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小説「強欲な町」(第14回)

2018年3月31日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

「『圃場整備事業』の農家負担はどれくらいになるんですか?」野上が甘木に尋ねた。
「具体的な負担割合は事業を実施する地区ごとに異なるけれど、一般的には事業費の1割程度と言われているね」
「たったの1割ですか!残りの9割は公費、つまり、税金がつぎ込まれているってことでしょう?」
「実は、農家が負担する1割についても政府系の金融機関から、長期で低利な、そして一定の条件を満たせば無利子の融資を受けられるんだ。もちろん利子分は税金で補てんされるよ」
「ええ、本当ですか!それって、農家負担のほとんどに税金が充てられているということじゃないですか!農地って農家の個人資産じゃないですか!個人資産の価値を上げるために多額の税金がつぎ込まれていることに矛盾を感じますね」
「農家の個人資産とはいっても、農地は製造工場の建屋や機械・設備と同じ生産設備だけどね」
 甘木が言った。
「同じ生産設備とはいっても、投入される税金の割合が違い過ぎますよ!」
 野上が顔をしかめながら言った。
「確かに、今はそういう考え方をする人が多いと思うけど、終戦後の食糧難を経験した人は、農業に税金をつぎ込むのは当然だと考えている人が多いと思うよ。戦後の食糧不足を克服するために、国策として、主食である米の増産政策が推し進められたことが背景にあると考えているよ」
「でも、米が余っている今は米が足りなかった当時とは状況がかなり違っていると思いますが…」
「野上君の言うとおりだね。日本の人口が減少に転じたことや、食の多様化によって、主食である米の消費量が減ったことなどを考えると、米の増産という大義は無くなっているね。それに代わるものとして出てきたのが『食料安保』という考え方だよ」
「『食料安保』って何ですか?」佐久間が甘木に尋ねた。
「正式には『食料安全保障』のことで、人間の生命の維持に欠くことができない食料について、国内においては農業生産を増大させ、これと輸入及び備蓄を適切に組み合わせ、食料の安定的な供給を確保しようという考え方だよ。凶作や輸入の途絶等の不測の事態が生じた場合にも、国民が最低限度必要とする食料の供給を確保しようという狙いもあるよ」
「食料といっても主食の米は余り気味ですから、米以外の食料の確保が必要だと思いますが…」
 野上が言った。
「そのとおり。現在、米の過剰生産を抑制するために『減反』が行なわれているけどね」
「所長、『減反』って何ですか?」佐久間が尋ねた。
「米の生産調整のことですよ。『減反』という言葉には、田んぼで米以外の農作物を作ることを奨励し、余り気味の米の生産量を減らそうという意味があるんですよ」野上が横から口を出した。
「野上君の言うとおり。でも『減反』という言葉が示すように、かつては米の作付けを制限していた時期があったんだ。米の作付面積を減らすために、田んぼの一部を除外して苗を植え、また稲穂が出始め間もなく収穫期を迎える8月頃に、稲稲を刈り取ってしまう『青田刈り』も行われていたんだ」
「『青田刈り』?もしかして、企業が就職協定の解禁前に優秀な学生に内定を出す『青田買い』はこの言葉から由来しているんじゃないですか?」佐久間が尋ねた。
「佐久間さんの言うとおり。しかし『青田刈り』という言葉には、天塩に掛けて育てた農作物を収穫前に刈り取って廃棄しなければならない農家の悲痛な思いが込められているよ。とにかく、このメールに書いてあることが本当のことなのかを確認する必要があるね。野上君、調査をしてもらいたい」
「はい、分かりました。すぐ、取り掛かります」野上は大きな声で返事をした。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「強欲な町」(第13回)

2018年3月29日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

 メールを受信した日時は平成20年2月13日23時49分。メールの発信者の名前は表示されていない。表示されているメールアドレスだけ、ユーザー名がs.okoyr、ドメイン名は@yhoo.co.jpとあった。どうやらヤフーメールで発信されたらしい。甘木が代表を務める「田沼市民オンブズマン」はホームページを開設している。ホームページにはオンブズマンの設立趣意書、代表・副代表のプロフィール、活動日誌を掲載しているほか、不定期だが、オンブズマン通信を発信している。また、市政目安箱を設けてメールによる投書を受け付けている。今回の投書は目安箱に投稿されたものだった。
「佐久間さん、このメールを送った人物が誰か分かりますか?」甘木は佐久間に尋ねた。
「さっぱり分かりません。通常、自分の姓名をユーザー名にすることが多いので、発信者の氏名を特定できるのですが、このメールの送り主のユーザー名は「s.okoyr」となっています。「S」が名前で「OKOYR」が名字だと考えられますが、皆目見当がつきません」佐久間は答えた。
「このメールには、『ヨンイチ』バイパスのインターチェンジ付近の農地を対象にして、県が行った『圃場整備事業』について書かれていますが、『圃場整備事業』ってどんな事業ですか?富山県庁に勤務経験のある所長ならお分かりになりますよね?」野上が甘木に尋ねた。
「圃場整備事業は土地改良事業の一つで、小区画の小さな田んぼを、耕作者(所有者)ごとに集約して大きな区画にする事業だよ。県庁在職中に耕地整備部に籍を置いていたので、ある程度は知っているよ」
「所長は耕地整備部にいたことがあるんですか?」
「事務職として6年間在籍していたね」
「所長が耕地整備部に在籍していた頃、井上市長と一緒に仕事をしたことがあるんですか?」
「同じ職場だったことはないね。耕地整備部に在籍する職員のほとんどは農業土木職で採用された職員で、定年になるまで部内での異動を繰り返している。私のように事務職で採用された職員は一握りで、数年間、勤務すれば他部局に異動になる」
「話を元に戻しますと、所長はさっき、『圃場整備事業は土地改良事業の一つだ』っておっしゃっていましたが、土地改良事業って、何ですか?」佐久間が尋ねた。
「土地改良時事業は農業用の水路や道路を整備したり、田んぼの区画を広げたりして、農地の生産性を上げるために行われる公共事業だよ。土地改良事業は農家からの申請に基づいて行われ、土地改良法という法律が事業の施行手続きや事業費の負担割合を定めているんだ。農林水産省が所管する公共事業だけど、県庁では耕地整備部が担当しているよ」
「所長は耕地整備部に在籍していただけに、詳しいですね」野上が言った。
 甘木は昭和57年に一般行政職(事務職)として、富山県庁に採用され、配属された部局が耕地整備部だった。甘木は通算して6年間、耕地整備部に在籍していた。
「『公共事業』って言われると、道路や河川の工事、それに文化会館などの公共施設の建設しか思い浮かばないのですが…」佐久間が言った。
「そうだね。今、佐久間さんが挙げた公共事業はその地域に暮らす人たちの利便性向上や安全・安心な生活環境を確保・保持するために行われているけど、一方、土地改良事業は農地の生産性向上を目的に行われる公共事業で、受益者の多くは農家だよ」甘木が答えた。
「同じ公共事業といっても、受益者が住民か農家かの違いですね。住民の福祉向上のために行われる公共事業と、農業に携わる人たちのために行われる公共事業の2種類あるってことですね」
 佐久間が言った。
「土地改良事業の全てが農家のためだけに行われている訳ではないよ」野上が言った。
「野上君の言うとおり。農業用車両の通行を目的にして整備する農道(道路)は舗装をすれば、一般車両も通行ができるし、農業用排水路の整備は、田んぼに溜まった水を排水するだけでなく、コンクリートに覆われた市街地に降った雨水の排水も兼ねていることもあるよ」野上が言った。
「農地の生産性向上のために行われる土地改良事業は掛かった費用は農家の人が負担するんですか?」佐久間が尋ねた。
「土地改良事業の事業費は、国、都道府県、市町村、土地改良区の4者が負担しているんだ。負担割合は土地改良法や施行令に規定されている。土地改良区が負担する事業費は、受益面積に応じて農家から賦課金として徴収されるんだ。さっきも言ったように、農道や排水路の整備といった事業の場合、農家だけでなく地域住民にも受益が及ぶので、農家負担はないんだよ。一方、農業用水路の整備や点在する小区画の田んぼを集約して大きな区画に整備する『圃場整備事業』の場合、農家にしか受益が及ばないので、事業費の一部を農家が負担しているんだよ」
 甘木が答えた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「強欲な町」(第12回)

2018年3月27日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

 佐久間はパソコンを起動させ事務所に届けられたメールボックスを開けた。月曜日のメールボックスには週末2日分のメールが溜まっているため件数が多くなる。なかには海外にあるサイトから発信されたと思われる出所不明なメールもある。不明なメールはその場で削除している。うっかり添付ファイルを開くとウイルスに感染することがあるからだ。
「何よ、これ。変なメールばっかりだわ。あれ?このメールは…」
 佐久間は「田沼市立病院建設予定地の利権を暴露する!」という、衝撃的なタイトルに目を留めた。
「所長、これを見てください!」佐久間が甘木を呼んだ。
「どうしたんですか?佐久間さん」甘木は佐久間が開いたパソコンの画面を覗き込んだ。
 甘木は「田沼市立病院建設予定地の利権を暴露する!」という見出しを見て驚いた。
「佐久間さん、添付ファイルをウイルスチェックしてください」
「分かりました」
 佐久間は素早く、ウイルスチェックソフトを起動させ、
「所長、大丈夫です。このファイルにはウイルスが仕組まれていません!」
と言って、ファイルを開いた。

 田沼市民オンブズマン代表 甘木雄一 様

 向春の候、益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。
 名前は申し上げられませんが、私は田沼市で農業を営んでいる者です。昨年4月に就任した井上将司市長は、就任間もなく、現在地で建て替えるはずの田沼市立病院を『ヨンイチ』バイパスのインターチェンジ付近に移転新築することを決めました。建設予定地の造成工事が昨年12月に終わり、今年の6月からは建設工事が始まるそうです。甘木さんはご存知ないかも知れませんが、病院の建設予定地のほとんどは、田沼市土地改良区理事長の松本正蔵氏が所有していた田んぼでした。周辺の田んぼは6年程前に県が行った圃場整備事業によって、1町(約1ヘクタール)区画の大きな田んぼに整備されていますが、整備前は2反(約20アール)区画や4反(約40アール)区画の小さな田んぼでした。圃場整備前の松本氏が所有する田んぼは県道から離れた場所に点在していました。ところが圃場整備が終わった後に行われた換地処分によって、バイパスインターチェンジ付近の県道沿いに集約されたのです。井上市長は、新病院の建設場所先を集約された松本氏の田んぼに決めました。
 道路沿いの田んぼは、将来的には商業施設や住宅団地などの開発用地として転用される恐れがあります。多額の税金を投入して整備された優良農地は、『農業振興地域』に編入され、農地以外の用途に転用することができない『農用地区域』に指定されます。県道沿いに集約された松本氏の田んぼは『農用地区域』に指定された農地です。転用が禁止されている農地が、なぜ新病院の建設場所になったのか疑問に感じています。税金を使って美田を作っておきながら、その美田に再び税金をつぎ込んで公共施設として開発することは税金の無駄遣いではないかと考えています。
 甘木さんもご存知のとおり、松本氏は井上市長の後援会長を務めています。また、井上市長は富山県庁耕地整備部の技術畑の出身です。これら不自然・不可解な取り扱いの背後に、田沼市選挙区選出の山田良治県議会議員が深く関わっているものと考えています。山田県議は県議会議員に当選して以来、常任委員会は経済建設委員会に所属しています。山田県議が所属する経済建設委員会は土木部や耕地整備部など、公共事業を担当する部局を所管しています。側聞するところによれば、山田県議と県職員時代の井上市長は昵懇の間柄にあったと聞いています。甘木さんはご存知ないかも知れませんが、井上市長の奥さんは山田県議の実妹です。新病院の建設場所の決定は山田県議、井上市長、松本理事長の3人が結託して仕組んだ悪行と考えています。市民オンブズマンの力で、新病院建設予定地の選定を巡る利権の構図を明らかにしてもらいたく、メールしました。
                          田沼市の将来を憂慮する市民Xより
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「強欲な町」(第11回)

2018年3月25日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

第3章 田沼市民オンブズマン(その1)

「おはよう、今朝は冷えたね。暦の上では春になったっていうけど、外はまだ冬景色だよ。おや、そのチューリップはどうしたの?もうすぐ咲きそうですね」
 赤、白、ピンク色のチューリップが挿し込まれた花瓶を見た甘木雄一が、コートに付いた雪を払いながら、佐久間涼子に言った。
「甘木所長、おはようございます。皆さんに一足先に春を楽しんでもらおうと思って、実家からチューリップをもらってきました」
「そうか、佐久間さんの実家はチューリップの生産農家でしたね?もう、チューリップの出荷が始まったんですね?」
「はい、切り花の出荷は1月中旬頃から始まっていますが。今が出荷のピークです。チューリップ農家はこの時期、猫の手も借りたいほど忙しくなるんです。だから、私は週末には実家に帰って、家の手伝をしています。チューリップの切り花は蕾の状態で出荷するんですが、蕾が開き始めたものは出荷できないので、もらってきました」
 富山県のチューリップは、球根で全国1位、切り花で2位の生産量を上げている。
「ありがとう、佐久間さんのおかげで、事務所は暦どおりの春になったようです」
 佐久間は、クス、クスと笑みを浮かべながら、
「野上さん、どうしちゃたのかしら?もう9時過ぎだというのに……」と、事務所の掛け時計を見ながら言った。
「野上君、朝寝坊でもしたのかな?」
 甘木は、佐久間が運んでくれたコーヒーを飲みながら言った
「おはようございます。あれ、あのチューリップ、もしかして、佐久間さんが持ってきてくれたの?」
 野上敏夫はスーツに付いた雪を払いながら言った。
「そうよ、先週末に実家に帰った時にもらって来たのよ。野上さんこそ、どうしたの?今日は遅刻よ。朝寝坊でもしたの?」佐久間が野上に言った。
「寝坊じゃないよ!暦は春でも外は大雪、そのうえ今日は月曜日。道路が車で大混雑していて、それで遅くなったんだよ。所長、すみません」野上が甘木に低頭して言った。
「それはいいんだけど。遅くなるようだったら、電話を一本入れて下さい。時間になっても野上さんが来ないので、事故にでも遭ったのかと、心配してたよ」甘木が言った。
「はい、今度から必ず電話を入れます。『愛の告白』、『失われた愛』、『愛の芽生え』、どっちかな?」
「野上さんが、いま言った言葉って、どういう意味ですか?」佐久間が尋ねた。
「チューリップの花言葉だよ」
「花言葉?」
「赤は『愛の告白』、白は『失われた愛』、ピンクは『愛の芽生え』ですよ。今日の佐久間さんの気持は何色かな?そういえば、今日はバレンタインデーだったよね」
「ああ、忘れるところだったわ」
 佐久間はリボンで結ばれた小箱を紙袋から2個取り出して、
「所長、義理チョコですけど。どうぞ」と言って、小箱を甘木に渡した。
「ありがとう、佐久間さん。すみませんね、いつも気を使ってもらって……」
 甘木はにこやかな顔を浮かべて小箱を受け取った。
「野上さんも、どうぞ。義理チョコですけど……」
 佐久間は、もう一つの小箱を野上に渡した。
「ああ、ありがとうございます。佐久間さん、さっき僕が言った質問に答えてくれますか?」
「ええ、何のこと?」佐久間は野上に聞き返した。
「だから、チューリップの色で言うと、佐久間さんの今の気持ちは何色ですか?ということですよ」
「野上さんに対する私の気持ですか?今、渡したチョコレートの色、こげ茶色です」
 甘木は、ク、ク、クと笑った後、
「野上さん、佐久間さんに一本取られましたね」と言った。
「ええ、『一本』ですか?所長、せめて『技あり』にしてくださいよ」野上が甘木に言った。
「審判員に対する抗議は認められません」
 甘木は広げた右手を野上に示して言った。今度は、佐久間が、ク、ク、クと笑った。
 社会保険労務士の資格を持つ甘木雄一は田沼市内で事務所を開設し所長を務める。甘木の事務所は外資系生保の「ワイド生命」の代理店でもある。行政書士の資格を持つ野上敏夫は甘木事務所の所員として勤務している。佐久間涼子は生保業界最大手の「全国生命」の本社に勤務していたが、体調を壊したため退職し、郷里の田沼市に戻って甘木事務所の事務員兼生命保険の営業社員として勤務している。
 また、甘木は野上と田沼市民オンブズマンを結成し、甘木は代表を、野上は副代表兼事務局長を務める。事務所の壁には、額縁に入った田沼市民オンブズマン設立趣意書が掛けてある。

 田沼市民オンブズマン設立趣意書
 我々は田沼市民であり、また有権者でもある。
 我々は、一人の市民、一人の有権者の立場で現市政の動向を注視してきたが、現市政に対する我々の認識は「不公正・不公平・不透明」な市政運営である。
 現市政は「曖昧模糊」、「問題の先送り」、「責任転嫁」、「有言不実行」、「我田引水」など、良識を欠いた市民不在の中で運営されている。また、その帰結するところは市長の持つ強大な予算編成権を背景にした「利益誘導」と「既得権益者擁護」の市政運営である。
一方、市議会は本来、市長はじめ執行機関に対する監視機関としての責務を負っているが、むしろ市長の持つ強大な予算編成権に与ろうとオール与党化して、市議会における審議は緊張感を欠いたものになっている。現市議会に対する我々の認識は「形式的・形骸化、おざなり、馴れ合い、緊張感の欠如、けん制機能の欠落」などである。
 我々は、このような市政がこのまま続くことを憂慮する。
 我々は光の当たらない場所や光の届かない市民に「夢と希望」の光を届け、「公正・公平・透明性のある市政」、「市民の、市民による、市民のための市政」など、真の住民自治を実現するために「田沼市民オンブズマン」を結成することを決意した。

 平成19年6月
       代  表      甘木 雄一
       副代表兼事務局長  野上 敏夫

(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「強欲な町」(第10回)

2018年3月23日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

「確か『ヨンイチ』の開通は平成25年の予定だったと聞いていましたが、3年も早く完成するんですね。民自党富山県連会長の山田先生が本気になれば、国の公共事業であっても工期を短縮することは簡単にできるんですね」佐川が山田のコップにビールを注ぎながら言った。
 民自党富山県連会長は、慣例により小選挙区選出の衆議院議員が就任していたが、平成15年の8月に行われた衆議院選挙で県連会長を務めていた現職が落選したことから、当時筆頭副会長だった山田良治が県連会長に就任した。山田は連続7期当選の最古参の県議会議員だ。
「佐川さん、園田政権の経済政策『ソノダミックス』の一つに『政府による機敏な財政出動』があるのは知っていますよね?」
「ええ、大規模・大胆な公共投資のことですよね。昨年4月に行われた地方統一選挙向けに政権与党の民自党が打ち出した『国土甲殻化計画』が基になっていたんじゃなかったですか?」佐川が言った。
「そのとおり。『国土甲殻化計画』は、都会と比べてインフラ整備が遅れている地方に国の公共事業予算を重点的に配分することによって、地方統一選挙を有利に展開しようと、打ち出されたってわけですよ」
「山田先生は県連会長として、県だけでなく国の公共事業予算の個所付けで大きな権限をお持ちになっているという話を聞いたことがありますが、本当だったんですね」
 個所付けは、道路や河川などの公共事業予算について、個別事業ごとに予算を配分することをいう。国の公共事業予算案の編成過程において、最初に総枠である「全国枠」が示され、次に地方への「個所付け」が行われる。地方への「個所付け」は年明けから始まる。地方自治体は地方に配分された個別事業予算を踏まえて、次年度の予算案を編成する。
 公共事業予算の「全国枠」決まると、政権与党内で「個所付け」を巡って、公共事業予算の分捕り合戦が行われる。特に地方出身の与党議員は、地元建設業界の支持を得ることで次の選挙を有利に展開しようと、自身の選挙区への「個所付け」に腐心する。
「民自党にとって地元建設業界は強力な支持基盤ですよ。皆さんのおかげで、私も、昨年連続7期目の当選を果たすことができましたよ。選挙でお世話になっている皆さんに恩返しをするのは当然ですよ」
 山田が言った。
「ところで、市立病院の建設予定地の田んぼは松本理事長さんが所有する土地だったと聞いたことがありますが…」顏を赤らめた高橋が松本に尋ねた。
「いや、まー。結果的にそうなったということです」松本は困惑した表情を見せた。
 土地改良区は農業水利施設の新設・改良や管理、開田畑、干拓、これらの災害復旧、農地の区画整理、交換分合などの土地改良事業を施行する公共的法人だ。土地改良法が定める資格(3条資格)をもった15人以上の者が、土地改良事業の施行を目的として知事の認可を受けたときに設立される。土地改良区の構成員は原則として耕作農家であり、土地改良区は土地改良法の定めるところにより定款を定め、また役員として理事、監事を置いて業務を執行しているが、重要事項については土地改良区総会・総代会で決定される。松本は黒部川水系の田沼川から引水する田んぼを受益地区とする田沼市土地改良区の理事長を務めている。
「『結果的に』ってどういうことですか?」高橋が松本を問い詰めた。
「小区画の田んぼを集約して大区画の田んぼにするため、あの地区の田んぼを施行区域にして県の圃場整備事業が行われました。工事完了後に行われた換地処分によって、散らばっていた松本さんの田んぼが一か所に集約されたってことですよ。集約された松本さんの田んぼが、たまたま『ヨンイチ』バイパスのインターチェンジ付近だったということです」井上は窮地に立たされた松本に助け舟を出した。
「井上市長は県の耕地整備部出身だけに詳しいですね」高橋が言った。
 耕地整備部の技術職として採用された井上は部内の要職を歴任し、最後は部内ナンバーツーの技監にまで登り詰めた。
「井上市長、市立病院の移転先が松本さんの田んぼになったということも、『たまたま』ということでしょうか?松本さんは市長の後援会長でしょう?」今度は、井上が詰問された。
「高橋議長さん、誤解しないでください。私が市立病院の移転先を決めたわけじゃないんですよ。市議会の会合でもご説明したとおり、新病院建設予定地検討委員会でご審議いただき、合議の上、3つあった候補地の中からバイパスのインターチェンジ付近が選ばれたわけです。私の一存で決めたということではありません!」井上は憤然とした顔付きで答えた。
「山田県議さん、どうしてあの場所に『ヨンイチ』バイパスのインターチェンジを建設したんですか?あの場所に奥さんの実家の田んぼがあったって話を聞いたことがありますが…」
 今度は、山田が矢面に立たされた。
「高橋さん、あの場所にバイパスのインターチェンジを建設したのは、県道と交差する場所だからですよ。妻の実家の田んぼが、用地買収に『たまたま』ひっかかったってことですよ」
 山田はうんざりとした顔付きで答えた。
「『たまたま』ですか?『運よく』じゃなかったですか?」高橋は尚も食い下がった。
「もうそれくらいしませんか。自慢の鴨肉が汁を吸ってブヨブヨになっていますよ」
 佐川が菜箸で鴨肉を突きながら言った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「強欲な町」(第9回)

2018年3月21日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

「市長さん、『ヨンイチ』バイパスのインターチェンジ付近に移転する市立病院ですが、建設予定地の造成工事がまもなく終わるそうですね」
 山田組社長の山田力が井上の杯に銚子を向けて言った。
「ヨンイチ」は、富山県富山市へから愛知県名古屋市に至る一般国道41号のことを指す。総延長は268キロメートルあり、岐阜県美濃加茂市までの区間は、概ねJR西日本とJR東海の「高山本線」と一致している。「ヨンイチ」は田沼市内を東西に横断し、隣の戸板市に抜けている。「ヨンイチ」は田沼市の中心市街地をL字カーブで通過していることから、朝晩の交通渋滞や交通事故が多発していた。このため、通過車両が市街地に入って来ないように、周辺に広がる農地(田んぼ)にバイパスの路線が引かれ、現在、建設工事が行われている。
「9月から始まった造成工事ですが、昼夜兼行の突貫工事のおかげで12月中に工事を終えることができそうです。工事を請け負った業者の方には御難儀を掛けてしまいました」井上が答えた。
「一冬寝かせれば地盤も締まって固くなりますからね。特に、今年の冬は『エルニーニョ』の影響で北陸地方は大雪になるという予報が気象庁から出ているようですが…。市長さんの地盤のように、例年以上に固い地盤になるんじゃないでしょうか?」山田が言った。
「山田さん、冗談を言わないでください。私は4月の選挙で市長に当選したばかりですよ。一冬寝かせたからといって固くはなりませんよ。まだ軟弱な地盤ですから4回は寝かせないとだめですね」
 井上は苦笑いしながら答えた。
 4月に行われた市長選では、新人で立候補した井上は現職と市議会の前副議長を大差で破って初当選を果たした。
「4回ですか。次の選挙までは4回の冬を迎えますからね。4年がかりで強固な支持基盤を築いてもらいたいと思います。我々、建設業界は、市長さんのために一肌でも、二肌でも脱ぐ覚悟はできていますから」山田が言った。
「は、は、は」一同、笑い声を発した。
「しかし、前市長が当選していれば現病院の敷地内での建て替えになったわけですが、現在の病院は市街地のど真ん中にあります。現病院裏手の空きスペースに新病院を建設しても、充分な広さを持った駐車場は確保できません。確かに公共交通に頼っていた昔は、市街地に病院があった方がなにかと便利だったかもしれませんが。車が普及した今は、むしろ郊外に広い駐車場を備えた病院の方が通院には便利です。また現在地での工事となると、現場で作業する重機や現場を出入りする車両の騒音で、入院患者や通院で病院に来る患者さんにとっては迷惑千万ですよ」松本が言った。
「松本さん、入院患者や通院患者だけじゃないですよ。現病院の裏手は住宅街になっていますから、騒音に悩まされる周辺住民にとっても迷惑な話ですよ」井上が言った。
「前市長は、市の借金残高をこれ以上増やさないといって、建設費を抑えるために現在地での建て替えに固執していましたが、長い目でみれば、広い駐車場が確保でき、市内全域からの交通アクセスも抜群に良い『ヨンイチ』バイパスのインターチェンジに建設地を変更したのは正しい判断だった思いますよ」松本が言った。
「井上市長、『ヨンイチ』バイパスは、新病院が完成する平成22年には全線開通の見込みだよ。県連から党本部に毎年、要望している国の公共事業予算の中でも、『ヨンイチ』バイパスの事業予算については、党の最優先の項目に挙げているよ」
 富山県議会議員の山田が言った。山田良治は山田組社長の山田力の実弟である。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「強欲な町」(第8回)

2018年3月19日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

第2章 田沼市立病院建設工事(その1)

 平成19年12月。割烹「越中屋」に、田沼市長の井上将司、田沼市議会議長の高橋紘一、田沼市土地改良区理事長の松本正蔵、田沼市選出の県議会議員山田良治、山田組社長の山田力、富山建設の佐川郁夫の6人が集まって、酒宴が開かれた。
「今年も残すところ僅かになりました。本日は、当館にお越しをいただきありがとうございます」
 越中屋の主人、岡本聡が居並ぶ一同に挨拶した。
「越中屋さん、この建物の佇まいには驚きました。光沢のある柱や梁、それに床板に壁板と、部屋中を包み込むかぐわしい香り。使われている建材は桧ではありませんか?」佐川が尋ねた。
「はい、木曽桧です」岡本が答えた。
「ほお!」一同、感嘆の声を上げた。
「店を拡張するため、空き家だった隣家の建物、昔は商家だったそうですが、その商家を土蔵ごと買い取りました。建物は明治30年頃に建てられ、100年以上は経っていますが、使用されている木材が桧だけあって、法隆寺みたいに、この先1000年は使えるんじゃないですか」岡本が答えた。
「おお!」一同、再び感嘆の声を上げた。
「越中屋さん、土蔵は何に使うんですか?」高橋が尋ねた。
「夏場の座敷として使います」
「夏場の座敷ですか?」
「土蔵は天井板を張らない『晒し屋根』になっているので、部屋の中は意外と涼しいです。現在、内装工事をしていますが、来年の6月頃にはオープンできると思います」
「この建物と土地を買っていただいた越中屋さんには感謝していますよ」井上が言った。
「井上市長さん、今、越中屋さんに買ってもらったって、おっしゃいましたが、どういうことですか?」松本が尋ねた。
「この土地の持ち主は長い間、市税を滞納していて、市では何度も督促状を出して納税を催促したんですが、それでも納めてもらえないもんだから、やむなくこの土地を差し押さえ、建物付きで公売に出したんですよ。訳ありの物件だったんで、なかなか買い手がつかなくて困っていたんですが、店を拡張したいからといって、越中屋さんから公売に参加してもらって、建物と土地を買ってもらいました。おかげで、5年分の滞納金を回収することができましたよ」井上が答えた。
「訳ありって、どんなことですか?」佐川が尋ねた。
「私の口からは申し上げられません」井上が言った。
「不動産業もやっている越中屋さんのことだから、何が訳ありなのか、分かっているんでしょう?」
 佐川が尋ねた。
「前の持ち主が土蔵の中で首つり自殺をしたってことでしょう?」
 松本が横から口をはさんだ。
「ええ!ほんとうですか!」佐川が驚いた様子で岡本に顔を向けた。
「訳あり物件だってことは百も承知の上で入札に参加しました。もっとも、入札に参加したのはウチだけでしたが…。おかげで、破格の値段で買うことができました」岡本が答えた。
「佐川さん、誤解しないでください。市税の滞納金を回収するために、越中屋さんに頼んで、買ってもらったんですよ。たまたま、越中屋さんがお店の拡張を考えていたことから、タイミングよく、越中屋さんから買ってもらいました。買い手が見つからなければ、滞納している市税を回収できず、監査委員から指摘されますよ」井上が言った。
「さー、熱いうちに召し上がってください。当店の冬の名物料理、天然の鴨肉を使った鍋料理です」
 岡本の説明が終わると、脇に控えていた仲居がグツグツと音を立てながら蒸気を上げている土鍋の蓋を取った。
「おお!」
 緑色のニラと紫紺の鴨肉が視界に飛び込んできた。鍋から立ち昇った匂いに一同、鼻をひくひくさせた。岡本は話を続けた。
「当店自慢の鴨鍋ですが、代々伝わる割り下を使った鴨すきでございます。一人前約半羽を使い、食べごたえは十分あります。骨を細かく砕いて混ぜた鴨団子は、力強い肉の旨みの中に独特の歯触りを持ちます。胸肉や腿肉はあまり煮込まずに、柔らかな肉質をお楽しみください」
 岡本は一礼した後、宴席を離れた。
(作:橘 左京)

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小説「強欲な町」(第7回)

2018年3月17日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

「石渡さま、いつも有難うございます。『グローバル・アドバンス』については、私から、詳しく説明させていただきます」
「よろしくお願いします」
 佐久間は、向かい合わせに座った石渡に「グローバル・アドバンス」のパンフレットを示しながら、説明を始めた。
「石橋さまからお払い込みいただいている保険料のうち、保険契約の締結・維持などに必要な費用を差し引いた金額が特別勘定に繰り入れられて運用されています。石橋さまが指定された資産運用のタイプが『安定成長バランス型』です」
「『安定成長バランス型』といいますと?」
「はい、この『安定成長バランス型』は、主として国内外の株式および債券を主要対象とする投資信託に投資し、中長期的に安定した投資成果を得ることを目標として運用を行っています。『安定成長バランス型』に組み入れられている資産は、日本株式と外国株式がそれぞれ20%づずつ、日本債券と外国債券がそれぞれ30%ずつの配分比率になっています」
「バランス型というのは、国内外の株式と債券がバランスよく資産配分されているという意味ですね」
「はい、そのとおりです」
「そうなると、リーマン・ショック後の株式市場と債券市場、それに為替市場の動きが気になりますね」
「今ほど石橋さまがおしゃった3つの市場が今後、どのような値動きになるのかは、残念ながら予測不可能です。しかし、過去は事実として記録されていますので、振り返ることはできます。こちらの資料をご覧ください。『グローバル・アドバンス』の資産運用パターンは10種類ありますが、それぞれについて、20年間の運用成果を振り返りますと、『安定成長バランス型』の順位は4位から6位の範囲で推移しています」
 佐久間は、「資産別リターン・歴代ランキング」のページを開いて石渡に示した。
「なるほど、中位安定ってところですね。ところで、『日本株式型』は上下に大きく動いていますが…」
「そのとおりです。バブル崩壊前は1位でしたが、崩壊後は坂道を転げ落ちるように順位を下げ8位になりました。その後、3位に上がったかと思えば、翌年には8位に下がってと、上下に大きく振れています」
「しかし、定期預金の金利が4.5%と高かった時期もあったんですね。それが、今では0.1%ですか。100万円を1年間、銀行に預けても、1000円の利息しか付かないということですよね」
「そうですね。『安定成長』と『定期預金』について、20年間の運用成績を比べると、運用期間のほとんどで『安定成長』が定期預金を上回る実績を挙げています。石橋さま、こちらの資料もご覧ください。日本株式を25%、外国株式を35%、日本と外国の債券をそれぞれ20%組み入れた『積極運用バランス型』に対して、過去30年間、毎月2万円の積立投資した場合のシミュレーションです。累計で720万円の積立金額が1765万円に増えています。その差額は1045万円にもなります!」
「すごいな!倍以上に増えている!」
「このグラフを見てお気づきのことと思いますが、短期的には値上がり、値下がりを繰り返しながらも、長期的にはおおむね上昇していることが分かります。世界経済は右肩上がりで成長し続けています。リーマン・ショックの影響で世界経済は一時的に停滞するかもしれませんが、長期的視点に立ってみれば上昇傾向にあります。投資は、短期の値動きに一喜一憂しながら行うものではありません。投資成果は長期的な運用で得られるものです」
「佐久間さん、ありがとうございます。慌てずじっくりと時間をかけて資産を増やすことにします」
 石渡は納得した顔つきで、甘木の事務所を後にした。
(作:橘 左京)

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小説「強欲な町」(第6回)

2018年3月15日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

「甘木さん、先般は、ウチの工場で起きた労働災害について、休業補償給付の申請手続きを代行していただき有難うございました。おかげで、給付金の支給を受けられるようになりました」
 田沼市内で金属加工所「石渡鉄工所」を営む社長の石渡文雄が、甘木事務所を訪ねてきた。
「それは良かったですね。被災された方が早く、職場に復帰できるといいですね」
 甘木雄一は社会保険労務士の資格を持っている。社会保険労務士は、企業経営上の4大要素「人・物・お金・情報」の中で一番重要な「人」に関する専門家だ。社会保険労務士の仕事は書類作成業務、提出手続代行業務、そしてコンサルティング業務の3つに分けることができるが、業務の多くは書類作成業務と提出手続代行業務だ。
 甘木は、石渡が経営する鉄工所で起きた労働災害について、休業補償の申請手続きを代行した。被災した従業員はアルバイトのプレス工。被災者はその日の作業状況に応じて、プレス機械を使って作業を行っていた。災害が起きたのは、プレス機械による自動車部品の加工作業中に、曲げ加工を行った製品を左手で取りコンベヤーに載せる際に、製品を床に落としたため、それを取ろうとして右手をプレス機械の金型内に入れた状態でしゃがんだところ、プレス機械が起動して挟まれた。甘木は会社や被災者から聞き取り調査を行い、調査結果を基に休業補償給付金の申請書類を作成し、所轄の労働基準監督署に申請書類を提出した。
「実は、今日、こちらにお伺いしたのは、甘木所長さんから勧められて入った変額保険について、お尋ねしたく伺いました」
 甘木の事務所は、社会保険労務士業務のほか、外資系生保「ワイド生命」の代理店業務も行っている。
「石渡社長さんからご契約いただいた『グローバル・アドバンス』のことでしょうか?」
「はい、それです。一昨日の富山毎日新聞で『リーマン・ブラザースの経営破綻』のニュースが出ていましたが、甘木所長さんはご覧になりましたか?」
「はい、第一面のトップを飾っていましたね」
「地方紙のトップに載るなんて珍しいことだと思うんですが…。私が契約した『グローバル・アドバンス』の満期保険金が、『リーマン・ブラザースの経営破綻』によって、今後、どうなるのか心配になって、本日、伺いました」
「石渡社長さんからご契約いただいた『グローバル・アドバンス』は、基本保険金額が3千万円だったと思いますが…」
「はい、そのとおりです。私は今年で60歳になりますが、75歳になったら社長職を息子に譲りたいと考えています。私が生きていれば満期保険金は退職金として受け取りたいと思いますが、在職中に私の身に万が一のことがあれば、連帯保証人として私が背負っている会社の借金を返済したいと考えてします。後継者の息子に借金を背負わせるわけにはいきませんからね」
「ご心配なく。社長さんが万が一の時に支払われる死亡保険金の最低保証額は3千万円です。一方、満期になったら受け取る満期保険金については、運用が良ければ、3千万円を上回る保険金を受け取ることができますが、逆に、運用が悪いと、3千万円を下回ることもあります。社長さん、申し訳ありませんが、私はこれから労働基準監督署に書類を提出するため出掛けるので、私に代わって担当の佐久間から説明させていただきます」
(作:橘 左京)

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小説「強欲な町」(第5回)

2018年3月13日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

「失礼します。市長、越中銀行の佐竹支店長さんがいらっしゃいました」
 市長室に入った日下部が一礼して言った。越中銀行田沼支店長の佐竹康夫は市長室に入るや否や、
「市長さまからは、日頃から当行をご利用いただき有難うございます。本日は公務ご多用のところ、お時間を頂いただきありがとうございます」と、店一番の上得意の井上に最敬礼の挨拶をした。
 井上は、「さお、どうぞ」と言って、佐竹に着座を促した。井上は肘掛椅子に座り、佐竹は井上の左側のソファーに座った。
 佐竹は、「市長さんからご購入いただいた投資信託『アメリカンキャピタル・アクティブ・ファンド』について、ご説明申し上げたく参りました」と言って、黒い営業鞄から資料を取り出して、テーブルに広げた。
 井上は市長に就任した翌年の平成21年に越中銀行から「アメリカンキャピタル・アクティブ・ファンド」を1億円で購入した。
「市長さまからご購入いただいた『アメリカンキャピタル・アクティブ・ファンド』の運用実績についてご説明申し上げます。このファンドの運用を担当しているのはグローバル・アドバンス・マネージメント株式会社です。グローバル・アドバンス・マネージメント社は1987年に日本に進出して以来、個人投資家や富裕層、機関投資家向けに投資信託や年金運用等の投資サービスを提供しております。ファンダメンタルズ情報と最新の運用テクノロジーを結合させることにより、一貫した投資哲学に基づく株式のアクティブ運用を行うとともに、債券、オルタナティヴ投資商品といった、幅広い投資家のニーズに応える高品質・高収益な運用商品を提供しております…」
「佐竹さん、前置きはそれくらいにして、私が買った投資信託は、リーマン・ショック後にどのような値動きをするのか教えてもらいたいんだが…」
「はい。市長さまからご購入いただいたファンドは、ほとんどはアメリカの株式を組み入れたものです。アメリカの株式市場の代表的な指数であるS&P500はリーマン・ショック後、下落すると思われます」
「S&P500?」
「ああ、失礼しました。S&P500は、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが算出・公表している株価指数のことで、アメリカ合衆国の証券取引所に上場された代表的な500銘柄で構成されています。日本の株式市場でいえば日経平均株価やTOPIXのような株価指標です」
「ということは、私の投資信託は今後、下がるということ?」
「S&P500などのインデックス(指数)の動きと連動した投資収益の達成を目指すパッシブ運用のファンドであれば、今後、下落するものと思われますが、市長さまからご購入いただいたファンドはアクティブ運用ですから…」
「『パッシブ運用』とか『アクティブ運用』とか難しい専門用語が出ましたが、何のことやらさっぱり分かりませんが…」
「失礼しました。『パッシブ運用』とは、株価指数などのインデックスに追随しながら、市場平均と同程度の運用成績を目標とした運用スタイルのことをいいます。一方、個別証券などの割高や割安等を運用者が判断して売買を行うアクティブ運用は、ベンチマークや市場平均を上回る運用成績(リターン)を上げることを目標とした運用スタイルのことをいいます。このアクティブ運用は更に2つに分けられます。1つは「トップダウンアプローチ」といって、経済や市場動向などマクロ的な投資環境の予測から始まり、資産配分や業種別配分を決めて…」
「佐竹さん、さっきも言ったように、私が持っている1億円の投資信託は今後、どういった値動きをするんですか?」
「元々過熱気味だったアメリカの株式市場は、リーマン・ショックを受けて、下落基調に転じるものと思われます。しかし、市長さまからご購入いただいたファンドは、アメリカの株式市場とは別の値動きになると思われます」
「それは分かりしたが、私が持っている1億円の投資信託は上がるんですか、下がるんですか、それとも横ばい状態になるんでしょうか?」
 井上はいらいらしながら、佐竹に尋ねた。
「はい。今ほど申し上げたとおり、運用者であるファンドマネージャーやアナリストの調査・分析結果に依るので、現状では何とも申し上げられません」
「それじゃ、答えになっていないじゃないですか!もう、いいですよ!」
 井上はうんざりした顔つきで言った。
「申し訳ございません。市長さまからご購入いただいたファンドにつきましては、随時、ご報告申し上げます」
 佐竹は、テーブルに広げた資料を素早く鞄に仕舞い込んで、さっさと市長室を後にした。
(作:橘 左京)

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