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小説「廃屋の町」(第100回)

2017年11月11日ニュース

「協会の年会費徴収、個人献金や入札協力金の振り込み、その他にもTK口座の用途があるってことですか?」甘木が尋ねた。
「はい、選挙になると票の取りまとめのための資金がTK口座に振り込まれます」青木が言った。
「その資金は誰から振り込まれるんですか」風間が尋ねた。
「県議選は山田県議の陣営から、市長選は井上市長の陣営から、票の取りまとめに必要な資金が振り込まれます」青木が答えた。
「それって、公職選挙法でいう買収じゃないですか?」久保田が言った。
「買収になるかどうかは分かりませんが、私の場合は、会社の親睦会経費に充てていました。私は親睦会の挨拶で、県議選は山田良治さんに頼むとか、市長選は井上将司さんに頼むとかは言いましたが、従業員に現金を配ることはしませんでした」青木が言った。
「青木さん、建設業協会の管理下に置かれたTK口座を経由した政治資金と選挙資金の流れ、入札談合や官製談合の実態などを話してもらいましたが、この他に話したいことがありますか?」
 加藤が尋ねた。
「いいえ、これで全部です」青木が言った。
「青木さんのお話を聞いて、建設業界の裏事情がよく分かりました。内部にいる者でしか知り得ないことを私たちに話してくれた青木さんの勇気に感謝します。ありがとうございました。しかし建設業界は言わば『ムラ社会』です。ムラ社会の掟を破った青木さんに対して、この先、協会からいろいろな形で、制裁を受けると思いますが、大丈夫ですか?」甘木が心配そうな顔付きで言った。
「入札からの締め出しや元請けからの不当な値引きなどが考えられますが、覚悟はできています。最初に言ったように、市が入札に出す工事はA、Bランクの大きな建設会社しか受注できないものが多いので、事実上、私らC、Dランクの中小の建設会社は入札から締め出されています。そのため、我々は、A、Bランクの業者が元請けで受注した工事を下請けや孫請けでもらって生きています。しかも不当に値引きされた請負額です。これは誰が考えてもおかしい仕組みだと思います。甘木さんから市長になってもらって、この不条理な悪しき業界慣行をやめさせ、公平な入札が行われるようにしてもらいたいんです!」青木は甘木に真剣な眼差しを向けて言った。
「分かりました。市長に当選したら入札改革を最優先の市政課題として取り組んでいきたいと思います」甘木が言った。
「よろしく、お願いします」青木は目に薄っすらと涙を浮かべて、深々と頭を下げた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者