「大阪都構想」は、「今」を選択するのか「将来」を選択するのかを問うものであった。現役世代(働いている世代)の多くは賛成票を投じ「将来」を選択した。一方、年金世代(高齢者)の多くは反対票を投じ「今」を選択した。有権者数と高い投票率で勝る高齢者の反対票が賛成票をわずかに上回り「大阪都構想」が廃案となった。
反対票を投じ「今」を選択した高齢者の多くは、大阪市が無くなって代わりに設置される5つの特別区(地方自治体)間に行政サービスに格差が生じるのではないかという不安を抱いている。行政サービスの主な財源は特別区ごとに徴収する税収である。この税収に格差で出てくることによって行政サービスにも格差が生じるというものだ。もっともらしい理屈のようにみえるが全くのウソである。産業構造、就業構造、生産年齢人口比率などによって、自治体ごと税収(個人・法人住民税)に差が出てくるのは当然である。しかし住民生活に必要な、いわば「これがないと困る」行政サービスは全国どこの自治体に住んでいても同じ水準で提供される。なぜか。住民生活に必要な行政サービスを提供できない税収不足の自治体に対しては、「地方交付税」という使い道が自由なお金が国から支給されるからである。この「地方交付税」は、いわば国から税収不足の自治体に支給される「生活保護費」のようなお金である。
一方、賛成票を投じ「将来」を選択した現役世代の多くは、自分たちや子どもの将来に不安を抱いている。人口減少(=生産年齢人口の減少)による税収不足によって、年金、医療、介護といった老後の社会保障の水準が「今」よりも引き下げられることが確実だからだ。年金の支給開始年齢の繰り下げ、公的医療保険・介護保険の掛け金率の引き上げ、医療機関で支払う自己負担が70歳以降も3割のままなのではないかという懸念、などなど。「このままではだめだ。」との危機意識から、「今」を変えて「将来」に希望を託して、「現状維持よりも変革」の道を選んだものと考えている。
人口が減っても(ただし早い段階で人口減少を止める必要はある!)も老後の給付水準を現在と同程度に維持する方法はあるのか。(???)答えは「イエス」。日本人の労働生産性を上げて1人当たりの稼ぎ(1人当たりの国民所得)を引き上げれば、現在の社会保障の水準は維持できる。(※参考)2012年の労働生産性の国際比較では、日本は先進主要国(15か国)中4位(日本生産性本部資料による)。2013年の1人当たりの国民所得の国際比較では、日本は164か国中15位。(WHO世界保健統計2013年版による)※次号に続く。
(あとがき)
景気回復によって税収が増えてくるというような論調もあるが、長い時間軸で国の税収と社会保障費の伸びを見ると「ワニの口」になっている。上あごは社会保障費(ほとんどは年金、医療、介護の老人3経費)の増加、下あごは税収の減少である。毎年多額の赤字国債を発行して(借金をして)、社会保障費の財源不足を補って(ワニの口を閉じて)いる。借金は税金で返済しなければならない。借金を返すための税収が不足しているので新たに借金をする。こうして国の借金はゆきだるま式に増えて今や1058兆円。この膨大の国の借金を引き受けているのが日銀(直接引き受けではない。あくまでも市場を通してではあるが…)だ。日銀の国債保有残高は今や226兆円(2015年5月12日付け日銀公表資料による)「どうなるのか日本の財政。サラ金みたいに自己破産はできないぞ!」(代表 天野 市栄)