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小説「視線」(第25回)

2017年3月30日ニュース

 コンビニATMからの不正引き出しがマスコミ報道されてから1週間ほど経ったある日、男の家に刑事が尋ねてきた。妻は友人とランチを食べに出掛けて留守にしていた。男は、妻が作り置きした昼飯を食べた後、2階の自室で今週の土曜日に孫の雄太と工作する乗り物の試作品を作っていた。
 ピンポーン 玄関の呼び鈴が鳴った。男は2階から降りて来て玄関のドアを開けた。
「ごめんください。警察の者ですが……」2人の刑事が警察手帳を見せて言った。
「ご苦労様です」と男は答えた。
「既に、新聞をご覧になってご存知だと思いますが、コンビニチェーン店『エニータイム』のATMから現金が不正に引き出された事件について、お話を伺いたくて参りました」若い方の刑事が言った。
「その事件のことなら知っています。新聞の記事に書いてありましたが、偽造されたクレジットカードを使って1600台のATMから、現金16億円が不正に引き出された事件ですよね?」
「そうです。この先にあるコンビニ店のATMも不正引き引き出しに使われました」
「ええ、そうだったんですか!同じコンビニチェーン店ですから、もしかして不正引き出しに使われたんじゃないかって、事件が報道された日に、妻と話をしていましたが……。先月、強盗事件があったばっかりなのに、今度は不正引き出しですか?」
「御主人はフィッシング詐欺の被害届を出された野上徹さんですよね?」
「はい、そうです。被害届を出したのは私です。どうやら、私のカード情報も盗まれて、今回の不正引き出しに使われたようですが、犯人はどうやって私のカード情報を盗んだんでしょうか?偽の通販サイトにカード情報を入力した時なのか、それとも紛失したカードから情報が盗まれたのか、どっちかだと思っているんですが……」
「今回の不正引き出しに使われたカード情報は約2000人分です。その中のお一人が野上さんです。はっきりとは分かっていませんが、野上さんのケースでは偽の通販サイトを利用した際に盗まれたものと思われます」
「他にもあるんですか?」
「紛失や盗難に遭ったカードから情報が盗まれることもあれば、お店で買い物をした時に提示したカードから情報が盗まれることもあります」
「今、使われているクレジットカードはICチップが埋め込まれているので、以前使われていた磁気カードよりもセキュリティが強化されていると聞いていますが……」
「ICカードだから、絶対に大丈夫だという保証はないんです。『サイバー攻撃』という言葉をご存知だと思いますが、インターネットなどの通信回線で繋がっている個別のサーバーやパソコンに侵入して情報を奪ったり、改ざんしたり、破壊したりする犯罪行為ですが、警察と犯罪者とのいたちごっこの状態です。野上さんも、パソコンンにウイルス対策ソフトを入れていると思いますが、ソフトを更新しないと新種のウイルスに対応できなくなります。情報通信技術は日々刻々と進化していますからね」
「警察は、今回の不正引き出しは、組織的に行われたものと見ているそうですが……」
「そのとおりです。今回の事件は3つのグループが関与したものと考えています」
「3つのグループ?」
「つまり、情報を盗んだグループ、盗んだ情報を基に偽装カードを作ったグループ、偽装カードを使って現金を引き出したグループの三者が連携して行った犯罪だと考えています。」
「例えば暴力団のような組織ですか?」
「そうですね。ATMからの不正引き出しには暴力団組織が関わっているとみています」
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第24回)

2017年3月28日ニュース

 夕飯時に妻がこの事件を持ち出した。
「あなた。今朝の新聞を見た?全国のコンビニチェーンのATMで、偽造カードを使って現金16億円も引き出されたって事件だけど。現金を引き出されたコンビニチェーンって、この前、強盗事件のあった近所のコンビニと同じチェーン店だわ」
「ああ、知っているよ。今朝の新聞に出ていたね」
「お昼のワイドショーでも大きく取り上げていたわ。100人以上の人が1600台のATMから一斉に引き出したっていうけど、そんなことできるのかしら。警察では犯罪グループによる組織的な犯行とみているそうよ」
「全国的な犯罪グループといえば暴力団が考えられるけど、暴力団員100人が不正に引き出したということは考えにくいね。暴力団員から雇われた『出し子』がATMから現金を引き出したんじゃないかな」
「何?その『出し子』って?」
「振り込め詐欺など、犯罪に使われた預金口座から現金を引き出す役のことだよ。それと、電話を掛けて相手をだます役を『掛け子』、現金を受け取る役を『受け子』って言うんだ」
「振り込め詐欺で思い出したけど、この前、町内会報と一緒に回ってきた防犯チラシに、一人暮らしのお年寄りを狙った振り込め詐欺と見られる電話が増えているって書いてあったわ」
「住所や電話番号など個人情報が知らないうちに売買され、それが犯罪に使われてようだ。以前は、電話帳に個人宅の電話番号が載っていたけど、今は載せていないからね」

「確かに、電話会社から配布される電話帳にはお店や事業所の電話番号は載っているけど、個人の家の電話番号は載っていないわ。ところで、今回の不正引き出しに利用された個人情報は信販会社が発行するカードから盗まれたっていうけど、犯人はどうやって、カードから個人情報を盗んだのかしら?」
「カード情報を盗む手口はいろいろあるけどね。『スキミング』といって、カードの磁気ストライプに記録されている情報を、スキマーという機器で盗み取る手口だけどね」
「あなたが持っているカードは大丈夫だったの?この前、ショッピングセンターで買い物をした時に代金をカードで支払っていたわね」
 男は妻と一緒にランチを兼ねた買い物でショッピングセンターに行った時のことを思い出した。雄太との工作用に使うスキャナーを買った時、カードで代金を支払った現場を妻に見られたことを覚えている。
「私のカードはICチップカードだから大丈夫だよ」
「ICカード?」
「ICカードは今まで使われていた磁気カードと比べて、大量の情報を記録できるし、偽造されにくいという特徴を持っているんだ。クレジットカードがセキュリティの強化されたICカードに移行したことでスキミングはできなくなったね。今、はやっている手口は、『ネット通販』といって、インターネット上の通販サイトで買った商品の購入代金をカードで支払う際に、パソコンの画面上にカード情報を入力した時に盗まれるケースだよ」

「この前、雄太と工作する時に使う材料。そうそう小型のモーターよ。確かインターネットを使って買ったって、言ってたわね。その時にあなたのカード情報だって盗まれたかもしれないわ」
「最初から個人情報を盗む目的で開設した偽の通販サイトだったら、そういうこともあるかも知れないけど、僕が小型モーターを購入した通販サイトは本物のサイトだったし、カード情報が盗まれるなんてことは、絶対にないよ」男は嘘をついた。
「そう、分かったわ。さっきも言ったように、今回、ATMの不正引き出しが行われたコンビニチェーンは先月、強盗事件があった近所のコンビニと同じチェーン店だわ。不正引き出しに使われたのかしら」
「1600台のATMの中に、先月、強盗事件のあった近所のコンビニが含まれているのかは分からないね。店の売上代金が奪われた強盗事件と違って、被害者は店じゃなくて、カード情報を盗まれた個人や信販会社だからね」
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第23回)

2017年3月26日ニュース

 クレジットカードの不正使用が分かってから数日後の朝。男はいつものように郵便受けから持ってきた朝刊を2階の自室で開いた。紙面トップに掲載された「偽造カードで全国一斉引き出し 被害額約16億円」という見出しに、男の目は釘付けになった。朝刊が伝えた事件の詳細は次のとおりだ。
「全国20都府県にある大手コンビニチェーン店の現金自動預払機(ATM)約1600台で偽造クレジットカードとみられるカードが一斉に使われ、現金約16億円が不正に引き出されたことが分かった。午前中の2時間余りのうちに全国各地で100人以上が偽造カードを使って引き出しに関わった可能性がある。警察当局は、信販大手5社が発行するカード情報を基に偽造カードが作られたとみている。また、背後に大がかりな犯罪グループが関与しているとみて、被害にあったコンビニに設置された防犯カメラの映像を解析し、引き出した人物の特定を進めている」
 記事にはATMでの不正引き出しに使われた大手コンビニチェーンの名前と偽造カードに情報を書き込まれた大手信販会社の名前が掲載されていた。
 被害に遭ったコンビニチェーンは、先月、強盗事件のあった近所のコンビニと同じチェーン店だった。それに偽造カードに個人情報が書き込まれた大手信販会社5社に男が利用している信販会社も入っている。また、全国のコンビニATMから不正に引き出された日は、男のクレジットカードから100万円の借入金が引き出された日と同じ日だ。男の個人情報が半年前に紛失したカードから盗まれたものなのか、それともネット通販で買い物をした時に盗まれたものなのか。男は記事を読み終えた後、自分の身に起きた事件を振り返った。
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第22回)

2017年3月24日ニュース

 男は、たった今、2階の自室から携帯電話を使ってクレジット会社に利用明細の問い合わせの電話をした。男とクレジット会社との通話内容は、1階でいつものように家事ラインを回している妻の耳には届いていないはずだ。男は、自分が詐欺に遭ったという話を、妻に内緒にしておいた方がいいのか、それとも食事の時の話題として提供すべきか迷った。
 仮に男がこの話を出した時に妻がどのような反応を示すだろうか。顔には男の失態に対する軽蔑の笑みを浮かべながら、口からは同情の言葉を男に帰す。そんな妻の反応が目に浮かぶ。詐欺に遭ったといっても、金銭が奪われたわけでもない。実害はない。妻に話しても嫌な思いをするだけだと考えた男は、妻に話すのをやめた。

 1日3回の食事の時にしかない妻との会話に出される話題は、そのほとんどが妻から提供され、多くは妻の仕事である「家事」についてだ。妻の話を受けて、男の方は「はい、はい」と頷いたり、「ああ、そうだったの」と相槌を打ったり、と短い言葉で返す。しかし、妻が作った料理についてのコメントを求められた時は、受け答えに注意が必要だ。
「どうかしら、このラザニア。この前、料理教室で習ったのよ」
 男が料理を一口食べた後、突然、妻から感想を求められた。
「ええ、ラザニアって、いま食べた料理のこと?」と聞き返す。
「ラザニア知らないの?イタリア料理よ」
「ああ、そうだったの。このラザニア、美味しいよ」と男は答えた。
「たったそれだけ。このラザニアは作るのが大変だったのよ」
 通り一遍の褒め言葉では満足しなかったのか、妻は不満そうな表情を浮かべて言った。
「ああ、そうだったの。大変だったね。君が作ったラザニアは最高だね!本当に美味しいよ」と少し大げさに褒めてやっても、「いいわね、男の人って。食べるだけで。それに『美味しい』という言葉しか知らないの。もっとほかの言い方もあるんじゃないのかしら」と妻から嫌味が返ってくる。
 男は昭和時代のラーメンCM「私作る人。僕食べる人」を思い出した。このCMコピーは、男女の役割分業を固定化するとの批判を受けて、2か月ほどで放映中止になった。

 二人の会話の中で男と妻の口から出る言葉の数を比較すれば、妻の5に対して男は1だ。妻がヒステリーを起こした時は要注意だ。機関銃のように言葉の弾丸が容赦なく男に浴びせられる。その時は、妻の10に対して男は1だ。こうなったら会話は成立しない。言い訳は無用。「分かった。分かった」、「ごめん、ごめん」といって、男は2階に自室に逃げ込む。
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第21回)

2017年3月22日ニュース

 ある日、男が利用しているクレジット会社から利用明細書の葉書が届いた。男は明細書の封を開けた。先月の利用実績を見ると、身に覚えのないキャッシングの利用があった。それも限度額いっぱいの100万円を借りている。男は、これまで、買い物代金やホテルの宿泊代を支払う時などにクレジットカードを使ったことはあるが、お金を借りるためにクレジットカードを使ったことは一度もない。不審に思った男はクレジット会社に電話を入れた。電話に出たオペレーターが本人確認を行うために、
「恐れ入りますが、お客様のカード番号と氏名、生年月日をお伺いします」と男に質問し、男は答えた。
「どういったお問い合わせでしょうか?」本人確認を終えたオペレーターが男に尋ねた。
「実は、先月分の利用明細の中に、使った覚えのない100万円の借り入れがあったのですが……」と男はオペレーターに告げた。
 オペレーターは慌てた声で「少々、お待ちください。担当の者と替わります」と言って、電話は担当部署に回された。電話に出た担当者が男に尋ねた。
「私の方で、もう一度、確認させてください。お客様の先月分のご利用明細について、100万円の借入はなかった、ということで、よろしかったでしょうか?」
「はい、そうです。全く身に覚えのない借り入れです」と男ははっきりと答えた。
「少々、お待ちください」と担当者が言うと、電話は保留状態を示すメッセージ音が流れた。間もなくして電話は担当者の声に代わった。
「お客様の100万円の借入は、兵庫県内にあるコンビニのATMから引き出されていますが、お心当たりがありますか?」
「ええ、兵庫県内のコンビニで引き出されたって!私は生まれてこのかた、兵庫県に住んだこともないし、行ったこともありませんよ!」
「クレジットカードを落としたとか、盗まれたとかはありますか?」
「クレジットカードは今、手元にあります。半年程前に、カードを落としたことがありましたが、その時は、直ぐに、紛失したカードの失効手続きをとって、新しいカードに更新しました。幸いなことに、紛失したカードが使われたことはなかったようですが……」
「それでは、お客様はネット通販で買い物をしたことがございますか?」
「ネット通販?」
「失礼しました。『ネット通販』というのは、インターネット上の通信販売のことですが、これまでインターネットを使って買い物をしたことはありますか?」
「ええ、何度かありました」
「商品の代金をクレジットカードで支払ったことはありますか?ネット通販で買い物をした場合、注文した商品を運搬した業者に代金を支払う『代引き』、指定された銀行口座に振り込む方法、コンビニで支払う方法、それとクレジットカードで支払う方法など、代金の支払い方法を選べますが、お客様はどのような方法でお支払いになりましたか?」
「最初の頃は代引きで支払ったりしましたが、手数料が別に取られるので、今はクレジット払いにしています」
 男は雄太との工作に使うモーターなどの金属製の部品を、インターネットを使って購入したことを思い出した。その時の購入代金はクレジットカードで支払った。
「お客様がカードで代金を支払った時、お客様の氏名や生年月日、カード番号、暗証番号などのカード情報をパソコン画面上で入力しますが、何か変だなと感じたことはありましたか?」
「確か、模型に使う小型モーターを買った時だったと思いますが、画面上にカード情報を入れた後に、突然、『ネットワークに繋がっていません』というメッセージが流れ、画面が途切れてしまったことがありました」
「もしかして、お客様はフィッシング詐欺に遭われたのかも知れません」
「フィッシング詐欺?」
「インターネット上に、実在する通販サイトのページに似せた嘘のページを作っておいて、そのページに誘い、知らないうちに個人情報を盗む詐欺行為のことです」
「ええ、そうなんですか!私が詐欺に遭ったということですか?どうすればいいんでしょうか?」
「すぐに最寄りの警察署に行って被害届を提出してください」
「ところで100万円の借入は、私が返済することになるのでしょうか?」
「警察に提出した被害届の写しを、こちらに提出していただければ、100万円の借入実績は利用明細から抹消されますので、ご安心ください」
「ああ、良かった。どうもありがとうございました」男は担当者に礼を言って電話を切った。
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第20回)

2017年3月20日ニュース

 コンビニ強盗があった数日後、男の家に刑事が尋ねてきた。
 ピンポーン 玄関の呼び鈴が鳴った。
「はーい、どちら様ですか」居間でテレビを見ていた妻が玄関に出た。
「ごめんください。警察の者ですが」
「はい。今、玄関を開けますから」
 妻が玄関を開けると2人の刑事が入ってきた。刑事たちは警察手帳を見せて言った。
「先日、この先にあるコンビニで起きた強盗事件について、お話を伺いに来ました」
「強盗事件?今、主人を呼びます。あなた、ちょっと来て!刑事さんよ」
 妻が2階にいる男を呼んだ。妻からの呼び出しを受けて、男は1階に降りて来た。
「刑事さんよ。この前、近所のコンビニであった強盗事件について、聞きたいことがあるんですって」
 妻は夫にその場を引き継いで、居間に戻った。
「事件については、既にご存知ですよね」刑事が尋ねた。
「はい。この町に住んで30年近くになりますが、まさかコンビニ強盗が起きるなんて、思ってもみませんでした」と男は答え、話を続けた。
「夜中の3時頃だったと思いますが、救急車とパトカーのサイレンの音に気づいて目が覚めました。サイレンの音がだんだんと大きくなってきたので、こっちの方角に向かっているのかな思っていたら、近所で突然止まったんで、何かあったんだなと思いました。布団から起き上がって、外を見たら、コンビニの駐車場に救急車とパトカーの赤色灯が点滅していました。その後、包帯を巻いた店員が救急隊員に付き添われて救急車に乗り込んでいくのが見えました。朝のニュースを見て、事件の詳細を知りました」男は答えた。
「救急車やパトカーのサイレンの音が聞こえる前に、急発進する車の音は聞きましたか?」
「いいえ、聞いていません。救急車とパトカーが鳴らすサイレンの音で目が覚めたので、その前のことは眠っていたので分かりません。でも、刑事さんが今言った、急発進するような車があれば、眠っていても分かったと思います。もっとも、この時期、週末の深夜になると暴走族のバイクの音で嫌でも目が覚めてしまいますが……。妻にも聞いてみましょう」男は妻を呼んだ。
「今、刑事さんから聞かれたんだけど。救急車とパトカーのサイレンの音がする前に、車が急発進するような音を聞かなかった?」
 男が妻に尋ねた。
「救急車とパトカーの音がだんだんと大きくなってきて、近所で止まったことしか覚えていないわ。週末の深夜を除けば、ここは静かな住宅街です。もし急発進する車があれば、寝ていても気づいたと思います」妻が刑事に向かって言った。
「深夜のコンビニに買い物に来る車もあると思いますが、買い物客の車の音は聞いたことがありますか?」刑事が尋ねた。
「国道のバイパス沿いにあるコンビニになら、深夜でも車で買い物に来る客はいるとは思いますが、ここのコンビニを利用している人の多くは、近所の人たちです。買物に行く場合でも、歩いて行くか自転車を漕いで行くかのどっちかだと思います」男が答えた。
「店の店員さんは、犯人が乗って逃げた車は見ていないんですか?」今度は男が刑事に尋ねた。
「犯人が店を立ち去った後、110番通報をしていたので、犯人の車は見ていないし、車の音も聞いていないそうです」刑事は答えた。
「防犯カメラに犯人の車は写っていなかったんですか?」男が刑事に尋ねた。
「コンビニに向けて設置したはずの防犯カメラが、なぜかお宅の玄関の方向を向いていたんです」
「ええ、防犯カメラがうちの玄関に向いていたって!?」男が驚いた表情で言った。
「防犯カメラを設置した支柱に何かがぶつかったらしくて、少し傾いていました。事件当日の防犯カメラに保存されていた記録映像を見たら、コンビニではなくて、お宅の家が映っていたんです」
 刑事は答えた。
「ええ、家を映した映像ですって!プライバシーが覗き見られているようで嫌だわ。窓越しから家の中が丸見えだわ!」妻が言った。
「ご心配なく。今は、コンビニの方角に防犯カメラは向いていますし、お宅を記録した映像は既に消去しました」刑事は答えた。
「防犯カメラに記録されていた映像は、何日間、保存されているんですか?」男が刑事に尋ねた。
「最新の防犯カメラのなかには、長期間保存できるものもあるようですが、こちらの防犯カメラは1週間です。記録されて1週間経つと新しい映像に更新されます」刑事は答えた。
「防犯カメラは常時、モニターで見られる状態になっているんですか」男が刑事に尋ねた。
「こちらの防犯カメラは商店街組合が設置したもので、カメラと専用回線で繋がれた組合事務所のモニターに写し出すことは可能ですが、モニターは1つしかなく、普段は事務所前に設置したカメラの映像を映していたそうです。ですから、こちらの家を映していたカメラには映像は記録されていましたが、組合の人に見られていたということはなかったようです」刑事が答えた。
「ああ、良かったわ。組合の人に家の中を覗かれていたのかと思いました」妻がほっとした表情で言った。
「モニターに家が映し出されていれば、カメラの向きがおかしいと、もっと早く気づいたかも知れませんね」男が言った。
「そうですね」と言って、年配の刑事が若い刑事にそっと目配せした。
「いろいろとお聞かせいただき、ありがとうございました。また、何か、事件について思い出したことがあれば、こちらにお電話ください」若い刑事が男に名刺を差し出して、刑事たちは帰って行った。
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第19回)

2017年3月18日ニュース

 ピーポー、ピーポー ピーポー
 ウーウー、ウーウ、ウーウー
 明け暗れのなか、2階の自室で寝ていた男は救急車とパトカーのサイレンで目を覚ました。1階で寝ていた妻もけたたましいサイレンの音に驚いて、2階に上がってきた。男は部屋のカーテンを開けて外を覗いていた。
「今、サイレンの音がしたけど。事故か何か、あったのかしら?」男の部屋に入って来た妻が言った。
「近くのコンビニで事件が起きたようだ」男が答えた。妻も窓から外を覗いた。
 男の家の並びにあるコンビニの駐車場には規制線が張られ、赤色灯を点滅したパトカーと救急車が見えた。しばらくして、腕と手に包帯を巻かれた店員が救急隊員に付き添われて救急車に乗り込んだ。
 ピーポー、ピーポー ピーポー
 怪我人を乗せた救急車が駐車場から出ていった。パトカーは赤色灯を付けたまま駐車場に止まっている。現場検証が続いているようだ。眠られないまま朝を迎えた男は布団から起き上がって、部屋のテレビを付けてチャンネルをニュース番組に合わせた。男は、朝起きるとテレビのニュース番組を見るのが日課になっていた。
「未明のコンビニに強盗 売上金50万円が奪われる」というテロップがテレビ画面に表示され、
「今日の未明、午前三時頃。茨城県陽光市にあるコンビニエンス・ストア『エニータイム』に、マスクをした40代くらいの男が客のいない店に押し入り、店員にカッターナイフを突き付けたうえ、店にあった売上金約50万円を奪って逃走しました。警察では男の行方を追っていますが、まだ手掛かりはつかめていません。カッターナイフで切り付けられた店員の男性が手と腕に怪我をしました」と、アナウンサーが伝えた。
 コンビニ強盗のニュースは何度かテレビで見たことがあるが、まさか自分の住んでいる町でこんな凶悪な事件が起きるとは思ってもみなかった。

「今朝のニュースで、未明に近所のコンビニで起きた事件を放送していたよ。何でも40代くらいの男が、カッターナイフで店員を脅して、店の売上金を奪って逃走したそうだ」
 男は朝飯の席で妻に言った。
「マスクをした40代くらいの男?」妻が男に尋ねた。
「そう。ニュースでは白いマスクをした男だと言っていたね」
「外国で起きたコンビニ強盗の映像をテレビで見たことがあるけど、怖かったわ。目出し帽をかぶった男が店員に拳銃を向けて、店員がレジから取り出した現金入りの袋を持ち去った映像よ。この町に住んで30年近くになるけど、身近な所でこんな怖い事件が起きたなんて、信じられないわ!」
 妻は動揺した様子で言った。
「外国の事件と違って、今回のコンビニ強盗の凶器はカッターナイフだったけどもね。コンビニ強盗なんて余所事かと思っていたけど、君が言うように、自分たちの住んでいるこの町で起きたなんて、驚いたよ。物騒な世の中になったもんだね」
「そうね。昔は銀行を狙った強盗事件が時々あったわ。ライフル銃などの凶器を持った犯人が行員やお客を人質にして立てこもった事件だったわね。終日、テレビが事件現場を実況中継してたのを覚えているわ」
「そうだね。確かに昔は銀行を狙った強盗事件が多かったようだけど、金融機関の防犯対策が進んだことや警察の見回りが強化されたことで、昔と比べれば、件数は少なくなったんじゃないのかな。その代わりに、24時間営業のコンビニが狙われるケースが増えたような気がするよ。それに、今回の事件のように目撃者や客の少ない深夜から未明にかけての犯行が多いみたいだね」

「コンビニ強盗じゃないけど、私と同じ料理教室に通っている鈴木さんの娘さんが、ひったくりに遭ったそうよ。娘さんが夜遅く歩いて帰宅した時に、自転車に乗った若い男が後ろから近づいてきて、娘さんのハンドバックを奪って逃げたんですって」
「その娘さんに怪我はなかったの?」
「バッグを奪われた時、転倒して膝に擦り傷を負ったそうよ」
「女性が夜道を一人で歩く時には、護身用に防犯ブザーなどの道具を持っていた方がいいね」
 男はこの住宅団地に移り住んで30年近くになった。住宅団地のある一帯は、戦時中、広大な畑作地帯であった。戦後になって工場団地が造成され、自動車など輸出型製造業の工場がこの団地に立地した。男が勤めていた工場もこの団地の一角にある。地方出身の若者が「金の卵」となって、これらの工場に就職した。男もその一人だった。会社は地方から出てきた若者に住まいを提供するために、工場団地の周辺に造成された住宅団地に社宅用の集合住宅を建設した。当時の工場は3交代制勤務で24時間稼働していたことから、工場と社宅の間をマイクロバスによるピストン輸送で従業員を運んだ。男も独身の頃はマイクロバスに乗って社宅と工場を往復した。

 その後、一戸建て用の住宅団地が造成され、マイホームを求める大勢の子育て世代がこの団地に土地を買い求めた。男が家を建てた頃は、団地に建っている戸建ての住宅はまばらであったが、その後、最初に分譲に出された区画の全てが埋まったことから、宅地開発業者は周囲に残っている畑を開発して、第2次の分譲団地として造成し売りに出した。
 こうして男の住む住宅団地は徐々に拡張し、今や人口3万人余りの人々が暮らす市街地に成長した。子供の数が急激に増えたことから、保育園や幼稚園、小中学校が新設され、市役所の出張所、交番、消防署などの官公署の公共施設も新たに建設された。市街地の拡大に伴い、スーパーマーケットやコンビニ、ガソリンスタンドといったといった生活関連の店舗もできた。パチンコやカラオケルーム、居酒屋などの娯楽施設も人口の増加に合わせて建設された。
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第18回)

2017年3月16日ニュース

 ある夏の朝。朝飯の席で妻が男に言った。
「昨日の夜、バイクや車の音がうるさくて眠れなかったわ。それに何かにぶつかったような音もしたわ。あなた、眠れた?」
「いや、目が覚めたよ。深夜にあんなに大きな音を出して車を走らせていれば、誰だって目を覚ましてしまうさ。毎年、この時期の週末になると暴走族が騒いでいるね。それに、暴走族の車を追跡するパトカーのサイレンの音にも参ったよ」
 普段は静かな夜の住宅街だが、毎年、夏になると騒がしくなる。週末の夜、男の住む町から15キロ先にある海岸道路をめがけて暴走族の車両が爆音をたてながら、家の前の道路を通過するからだ。蛇行運転するオートバイや改造車両から出るクラクションの音と違法改造のマフラーから出るエンジン音が、寝静まった住宅街を襲う。続いて、暴走族を取り締まるために追跡してきたパトカーから流れるサイレンが静かな住宅街に響き渡る。男の家の玄関前には暴走族グループが投げ捨てたと思われる空き缶やペットボトルが落ちていることがある。また、ガードレールに接触した際に外れたと思われる車の部品が落ちていることもある。
 月に2回、男の家に来る孫のためにと始めたペーパークラフトと家庭菜園であったが、家庭菜園の方は手間がかかる。畑と違ってプランターに入れた土は水分の蒸発が早いため、朝晩の水やりは欠かせない。ミニトマトの苗は順調に生育し、梅雨に入った頃には茎の背丈が伸びて枝や葉が横に広がってきた。風で倒れないように支柱を立てて支えた。施肥や雑草取りも必要だ。男は日が照り付ける昼間は避けて、朝晩の涼しい時間帯にこれらの作業を行った。子供の頃に経験した辛い農作業に比べれば楽な作業だと男は思った。7月に入ると花芽が出てきた。花芽が出てくれば実ができる。来月には赤い実が収穫できるかもしれない。
 ある朝、いつものように男がミニトマトを植えたプランターに水をやろうと、ジョウロの先をプランターの中に入れたところ、何やら光っているものが見えた。男は光っているものを手に取った。それはプラスチック製の白い板だった。板には金色の枠がはめ込まれている。どうやらICカードのようだ。先ほど光って見えたのはカードに埋め込まれたICチップだった。カードの表面は真っ白で文字などの意匠が施されていない。家の前の玄関先には、時折、空き缶やペットボトルが捨てられていることがある。プランターに吸殻やたばこの空き箱が投げ捨てられたこともあったが、このような異物が捨てられていたのは初めてのことだった。男は手に持った真っ白なICカードを眺め、試作段階のカードではないかと思った。
 このカードにはどんな情報が入っているんだろうか?真っ白なICカードに記録されている情報を見たくなった男は、カードを2階の自室に持っていき、パソコンに繋いだカードリーダーに、拾ったICカードを差し込んでみたが、読み取り不能のメッセージが画面に表示された。やっぱりだめか。男はカードリーダーからICカードを抜き取って、本棚の隅に置いた。
(作:橘 左京)

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童話「白鳥になった春菜ちゃん」(立花 智 作)

2017年3月15日ニュース

 春菜ちゃんは幼稚園に通う女子です。春菜ちゃんが住んでいる家の近くに瓢箪の形をした大きな池があります。瓢箪池です。毎年、十月になると瓢箪池にたくさんの白鳥がやってきます。瓢箪池の周りには田んぼが広がっています。稲刈りの終わった田んぼには落ち穂がたくさん残っています……
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【お知らせ】
 童話「白鳥になった春菜ちゃん」は、「ライブラリー」の「文芸」コーナーにアップされました。

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小説「視線」(第17回)

2017年3月14日ニュース

 男は話を続けた。
「この前テレビで見た特報番組で自販機荒らしの手口を放送していたよ。昔は、夜間になると無人になる工場や倉庫、それに工事現場などにある自販機が狙われることが多かったそうだ。バールやハンマーを使って、なかには工事現場に置いてある重機を使って、自販機を壊して現金を抜き取っていたそうだ。しかし、人がいなくなる前に、自販機から現金を回収して、電源を切ってしまうことで、被害に遭わなくなったんだ。それに加えてパトカーの見回りが増えたこともあるそうだ」
「じゃ、犯人はどうやって、音も立てずに富田さんの店の自販機から現金を抜き取ったのかしら?」
「番組では自販機に物理的な力を加えずに現金を抜き取る手口が紹介されていたよ。自販機内部の回路をショートさせる方法だ。ニクロム線に繋いだ十円玉をコインの投入口に入れて、十円玉が入りきったら、ニクロム線に単三電池で電流を流す。すると自販機内部の回路がショートし、なかのコインが全て出て来るという仕掛けだ。しかし、こちらの手口も最新式の自販機には通用しないそうだ。富田さんのお店の自販機が最新式のものかどうかは知らないけど、最近の自販機には必ず防犯カメラが設置されているので、カメラに記録されている映像を分析すれば自販機の前で不審な動きをした人物は特定されるよ」
「富田さんの自販機が最新式のものかどうかは、私も知らないけど、盗まれたのは硬貨だけじゃないわ。紙幣も盗まれたのよ」
「そうか。紙幣も盗まれたのか。もしかして、インターネットを使って自販機を誤作動させる手口だったのだろうか?」
「インターネットを使って機械を誤作動させるって、どういうこと?」
「最新型の自販機のなかには、インターネットを介して外部の情報機器とデータのやり取りができる集積回路を内蔵している機種があるらしいんだ。例えば、自販機内の飲み物の在庫情報がインターネット経由でリアルタイムに販売会社に伝えられ、在庫が不足すれば補充される。一方、販売会社からは季節に合わせた飲み物の温度設定の指示がインターネット経由で自販機に伝えられる。これまで人間が行っていた監視を機械が代行できるようになったんだ。自販機の飲み物の補充は、まだ人間の手で行われているけど、いずれ機械が代行する時代が来るかもしれない。また、集積回路を内蔵した自販機は販売管理にも役立っている。何時、どんな飲み物が売れたのかも分かるので、売れ筋の飲み物を、一番多く売れる時期に投入することで、自販機を効率よく稼働させることができる。このように、コンピューター以外の多種多様なモノがインターネットに接続され、相互に情報をやり取りすることをIoT(アイ・オー・ティー)というんだ。話を元に戻すと、富田さんの自販機荒らしは、インターネット端末を使って自販機の集積回路にドアを開けるように指示を出して、現金を抜き取ったのかもしれないね」
「そんなこと、本当にできるのかしら」
「富田さんの自販機がこの手口でやられたのかどうかは分からないけど、不可能なことじゃないよ。IoT(アイ・オー・ティー)は家電製品だけでなく、自動車にも導入されているんだ」
「車がインターネットで繋がっているってどういうこと?」
「うちの会社、いや、務めていた会社でも、今、IoT(アイ・オー・ティー)を搭載した試作車を作っている段階だ。車に搭載されたセンサーや道路に設置されたカメラなどをインターネットと接続させることで、車同士の情報交換に行える。渋滞などの道路情報のほかに、道路の先の障害物情報や天候情報など、運転に必要な様々な情報がリアルタイムで送られてくるんだ」
「便利な時代になったものね」
「モノ同士がインターネットを介して情報交換できることで、確かに生活が便利になるけど、間違った情報が伝えられるとか、個人情報が流出するとか、セキュリティの面ではまだ、課題が残っているけどね」
「IoT(アイ・オー・ティー)が悪用されて、富田さんの自販機がやられたってこと?」
「断定はできないが、そういうことも考えられるということだよ」
 自販機荒らしは未解決なまま時が経過していった。
(作:橘 左京)

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