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小説「廃屋の町」(第95回)

2017年11月1日ニュース

「井上市長は文化会館と総合体育館の建設を、市長選の目玉になる政策として挙げています。この2つの公共施設は、2年後に迎える合併10周年の記念行事の一環として建設するそうですが、これについて、どのように考えますか?」明間が甘木に尋ねた。
「事務所開きの時に取材に来た長野日刊新聞の記者からも同じような質問を受けましたが、文化会館と総合体育館の建設に反対という立場ではありません。新市にふさわしい新たな公共施設の建設が本当に必要なのか。その必要性について時間を掛けて検討すべきです。検討の結果、新たな施設が必要だということになれば、将来の人口規模に見合った適正な規模にすべきです」甘木が答えた。
「その点は、我々も同じ考えです」明間が言った。甘木は話を続けた。
「昨年10月に策定された『田沼市人口ビジョン』によると、合併当初の11万人余りの人口が8年後の今年には10万2000人ほどに減っています。単純平均すると、1年で千人ずつ人口が減少しています。公共施設の建設資金は借金をして調達しますが、その借金を4、50年かけて返済します。仮に、50年かけて借金を返済すると考えた場合、その間に人口が5万人も減ってしまいます。11万人の人口が50年後に半分くらいになってしまうという人口推計を考慮に入れて、公共施設を新設すべきです」
「甘木さんの『まちづくり八策』に『五十年先を見据えたまちづくりを提案します』とありますが、そういう意味だったんですね」
 明間が言った。
「はい、市街地の住宅街を一軒一軒、挨拶に回った時、このことを強く感じました。住宅が新築された頃は家族5人で暮らしていたけれど、住宅ローンが完済した3、40年後の今は、高齢者だけで暮らしている住宅が意外と多いことが分かりました。まだ使える広い家に高齢者が一人、または二人で暮らしている現実を目のあたりにしました」
「公共施設の場合も利用者が減って同じような状況になるということでしょうか?」明間が言った。
「そうです。それと新たな公共施設の建設について検討する場合、並行して、既存の類似の施設をどうするかも考えるべきです」甘木が言った。
「井上市長は、合併前の4か市町村にあった公民館や体育館は、大規模改修して存続させると言っていますが……」明間が言った。
「人口減少を考慮に入れない過剰な公共投資には反対の立場です。無駄な公共事業の付けを払うのは子供たちです」甘木が言った。
「井上市政が始まって間もなく12年が経ちますが、県の土木部出身の市長だけあって、公共事業偏重の市政運営が続いています。無駄な公共事業を減らして、生活者の暮らし向きが少しでも良くなるような政策に予算を回すべきだと考えているのですが、市長派市議が過半数を占める今の市議会では、我々の少数意見は、市政に届かないのが現状です」明間が言った。
「私も皆さんと同じ考えです。コンクリートに投資しても、経済効果はその時だけで長くは続きません。一方、人に投資すればその効果は計り知れません。例えば、田沼市からノーベル賞の受賞者が出た、なんてことになると、すごいことになると思いますよ」甘木が言った。
「おっしゃるとおり。人口減少が静かに、そして確実に進むなか、コンクリートに投資しても、それは税金の無駄遣いだと、私たちも考えています。市民の利益よりも建設業界の利益を第一に考えている井上市政ですが、市が発注している公共工事で官製談合が行われているという情報が、我々のところに入ってきました」明間が言った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者