市民オンブズマン通信13.4~法令違反をやっても阿賀野市職員はお咎めなし?(その4)
【地域政党日本新生イメージキャラクターウィズ」君】
今号では水原代官所の有料貸出に伴う使用料徴収規則についてお伝えしたい。過去ログでもお伝えしたとおり、この規則には二つの重大な欠陥がある。
一つには、本来、条例で定めなければならない使用料徴収規定を規則で定めたこと(地方自治法第228条違反)。二つ目は、使用申請にあたり、不必要な個人情報を収集していること、すなわち使用申請書に使用者(団体代表者)の個人情報(生年月日)の記入が求めれれていること(阿賀野市個人情報保護条例第6条違反)。
※水原代官所と同じ市の公共施設である公民館を使用する場合には使用申請書に使用者の生年月日を記入する欄はない!(申請書の書式はこちら)もちろん使用料の徴収を定めているのは「阿賀野市公民館条例」だ。
くだんのY氏が市役所から有料でもらってきた規則制定に関する稟議書(写し)を見せてもらった。稟議書からは様々な事柄が見えてくる。決裁権者は市長、起案者は商工観光課長補佐だ。稟議書は起案者(商工観光課長補佐)➡商工観光課長➡産業建設部長➡総務課庶務係(担当→係長)➡総務課長補佐➡総務課長兼総務部長➡市長といった順序で回付され、それぞれの認印が押印されている。稟議書には法務(法制執務)担当職員である総務課庶務係(長)の認印も押印されている。法令に違反して条例ではなく規則で使用料徴収の規定を定めたことを法務担当職員が認識していなかったとすれば論外(資質の問題)であるが。もっともY氏がこの法務担当職員と面会した時に受けた印象では、使用料を規則で制定したことが法令違反になることを認識しているにもかかわらず認めざるを得なかった辛い心情が読み取れたという。この職員にとっては「法令順守を優先させて上司の違法な命令を拒否すべきか。上司の違法な命令を優先させて法令は無視すべきか。」まさにハムレットの第三幕第一場の名セリフ「To be, or not to be. that is the question.」の心境だったに違いない。
水原代官所の有料貸出についての規則制定の稟議書(写し)を見て、次のような不可解な点が認められた。
1.稟議書の起案日が8月30日、決裁日が9月8日となっている。
土日を除いた起案日から決済日までの期間は8日しかない。重要な案件にもかかわらず短期間で決裁が行われている?
2.稟議書には、条例等審査会委員長の承認印が押印されていない。
阿賀野市条例等審査会規程では、市が条例、規則、規程及び要綱(以下、「条例等」という。)を制定又は改廃する場合は、条例等の立案が適正かどうかを審査するため、阿賀野市条例等審査会が開催される。(第1条)この審査会では、各所管課(局)から回議に付された条例等案に対し、条例等の立案形式、用字用語及び他の法令との関係等について必要な事項を調査審議し、条例等案を整理修正して市長に具申する。(第2条)この審査会の委員長には総務課長補佐が充てられているが、総務課長補佐は職制(ライン職)上の認印が押されているが、条例等審査会委員長としての認印はない。これは条例等審査会を開催しないで法令違反の規則を定めたことを意味する。
3.市議会9月定例会に水原代官所の有料貸出に伴う条例改正の議案(「阿賀野市水原代官所及び白鳥の里条例」の改正議案)を追加提案できたはずなのに、あえてそれをしなかった?
市議会9月定例会は9月6日から21日まで開催された。阿賀野市議会9月定例会は前年度決算審査特別委員会の審査を行うため、6月や12月定例会よりも会期が長い。法令違反の規則は10月1日が施行日となっている。10月1日の施行日にこだわる(理由は不明であるが…)のであれば、条例改正案を追加提案すればよいものをなぜそれをしなかったのだろうか。
法務担当職員の矜持(自信と誇り)を失わせた原因は何であろうか。新しい制度(今回は水原代官所の有料貸出)を創設する場合、通常は関係部署と入念な調整が行われる。関係部署(総務課)との調整を経た後に、担当課(商工観光課)で稟議書が作成され、稟議書は関係部署に回付され、最後は決裁権者の承認印が押印される。トップがあらかじめ事務方(職員)に方針を示す場合でも、トップの方針が事務方に伝えられ、事務方はトップから伝えられた方針を具体化するための政策を立案する。この場合に法令違反の政策立案は通常はありえない。しかし、トップの指示が方針だけでなく本来は事務方の仕事である政策立案の部分にも及んでいたすれば話は違ってくる。筆者の推測であるが、あらかじめ決裁権者(市長)の押印が押された状態で稟議書が関係部署に回付されていたのではないか。これでは職員は異議を唱えることは無理だ。(たとえ法令に違反した稟議であっても)
これも筆者の推測であるが、このような法令違反を公然と行った狙いは何か。一つは10月1日の施行にこだわったことだ。条例改正で対応すれば周知期間の関係で10月1日の施行が出来なくなるというものだ。しかしなぜ10月1日の施行にこだわるのかが見えてこない。もう一つの狙いはトップの権力基盤の強化と求心力の強化である。敢えて法令違反の規則を制定し自身が法律に勝る存在であることを内外に印象付ける狙いだ。何かと指導力不足が指摘されている北朝鮮の金正恩氏が、側近を粛清したりミサイル発射事件を繰り返して周辺諸国に脅威を与えているのとどこか似ている。話は変わるが4選出馬に意欲を示していた泉田裕彦前新潟県知事を出馬断念に追い込んだとされる地元紙の記事連載がある。「福祉・医療の法定4計画に未策定問題」と「日本海横断航路の開設に伴う中古船購入疑惑」の二つの記事だ。知事選告示前の地元紙による記事連載は泉田前知事にとっては大きな政治的なダメージだったに違いない。今号との関連で言及すれば「福祉・医療の法定4計画の未策定問題」の方だ。
本来、法律で義務付けられている法定計画を長年、策定せずに放置されていたのはなぜだろうか。(Y氏によれば、現在は違法状態は解消されているという。)優秀な頭脳(を有する職員)を抱える県庁組織でこのような法令違反の失態がなぜ発生したのだろうか。私は県職員として県庁に26年弱の間、勤務したことがあり泉田前知事とは3年3か月、部下として仕えた。地元紙によれば、泉田前知事は法令違反の状態にあることは認識していたという。それなのになぜ今まで法令違反の状態が放置されていたのだろうか。地元紙によれば、泉田氏の肝いり政策「夢おこし政策プラン」が法律(法定計画)よりも優先するという認識が、泉田氏と県職員の間で共有されていたという。法律よりも知事の考え(政策)や意向が優先されるという、法治国家とは思えない前代未聞の状況が県庁組織に蔓延していたのだ。米山新知事には福島第一原発事故の検証も大事ではあるが、「福祉・医療の法定4計画の未策定問題」にみられる、県庁組織に生じたコンプライアンスの喪失(法令順守義務違反)が生まれた背景・事情を徹底して検証してもらいたい。
さて阿賀野市役所で行われた今回の法令違反は、泉田県政下で行われた「福祉・医療の法定4計画の未策定問題」と根っこは同じではないかと考えている。法律の規定よりも市長の考えや意向が優先されていたのではないか。法治国家とは思えない前代未聞の状況が市役所組織に蔓延しているのではないか。くだんの法務担当者の本当のジレンマはこうだ。「市長による違法な職務命令に従うべきか。市長の違法な職務命令を拒否し法令を遵守すべきか。それが問題だ。」生殺与奪の権利(懲罰権を含む人事権、論功行賞権)を持つ市長の意向に背けばどうなるか。保身(私益)を第一に考える組織人に義(公益)を求めても無理なのかもしれない。※次号に続く。
(あとがき)
Y氏が懸念していた警備会社職員による住民票の写し・印鑑証明書の夜間・休日交付が始まった。(市のお知らせ広報はこちら)、なぜ、このような取り扱いが始まったのか全く不明である。この取り扱いが始まる以前でも市役所の担当課では月2回(水曜日)、午後7時まで窓口を延長して各種証明書の発行には対応してきた(夜間区役所)。夜間区役所の対応だけでは足りないのか。Y氏から見せてもらった警備員による住民票の写し・印鑑証明書の夜間休日交付を決定した稟議書(写し)を見ても、市民に対するニーズ調査を行った形跡は見られない。警備員による証明書の夜間休日交付もトップダウンで強引に推し進めた痕跡が稟議書には残されている。筆者の推測であるが、トップダウンで決まった政策決定が稟議書という形に姿を変えて(トップダウンの方針決定の証(詔書)として決裁権者(市長)の押印された稟議書が)ボトムアップで回付されていたのではないか。
今回の警備会社の職員による証明書の夜間休日交付は、Y氏が指摘するように「市民の利便性の向上」というよりは「市民の個人情報の漏えい・不正使用のリスク」の方が大きい。神奈川県逗子市で2012年に起きたストカー殺人事件で被害者の夫が、精神的苦痛を受けたとして被害者の個人情報を漏えいした市役所を相手に1千万円の損害賠償訴訟を提起したという地元紙の記事が思い起こされる。この事件は市役所職員による個人情報の漏えいが殺人事件に発展したケースである。阿賀野市が行っている証明書の夜間休日交付の業務を行うのは庁舎の警備業務の委託を受けている警備会社の職員である。逗子市では市職員(公務員)の守秘義務違反がストーカ殺人を招いたのに、公務員でない警備員には地方公務員法の守秘義務を求めることはできない。また本来業務ではない警備員に証明書交付と発行手数料の徴収事務を行わせれば、本来の警備業務がおろそかになる恐れがある。警備員は通常、1人が夜間・休日に市役所に常駐している。今回の措置は警備業務(本来の仕事)と証明書交付(市から強制されたタダの仕事)の両方をこなさなればならない警備員の負担は増すばかりだ。夜間・休日交付によって市民の個人情報の漏えいがあった場合の責任は、当然、市が負うべきものであろう。逗子市で起きたストーカー殺人事件が阿賀野市でも起きないことを祈るばかりだ。
(代表 天野 市栄)