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小説「廃屋の町」(第109回)

2017年11月29日ニュース

 杉田が市長室に入ると中山邦夫総務部長が、
「杉田課長、懲戒審査委員会では、坂井さんが起こした交通違反事件に対して、管理監督者の立場にある貴方に対しても、懲戒処分が相当として市長に報告がありました。これから井上市長から懲戒処分をお伝えします。市長、よろしくお願いします」と言って、井上に目配せした。
「えーそれでは、懲戒処分通知書を読み上げます。懲戒処分通知 杉田昇、
市職員分限懲戒審査委員会での審議の結果、地方公務員法第第29条の定めに従い、貴殿に以下の処分を課すことが決定したので通知します。減給10分の1、2か月。本件の直接的責任は坂井盛男の交通法規違反にあることは明らかですが、貴殿の指導監督も未熟で不十分な点が認められます。貴殿の監督次第では未然に防止できた不祥事であり、深い反省を要します。今後はこうした不祥事を起こさぬよう一層職務に専心されることを切望します。以上。なお、この処分に不服のある場合は、行政不服審査法に基づき、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に公平委員会に対して不利益処分に関する不服申立てを行うことができます。平成28年2月13日、田沼市長井上将司」
 坂井盛男が逮捕されて10日後、田沼市は無免許運転の現行犯で逮捕された財政課係長の坂井盛男を懲戒免職にしたことをマスコミに発表した。翌朝の長野日刊新聞の社会面に、「無免許運転の田沼市職員 懲戒免職」という見出しで、次の記事が掲載された。
「田沼市は、無免許運転の疑いで逮捕された田沼市財政課係長の坂井盛男(42歳)を懲戒免職処分にしたことを発表した。坂井元係長は、2月二日、市役所前の国道を無免許で自家用車を運転しているところを田沼署の署員によって逮捕されていた。また、上司の財政課長は監督責任を問われ減給10分の1、2か月の懲戒処分となった」
 坂井盛男の無免許運転による懲戒免職処分が新聞に掲載されたことで、市役所の職員は震え上がった。井上市長が市職員の交通違反歴を調べ上げ、井上市政に批判的な職員に対する粛清が行われたのではないかという噂が広まった。
 坂井盛男と採用同期の建設課道路維持係長の横田紀夫は、坂井が市役所から排除されたのは、3年前に行われた市立病院建設工事の官製談合をリークしたからでは思った。横田は坂井が入札課の主任だった頃、同期の飲み会で、坂井から「市立病院の工事入札で不正行為が行われた」という話を聞いたことを思い出した。市道の維持補修の発注業務を担当している横田は、上司で建設課長の佐々木健一から時々、奇妙な用事を頼まれることがあった。その用事とは、糊付けされた茶封筒を田沼市建設業協会の栗山守男事務局長に届けるというものだった。栗山守男は佐々木課長の前任者だ。田沼市建設業協会の事務局長のポストは、代々、建設課長の天下り先のポストになっている。今年の3月末で退職する佐々木が栗山の後任として建設業協会事務局長に天下ることになっていることを横田は知っていた。佐々木課長から渡されたあの茶封筒にはどんな内容の文書が入っていたのだろうか。もしかして、予定価格などの入札情報だろうか?
「くわばら、くわばら」横田は自分の身に危害が及ばないよう念じた。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第108回)

2017年11月27日ニュース

 2日後、長野日刊新聞の社会面に、「田沼市職員 無免許運転で現行犯逮捕」という見出しで、次の記事が掲載された。
「田沼署は、2日午後6時頃、田沼市内の国道で自家用車を運転していた田沼市職員坂井盛男財政課係長(42歳)を無免許運転の疑いで逮捕した。坂井係長は一昨年8月に県外で酒気帯び運転をして免許取消2年の行政処分を受けていたが、免許取消中にもかかわらず自家用車や市役所の公用車を運転していた。上司の話によれば、坂井係長が無免許運転をしていたことに全く気付いていなかったという。井上将司市長は、『全体の奉仕者として市民の模範となるべき市職員がこのような不祥事を起こしたことは、誠に遺憾の極みであり、市政を預かる者として市民の皆様に対し、深くお詫びを申し上げる次第です。直ちに市職員分限懲戒審査委員会を開催しその報告を待って不祥事を起こした職員はもとより関係職員に対する厳正な処分と対応をしてまいりたいと考えております』と回答した」
「中山君、ちょっと市長室に来てもらえないか」
 井上市長は中山総務部長を市長室に呼んだ。
「中山君、よくやったね。君も今朝の新聞を見ていると思うけど、こんなに大きな活字になって載っているよ」
 井上は満足そうな顔で、坂井盛男が無免許運転で逮捕された長野日刊新聞の記事を中山に示しながら言った。
「はい、同じ無免許運転でも、公務員がやると活字が一回り大きくなりますね。早速、職員に対して市長名の綱紀粛正の通知を配布したいと考えています。通知には新聞記事の写しも添付したいと考えています」
「中山君、気が利いているね。君を総務部長にした甲斐があったよ。坂井盛男は当然、首だろう?」
「懲戒審査委員会の審議結果は間もなく出ると思われますが、坂井は十中八九、懲戒免職ですね。それに上司の杉田課長の方も監督責任を問われ懲戒処分となると思います」
「杉田は甘木の中学時代の同級生だろう?市立病院の官製談合の件が杉田の口から甘木陣営に漏れていることも十分考えられる。彼に対しても灸を据えないとね」
 田沼市の市職員分限懲戒審査委員会は、坂井盛男に対して懲戒免職、坂井の上司である財政課長の杉田昇に対しては減給10分の1、2か月が相当として、井上市長に報告した。
「杉田課長、市長がお呼びです。市長室にお越しください」
 杉田は秘書の日下部からの内線電話を受け取った。
「今度は俺の番か。ちょっと市長室に行ってくる」
 杉田は課長補佐の佐野に離席を告げて市長室に向かった。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第107回)

2017年11月25日ニュース

「え、え!免職ですか?職務上の秘密を洩らしただけでは免職にはできません。漏らしたことにより公務の運営に重大な支障を生じさせないと免職や停職にできないことになっています」
「酒気帯びと無免許運転ならどういう処分になるんだね?」
「酒気帯びは減給ですし、無免許運転の場合は停職ですから、合わせれば免職でしょうか?」
「そういうことになるね。君の場合は、富山県内で30キロオーバーのスピード違反を2回やっているようだが、どうなるのかね?一番重い処分が停職だったはずだが……」
「すみません。妻の実家が富山県内なものですから、県外ということもあって、ついついやってしまいました。でも市長はどうして、私がスピード違反をやったことをご存知なんですか?」
「職員の交通違反歴は全て調べてある」
「え、え、そんな!」
「君のスピード違反は不問に付すよ。その代わり、私の指示に従って動いてもらうけれど、いいね?」
「は、は、はい。承知しました。ところで坂井は無免許運転では捕まっておりませんが」
「これから捕まるんだ」
「え、え、これから捕まるって!どういうことでしょうか?」
「坂井は車を運転して市役所に通勤しているんだろう?」
「はい、そのとおりです」
「免許取消中の坂井が車を運転すれば無免許運転だよ」
「そうですね」
「そこで、君に頼みたいことがあるんだよ」
「はい、なんなりとおっしゃってください」
「坂井が市役所から帰宅する時に、彼の車が公道に出たところを取り押さえられるよう、田沼署の交通課に連絡して、手筈を整えておきたまえ!」
「は、は、はい。承知しました。すぐに取り掛かります」
 中山は慌てて市長室を出て行った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第106回)

2017年11月23日ニュース

「市長、いいことを思いついたよ。『田沼市職員 現行犯逮捕 免許取消期間中に無免許運転』という見出しで、新聞沙汰になるというシナリオはどうかね?」
「そんなことができるんですか?」
「坂井はいまでも車を運転しているんだろう?」
「ええ、調べればすぐに分かりますが、坂井は車で通勤していると思います。また公用車を運転することだってあるでしょう」
「公用車じゃまずいから、坂井盛男が自分の車を無免許運転しているところを、警察に逮捕させるんだ。公務員の坂井盛男の名前は一回り大きな活字になって新聞に載るだろう。坂井の無免許運転が新聞に載ったら、今度は坂井に対する懲戒処分をマスコミに発表するんだ。そうすれば、坂井盛男の名前はもう一度新聞に掲載されるだろう。トップに楯突くとどういう仕打ちを受けることになるのか、職員に知らしめるにはいい機会だと思うよ。坂井が無免許運転をしていることを所轄署に連絡しておく必要があるが、それは市長の方でやってもらいたい」
「分かりました。ところで、中山邦夫のところに速度超過、点数12点、取消1年とありますが……」
「ああ、それかね。中山部長は30キロオーバーのスピード違反を2回やったようだ。2回とも富山県内だそうだ。その結果、免許取消1年の行政処分になった。市長、中山部長も懲戒処分の対象になるんじゃないのかね?」
「ええ、重い方から停職、減給、戒告の順になりますが、彼には、まだやってもらうことがありますから、処分保留ってところですか」
「中山部長の件は市長に任せるよ。いずれにせよ、私も市長も、選挙を目前に控えた大事な時期だ。選挙に影響するような不祥事が外部に漏れないように情報管理はしっかりやってもらいたいよ」
「分かりました」
 山田が帰った後、井上市長は中山部長を呼んだ。
「失礼します」
「まあ、掛けたまえ」
「はい」
「君が入札課長の時、入札係の主任をしていた坂井盛男って職員、今は財政課の予算係長をしているそうだが……。彼ね、一年半前、新潟県内で酒気帯び運転をして警察に捕まっているそうだよ」
「え、え、本当ですか?確か奥さんの実家が新潟県内だって、彼から聞いたことがありましたが……。酒気帯び運転をした場合は減給処分になりますが、どうしますか?」
「坂井が犯した大罪は職務上知り得た入札業務に関する秘密を漏えいした守秘義務違反だぞ。減給で済む問題ではないだろう!」
「では、どのようにすればよろしいでしょうか?」
「免職だ!」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第105回)

2017年11月21日ニュース

 それから3日後、山田県議が市役所に井上市長を訪ねた。
「この前、市長から渡された職員の免許証のコピーを使って、入札課職員15人の交通違反歴を調べたら、幾つか出て来たよ。これがその一覧表だ」山田が井上に紙を渡した。
「違反者が7人もいたんですね。この数字は何ですか?2とか3とか6とか書いてありますが……」
「交通違反の点数だよ。点数に応じて免許停止とか免許取消とかの行政処分が下される」
「坂井盛男のところを見ると25点とあって括弧書きで『酒気帯び』とありますが……」
「坂井盛男ねえ。彼は新潟県内で酒気帯び運転をして捕まったらしいよ」
「新潟県内?」
「何でも奥さんの実家が新潟にあって、その実家に帰省中に酒気帯びで捕まったらしいよ。酒気帯びなら、重い処分が下されるんじゃないのかね?」
「減給ですね」
「懲戒処分を行った場合、マスコミに発表するんだろう?」
「はい、処分を受けた職員の年齢、性別、職名、処分事由が発表されますけど……」
「名前は発表されないの?」
「免職以外は職員の名前は伏せて発表します。それに、一年半前に県外で起こした交通違反ですから、マスコミ発表しても、果たして新聞に載るかどうかは分かりません」
「坂井盛男って職員は、市長や私の政治生命にかかわる情報をマスコミにリークした人物だ。トップの怒りを買ったらどうなるのか、職員に知らしめるためにも、坂井盛男の名前が新聞に載るようにしないと見せしめにならないよ」
「坂井盛男の行政処分が取消2年とありますが、処分を受けたのが一昨年の九月ですから、まだ免許取消期間中ということですね。ということは、坂井は車の運転はできないってことですか?」
「そういうことになるね」
「運転免許の取消期間中に車を運転すれば無免許運転になりますよね?」
「そういうことになるね。酒気帯びで取消2年。取消期間中に無免許運転となれば、行政処分は加重され取消4年になるよ」
「無免許運転で捕まっても懲戒処分は停職だから、マスコミに発表する時には氏名は除かれます」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第104回)

2017年11月19日ニュース

「いやー、あの時は、県議さんには大変お世話になりました。金で解決できましたからね。本当に感謝しています」
「『政財界信州』のスクープ記事は金を払えばボツにできるが、日刊紙の長野日刊新聞は、金を使ってもボツにするのは難しいね。うちの県連にマスコミ対策の専門家がいるから、それとなく、長野日刊新聞に探りを入れてみるよ」
「よろしくお願いします。今回も手数料は掛かるんでしょうか?」
「要らないよ。昼間の逢瀬は市長の不用心が招いた市長自身の不祥事だが、市立病院の建設工事の入札は私も関わっていたこともあり、官製談合が行われていたなんて話が選挙前に公になれば、私の政治生命も終わりになるよ」
「当時は、資材単価や労務単価が急騰したことから、入札参加業者がなくて、不調に終わった公共工事が多かったんですが、市立病院の建設工事の方は、県議さんからお骨折りをいただき、JV一者の参加でしたが入札を執行できました。いやー、本当にありがとうございました」
「そんなこといいけど、長野日刊新聞社にリークしたのは職員かね?」
「多分そうだと思います。中山部長が入札課長だった頃に入札係の主任をしていた坂井盛男って職員がリークしたんじゃないかって、中山部長が言っていました。今は財政課の予算係長をしています。県議はご存知ないかもしれませんが、坂井の上司にあたる財政課長の杉本昇は甘木雄一の中学時代の同級生です」
「そうすると、市立病院の官製談合の件は甘木陣営に漏れている可能性もあるね」
「そうは思いたくはありませんが……」
「とにかく、早く手を打たないと、取り返しのつかないことになる。坂井盛男って職員の免許証のコピーを至急、用意してもらえないか?」
「はい、分かりました」井上は携帯電話を切った。
「日下部さん、立川総務課長を呼んでもらいたい」
「はい、承知しました」
「失礼します」総務課長の立川智が市長室に入った。
「ちょっと、お願いしたいことがあるんだが……」
「また免許証のコピーでしょうか?」
「そうだよ。今度は入札課職員全員の運転免許証だよ。今の職員と3年前に入札課に在籍していた職員の免許証のコピーだよ。だぶりは除いてね」
「入札課長の免許証のコピーも必要でしょうか?」
「もちろんだよ」
「3年前の入札課長って中山部長ですが?中山部長の分も要りますか?」
「もちろんだよ」
「あのー、どのような用向きで入札課職員の免許証のコピーが必要なんでしょうか?免許証は職員の個人情報にあたりますから、慎重に扱わないと……」
「つべこべ言わずに、持って来なさい!」
「は、は、はい、今すぐにお持ちします」立川は慌てて市長室を出た。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第103回)

2017年11月17日ニュース

「おそらく、当時、入札係の主任をしていた坂井盛男だと思います」
「坂井って職員は、今どこの部署にいるんだ?」
「財政課の予算係長をしています」
「財政課?財政課長の杉本のところかね?杉本は市長選に出る甘木の中学時代の同級生だそうだね?」
「はい、そうです。観光振興課長の木下信行も甘木の同級生です」
「大事なこの時期に、3年前の市立病院の建設工事の入札で官製談合が行われたなんて、世間に知られたらどうなるか、君、分かっているだろうね?」
「は、は、はい、分かっています。それで私はどうすればいいんでしょうか?」
「忖度してくれたまえ?」
「ええ、忖度?」
「私の胸中を推し量れば、今、君のやるべきことは分かるだろう?」
「は、は、はい、充分に分かっております。それではこれで失礼します!」
 中山は足早に市長室を出て行った。
 井上市長は山田県議の携帯に電話をかけた。
「市長の井上です。建設業協会の賀詞交換会ではお世話になりました。実は大変な事が起きまして、それで県議さんに電話をしましたが、今、よろしいですか?」
「ああ、大丈夫だよ。市長、大変なことって、一体何だね?」
「昨日、長野日刊新聞社に市立病院の移転新築工事の入札で官製談合が行われたという情報提供があったらしくて、さっき新聞社の田辺って女性記者が中山総務部長のところに、取材に来ました。中山部長は、入札は法令や規則に従って適正に行われたと記者に話したそうですが……。新聞に載ったりしますかね?」
「市長、大丈夫だよ。新聞には載らないと思うよ。談合情報が入札前にマスコミに伝われば、新聞に載るだろうけど、終わった後のしかも3年前の入札だろう。恐らく電話による匿名の情報提供だったんだろうね。田辺って記者は、寄せられた匿名情報の裏付け取材に中山部長のところに行ったんだと思うよ。ところが中山部長の話からは裏が取れなかったので、諦めて帰ったというわけだよ。でもその記者が物証を掴んでいれば話は別だ」
「物証?」
「例えば、官製談合が行われたことが分かるような、関係者のやり取りを記録したメモとかが新聞社に渡っていれば、まずいことになるがね……」
「メモはないと思います。記者は中山部長の話を渋顔で聞き終えた後、そのまま帰りましたから、メモとかの物証は持っていないと思いますよ」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第102回)

2017年11月15日ニュース

「市長は今、部屋にいる?ちょっと話したいことがあるんだけど……」
 慌てた様子で中山は秘書係長の日下部に尋ねた。
「大丈夫ですよ。市長は在室しています。部長、どうかされたんですか?顔色が良くないですが?」
 日下部が言った。
「いや、何でもないよ。この後は、市長の公務予定は入っているの?」中山が尋ねた。
 日下部は日程表を開いて、
「いえ、この後、午前中は何も入っていませんが……」と答えた。
「分かった。ありがとう」
「中山です。失礼します」中山が市長室に入った。
「どうしたね?中山君、顔色が良くないね。体調でも崩したかね?総務部も新年度予算編成で大忙しだろうね。インフルエンザが流行っているそうじゃないか。体調管理には気を付けた方がいいよ」
 井上が言った。
「実は、先ほど長野日刊新聞の田辺結花という記者が、3年前に行われた市立病院の移転新築工事の入札について話を聞かせてもらいたいと言って、私のところに取材に来ました。田辺記者が言うには、その時に行われた入札が官製談合だったという情報が長野日刊新聞社に寄せられたということですが……」
「官製談合だって!新聞社にリークしたのは誰だ?3年も前に行われた入札の話が、どうして、今になって出てくるんだ。で、君は記者にどう答えたんだね?」
「法令や財務規則、入札要綱に基づき適正に行われた入札だと、議会の議事録を見れば分かるって答えました」
「確か、改進党の明間議員が、市議会で市立病院の入札執行について質問していたね。思い出したよ。最初に私が答弁して、再質問で入札課長だった君が答弁してたね?」
「はい、そうです。議会で答弁したとおりに記者に答えました。記者は納得しかねるような顔つきをしていましたが、それ以上の追及はありませんでした」
「それでいいんだよ。しかし、どうして今になって、3年前の入札の話が突然、出て来るんだろうか?3か月後に市長選挙が行われるこの時期に、こんな話が出てくるなんて、誰かが謀略をめぐらしたんじゃないか?」
「リークした人物を尋ねましたが、記者は教えてくれませんでした」
「そりゃ当然だよ。記者に聞いても情報源は絶対に明かさないよ」
「多分、新聞社に情報提供した人物は職員だと思うんですが……」
「多分じゃない!間違いなく市役所内から情報が漏れたんだよ。君を入札課長から総務部長に抜擢した私の気持は分かっているだろう?」
「はい、一足飛びで総務部長にさせていただいた市長のお気持ちは充分に分かっています」
「市立病院の入札情報が建設業協会に漏れていたという事実は極秘情報だったはずだ。君は入札課長として、その極秘情報を管理する立場にあったんじゃないか?」
「はい、そのとおりです」
「誰だね?情報を漏らした職員は。君なら検討がつくだろう?」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第101回)

2017年11月13日ニュース

 1月中旬、田沼市役所に入った長野日刊新聞記者の田辺結花は2階フロアーに向かった。
「すみません、長野日刊新聞の田辺結花と申しますが、取材に伺ったんですが……。中山部長さんはいらっしゃいますか?」田辺が窓口にいる職員に名刺を渡して言った。
「少々、お待ちください」
「部長、長野日刊新聞の田辺さんという方が取材に来ましたが……」
 窓口職員が田辺記者の名刺を中山に渡して言った。
「何の取材だろう?いいよ。部長室に通してくれないか」
「はい、分かりました」窓口職員は田辺記者を部長室に案内した。
「総務部長の中山ですが、どういった件での取材でしょうか?」
「官製談合の件でお聞きしたいことがありまして、伺いました」
「ええ、官製談合だって!それって、入札情報が発注者側の市役所から業者側に漏れているっていうことですか?そして入札情報の漏洩にうちの職員が関与しているってことですか?」
 中山は動揺した様子で言った。
「官製談合が行われたのは、3年前に行われた公共工事の入札ですが、田沼市が発注した市立病院の移転新築工事の入札情報が市役所から業者側、正確に申し上げますと建設業協会に漏れていたという通報が、昨日、ウチの新聞社に寄せられました」
「ええ!市立病院の移転新築工事だって!」
 当時、入札課長だった中山は顔面蒼白になった。田沼市は3年前に老朽化した市立病院の移転新築工事を発注した。国道バイパス沿いの農地を病院用地として買収し病院を新築した。井上将司市長は市立病院の移転新築を三期目の市長選の公約に挙げていた。総事業費は土地の取得費や造成費を含めて約130億円に上った。新病院の建設工事の入札は共同企業体(JV)方式で行われ、全国ゼネコン、県内ゼネコン、田沼市に本社のある地元建設会社の3社でJVを組織して入札に参加することになっていたが、実際に入札に参加したのは、県内ゼネコンの信州建設と森山組、それと地元建設業者の山田組の3社で構成するJV一者しかなかった。1回目の入札は応札額が予定価格を上回ったことから不落になった。10分後に2回目の入札が行われた。入札に一者しか参加しなかったことや、1回目の応札額に本来であれば控除されるべき消費税分が入っていたこと、落札額が予定価格に近い99.9%だったことなど、入札執行に不自然な点が多いと、改進党系の議員から指摘され、当時の市議会で議論になったが、未だ真相は闇の中だ。
「オタクに官製談合をリークしたのは誰ですか?うちの職員ですか?」
「情報源は申し上げられません。中山部長は、市立病院の建設工事の入札が行われた当時の入札課長でしたよね。この入札執行については覚えていらいしゃいますよね?JV一者による入札参加、1回目の応札額に本来は含めない消費税分が入っていたこと、間を置かずに2回目の入札が行われたこと、予定価格に極めて近い落札額だったこと、など不自然な点がたくさんあったじゃないですか!」
「その件については、当時の市議会の一般質問にも出されましたが、法令や財務規則、入札要綱に基づき適正に行われた入札だと、私は答弁しています。何なら議事録を見て確認してくださいよ。たまたまそうなっただけで、不正な事は一切行われていませんよ!不愉快だ。帰って下さいよ!」
「そうですか。ご協力ありがとうございました」
 中山は2階の窓から、長野日刊新聞の田辺記者が市役所庁舎を出たことを確認して、急いで市長室に向かった。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第100回)

2017年11月11日ニュース

「協会の年会費徴収、個人献金や入札協力金の振り込み、その他にもTK口座の用途があるってことですか?」甘木が尋ねた。
「はい、選挙になると票の取りまとめのための資金がTK口座に振り込まれます」青木が言った。
「その資金は誰から振り込まれるんですか」風間が尋ねた。
「県議選は山田県議の陣営から、市長選は井上市長の陣営から、票の取りまとめに必要な資金が振り込まれます」青木が答えた。
「それって、公職選挙法でいう買収じゃないですか?」久保田が言った。
「買収になるかどうかは分かりませんが、私の場合は、会社の親睦会経費に充てていました。私は親睦会の挨拶で、県議選は山田良治さんに頼むとか、市長選は井上将司さんに頼むとかは言いましたが、従業員に現金を配ることはしませんでした」青木が言った。
「青木さん、建設業協会の管理下に置かれたTK口座を経由した政治資金と選挙資金の流れ、入札談合や官製談合の実態などを話してもらいましたが、この他に話したいことがありますか?」
 加藤が尋ねた。
「いいえ、これで全部です」青木が言った。
「青木さんのお話を聞いて、建設業界の裏事情がよく分かりました。内部にいる者でしか知り得ないことを私たちに話してくれた青木さんの勇気に感謝します。ありがとうございました。しかし建設業界は言わば『ムラ社会』です。ムラ社会の掟を破った青木さんに対して、この先、協会からいろいろな形で、制裁を受けると思いますが、大丈夫ですか?」甘木が心配そうな顔付きで言った。
「入札からの締め出しや元請けからの不当な値引きなどが考えられますが、覚悟はできています。最初に言ったように、市が入札に出す工事はA、Bランクの大きな建設会社しか受注できないものが多いので、事実上、私らC、Dランクの中小の建設会社は入札から締め出されています。そのため、我々は、A、Bランクの業者が元請けで受注した工事を下請けや孫請けでもらって生きています。しかも不当に値引きされた請負額です。これは誰が考えてもおかしい仕組みだと思います。甘木さんから市長になってもらって、この不条理な悪しき業界慣行をやめさせ、公平な入札が行われるようにしてもらいたいんです!」青木は甘木に真剣な眼差しを向けて言った。
「分かりました。市長に当選したら入札改革を最優先の市政課題として取り組んでいきたいと思います」甘木が言った。
「よろしく、お願いします」青木は目に薄っすらと涙を浮かべて、深々と頭を下げた。
(作:橘 左京)

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