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小説「強欲な町」(第5回)

2018年3月13日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

「失礼します。市長、越中銀行の佐竹支店長さんがいらっしゃいました」
 市長室に入った日下部が一礼して言った。越中銀行田沼支店長の佐竹康夫は市長室に入るや否や、
「市長さまからは、日頃から当行をご利用いただき有難うございます。本日は公務ご多用のところ、お時間を頂いただきありがとうございます」と、店一番の上得意の井上に最敬礼の挨拶をした。
 井上は、「さお、どうぞ」と言って、佐竹に着座を促した。井上は肘掛椅子に座り、佐竹は井上の左側のソファーに座った。
 佐竹は、「市長さんからご購入いただいた投資信託『アメリカンキャピタル・アクティブ・ファンド』について、ご説明申し上げたく参りました」と言って、黒い営業鞄から資料を取り出して、テーブルに広げた。
 井上は市長に就任した翌年の平成21年に越中銀行から「アメリカンキャピタル・アクティブ・ファンド」を1億円で購入した。
「市長さまからご購入いただいた『アメリカンキャピタル・アクティブ・ファンド』の運用実績についてご説明申し上げます。このファンドの運用を担当しているのはグローバル・アドバンス・マネージメント株式会社です。グローバル・アドバンス・マネージメント社は1987年に日本に進出して以来、個人投資家や富裕層、機関投資家向けに投資信託や年金運用等の投資サービスを提供しております。ファンダメンタルズ情報と最新の運用テクノロジーを結合させることにより、一貫した投資哲学に基づく株式のアクティブ運用を行うとともに、債券、オルタナティヴ投資商品といった、幅広い投資家のニーズに応える高品質・高収益な運用商品を提供しております…」
「佐竹さん、前置きはそれくらいにして、私が買った投資信託は、リーマン・ショック後にどのような値動きをするのか教えてもらいたいんだが…」
「はい。市長さまからご購入いただいたファンドは、ほとんどはアメリカの株式を組み入れたものです。アメリカの株式市場の代表的な指数であるS&P500はリーマン・ショック後、下落すると思われます」
「S&P500?」
「ああ、失礼しました。S&P500は、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが算出・公表している株価指数のことで、アメリカ合衆国の証券取引所に上場された代表的な500銘柄で構成されています。日本の株式市場でいえば日経平均株価やTOPIXのような株価指標です」
「ということは、私の投資信託は今後、下がるということ?」
「S&P500などのインデックス(指数)の動きと連動した投資収益の達成を目指すパッシブ運用のファンドであれば、今後、下落するものと思われますが、市長さまからご購入いただいたファンドはアクティブ運用ですから…」
「『パッシブ運用』とか『アクティブ運用』とか難しい専門用語が出ましたが、何のことやらさっぱり分かりませんが…」
「失礼しました。『パッシブ運用』とは、株価指数などのインデックスに追随しながら、市場平均と同程度の運用成績を目標とした運用スタイルのことをいいます。一方、個別証券などの割高や割安等を運用者が判断して売買を行うアクティブ運用は、ベンチマークや市場平均を上回る運用成績(リターン)を上げることを目標とした運用スタイルのことをいいます。このアクティブ運用は更に2つに分けられます。1つは「トップダウンアプローチ」といって、経済や市場動向などマクロ的な投資環境の予測から始まり、資産配分や業種別配分を決めて…」
「佐竹さん、さっきも言ったように、私が持っている1億円の投資信託は今後、どういった値動きをするんですか?」
「元々過熱気味だったアメリカの株式市場は、リーマン・ショックを受けて、下落基調に転じるものと思われます。しかし、市長さまからご購入いただいたファンドは、アメリカの株式市場とは別の値動きになると思われます」
「それは分かりしたが、私が持っている1億円の投資信託は上がるんですか、下がるんですか、それとも横ばい状態になるんでしょうか?」
 井上はいらいらしながら、佐竹に尋ねた。
「はい。今ほど申し上げたとおり、運用者であるファンドマネージャーやアナリストの調査・分析結果に依るので、現状では何とも申し上げられません」
「それじゃ、答えになっていないじゃないですか!もう、いいですよ!」
 井上はうんざりした顔つきで言った。
「申し訳ございません。市長さまからご購入いただいたファンドにつきましては、随時、ご報告申し上げます」
 佐竹は、テーブルに広げた資料を素早く鞄に仕舞い込んで、さっさと市長室を後にした。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者