2017年1月
« 12月   2月 »
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

ブログ

小説「祭ばやし」(第4回)

2017年1月19日ニュース

 ピーシャラ ピーシャラ
 ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
 トコトン トコトン
 チンチン、カンカン
 篠笛の音に導かれて和太鼓と樽太鼓の音が続く。最後に鉦の音が太鼓のリズムを整える。電線に沿って吊るされた五色の提灯が灯されて、薄暮の公園が明るくなった。
「元気がないぞ。もっと大きく叩いて」
 井上さんが子供たちに声を掛けた。井上さんの声を受けて子供たちの練習に熱が入る。
 徹の時計の針は午後七時を指した。
 ピー 井上さんがホイッスルを鳴らした。
「時間になりました。練習はここまで。みんな、こっちに集まってください」
 井上さんが子供たちに号令を掛ける。
「今日の練習はこれで終わりにします。練習は今日から一週間あるので休まないで参加してください。それでは後片付けをして帰ります」
 練習を終えた子供たちは、各自、自分が使った道具を物置小屋に戻した。初めて練習に参加した春香と雄太君は練習に使った板を、数人の子供たちと一緒にテントの中に入れた。後片付けを終えた子供たちに向かって井上さんは、
「これは子供会で作ったミニ灯篭です。白い紙に好きな絵を描いて灯篭に張り付けてください。出来上がった灯篭はお祭りが終わるまで玄関前に吊してください」と、言って子供たちに灯篭を配った。
 井上さんから渡されたミニ灯篭を持って春香がベンチで待っていた徹のところに戻った。
「お疲れさま。春香、初めての練習で疲れただろう」
「うん、少しだけ。おとうさん、これ持って」
 春香から受け取ったミニ灯篭は三辺が三十センチ程の長さに組まれた立体型の木の枠だ。灯篭の側面の枠には紙を貼り付けた痕跡があった。この灯篭にはどんな絵が貼ってあったのだろうか。徹は持ち帰ったミニ灯篭に春香が描いた家族三人の似顔絵と家内安全、無病息災の文字を入れて通りに面した車庫の入口に飾った。

 ミニ灯篭を持った子供たちが保護者と三々五々に家路についた。公園の周りは暗闇に包まれている。
「春香、みんな家に帰って行くよ。春香も家に帰って、お父さんと花火を上げようか」
「まだここに居たいの」
「どうして」
「提灯が見たいの」
「練習が終わったから、もうすぐ提灯は消えるよ」
  間もなく提灯の灯りが消えて、公園も真っ暗になった。
「春香、早く家に帰らないとお化けが出るぞ」
「お化け怖いよ。お父さん、早く帰ろうよ」
「春香は弱虫だな」
 徹は春香の手を取って街灯で照らされた足元を気にしながら家路についた。
 家に帰った徹は蝋燭に火をつけて玄関前の床に置いた。袋から線香花火を二本取り出して一本を春香に渡した。春香は手にした線香花火を蝋燭の火に近付けた。火の付いた線香花火からプツ、プツと弾けるような音が流れた。花火の先に小さな赤い玉が現れ、パチ、パチと音を立てながら四方八方に火花を飛ばし始めた。
「わー。きれい」春香が声を上げた。
 火花の飛び散る範囲が徐々に狭まってきた。火花の勢いが衰え、小さくなった火の玉が縮んで、プシューと音を立てながらコンクリートの床に落ちていった。
「今日はこれでおしまい。また明日しようね」
「うん」
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者