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小説「廃屋の町」(第56回)

2017年8月15日ニュース

 年明け後、甘木は風間ら同級生と政策チラシを持って年頭の挨拶回りを始めた。まずは商店街でスーパーを経営している小島孝雄を訪ねた。二人は百津屋の看板が掛けてある店に入った。
「明けましておめでとうございます。奥さん、孝雄ちゃんいますか?」
 風間が、棚に商品を並べていた小島の妻に声を掛けた。
「びっくりした!甘木さんに風間さん、明けましておめでとうございます。今、主人を呼んできますね」
「よお!甘木に風間のご両人、明けましておめでとう!」
「明けましておめでとう。本年もよろしく」甘木と風間が挨拶をした。
「いよいよ市長選挙が近づいてきたね。準備は順調かい?」
「まずまずってとこだね。今日から商店街の挨拶回りを始めたんだ」甘木が言った。
「しかしこの大雪はいつまで降り続くのかね。此処の所、客足もさっぱりだよ。こんな大雪じゃ、顔馴染みのお年寄りも買い物に出て来られないよ」小島がぼやいた。
「天気予報では冬型の気圧配置が暫く続くそうだよ」甘木が言った。
「ウチと違って、業界団体の固定客をがっちりと掴んでいる寿屋さんは大雪になっても関係ないんじゃないの?それに、これからは、業界団体の賀詞交換会が始まるし、新年会や送別会など職場単位の飲み会だって増えてくるだろう?」小島が風間に向かって言った。
「百津屋さんのところみたいに天気の影響を受けることはないけど、景気の影響はもろに受けるね。客層を見ているとよくわかるよ」風間が言った。
「客層って?もしかして建設関係のお客ってこと?」小島が尋ねた。
「そうだね、今、ウチに宴会の予約を入れてくるところは、建設関係の会社が多いね。特に選挙がある今年はね」風間が言った。
「去年の秋にオープンした居酒屋『寄り道』、流行っているみたいだね」小島が言った。
「作業着で行くと生ビールが半額になるってチラシに書いてあったね」風間が言った。
「ウチの息子も近所の友達を誘って『寄り道』に行ったそうなんだが、安くて美味しかったよって言ってたよ」小島が言った。
「営業マンの息子さんは、普段はスーツを着て会社に行ってるんじゃないの?息子さん、作業着は持っているの?」風間が言った。
「息子は作業着を持っていないから、俺の作業着を貸してあげたんだ。帰って来た息子が面白いことを言ってたね」小島が言った。
「面白いことって?」甘木が尋ねた。
「防犯カメラのつもりで設置したのかね。店の外と中に監視カメラが設置されているそうだよ」
 小島が答えた。
「ええ!監視カメラだって?」風間が言った。
「そう。外は店の入り口付近に、店内は客席に向けて、それぞれ一台ずつ監視カメラが設置されているそうだよ」小島が言った。
「飲食店に防犯カメラっていうのは、あまり聞かないね。ウチも飲食店だけど防犯カメラなんて付けていないよ」風間が言った。
「ウチのような食料品店だって、防犯カメラなんかないよ」小島が言った。
「防犯以外の目的もあるんじゃないのかな。特に入口付近にある防犯カメラは、通りを挟んで向かいにあるこっちの選挙事務所を監視するために設置したんじゃないだろうか?店のオーナーが山田組社長の奥さんだよ。防犯カメラで敵情を探っているってことさ」風間が言った。
「そうかな?でも気になるね」甘木が言った。
「もう一つ、面白いことがあるって、息子が言っていたよ」小島が言った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者