2017年3月
« 2月   4月 »
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

ブログ

小説「視線」(第20回)

2017年3月20日ニュース

 コンビニ強盗があった数日後、男の家に刑事が尋ねてきた。
 ピンポーン 玄関の呼び鈴が鳴った。
「はーい、どちら様ですか」居間でテレビを見ていた妻が玄関に出た。
「ごめんください。警察の者ですが」
「はい。今、玄関を開けますから」
 妻が玄関を開けると2人の刑事が入ってきた。刑事たちは警察手帳を見せて言った。
「先日、この先にあるコンビニで起きた強盗事件について、お話を伺いに来ました」
「強盗事件?今、主人を呼びます。あなた、ちょっと来て!刑事さんよ」
 妻が2階にいる男を呼んだ。妻からの呼び出しを受けて、男は1階に降りて来た。
「刑事さんよ。この前、近所のコンビニであった強盗事件について、聞きたいことがあるんですって」
 妻は夫にその場を引き継いで、居間に戻った。
「事件については、既にご存知ですよね」刑事が尋ねた。
「はい。この町に住んで30年近くになりますが、まさかコンビニ強盗が起きるなんて、思ってもみませんでした」と男は答え、話を続けた。
「夜中の3時頃だったと思いますが、救急車とパトカーのサイレンの音に気づいて目が覚めました。サイレンの音がだんだんと大きくなってきたので、こっちの方角に向かっているのかな思っていたら、近所で突然止まったんで、何かあったんだなと思いました。布団から起き上がって、外を見たら、コンビニの駐車場に救急車とパトカーの赤色灯が点滅していました。その後、包帯を巻いた店員が救急隊員に付き添われて救急車に乗り込んでいくのが見えました。朝のニュースを見て、事件の詳細を知りました」男は答えた。
「救急車やパトカーのサイレンの音が聞こえる前に、急発進する車の音は聞きましたか?」
「いいえ、聞いていません。救急車とパトカーが鳴らすサイレンの音で目が覚めたので、その前のことは眠っていたので分かりません。でも、刑事さんが今言った、急発進するような車があれば、眠っていても分かったと思います。もっとも、この時期、週末の深夜になると暴走族のバイクの音で嫌でも目が覚めてしまいますが……。妻にも聞いてみましょう」男は妻を呼んだ。
「今、刑事さんから聞かれたんだけど。救急車とパトカーのサイレンの音がする前に、車が急発進するような音を聞かなかった?」
 男が妻に尋ねた。
「救急車とパトカーの音がだんだんと大きくなってきて、近所で止まったことしか覚えていないわ。週末の深夜を除けば、ここは静かな住宅街です。もし急発進する車があれば、寝ていても気づいたと思います」妻が刑事に向かって言った。
「深夜のコンビニに買い物に来る車もあると思いますが、買い物客の車の音は聞いたことがありますか?」刑事が尋ねた。
「国道のバイパス沿いにあるコンビニになら、深夜でも車で買い物に来る客はいるとは思いますが、ここのコンビニを利用している人の多くは、近所の人たちです。買物に行く場合でも、歩いて行くか自転車を漕いで行くかのどっちかだと思います」男が答えた。
「店の店員さんは、犯人が乗って逃げた車は見ていないんですか?」今度は男が刑事に尋ねた。
「犯人が店を立ち去った後、110番通報をしていたので、犯人の車は見ていないし、車の音も聞いていないそうです」刑事は答えた。
「防犯カメラに犯人の車は写っていなかったんですか?」男が刑事に尋ねた。
「コンビニに向けて設置したはずの防犯カメラが、なぜかお宅の玄関の方向を向いていたんです」
「ええ、防犯カメラがうちの玄関に向いていたって!?」男が驚いた表情で言った。
「防犯カメラを設置した支柱に何かがぶつかったらしくて、少し傾いていました。事件当日の防犯カメラに保存されていた記録映像を見たら、コンビニではなくて、お宅の家が映っていたんです」
 刑事は答えた。
「ええ、家を映した映像ですって!プライバシーが覗き見られているようで嫌だわ。窓越しから家の中が丸見えだわ!」妻が言った。
「ご心配なく。今は、コンビニの方角に防犯カメラは向いていますし、お宅を記録した映像は既に消去しました」刑事は答えた。
「防犯カメラに記録されていた映像は、何日間、保存されているんですか?」男が刑事に尋ねた。
「最新の防犯カメラのなかには、長期間保存できるものもあるようですが、こちらの防犯カメラは1週間です。記録されて1週間経つと新しい映像に更新されます」刑事は答えた。
「防犯カメラは常時、モニターで見られる状態になっているんですか」男が刑事に尋ねた。
「こちらの防犯カメラは商店街組合が設置したもので、カメラと専用回線で繋がれた組合事務所のモニターに写し出すことは可能ですが、モニターは1つしかなく、普段は事務所前に設置したカメラの映像を映していたそうです。ですから、こちらの家を映していたカメラには映像は記録されていましたが、組合の人に見られていたということはなかったようです」刑事が答えた。
「ああ、良かったわ。組合の人に家の中を覗かれていたのかと思いました」妻がほっとした表情で言った。
「モニターに家が映し出されていれば、カメラの向きがおかしいと、もっと早く気づいたかも知れませんね」男が言った。
「そうですね」と言って、年配の刑事が若い刑事にそっと目配せした。
「いろいろとお聞かせいただき、ありがとうございました。また、何か、事件について思い出したことがあれば、こちらにお電話ください」若い刑事が男に名刺を差し出して、刑事たちは帰って行った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者