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小説「視線」(第13回)

2017年3月6日ニュース

 米の収穫が終わると秋祭りが行われる。秋祭りは春から始まった農耕を助け稲田を守ってくれた田の神に収穫を感謝する祭りだ。男の実家が氏子になっている菅原神社の秋祭りは2日かけて行われる。普段は神社に鎮座する御神体(氏神)が神輿に移されて、その神輿が村中を巡行する。初日は御神体を神輿に移す「宮出し」が行われ、二日目は巡行を終えた神輿から御神体を神社に戻す「宮入り」が行われる。中学生の勇一は大人の神輿を担ぎ、小学生の男と次兄の健二は子供の神輿を担いだ。

 祭り2日目。昨日に続く穏やかな秋晴れのなか、神社の境内には男衆の担ぐ神輿、女衆が担ぐ神輿、それに子供たちが担ぐ神輿が台座に据えられ並んでいる。一升瓶に入った日本酒が白い猪口に注がれ、神輿の担ぎ手に振る舞われた。男衆のなかには顔を赤らめた若者もいる。祭り用の白装束を身にまとった男と長兄の勇一、次兄の健二も神輿の前で待機している。観衆のなかに姉の佳子と妹の裕美の姿もあった。
「お兄ちゃんたち、かっこいいわよ!」裕美が声を掛けた。勇一たち3兄弟が、妹の声援に手を上げて応えた。
 神輿が出発する前に、神楽舞の一行が神社にやって来て獅子舞と剣舞を披露した。獅子頭に頭を食まれ泣き出した幼子もいた。
「よし、出発だ」
 神楽舞が終わったのを確認した先導役が号令を掛けた。担ぎ手の肩に載せられた神輿がゆっくりと参道を通り、山門をくぐって通りに出た。
 エイサ、エイサ、エイサ
 エイサ、エイサ、エイサ

 役場前の広場に集まった大勢の観衆を前にして、男衆の神輿が押し合いを演じた。広場には佳子と裕美が先回りをして、男たちの神輿が来るのを待っていた。
 エイサ、エイサ、エイサ
 エイサ、エイサ、エイサ
 熱くなった男衆の体から湯気が上がる。押し合いを終えた男衆の神輿は、一路、神社に向かった。御神体を乗せた男衆の神輿が巡行を終えて神社に戻って来た。境内には佳子と裕美の姿もあった。これから秋祭りのクライマックスシーンが始まる。巡行を終えて帰ってきた神輿から御神体を神社に戻す「宮入り」が行われる。神輿が神社の境内に入るや、神輿の帰りを待っていた男衆と女衆はスクラムを組み、御神体に悪霊が紛れ込まないようにと、結界を作った。
 エイサ、エイサ、エイサ
 エイサ、エイサ、エイサ
 掛け声を上げて男衆と女衆は押し合った。御神体の宮入りが終了したことを示す神楽の奉納舞が行われ祭りは終わった。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者