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小説「廃屋の町」(第53回)

2017年8月11日ニュース

 ゲラ刷りの上部には、「まちづくり八策 コンパクト&スマートシティー構想~50年先を見据えたまちづくりを提案します!」というチャッチコピーが入っていて、その下には8項目の政策(まちづくり八策)が列挙されている。
1.お年寄りが歩いて買い物に行ける、歩いて通院できる、介護サービスも充実した高齢者に優しい街(コンパクトシティー)づくりを目指します。
2.人口減少をストップさせるため、子育て世代の定着と市外からの流入に向けた支援策を強化します。
3.世界の檜舞台で活躍できる人材を輩出できるまちづくりを目指します。
4.市役所内に人口問題を検討する部局横断の組織を新設し、全市挙げて人口減少対策(人口維持対策)に取り組みます
5.地域の絆(きずな)づくりを応援します。
6.地元の農商工業者の事業承継に向けた支援(後継者対策)を実施します。また雇用創出につながる企業誘致・起業化支援を推進します。
7.エネルギー効率の高い街(スマートシティー)づくりを目指します。
8.将来世代(子供たち)に資産として引き継げるように、合併前の旧市町村時代に建てられた公共施設の統廃合を進めます。
「僕が提案した後継者対策も入っているね。この『まちづくり八策』って言葉は、もしかして、坂本竜馬の『船中八策』を真似たのかい?」小島が尋ねた。
「当たり!小島、よく分かったね。いま小島が言ったように、『船中八策』は坂本龍馬が土佐を出港し上京する折に、船中で藩士の後藤象二郎に示した新政府のグランドデザインだよ。『まちづくり八策』は、建設業者の利益を最優先に考える井上市政と決別して、市民の利益を最優先に考える甘木市政を実現しようという意味合いを含んだ言葉だよ」風間が答えた。
「ゲラ刷りがもう一枚あるけど、甘木の顔写真と経歴、それに中学時代の写真も何枚か載せているね。これって、運動会の時の写真じゃないの?ああ!俺だ。風間や恵ちゃんも写っているね。お互い、この頃は若かったね。髪もふさふさしていたしー、そうだろう、健ちゃん?」小島が言った。
「余計なこと言うなよ!お前の頭だって、今じゃ白髪頭じゃないか」
「お互い様だけどね。このゲラ刷りは『まちづくり八策』と同じサイズだけど、セットってこと?」
 小島が尋ねた。
「ああ、チラシの片面だよ」風間が答えた。
「チラシ?」
「『まちづくり八策』はB4版両面刷りのチラシにして、正月明けに新聞折り込みで市内に配布する予定なんだ。今、その準備をしているところだよ。チラシの一面には甘木の人柄を知ってもらおうと顔写真と経歴を載せて、二面には政策を載せることにしたんだ」風間が言った。
「チラシか。いいことを思いついたね。うちも時々、新聞にチラシを入れるけど、スーパーのチラシとは全然、違うね」小島が言った。
「それは、そうよ。スーパーのチラシは値段が全てでしょう。商品の写真は小さくて、値段の方は大きな字で書いてあるわ。それに、主婦の立場で言わせてもらうと、値段の付け方って巧妙よね。89円とか138円とか、一の位を四捨五入すると十の位に切り上がってしまうのよね」
「痛いところを突かれたな。例えば92円の商品と89円の商品は3円しか値段は違わないけど、買う方から見れば、それ以上の開きがあるように感じてしまうよね。でも、ウチの店では、特売日になると赤字覚悟で御奉仕しているよ」小島が言った。
「孝雄ちゃん、百津屋さんの常連客として言わせてもらうけど、特売日を増やしてもらいたいわ!」
「はい、前向きに検討させて頂きます」小島が言った。
「それって、お役所言葉じゃない?役人はよく、『検討します』って言葉を使うけど、結局やらなんだよね」甘木が突っ込みを入れた。
「私は役人ではありませんので、嘘は言いません!」小島はきっぱりと答えた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者