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小説「廃屋の町」(第57回)

2017年8月17日ニュース

「息子が言うには、店の奥に隠し部屋があるんじゃないかって」小島が言った。
「隠し部屋?あの店は昔、乾物問屋だったところで、棟続きの奥には土蔵が建っているけど、隠し部屋というのはその土蔵のことかい?」風間が言った。
「そうだと思うよ。ところが、店と土蔵の間は壁で仕切られているため、店の客は土蔵の方には行けないらしい。でも厨房を通れば土蔵の方に行けるみたいだね。というのは、厨房の出入り口は二か所あって、一つは店の方に、もう一つは土蔵の方に向いているそうだ。その厨房で居酒屋の客に出す料理と土蔵にいる客に出す料理を作っているらしいんだ。息子がトイレに行くときに、何気なく厨房を覗いたら、料亭で出される料理が皿に盛り付けてあったそうだよ」小島が言った。
「店の中からその隠し部屋というか、土蔵に行けないとしたら、土蔵の入口は別にあるってことかい?」風間が尋ねた。
「土蔵の入口かどうかは分からないけど、居酒屋を出た息子と友達が店の裏通りに回ってみたら、黒壁に潜り戸が一つあったそうだ。でも看板らしきはものはなかったって言ってたね」小島が言った。
「もしかして、その隠し部屋は会員制の料亭になっているのかね?」風間が言った。
「いずれにせよ、入口の防犯カメラでこっちの事務所を監視しているかもしれないね。用心した方がいいね」甘木が言った。
「ところで、今日は二人で商店街の挨拶回りだったよね?」小島が言った。
「そうなんだ、新年の挨拶を兼ねて甘木の政策チラシを配っているんだ」
 風間が小島にチラシを渡した。
「甘木、ここに書いてある地域限定プレミアム商品券って、何だい?」小島が尋ねた。
「地域限定のプレミアム商品券というのは、田沼市内のお店でしか使えない商品券のことだよ。この商品券を買った人が購入額以上の買い物ができるというもので、例えば、額面1200円の商品券が10枚入ったセットを1万円で販売した場合、商品券を購入した人は、1万円の出費で12000円分の買い物ができることになるんだ。商品券を買った人からすれば、商品券1枚について二割のプレミアムが付いている分お得になるので、商品を二割引で買うのと同じことになるんだ。商品券が使える店を市内の店舗に限定すれば、市内から消費が逃げる心配がない。また、市外に住む人もこのプレミアム商品券を買えるようにすれば市外の消費も呼び込めるってわけさ。プレミアム商品券は商店街組合が発行し、プレミアム分の二割を市が補助金として商店街組合に補助するものだよ。客が増えて商店の売り上げが伸びれば、その分、商店が市に納める税金も増えるって仕組みだよ」甘木が言った。
「それはいい考えだ。私ら個人商店は客から時々値引きを求められことがあるが、大量に商品を仕入れる量販店と違って仕入れコストがどうしても高くなる。仕入れ価格よりも安く売れば赤字だ」
 小島が言った。
「近江商人の『三方良し』ってことかな?」甘木が言った。
「確か、『売り手良し』、『買い手良し』、『世間良し』ということだろう?」小島が言った。
「そう、『三方良し』は売り手と買い手がともに満足し、また社会にも貢献できるのが良い商売であるという意味だよ。この『三方良し』を政策に反映したものが、この地域限定のプレミアム商品券だよ」
 甘木が言った。
「このチラシ、20枚ほどもらえないか?来週、商店街組合の役員会があるので甘木の政策を宣伝してあげるよ」
「ありがとう。よろしく頼むよ」甘木は礼を言って小島にチラシを渡した。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者