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小説「廃屋の町」(第64回)

2017年8月31日ニュース

「いいぞ!選挙がんばれよ!」会場から声援が上がった。
「山田県議さん、ありがとうございました。最後に井上市長さんからご挨拶を頂戴します」
「明けまして、おめでとうございます。今ほどの山田県議さんからの挨拶の中で、私が言おうとしていたことが大部分含まれておりましたので、私の方は手短に終わらせていただきます。新田沼市が誕生して8年が経ちました。この間、市政を担当して分かったことは、いまだに中心部の旧田沼市区域と周辺部の旧3か町村区域とで住民意識のずれが解消されていないということです。周辺部に住む人からは、『合併したけれども、中心部だけが良くなって、周辺部はだんだんと寂れてきた』という声が寄せられていますし、中心部に住む人からは、『合併しなくても、少子高齢化が進む周辺部は自然と寂れてくる』といった意見が寄せられています。このような中心部と周辺部とのわだかまりをなくし、約10万人の田沼市民の心が一つになって、合併して本当に良かったと感じてもらえるような、事業が必要であろうと考えました。いろいろある中で考えたのは、二年後に迎えます合併10周年の記念事業として、文化会館と総合体育館を建設したほうがいいんじゃないかということであります。これらの公共施設は合併特例債を使えば、市の負担は少なくて済みます。今年度の補正予算で調査費を計上し、新年度当初予算には設計業務委託費を計上する予定です。建設工事は今年の暮れ頃に皆さんに発注できるものと考えております。いずれにせよ、春の市長選で当選しなければ、この大事業は日の目を見ないわけでありまして、山田県議さん共々、皆さんからは特段のご支援、ご協力をお願いします」
 パチ、パチ、パチ
「いいぞ!選挙がんばれよ!」会場から声援が上がった。
「井上市長さん、ありがとうございました。それでは、乾杯の発声に移らせていただきます。乾杯のご発声は市議会議長の遠山信一様よりお願いします。皆さん、グラスを持ってご起立願います」
「市議会議長の遠山です。4月の地方統一選挙では山田県議と井上市長が有権者の審判を受けるわけでありますが、10月の市議選では、我々市議が審判を受ける番になります。まずは4月の選挙で両候補を当選させて、田沼市民約十万人の安全・安心な生活基盤と産業基盤を整備するともに、市民の皆さんが合併のメリットを享受できるような地域社会を作っていきましょう。それでは、乾杯!」
乾杯!乾杯!乾杯!
「それでは、お時間の許すまでごゆっくりとご歓談ください」
 開宴を待ちかねた10数名のコンパニオンがテーブル席に向かった。センターテーブルには、建設業協会会長の山田信夫、副会長の岩村健吾、県議会議員の山田良治、市長の井上将司、市議会議長の遠山信一、田沼市土地改良区理事長の松本正蔵が着座している。
「山田県議さん、今回の県議選は選挙になりそうだと、さっき会長が挨拶のなかで言っていましたが、現職の2人の他に誰が出るんですか?」岩村が山田県議に尋ねた。
 県議会議員の田沼市選挙区は定数二人を、民自党の山田良治と改進党の加藤功がそれぞれ議席を分け合っている。前回の県議選では、田沼市選挙区は定数を超える立候補者はなく無投票当選だった。
「手島一郎という人だ。民自党の国会議員だった稲田徳三郎さんの地元秘書をしていた人物だよ。無所属で出るという話だよ」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第63回)

2017年8月29日ニュース

 1月上旬、風間健一が経営する「割烹寿屋」で、田沼市建設業協会の賀詞交換会が開かれた。
「明けまして、おめでとうございます。ただ今から、田沼市建設業協会の賀詞交換会を開催します。本日の司会進行を務めさせていただきます、私、事務局長の栗山守男でございます。よろしくお願いします。最初に主催者を代表して、山田会長からご挨拶を申し上げます。会長よろしくお願いします」
「明けまして、おめでとうございます。会長の山田信夫でございます。今年の冬は例年なく大雪になっております。特に年末年始はドカ雪となって、会員の皆さんからは、正月休みも返上して、道路の通行確保にお難儀いただき感謝を申し上げます。さて、既に皆さんもご存知のとおり、4月には統一地方選挙が行われます。前半は県議会議員選挙が、後半は市長選挙が行われます。前回、無投票だった県議選は、今回は選挙になりそうだという情報が入っております。また市長選挙の方は、今のところ現職と新人の一騎打ちという形になっていますが、もう一人出て三つ巴になるという話も出ています。いずれにせよ、私ども、建設業協会は、県議選においては山田県議を、市長選では井上市長を推薦することで、昨年暮れの役員会で確認したところであります。選挙まであと3か月となりましたが、これから選挙準備が本格化するなかで、会員の皆さまにはお難儀をお掛けしますが、よろしくお願いします」
 パチ、パチ、パチ。
「続きまして、県議会議員の山田良治先生からご挨拶を頂戴します」
「明けまして、おめでとうございます。県議の山田でございます。今ほど、会長から、年末年始のドカ雪の話が出てきましたが、今年みたいに大雪の年は、これから春先にかけて雪崩も多くなります。山間部に通じている道路が雪崩で埋まってしまうと、その先にある集落は孤立してしまいます。こういった災害が発生した時に頼りになるのが、建設産業に携わっている皆さんです。自然災害には、地震や雪崩のように、いつ、どこで起きるか予測できないものもありますが、風水害のようにある程度予測できるものもあります。予測される自然災害に対しては、日頃の備えが大事なわけです。私のライフワークにしている県事業の田沼川の河川改修事業も工事が始まって15年が経過しましたが、皆さんのおかげで工事は順調に進んでいます。この田沼川の改修工事は、総事業費が約400億円、改修区間が約20キロの大事業であります。現在の川幅を3倍に広げることで、百年に一度の大水害にも耐えられる堤防を備えた河川に生まれ変わるわけであります。あと5年で残りの5キロ区間が完了となります。引き続き、皆さんのご協力をよろしくお願いします。なお左岸側に広がる農地を河川用地として提供いただいたわけですが、田沼市土地改良区の松本理事長さんには、用地買収の件で大変お難儀をお掛けしたことを、この場を借りてお礼申し上げます。もう一つ、私のライフワークにしている県事業があります。田んぼの区画を広げて、意欲のある担い手農家に田んぼを集約する圃場整備事業です。この事業は2反歩(20アール)区画の小区画の田んぼを4反歩(40アール)区画に広げようというものです。県事業の採択申請には関係する農家全員の同意が必要ですが、その全員の同意が得られず困っていました。そこで松本理事長と一緒になって、農家負担軽減のために、市から財政支援をしていただけないかと、井上市長にお願いしたところ、二つ返事で農家負担を軽減するための財政支援をいただくことになりました。おかげで、年末ぎりぎりで県事業の採択申請書を提出することができました。この事業の調査費が県の新年度予算に計上される予定であります。工事の着工は来年ごろからになりますが、皆さんからお願いしたいと思います。さて、春に行われる統一地方選挙ですが、私は民自党公認候補として、井上市長は民自党の推薦候補として、それぞれ立候補することになりますが、お互いに選挙に勝って、田沼市の安全・安心なインフラ整備を担う皆さまが元気になってもらえるよう、公共事業予算の確保に頑張ってまいりたいと考えております」
 パチ、パチ、パチ
(作:橘 左京) 

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小説「廃屋の町」(第62回)

2017年8月27日ニュース

「野上さんに現金を渡した須藤紀夫は逮捕されなかったんですか?」風間が尋ねた。
「時効の壁だね。収賄の時効は5年だが、贈賄は3年で時効が成立する」野上が答えた。
「野上さんの上司は事件に関わっていなかったんですか?」甘木が尋ねた。
「私を利用して悪事を働いた上層部の連中はおとがめなしだ。結局、私は『トカゲのしっぽ切り』にされたんだよ」
「上層部の連中とは?」甘木が尋ねた。
「私が認識しているのは、直属の上司であった内藤隆志建設課長だが、その上の上層部だって入札情報の漏洩には関わっていたと思っている」
「野上さんは入札情報の漏洩に市長や市議会議員も関わっていたと思いますか?」甘木が尋ねた。
「市長は関わってはいなかったと思うよ。入札情報の漏洩に関与していたとすれば、助役や民自党系の市議だよ」
「市長を補佐する立場の助役が不正に関わっていたんですか?」甘木が尋ねた。
「当時、甘木富雄って人が市長をしていたが、甘木市長は改進党系の市議から市長に転身した方だ。質実剛健、公平無私な人だったよ。しかし、市議会では民自党系の市議が過半数を占めるなかで、議会対策に腐心していたね。特に議会承認が必要な助役の人事案件については、ことごとく否決されていたよ。甘木市長は、やむを得ず民自党系の市議の中から助役を登用することになったんだ。その助役が民自党系の市議と結託して不正に関わっていたと思っているよ」
「実は、今、ここにいる甘木雄一は、甘木富雄元市長の孫なんですよ」風間が言った。
「ええ!そうだったのか。甘木富雄市長は、昭和54年の10月に起きた長野県北部地震の時には、災害対策本部長として、被災地の復旧・復興に向けて陣頭指揮をとっていたね。市議会があのような状況のなかで、市政運営は大変だったと思うよ」
「ついでにお伺いしますが、風間博之という市議会議員を覚えていますか?」
「風間博之?ああー、思い出したよ。甘木市長と同じ改進党系の市議じゃなかったかな。『タコ入道』という異名で知られていたね。市議会議員をやっていた頃の甘木さんとタッグを組んで、舌鋒鋭く当局を追求していたよ。風間さんは、甘木さんが市長をやっていた時は議長だったはずだ」
「実は、風間博之って市議は私の爺さんだった人なんです」風間が言った。
「そう言われてあんたを見ると、髪毛が薄いところなんか、お爺さんとそっくりだね」野上が言った。
「余計なこと言わないでくださいよ」風間が苦笑いして言った。
「甘木さんが市長になってからは、入札談合によって高止まりしていた公共工事の落札率を下げようと、入札改革に取り組んだけど、結局は、談合による甘い汁を吸えなくなる建設業界に反感を買われ、思うような入札改革はできなかったんだ。4年後の選挙で、甘木市長は再選を目指したが、建設業界が県の耕地整備部出身の対抗馬を立てて、甘木市政は1期で終わってしまった」
 甘木は腕時計を見て風間に目配せをした。
「貴重なお話をいただきまして、ありがとうございました」二人は礼を述べて野上の家を立ち去った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第61回)

2017年8月25日ニュース

「今ほど、息子さんは城南大学に在籍していたって言われましたね。城南大学って、東京にある城南大学ですよね?」風間が尋ねた。
「ああ、東京の城南大学だよ」老人が答えた。
「城南大学って、甘木が卒業した大学と同じですね。亡くなった治夫さんはどちらの学部に在籍していたんですか?」風間が老人に尋ねた。
「当時、私は訳あって家族と別居していたので、息子が城南大学のどこの学部に在籍していたかは分からないね」老人が答えた。
「甘木は野上治夫さんって人を知っているかい?甘木よりも二つ年上だけど……」
 風間が甘木に尋ねた。
「総合大学の城南大学は学生数が多いからね。学部が違えば校舎も違うし、同じ学部であっても昼間部と夜間部とでは授業は別々だし、郷里が同じといっても学生の交流は全くないね。僕が大学に在籍していたのは30年以上も前の話だけど、同じ大学の学生が山岳遭難で亡くなったって話は覚えているよ。亡くなった方が野上治夫さんという人だったかは記憶にないけどね」甘木が答えた。
「私らは、今年で52歳になりました。30年も年月を重ねれば顔かたちは変わってきますよ。私なんか二十歳の頃は、髪の毛はもっと沢山あって、ふさふさしていましたけど、いまじゃご覧のとおりの禿げ頭ですよ」風間が苦笑いして言った。
「髪の毛は変わっても頭の骨格は変わらない。それに甘木さんの鼻に黒子があるが、息子も同じ場所に黒子がある」と老人が言った。
 老人は立ち上がって、仏壇から遺影を取り出して風間に渡した。風間は甘木の顔と遺影に写った老人の息子の顔を見比べた。
「本当だ。甘木と同じように息子さんの鼻にも黒子がある。しかし自分と同じ顔を持つ人がこの世に3人いるって話はよく聞きますからね」風間が言った。
「ところで、鴨居に掛けてある二枚の遺影はどなたの写真ですか?40代くらいの女の人と高校生くらいの女の子の写真ですが……」風間が尋ねた。
 老人は遺影に目を移した後、顔を二人に向けて言った。
「ああ、あの遺影かね。妻と娘の写真だよ」
「お二人とも若くして亡くなられたんですね。病気か事故ですか?」風間が尋ねた。
 老人は一瞬、目を閉じた後、「自殺だよ」と答えた。
「ええ、自殺ですって!嫌なことを聞いて、失礼しました。お爺さんは野上昭一さんですよね?」
 風間が老人に尋ねた。老人の顔色が変わった。
「そうだけど。それがどうかしたかね?」
「ぶしつけな質問かもしれませんが、あなたは元田沼市職員の野上昭一さんですよね?汚職事件を起こして逮捕され、懲戒免職になった野上昭一さんですよね?」風間が言った。
「風間、そんな失礼なことを聞いちゃだめだよ!」甘木が風間の言葉を遮った。
「甘木さんいいんだよ。本当のことだからね。確かに私は収賄容疑で逮捕され、市役所からは懲戒免職処分を受けた野上昭一、本人だよ。私が田沼市の建設課の発注係長だった頃、市が発注する公共工事の予定価格を建設業協会事務局長の須藤紀夫に漏らして、その謝礼として現金を受け取ったとして警察に逮捕された。収賄の罪で起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けたんだ。裁判では、私が公共工事の予定価格を漏らしたことや、その見返りに現金を受け取ったことは認めた。本当のことだからね。私の不祥事が家族三人の人生を狂わせてしまったんだ。私が罪を犯したことで、妻や息子、娘がこの町で暮らし、この家で生活できなくなった。私の所為で家族の絆が断ち切られ、一家は離散した。自殺した妻や娘には取り返しつかないことをしてしまった。事故で死んだ息子にだって、別の人生があったかも知れない」老人の顔に苦悩の色がにじんだ。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第60回)

2017年8月23日ニュース

 甘木は風間を誘って、野上昭一の家の玄関に向かった。二人は引き戸を開けようと、捕手に手を掛けた。建て付けが悪いのか、ギー、ギー、ギーと音を上げながら戸を開けた。
「ごめんください」
 しばらくして、奥から「どちら様ですか?」と男の声が聞こえた。
「市長選挙に立候補を予定している甘木雄一と申します。ご挨拶に伺いました」
「いま、そっちに行きます」
 80過ぎと思われる白髪交じりの老人が猫を抱いて玄関に現れた。
「初めまして、市長選挙に立候補を予定しています甘木雄一です」
 老人は風間から渡された政策チラシに載っている甘木の顔写真を凝視した後、顔を上げた。
「甘木雄一ねー。あんたの顔かたち。死んだ息子にそっくりだ」
「私の顔が亡くなった息子さんに似ているってことですか?」
「そうだよ。死んだ息子が生き返って家に戻って来たのかと思ったよ」
「失礼ですが、息子さんは幾つの時に亡くなったんですか?」風間が尋ねた。
「息子が死んだのは、確か22の時だったんじゃないかな。冬山で遭難して死んだと聞いているよ」
 老人が答えた。
「聞いているって?お爺さんは息子さんのお父さんでしょう?息子さんの葬儀には参列しなかったんですか?」風間が老人に尋ねた。
「訳あって葬儀には出られなかったんだ。玄関での立ち話もなんだし。ご覧のとおりのあばら家だが、まあ上がってくれないか」老人が二人を招き入れた。
「失礼します」と言って、二人はミシミシと音を立てながら、老人の後に続いて廊下を歩いた。二人は6畳間に通された。中央には座卓が置かれ、片隅には仏壇が据えられていた。老人は座布団を座卓の脇に敷いた後、「さあ、座って」と言って、二人に着座を促した。
 老人は茶葉を入れた急須に湯を注いだ後、「さあ、どーぞ」と言って、お茶の入った湯呑を二人に差し出した。
「ありがとうございます。いただきます」と言って、二人は老人から湯飲みを受け取った。
「すみません。あの遺影は、もしかして亡くなった息子さんですか?」
 風間が老人に尋ねた。仏壇の奥に立て掛けられた遺影は、未成年のような顔立ちをした青年が山頂に立っている写真だった。左手でVサインを作って得意満面の笑みを浮かべている。
「これは剣岳山頂で撮った写真ですね。立山室堂~剣沢~別山尾根経由で登頂したんですね。指でVサインを作っている息子さんの写真を撮ったのはあなたですね?」甘木が言った。
「詳しいね。甘木は剣岳に登ったことがあるの?」風間が尋ねた。
「ああ、高校に入ってからね」甘木が答えた。
「よく分かったね。あれは中学生の息子と初めて剣岳に登った時の写真だよ。山が好きな子でね。中学に入ってから本格的に登山を始めたんだ。城南大学の夜間部に入ってからも登山は続けていたようだ。山好きの息子だったが、死んだ場所も山だった。大学の友達と冬の剣岳を登っていた時に滑落して死んだ。息子が生きていれば、あんたたちのような歳になっていただろうね。それにしても、甘木さんの顔立ちは息子とそっくりだ」老人はまた同じ言葉を繰り返した。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第59回)

2017年8月21日ニュース

 甘木と風間は古びた木造住宅の前を通りかかった。庭は雑草で覆われ、片隅には大きなビニール袋に入った空き缶を積んだリヤカーが置いてあった。家の壁は変色して一部は剥がれ落ちていた。屋根瓦も退色し、一部は壊れて下にブルーシートが敷かれている。障子戸は破け、ひび割れた窓ガラスには白いガムテープが貼ってあった。
「甘木、なんか臭い匂いがするね」
「この匂いはリヤカーに積んである空き缶から出ているみたいだね。ところで、あんなに沢山の空き缶をどこから集めてきたんだろう?」
「ごみステーションに捨てられた空き缶を回収して、回収業者に売っているんじゃないかな。しかし、こんなに荒れ果てた家に人が住んでいるとは思えないね。空き家じゃないのかな」
「人が住んでいるみたいだよ。ほら、玄関の郵便受けに町内会の回覧板が差し込んであるよ」
 玄関の前に掛けられた表札には「野上昭一」という名前が書いてあった。
「甘木、この家はパスした方がいいよ」
「どうして?ちょっと匂いが気になるけど、人が住んでいるようだし、行ってみようよ」
「ここじゃなんだし。あそこに公園があるだろう。そこで話すよ」
 風間は筋向いにある小さな公園に甘木を誘った。公園には誰もいない。二人はベンチに腰を掛けた。
「表札に『野上昭一』って書いてあっただろう。野上昭一は合併前の旧田沼市の職員だった人だ。汚職事件で逮捕され市役所を首になった人だよ」
「汚職事件?」
「30年以上も前に遡るけども、甘木のお爺さんが市長をしていた頃の話だよ。この事件のことは、市議会議員をやっていた爺さんから聞いた話だけどね。当時、建設課の発注係長だった野上は、市が発注する公共工事の予定価格を建設業者に漏らして、その見返りに賄賂をもらったとして、収賄容疑で逮捕されたんだ」
「収賄?賄賂を贈った人物は誰だったんだろう?」
「建設業協会事務局長の須藤って人物だ。今でもそうだけど、建設業協会の事務局長のポストは田沼市の建設課長の天下り先として用意されている指定席なんだ。野上に賄賂を贈った須藤の方は既に3年の時効が成立していたんだ。昭和54年の長野県北部地震の頃に起きた汚職事件だけどね。災害復旧工事の予算がドーンとついて、市が発注する公共工事が大幅に増えたそうだ。野上が逮捕された時の役職は建設課の課長補佐だったけど、実際は発注係長の時に予定価格を漏らした罪で起訴されたんだ。以前から田沼市が発注する公共工事の落札率が県内で一番高くなっていたことや、野上が災害復旧工事の発注業務を取りまとめる立場にあったことから、警察は、早くから野上に目を付けて内偵していたらしいよ」
「収賄で逮捕されたのは野上一人だったの?」
「当時、野上の上司だった建設課長の内藤隆志や上層部の関与も疑われたけれども、うやむやになってしまったらしいよ。当時は、『トカゲのしっぽ切り』だったんじゃないかって噂が流れたそうだよ」
「田沼市が発注する公共工事は、今でも入札情報が建設業者に漏れているんだろうか?」
「それは充分に考えられるね。今でも公共工事の落札率が県内で一番高くなっているって財政課長の杉田昇が言っていたのを覚えているだろう。それに県の土木部出身の井上市長、県議の山田良治、建設業協会長の山田信夫、この三人が政官業の鉄のトライアングルを作って、市や県が発注する公共工事について、予算の確保から工事の施工場所、施工業者の選定までを取り仕切っているみたいだよ。甘木も知っていると思うけど、県議の山田良治は建設業協会長の山田信夫の実弟だ。県の公共工事だって入札情報が業者側に事前に漏れていてもおかしくないね」
「収賄事件はもう30年以上も昔の話だし、とにかく行ってみようよ」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第58回)

2017年8月19日ニュース

 甘木は事務所を構えてからも、風間ら同級生と大票田の市街地での挨拶回りを重ねた。
 ある冬の寒い日、甘木は風間の運転する車に乗って住宅街を走行していた。放射冷却の影響だろうか。日陰になっている路面は所々で凍っていた。風間が運転する車の50メートルほど先を走っていた自転車が突然、凍結した路面に車輪がとられ横転してしまった。甘木と風間は車を路肩に止めて横転した自転車に向かった。
「大丈夫ですか。お怪我はありませんか?」
「ええ、大丈夫です」
 70代と思われる女性がコートについた汚れを払いながら応えた。幸い車の通行が少ない時間帯だったので大事に至らずほっとした。しかし自転車の荷台に積んでいた買い物袋が横転したはずみで路面に散らばってしまった。
 破けた買い物袋から生卵の入ったケースがはみ出ていた。生卵は割れて黄身が滲み出ている。甘木と風間は路面に散乱した二個の買い物袋を集めて女性に渡した。女性は買い物袋を荷台に載せて自転車を押して帰ろうとしたが、転んで足をくじいたのか思うように自転車を押せない。
 甘木は「お近くにお住まいでしたら、ご自宅まで自転車を届けてあげますよ」と女性に申し出た。
「ありがとうございます。私の家はここから歩いて5分くらいの所にあります。申し訳ありませんがよろしくお願いします」と女性は礼を言って、二人に自転車を預けた。
「買い物に行く時はいつも自転車ですか?」風間が尋ねた。
「主人が生きている頃は、主人が運転する車で買い物に出掛けていましたが、5年前に主人が亡くなってからは、バスや自転車で買い物に出掛けています。ちょっとした買い物は近所の食料品店で用が足りたんですが、その食料品店も店主の高齢化と後継ぎがいないことで、最近、店を閉じてしまいました」
「失礼ですが、お一人で生活されているんですか?」甘木が尋ねた。
「ええ、一人暮らしです。息子が一人いますが、息子夫婦は東京で暮らしています」
「最近、高齢者の一人暮らしが増えているようですが、一人で生活していて不便なこととかはありますか?」甘木が尋ねた。
「買い物に行くにも病院に行くにも大変です。普段は市バスを使って出掛けるんですが、市バスは平日しか走っていませんし、それに本数が少ないので困っています。日曜日の今日は少し離れた所にあるスーパーの特売日だったので自転車に乗って買い物に出掛けましたが、こんな事になってしまって、皆さんにご迷惑をお掛けして申し訳なく思っています」
「そんなことはないですよ。それよりも、お怪我がなくて何よりです。一人暮らしをしていて、不安に感じることってありますか?」甘木が尋ねた。
「変な電話が時々、掛かってきて困っています。オレオレ詐欺っていうんですか?この前、息子の名前を語って、役所のお金を使い込んでしまって、役所に賠償しなければならないから、100万円を振り込んでくれっていう電話がありました。もしかして詐欺じゃないかと思って、息子の生年月日を聞いたんです。そしたら、突然、電話が切れてしまいました」
「被害に遭われなくて良かったですね。最近、一人暮らしの高齢者を狙った振り込め詐欺が増えているようですが……」風間が言った。
「そうですね。この町内もお年寄りだけの世帯が多くなりました。私の場合は、振り込め詐欺に遭わなかったんですが、隣の町内に住んでいる友人が詐欺に遭ってしまいました。警察には被害届を出したそうですが、息子さんには内緒にしているってことです」
「どうしてですか?」風間が尋ねた。
「息子さんに詐欺に遭った話をすると、叱られるからって言っていました。ところで皆さんは、お仕事か何かで、この町内に来られたんですか?」
「すみません、私たちは挨拶回りをしています」甘木が言った。
「挨拶回り?」
「私は、4月の市長選挙に立候補する甘木雄一と言います。私が市長になったら、お年寄りが歩いて買い物に行ける町、歩いて病院や医者に通える町、介護サービスも充実した高齢者に優しい町づくりを目指します。どうか甘木雄一をよろしくお願いします」
 甘木は女性にチラシを渡した。女性はチラシに掲載された甘木の顔写真を見ながら、
「あなたが今度の市長選挙に出られる甘木さんですね?この前、新聞に載っていましたね。随分と若いですが、お幾つですか?」
「52歳です」
「息子と同い歳でね」
「私も甘木君と同じ中学校の同級生で風間と言います」
「皆さんはどちらの中学ですか?」
「僕たちは田沼第一中学の卒業生です」風間が答えた。
「息子と同じ中学ですね」
「同じ中学でしかも同じ歳であれば、同級生かもしれませんね。差し支えなければ、息子さんの名前を教えてもらっていいですか?」風間が尋ねた。
「はい、斉木正則といいます」
「あの斉木君ですか。我々と同じクラスでした。斉木君は高校を卒業した後、東京の大学に進学して、公正取引委員会に勤めているって話を聞いたことがありますが……」風間が言った。
「ええ、東京の城東大学を出た後、そのまま就職して、今は東京で暮らしています」
「斉木君は、実家に帰って来ることがあるんですか?」甘木が尋ねた。
「夫が生きていた頃は、年末年始の休みには孫を連れて帰ってきたこともありましたが、偉くなったら忙しくなったのか、ほとんど顔を見せません」
 無事に自宅に戻った女性から、「ほんとうにありがとうございました」という感謝の言葉をもらいながら、二人は女性の自宅を後にした。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第57回)

2017年8月17日ニュース

「息子が言うには、店の奥に隠し部屋があるんじゃないかって」小島が言った。
「隠し部屋?あの店は昔、乾物問屋だったところで、棟続きの奥には土蔵が建っているけど、隠し部屋というのはその土蔵のことかい?」風間が言った。
「そうだと思うよ。ところが、店と土蔵の間は壁で仕切られているため、店の客は土蔵の方には行けないらしい。でも厨房を通れば土蔵の方に行けるみたいだね。というのは、厨房の出入り口は二か所あって、一つは店の方に、もう一つは土蔵の方に向いているそうだ。その厨房で居酒屋の客に出す料理と土蔵にいる客に出す料理を作っているらしいんだ。息子がトイレに行くときに、何気なく厨房を覗いたら、料亭で出される料理が皿に盛り付けてあったそうだよ」小島が言った。
「店の中からその隠し部屋というか、土蔵に行けないとしたら、土蔵の入口は別にあるってことかい?」風間が尋ねた。
「土蔵の入口かどうかは分からないけど、居酒屋を出た息子と友達が店の裏通りに回ってみたら、黒壁に潜り戸が一つあったそうだ。でも看板らしきはものはなかったって言ってたね」小島が言った。
「もしかして、その隠し部屋は会員制の料亭になっているのかね?」風間が言った。
「いずれにせよ、入口の防犯カメラでこっちの事務所を監視しているかもしれないね。用心した方がいいね」甘木が言った。
「ところで、今日は二人で商店街の挨拶回りだったよね?」小島が言った。
「そうなんだ、新年の挨拶を兼ねて甘木の政策チラシを配っているんだ」
 風間が小島にチラシを渡した。
「甘木、ここに書いてある地域限定プレミアム商品券って、何だい?」小島が尋ねた。
「地域限定のプレミアム商品券というのは、田沼市内のお店でしか使えない商品券のことだよ。この商品券を買った人が購入額以上の買い物ができるというもので、例えば、額面1200円の商品券が10枚入ったセットを1万円で販売した場合、商品券を購入した人は、1万円の出費で12000円分の買い物ができることになるんだ。商品券を買った人からすれば、商品券1枚について二割のプレミアムが付いている分お得になるので、商品を二割引で買うのと同じことになるんだ。商品券が使える店を市内の店舗に限定すれば、市内から消費が逃げる心配がない。また、市外に住む人もこのプレミアム商品券を買えるようにすれば市外の消費も呼び込めるってわけさ。プレミアム商品券は商店街組合が発行し、プレミアム分の二割を市が補助金として商店街組合に補助するものだよ。客が増えて商店の売り上げが伸びれば、その分、商店が市に納める税金も増えるって仕組みだよ」甘木が言った。
「それはいい考えだ。私ら個人商店は客から時々値引きを求められことがあるが、大量に商品を仕入れる量販店と違って仕入れコストがどうしても高くなる。仕入れ価格よりも安く売れば赤字だ」
 小島が言った。
「近江商人の『三方良し』ってことかな?」甘木が言った。
「確か、『売り手良し』、『買い手良し』、『世間良し』ということだろう?」小島が言った。
「そう、『三方良し』は売り手と買い手がともに満足し、また社会にも貢献できるのが良い商売であるという意味だよ。この『三方良し』を政策に反映したものが、この地域限定のプレミアム商品券だよ」
 甘木が言った。
「このチラシ、20枚ほどもらえないか?来週、商店街組合の役員会があるので甘木の政策を宣伝してあげるよ」
「ありがとう。よろしく頼むよ」甘木は礼を言って小島にチラシを渡した。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第56回)

2017年8月15日ニュース

 年明け後、甘木は風間ら同級生と政策チラシを持って年頭の挨拶回りを始めた。まずは商店街でスーパーを経営している小島孝雄を訪ねた。二人は百津屋の看板が掛けてある店に入った。
「明けましておめでとうございます。奥さん、孝雄ちゃんいますか?」
 風間が、棚に商品を並べていた小島の妻に声を掛けた。
「びっくりした!甘木さんに風間さん、明けましておめでとうございます。今、主人を呼んできますね」
「よお!甘木に風間のご両人、明けましておめでとう!」
「明けましておめでとう。本年もよろしく」甘木と風間が挨拶をした。
「いよいよ市長選挙が近づいてきたね。準備は順調かい?」
「まずまずってとこだね。今日から商店街の挨拶回りを始めたんだ」甘木が言った。
「しかしこの大雪はいつまで降り続くのかね。此処の所、客足もさっぱりだよ。こんな大雪じゃ、顔馴染みのお年寄りも買い物に出て来られないよ」小島がぼやいた。
「天気予報では冬型の気圧配置が暫く続くそうだよ」甘木が言った。
「ウチと違って、業界団体の固定客をがっちりと掴んでいる寿屋さんは大雪になっても関係ないんじゃないの?それに、これからは、業界団体の賀詞交換会が始まるし、新年会や送別会など職場単位の飲み会だって増えてくるだろう?」小島が風間に向かって言った。
「百津屋さんのところみたいに天気の影響を受けることはないけど、景気の影響はもろに受けるね。客層を見ているとよくわかるよ」風間が言った。
「客層って?もしかして建設関係のお客ってこと?」小島が尋ねた。
「そうだね、今、ウチに宴会の予約を入れてくるところは、建設関係の会社が多いね。特に選挙がある今年はね」風間が言った。
「去年の秋にオープンした居酒屋『寄り道』、流行っているみたいだね」小島が言った。
「作業着で行くと生ビールが半額になるってチラシに書いてあったね」風間が言った。
「ウチの息子も近所の友達を誘って『寄り道』に行ったそうなんだが、安くて美味しかったよって言ってたよ」小島が言った。
「営業マンの息子さんは、普段はスーツを着て会社に行ってるんじゃないの?息子さん、作業着は持っているの?」風間が言った。
「息子は作業着を持っていないから、俺の作業着を貸してあげたんだ。帰って来た息子が面白いことを言ってたね」小島が言った。
「面白いことって?」甘木が尋ねた。
「防犯カメラのつもりで設置したのかね。店の外と中に監視カメラが設置されているそうだよ」
 小島が答えた。
「ええ!監視カメラだって?」風間が言った。
「そう。外は店の入り口付近に、店内は客席に向けて、それぞれ一台ずつ監視カメラが設置されているそうだよ」小島が言った。
「飲食店に防犯カメラっていうのは、あまり聞かないね。ウチも飲食店だけど防犯カメラなんて付けていないよ」風間が言った。
「ウチのような食料品店だって、防犯カメラなんかないよ」小島が言った。
「防犯以外の目的もあるんじゃないのかな。特に入口付近にある防犯カメラは、通りを挟んで向かいにあるこっちの選挙事務所を監視するために設置したんじゃないだろうか?店のオーナーが山田組社長の奥さんだよ。防犯カメラで敵情を探っているってことさ」風間が言った。
「そうかな?でも気になるね」甘木が言った。
「もう一つ、面白いことがあるって、息子が言っていたよ」小島が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第55回)

2017年8月13日ニュース

「しかし、来年は選挙の多い年ですね。4月の県議選に田沼市長選挙、10月には知事選に田沼市議選と4回も選挙がありますね。衆議院が解散すれば5回に増えますが……」森山が言った。
「4回でも大変だというのに、それが5回に増えれば、我々、建設業界も兵站が尽きてしまいますよ」佐川が言った。
「民自党の園田政権が高い支持率をキープしていますので、解散総選挙ということは、しばらくはないと思いますよ」山田県議が言った。
「まずは4月に行われる県議選と市長選に向けた兵站の準備が必要です。我々、建設業協会の士気が高まるようなお年玉が要りますね。山田会長が井上市長に向かって言った。
「山田会長さん、その点はご心配なく。新年度の公共事業予算は例年の3割増しで組むようにと建設課に指示を出していますよ。それに2年後に迎える合併10周年の記念行事に間に合わせるため、文化会館と総合体育館の建設事業費も新年度予算に入れるよう担当課に指示を出しました」
「市議会最大会派の我々田沼クラブも、3月に開催される市議会定例会では新年度予算の円滑な審議、議決ができるよう、全面的に協力しますよ」市議会議長の遠山が言った。
「県事業の新年度予算の方は、主なものでは田沼川の改修事業費の2割増額と圃場整備事業費予算の新規計上ですね」山田県議が言った。
「山田さん、農家負担を伴う圃場整備事業の施行申請には関係農家全員の同意が必要だと聞いていますが、同意の方は大丈夫だったんでしょうか?」森山が尋ねた。
「井上市長のおかげで、農家負担の一部を市が負担してくれることになって、農家全員の同意がもらえたんですよ」山田県議が言った。
「山田県議さんとはウィンウィンの関係ですよ」井上が言った。
「山田県議さんと井上市長さんからは、建設業界のために、いろいろとご配慮をいただき感謝しています。今の話を会員企業が聞いたら喜びますよ。選挙戦に向けた士気も上がってきますよ。県や市の工事が我々に発注されれば、応分のお返しはさせていただきます。協会もそうですが、政治家と業界団体の関係も共存共栄でいきましょう」佐川が言った。
「佐川さん、共存共栄って言葉は古いですよ。今、井上市長がおっしゃったウィンウィンって言葉が、最近はやっているみたいですよ。ところで井上市長さん、まだ先の話ですが、文化会館と総合体育館は、どういう入札方式をお考えですか?」森山が尋ねた。
「三年前の市立病院の移転新築工事の入札の時のように、地元業者を入れた三社で構成するJV(共同体企業体)方式を考えています」井上が答えた。
「市長、三社の構成は市立病院の建設工事の時のように我々建設業協会に任せてもらいたい。全国ゼネコン、県内ゼネコン、地元建設業者の一社ずつの組み合わせがいいのか、市立病院の時のように、県内ゼネコン二社と地元業者一社の組み合わせがいいのか、時間はたっぷりあるので、市と県の建設業協会で調整させてもらいたい」山田会長が言った。
「もちろん、そのつもりです」井上が言った。
「三年前の市立病院の入札の時は、改進党系の市議からは、JV一者しか参加しない入札はおかしいとか、ほぼ100%の落札率は官製談合が行われた証拠だとか、いろいろと質問が出されて、市議会も紛糾したこともありましたけど、発注者側から受注者側に入札情報が漏れているなんて話が、職員からマスコミにリークされるってことはないでしょうね?」遠山が尋ねた。
「公務員には守秘義務がありますし、入札業務に携わっている職員には人事の面で優遇していますから、そういった心配はないと思いますよ」井上が答えた。
「政官業の鉄のトライアングルは強靭ですよ。簡単には壊れませんよ」山田会長が話を締め括った。
(作:橘 左京)

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