓の練習をします。今年から練習に参加することになりました野上春香さんと池上雄太君です」
 子供たちの視線が井上さんの横に並んだ二人に向けられた。二人は、はにかみながらお辞儀をした。
 井上さんは話を続けた。
「野上さんと池上君は初めての練習なので、あそこに敷いてある木の板を叩いて太鼓の叩き方を覚えてください」
「はい」二人は返事をした。
 練習会場には和太鼓と樽太鼓がそれぞれ2台ずつ、それに足の付いた板が用意されていた。この板は広さが半畳ほどある板で下駄のように両脇に足が付いている。地面から板までの距離は十センチほどある。バチで板を叩くと樽を叩いたような音がする。新人の春香と雄太君は、この板を使って練習し、樽太鼓の叩き方を覚えることになった。
(作:橘 左京)

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