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小説「強欲な町」(第6回)

2018年3月15日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

「甘木さん、先般は、ウチの工場で起きた労働災害について、休業補償給付の申請手続きを代行していただき有難うございました。おかげで、給付金の支給を受けられるようになりました」
 田沼市内で金属加工所「石渡鉄工所」を営む社長の石渡文雄が、甘木事務所を訪ねてきた。
「それは良かったですね。被災された方が早く、職場に復帰できるといいですね」
 甘木雄一は社会保険労務士の資格を持っている。社会保険労務士は、企業経営上の4大要素「人・物・お金・情報」の中で一番重要な「人」に関する専門家だ。社会保険労務士の仕事は書類作成業務、提出手続代行業務、そしてコンサルティング業務の3つに分けることができるが、業務の多くは書類作成業務と提出手続代行業務だ。
 甘木は、石渡が経営する鉄工所で起きた労働災害について、休業補償の申請手続きを代行した。被災した従業員はアルバイトのプレス工。被災者はその日の作業状況に応じて、プレス機械を使って作業を行っていた。災害が起きたのは、プレス機械による自動車部品の加工作業中に、曲げ加工を行った製品を左手で取りコンベヤーに載せる際に、製品を床に落としたため、それを取ろうとして右手をプレス機械の金型内に入れた状態でしゃがんだところ、プレス機械が起動して挟まれた。甘木は会社や被災者から聞き取り調査を行い、調査結果を基に休業補償給付金の申請書類を作成し、所轄の労働基準監督署に申請書類を提出した。
「実は、今日、こちらにお伺いしたのは、甘木所長さんから勧められて入った変額保険について、お尋ねしたく伺いました」
 甘木の事務所は、社会保険労務士業務のほか、外資系生保「ワイド生命」の代理店業務も行っている。
「石渡社長さんからご契約いただいた『グローバル・アドバンス』のことでしょうか?」
「はい、それです。一昨日の富山毎日新聞で『リーマン・ブラザースの経営破綻』のニュースが出ていましたが、甘木所長さんはご覧になりましたか?」
「はい、第一面のトップを飾っていましたね」
「地方紙のトップに載るなんて珍しいことだと思うんですが…。私が契約した『グローバル・アドバンス』の満期保険金が、『リーマン・ブラザースの経営破綻』によって、今後、どうなるのか心配になって、本日、伺いました」
「石渡社長さんからご契約いただいた『グローバル・アドバンス』は、基本保険金額が3千万円だったと思いますが…」
「はい、そのとおりです。私は今年で60歳になりますが、75歳になったら社長職を息子に譲りたいと考えています。私が生きていれば満期保険金は退職金として受け取りたいと思いますが、在職中に私の身に万が一のことがあれば、連帯保証人として私が背負っている会社の借金を返済したいと考えてします。後継者の息子に借金を背負わせるわけにはいきませんからね」
「ご心配なく。社長さんが万が一の時に支払われる死亡保険金の最低保証額は3千万円です。一方、満期になったら受け取る満期保険金については、運用が良ければ、3千万円を上回る保険金を受け取ることができますが、逆に、運用が悪いと、3千万円を下回ることもあります。社長さん、申し訳ありませんが、私はこれから労働基準監督署に書類を提出するため出掛けるので、私に代わって担当の佐久間から説明させていただきます」
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者