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小説「廃屋の町」(第51回)

2017年8月7日ニュース

 12月中旬、市議会副議長の小林俊二氏が4月の市長選に出馬するとのうわさが流れた。小林氏は市議会最大会派「田沼クラブ」の幹事長で会派の中では若手のホープに目されていた。しかしこの噂話は間もなく消えた。水面下では、保守票が割れることを心配した井上陣営は保守候補を一本化するため、小林副議長の出馬を断念させようと多額の現金を使った調整が行われた。
 1月上旬、例年、政府の新年度予算案が決定された年明け後に県や市町村では新年度の予算編成が始まる。田沼市では市長選挙のある年は、公共事業予算を中心に大型予算が編成されることが慣例となっている。仕事始めの1月4日、建設課長の佐々木健一は課内会議に集まった係長を前に年頭の挨拶を行った。
「明けましておめでとうございます。今年は例年ない大雪に見舞われ、職員の皆さんからは、年末年始の休暇にもかかわらず、除雪車の出動連絡業務にあたっていただきありがとうございました。冬型の気圧配置がまだしばらくは続くようです。仕事始めの今日からは通行車両が増え、また除雪作業の影響もあって道路は大変混雑しているようです。引き続き除雪車の出動連絡業務にお難儀をかけますが、よろしくお願いします。さて、これから新年度の予算編成作業が始まるわけですが、先ほど行われた部課長会議で、新年度の公共事業予算については、今年度の3割増しで予算計上するようにと、井上市長からご下命がありました。皆さんも承知のとおり、新規事業の目玉として文化会館と総合体育館の建設が、それぞれ文化振興課と生涯学習課で予算計上されることになっています。うちの建設課の関係では、新規事業として国道バイパスへのアクセス道路の整備が3か所ありますし、継続事業では消雪パイプの新設、住宅リフォーム助成事業、下水道の整備、橋梁の付け替え工事などがありますが、まだ3割増しには届いてないので、市道の改良、老朽した消雪パイプや消雪井戸の更新、道路側溝の改修など、以前から自治会要望として出されていた事業で、まだ執行していない事業を掘り起こしていただきと思います。新年度予算に計上する公共工事が決まったら、事業名、施工個所、事業量、概算事業費を入れた一覧表を作って来週の月曜日までに私に提出してください。よろしくお願いします」
 佐々木は今年3月で定年退職を迎える。4月からは田沼市建設課長の天下り先になっている建設業協会事務局長の椅子が用意されている。
「土日を入れても5日しかない。休日出勤して仕事をしろということか。課長は部下に命令するだけだから、いいよな。仕事をするのは、我々、下々の者だ。課長は4年に一度の『お祭り』だって言っているけど、我々にとっては4年に一度の『苦役』だよ」
 課内会議を終えて席に戻った道路維持係長の横田紀夫はぼやいた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者