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小説「廃屋の町」(第94回)

2017年10月30日ニュース

「我々、改進党の支持母体は労働組合の全国組織『連帯』です。もちろん連帯の県組織もあります。田沼市にも支部があり官民の労働組合で組織されています。単刀直入に言えば、改進党が甘木さんを推薦または支持をすれば、これら労働組合の組織票を甘木さんに差し上げることができます。参考までに、現職の井上市長は民自党の推薦を受けたそうです。そして、甘木さんがめでたく市長に当選したら、秋の市議選に出馬する改進党系の市議を応援していただきたいと考えています」加藤が言った。
「我々、改進党系の市議は現在八人で『新生会』という会派を作っています。秋の市議選では、現職のほか新人3人を擁立して現有議席を8から11に増やしたいと考えています。改進党の推薦や支持を受けた甘木さんが市長に当選すれば、我々、改進党の市議は市長与党として、共立党の市議2人と連携して甘木市政を支えていきたいと考えています」
 明間が言った。田沼市議会は、民自党系会派の「田沼クラブ」が17人、改進党系会派の「新生会」が8人、共立党が2人、それに無所属3人の合計30人で構成されている。
「甘木、いい話じゃないか。草の根で集めた個人票だけでなく、労働組合などの組織票も、ウチの陣営に取り込めれば、こっちの勝算も上がってくるだろう。ところで市役所の職員組合の票も、こちらにもらえるんですか?」風間が明け透けに言った。
「もちろんです。公務員労組の組織票も入っていますから」明間が言った。
 甘木はしばらく考えた後、
「改進党さんから、推薦なり支持を頂きたいと思いますので、よろしくお願いします」と言って深々と頭を下げた。
「分かりました。より強い連携・協力関係を示す『推薦』候補として、県連に上申したいと思います」
 加藤が言った。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」と言って甘木は加藤に礼を言った。
「選挙協力の件については、ここで終わりにします。次に、政策面での調整をしたいと思います」
 明間が言った。
「政策面での調整って、どんなことですか?」風間が尋ねた。
「これは、甘木さんが今月上旬の新聞折り込みに入れた市長選向けの政策ですね?」
 明間がアタッシェケースからB四版両面刷りの折り込みチラシを取り出して言った。
「はい、そうです。新聞の折り込みチラシとして市内に配布しました」甘木が答えた。
「甘木さんの『まちづくり八策』に挙げている政策は、我々、改進党の政策と重なる部分が多いんですよ」明間が言った。
「と言いますと?」甘木が尋ねた。
「我々は、甘木さんの『まちづくり八策』が生活者の視点に立った政策だと考えています。改進党の政策綱領も生活者の利益を第一に考えて作ってあります。改進党が甘木さんとの選挙協力を申し出た趣旨は、単にギブ・アンド・テークによって票の取引するのではなく、政策面での連携・協力関係を築いていきたいと考えたからです。政策面については、明間さんからお願いします」加藤が言った。
「はい、甘木さんの『まちづくり八策』の8番目に、『将来世代(子供たち)に資産として引き継げるように、合併前の旧市町村時代に建てられた公共施設の統廃合を進めます』と書いてありますが、これについて確認させてください」明間が言った。
「はい、どんな点でしょうか?」甘木が尋ねた。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第93回)

2017年10月28日ニュース

 1月下旬、雪の降る中、甘木雄一の事務所に3人の男が訪ねて来た。
「ごめんください。こちらは甘木雄一さんの選挙事務所でしたね?」
「はい、そうですが。どちら様ですか?」事務所番をしていた久保田恵子が尋ねた。
「市議会議員の明間と申します。甘木さんはおいででしょうか?」
「あいにく、挨拶回りに出掛けていますが、間もなく戻ってくると思います。それまで、こちらでお待ちください」久保田は三人に着座を促した。
「ただいま」甘木と風間が言った。
「おかえりなさい」久保田が言った。
「今日の雪は降り止まないね。天気のいい日だと、外に出掛けて留守にしている家が多いんだけど、今日のような天気の悪い日は、家に居ることが多いみたいだよ。数はこなせないけど、家の中に上げてもらって、こっちの話を聞いてもらったり、家の人の話を伺ったりと、ゆっくり話ができて良かったよ」
 風間が言った。
「甘木君、お客さんがお待ちよ」久保田が言った。
「市長選挙に出馬される甘木雄一さんですね?私は市議会議員の明間昇と申します。こちらは県議会議員の加藤功さんです」
「初めまして、田沼市選挙区選出の加藤功と申します」
「私は市内で建設業をやっています青木敏夫と申します」
 3人は甘木に名刺を渡した。
「甘木雄一と申します。よろしくお願いします」
 甘木は顔写真入りの名前とプロフィールを書いたカードを三人に渡した。
「私は、選対本部長を務めています風間健一と申します。割烹『寿屋』を経営しています」
 風間は「甘木雄一選挙事務所選対本部長 風間健一」と書かれた名刺を3人に渡した。
「私は事務局長を務めています久保田恵子と申します」
 入れたてのコーヒーを持ってきた久保田が言った。
「市長選まであと、あと3か月ほどになりましたね。準備は順調に進んでいますか?」
 明間が甘木に尋ねた。
「初めての選挙なものですから、選挙実務のプロの方から、アドバイスを受けながら何とかやっていますが……」甘木が答えた。
「選挙実務のプロって?どなたですか?」明間が尋ねた。
「元田沼市の職員で、選挙管理委員会に長く務めていた方から教えてもらいながら選挙準備を進めています」甘木が答えた。
「その方って、もしかして米内修二さんですか?」明間が尋ねた。
「ええ、そうですが……」甘木が答えた。
「米山さんですか!我々市議も選挙になると米山さんにお世話になったもんですよ」
 明間が言った。
「今年は選挙イヤーですね。四月の統一地方選挙で県議選と市長選が行われ、10月には市議選と県知事選挙が行われます。気の抜けない一年になりそうです。統一地方選挙の前半の日程で行われる県議選の田沼市選挙区は、今回は選挙になりそうです」加藤が言った。
 県議会議員選挙の田沼市選挙区の議員定数は二人で、県政与党の民自党と野党の改進党が、それぞれ一議席ずつ議席を分け合っている。
「県議選には現職二人が出馬するって話を聞いていましたが、その他に新人が出るんですか?」
 風間が尋ねた。
「国会議員の元秘書が無所属で出馬するという情報が入ってきました。本日、甘木さんの事務所にお伺いした趣旨は、春の県議選と市長選、それに秋の市議選と選挙が続くなかで、連携・協力関係を構築できるのではないかということです。」加藤が言った。
「連携・協力関係とはどういうことですか?」甘木が尋ねた。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第92回)

2017年10月26日ニュース

「部長、お願いって、何ですか?」
「坂井さんの実家の工場が田沼川の改修工事の河川用地に引っかかっていることは、ご存知ですよね?」中山が言った。
「はい、知っています。3年前に廃業した工場ですが……」
「実は、用地買収を担当している県の担当課が、地権者と買収単価で折り合いがつかなくて、困っているそうなんです」佐々木が言った。
「この前、実家に帰ったら、県から提示された金額では売れないって、父親が言っていました」
「民間の開発用地と違って、公共用地として税金を使って買うわけですから、幾らでも高く買いますってわけにはいかないんですよ。どうしても、地権者が望む単価にならない場合だってあります。買収単価の上限額は決まっていますからね。もちろん、田んぼの単価よりも高く設定してあります。上限額で売ってもらえるよう、お父さんに頼んでもらいたいんですが……」佐々木が言った。
「はい、分かりました。頼んでみます」
「坂井さん、よろしくお願いします。坂井さんも知っているように、市民の皆さまから頂いた大切な税金は『最小の経費で最大の効果』が得られるように使わないとね」佐々木が言った。
「無駄な公共事業も多いと思いますけど……」と坂井が言うと、佐々木はむっとした顔を浮かべた。
「私からも一点、坂井さんにお願いがあるんですが……」税務課長の百瀬が言った。
「何でしょうか?」
「実は、廃業した工場の固定資産税が3年前から滞納になっています。坂井さんは、このことを知っていました?」
「いいえ、初めて知りました」
「坂井さんも知っているように、5年経つと消滅時効になって、税金を徴収できなくなります。これまで何度も督促状を出しているんですが、ダメでした。工場の中に設置されていた機械設備も固定資産税の対象になっていましたが、こちらの方は滞納処分で税金を回収させていただきました。工場の固定資産税も収めていただけないようだと、滞納処分で公売になってしまいます。そうならないためにも、滞納している税金を早く納めていただくよう、坂井さんから頼んでもらいたいんですが……」
「はい、分かりました」
 滞納処分は、税の滞納があった場合、納付の督促があってなお完納されないとき、税務官庁が行う強制徴収手続。滞納者の財産の差押え納付を促すが、差押え中になお完納されないときは、差押えられた滞納者の財産は公売等により換価され、換価代金は滞納処分費・税金にあてられる。
「むしろ滞納処分で公売にかけた方がいいんじゃないか?そうすれば、用地買収もスムーズに進むんじゃないかなあ。公共用地に提供される土地なんだから、買い手は幾らでもいる。そうなったら、私も公売に参加しようかな」中山が言った。
 坂井はむっとした顔を浮かべ、中山を睨みつけた。
「市が行う財産公売に、市の職員は参加できません」百瀬が言った。
「冗談だよ」中山が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第91回)

2017年10月24日ニュース

「佐々木君、ちょっと市長室まで来てもらえないかな」
 井上市長は、内線電話で建設課長の佐々木健一を呼んだ。
「失礼します」佐々木が市長室に入った。
「まあ、掛けたまえ。実は、君に頼みたいことがあるんだけどね」
「何でしょうか?」
「県の公共事業だけど、県が事業主体になってやっている田沼川の改修工事は、君も知っているよね?」
「はい、知っています。山田県議がライフワークとして取り組んでいる県事業ですね。山田県議のおかげで毎年数10億の公共事業予算が付くので、建設業界も、毎年、一定量の仕事がもらえるって喜んでいますよ」
「実は、先日、山田県議が来て、用地買収が難航している個所があるんで、市からも用地交渉が上手く進むように協力してもらいたいという相談があったんだ。田沼川の川幅を広げるため、左岸側の田んぼを河川用地として買収する計画だけど、田沼川と国道が交差している場所に建っている工場が河川用地に引っかかっていて、県の用地担当課はこの工場の所有者と用地交渉をしているそうなんだが、買収単価でもめているらしいんだ」
「分かりました。ウチの用地担当が県と地権者の間に入って用地交渉が上手くいくようにします。その工場って、確か、2、3年前に経営不振で廃業した工場ですよね?」
「そうらしいね。税務課長の話では、工場の固定資産税が滞納になっているそうだ」
「ええ、そうなんですか?あの工場は、財政課の予算係長をしている坂井盛男の実家が持っている建物ですよ」
「ええ、職員の実家の建物だって!困るね、市の職員の実家が税金を滞納しているようじゃ。恥ずかしいと思わないのかね?ところで、佐々木君の実家は、建設用の砂利を製造しているんだろう?市税の滞納はないよね?」
「もちろんですよ。毎年、一定量の公共工事があるおかげで、ウチの実家も助かっていますよ。滞納なんか絶対にありません」
「分かった。用地交渉の件、よろしく頼むよ」
「承知しました」佐々木は市長室を後にした。
 プルルル、プルルル 財政課予算係長の坂井盛男は内線電話を取った。
「はい、財政課の坂井ですが……」
「部長の中山です。坂井さん、ちょっと部長室まで来てもらえませんか」
「はい、今、行きます」
「失礼します」
 坂井が部長室に入ると、中山邦夫総務部長、佐々木健一建設課長、百瀬慎二税務課長の三人が在席していた。
「坂井さん、すみませんね。予算編成で忙しい時期に呼んで……」中山が言った。
「大丈夫です。新年度予算の編成作業もいいところ終わりましたから……」
「実は、坂井さんにお願いしたいことがあるんです」中山が言った。
「部長、お願いって、何ですか?」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第90回)

2017年10月22日ニュース

 プルルル、プルルル
 井上市長の携帯が鳴った。電話は山田県議からだ。
「例の政財界信州の根津から吹っ掛けられた1000万円の件だけど、根津は社長の指示で動いていたようだ。ウチのマスコミ担当が社長と面会して交渉したんだが無理だったよ。先方の要求どおり1000万円を用意してもらえないだろうか。それと手間代も貰えるかね。両手でいいよ」
「1000万円ですか!」
「一桁違うよ。100万だ」
「分かりました。早速1100万円を用意させます。お手数をお掛けして申し訳ありませんでした」
「それと橋爪の交通違反歴だけれど、昨年、駐停車違反をやっているね。違反点数は2点だ」
「駐停車違反ですか。こちらで確認しますが、その程度の交通違反で懲戒処分ができますかね?県議さんにはお手数をお掛けしました。どうもありがとうございました」
 電話を終えた井上は日下部に指示して、総務課長の立川智を市長室に呼んだ。
「失礼します」立川が市長室に入った。
「まあ、掛けたまえ」
「はい」
「この前は、橋爪係長の運転免許証のコピーの件、ありがとう。コピーは用が済んだのでシュレッダーにかけて処分しておいたから大丈夫だよ。一般論として君に聞きたいんだが、駐停車違反をした場合は懲戒処分になるのかね?」
「橋爪が駐停車違反をしたってことですか?」
「一般論として聞きたいって、今、言っただろう!」
「ああ、そうでしたね。駐停車違反のような軽微な交通法規違反では懲戒処分にはなりません」
「では、どういった交通違反なら懲戒処分になるんだね?」
「田沼市が定めている職員の懲戒処分の指針によりますと、飲酒運転をした場合は免職、停職、減給となりますが、事故を起こすと厳しい処分となります。酒酔い運転で人を死亡させ、怪我をさせた場合は免職になります。酒気帯び運転で人を死亡させ、怪我をさせた場合は免職か停職になります。飲酒運転以外の交通法規違反では、過労運転や無免許運転をした場合は停職になりますが、事故を起こすと厳しい処分となります。死亡させ、怪我をさせた場合は免職になります。30キロ以上の速度超過をした場合は、停職、減給、戒告になりますが、事故を起こすと免職になる場合があります」
「部下の交通違反に対して上司が処分されることもあるのかね?」
「あります。管理監督者としての指導監督に適正を欠いていた場合は、減給や戒告となります」
「いろいろと教えてくれてありがとう。もう帰っていいよ」
 総務課長の立川智は市長室を後にした。
「橋爪の懲戒処分は無理か」井上はつぶやいた。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第89回)

2017年10月20日ニュース

「担当職員は誰だね?」
「庶務係長の橋爪勉です」
「橋爪?思い出したよ。確か田沼市民オンブズマンから、市長交際費についての情報公開請求があった時に、立川君と一緒にここで説明した職員だったね」
「はい、そうです。彼は情報公開事務を担当しています」
 井上は、田沼市民オンブズマンから提出された情報公開請求の内容及び対応について、担当の橋爪係長からレクチャーを受けたことを思い出した。市長交際費については、田沼市はこれまで県内19市のうち、唯一公表していなかった。市民オンブズマンから、市長交際費の支出一件毎に支出日、支出区分、支出内容、支出先、支出額を開示するようにと、昨年10月、請求があったことを思い出した。
「分かった。先月の運行記録を見せてもらいたいんだが……」
「橋爪係長に持って来させましょうか?」
「いや、適当な理由を言って、君が橋爪係長から借りてきてもらえないだろうか?」
「はい、分かりました」立川が運行記録を持って市長室に戻った。
「市長、これです」立川は市長公用車の運行記録を井上に渡した。
 運行記録は年度初めの4月1日から記入されていた。運転員の氏名、公用車が車庫を出た時刻、用務先と到着時刻、走行距離、車庫に戻った時刻が記入されている。『政財界信州』の根津に写真を撮られた日の運行記録を見ると、用務先は『長野市内』と記入されていた。欄外の余白には鉛筆書きでクエスチョンマークが付けられていた。
「このクエスチョンマークを付けたのは、橋爪係長かね?」
「たぶんそうだと思いますが、それがどうかしましたか?」
「いや、何でもない」
 クエスチョンマークは他にも付けてある。いずれも井上が公用車を使って別宅のマンションに行った日だ。公用車が公務外に使用されていることを橋爪係長が気付いているのかもしれないと、井上は思った。
「橋爪係長は君の部下だけど、上司の立場から見た場合、彼はどんな職員だね?」
「几帳面な性格で、仕事を丁寧に仕上げる点はいいんですが、反面、かなり神経質なタイプの職員ですね」
「神経質?」
「はい、細かい所にまで目が届くというか、細か過ぎると言った方がいいかもしれません。彼は部下に対して、仕事のやり方について、細かな点まで指示しているみたいで、部下はやりにくいみたいですね」
「橋爪係長は人事の面で何か不満を持っているのかね?」
「それはあると思います。同期でまだ係長止まりでいるのは彼だけですからね」
「橋爪係長の昇進が遅れているというは、何か理由があるのかね?」
「神経質な性格が災いしたのか、ヒラの時にうつ病を患って2年ほど、仕事を休んでいました」
「ああ、そうだったの」
 井上は運行記録を立川に戻した後、
「立川君、職員の運転免許証のコピーって、総務課で管理しているよね?」
「はい、人事係が持っています」
「悪いんだが、橋爪係長の運転免許証のコピーをもらえないだろうか?」
「ええ!どのような用向きで橋爪係長の免許証のコピーが必要なんでしょうか?免許証は職員の個人情報にあたりますから、慎重に扱わないと……」立川は驚いた様子で尋ねた。
「つべこべ言わずに、持って来なさい!」
「は、は、はい。今すぐにお持ちします」立川は慌てて市長室を出て行った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第88回)

2017年10月18日ニュース

「そりゃ職員が800人もいれば、私の市政運営に反感を持っている職員は当然いますよ。特に人事で冷や飯を食っていると思っている職員は、自分の能力や資質に問題があるのに、それを認めないで上司のせいにしている職員も多いと聞いていますよ」
「今回、マスコミにリークした職員は、市長に相当な反感を抱いている人物じゃないだろうか。これが公表されれば、市長にとっては致命傷になるスキャンダルだ。早く犯人を見つけ出して処分しないと、第2、第3のリークが出て来るかもしれないよ」
「分かりました。考えられるとすれば、公用車の運行記録を管理している総務課の職員ですかね。市長の公務日程は職員なら誰でもパソコンを開けば見られますが、公用車の運行記録は担当職員しか見られません。その職員が公務日程と運行記録を突合すれば、公務日程にない公用車の運行記録があることを確認できますからね」
「その職員の氏名、生年月日、住所を調べてくれないか。できれば運転免許証のコピーがあれば、なおいいんだが……」
「免許証のコピーはあると思いますよ。職員も公用車を運転することがあるので、免許証を切り替えた時にコピーを提出させているみたいですが……。山田県議さん、免許証のコピーをもらって何をするんですか?」
「その職員の交通違反歴を調べるんだ。懲戒処分の対象になるような重大な交通違反が見つかるかも知れないからね。飲酒運転をやっていれば、一発で懲戒免職にできるんじゃないの?」
「人身事故でも起こしていれば、懲戒免職にできるかも知れませんが、そんなに簡単にはいかないと思いますよ。ところで、運転免許証のコピーを使って交通違反歴を調べるといっても、どうやって調べるんですか?」
「県警の職員なら調べられるよ」
「それは無理ですよ。だって公務員には守秘義務がありますから」
「そう、現職に頼んでも無理なので県警OBを仲介役にして調べるんだ」
「確か、山田県議さんが所属している県議会の常任委員会は建設公安委員会でしたよね?」
「そう、私は県議になってから今まで建設公安委員会にずーと籍を置いてきた。建設公安委員会は土木部や耕地整備部それに県警を担当している。私はこれまで、市長と同じように県や県警の幹部連中にはいろいろと、人事面で便宜を図ってやったよ。恩義を受ければお返しは付き物だ」
「私も県職員時代は土木部に籍を置いていましたから、県議さんにはいろいろと人事の面ではお世話になりました。今でも恩義を感じていますよ」
「とにかく、市長公用車の運行記録を管理している職員の免許証のコピーを用意してもらいたい」
「はい、分かりました」
 山田が帰った後、井上は日下部に指示して、総務課長の立川智を市長室に呼んだ。
「失礼します」立川が市長室に入った。
「まあ、掛けたまえ」
「はい」
「市長公用車の運行記録を管理しているのは立川君のところだよね?」
「はい、ウチの方で管理していますが……」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第87回)

2017年10月16日ニュース

「県議さんがここに来る前に、政財界信州の根津雅人っていう記者が、4月の市長選挙のことで取材させてくれって、私の所に来たんですよ。でも本当の目的はこれでした」
 井上は根津から渡された政財界信州3月号のゲラ刷りを山田に見せた。
「井上さん、やられたね。根津っていう男は、有る事無い事、ゴシップ記事を書くのが得意な記者だよ。民自党県連の若い連中も、彼にスキャンダルを書かれたことがあったよ。選挙が終わった後に出たからよかったが、それが選挙前だったら落選していたかもしれないね。もしかして、根津からこの記事を買ってくれって言われたの?」
「はい、そうなんです。1000万円で買ってくれって言われました」
「へえ、1000万円!足下を見られたね。もっとも相手が市長ならこれくらいの相場になるのかね。しかしタイミングが悪いよ。この記事が出るのは2月下旬頃だろう?市長選を二か月後に控えている大事な時期に、こんな記事が出れば女性票が逃げてしまうよ。市長の奥さんは六光学会の婦人部長だろう?早く火消しをしないと、延焼して取り返しのつかないことになってしまうよ」
 六光学会は全国的に組織している宗教団体で、田沼支部の会員数は3500人余り。有権者総数の4・1%を占める組織票で、そのうち4分の3は女性票だ。
「根津記者には1週間以内に返事をすることになっていますが、どうしたらいいんでしょうか?」
「県連にマスコミ対策の専門家がいるから相談してみるよ。ところで、市長は公用車を使って別宅のマンションに行くことがあるのかね?」
「時々ありますが、彼女と一緒に公用車に乗ってマンションに行ったというは、今回が初めてです」
「マンションでひとときの逢瀬を楽しんだってことかね?しかし、二人が公用車から降りたところを撮られたのはまずかったね」
「普段は彼女の方が先にマンションに入って私を待っているんですが、その日は彼女の行き付けの美容院を経由してマンションに向かったものですから、そういうことになりましてね」
「しかし、一体、誰が雑誌社に情報を流したんだろうね?この記事には公用車に乗ってマンションに向かったとあるけれど、雑誌社にリークしたのは市役所の職員かね?市長の公務日程を管理しているのは秘書だろうし、実際に市長をマンションまで乗せていったのは公用車の運転手だろう?」
「二人にはそれなりの便益を与えていますから、二人から情報が洩れるなんてことはまずないと思います」
「便益?」
「人事や服務規律といった労務管理の面ですね。私に恩義を感じている二人がリークするなんてことはあり得ないことですよ」
「ということは、二人以外の職員から情報が漏れたことになるね。井上市長が選挙で不利になるような情報が市役所内部からマスコミに漏れたということは、市長に反感を持っている職員がいるってことだよ」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第86回)

2017年10月14日ニュース

「山田県議さんがおいでになりました」
 秘書係長の日下部俊夫が山田を市長室に案内した。
「井上市長、顔色が悪いみたいだけど、どうかしたかね?」
「いいえ、何でもありません。さあ、どうぞ」井上は山田に着座を促した。
「今日は、田沼川の改修工事の件で市長に頼みたいことがあって、来たんだけどね」
「私に頼み事って、いったい何でしょうか?」
「市長も分かっていると思うけど、20キロの改修区間のうち15キロは用地買収も終わって、今は、残りの5キロ区間の用地交渉を行っているんだが、一か所、買収単価で地権者と揉めているところがあってね。用地交渉が上手くまとまるように、市からも間に入って調整してもらいたんだ」
「用地買収なら土地改良区が間に入って上手く進めているんじゃないですか?」
「買収する土地が田んぼなら土地改良区に任せてもいいんだが、そこは田んぼじゃないんだ」
「田んぼじゃない?田沼川の左岸側に広がる田んぼを買収して川幅を広げる計画じゃなかったですか?」
「田沼川と国道が交差している場所に工場が一棟建っているんだが、この工場の所有者が、こんな安い単価じゃだめだと言って、頑として首を縦に振らないそうだよ。県の担当課長がそう言ってたよ」
「鉄工所ですよね。あの工場は2、3年前に経営不振で廃業したんじゃないですか。固定資産税が滞納しているって話を、税務課長から聞いたことがありましたが……」
「家屋が建っている土地は、田んぼよりも買収単価は高く設定されているんだが、それでも地権者は納得しないようだ。県の用地担当も困っている。市の方からも、用地交渉が上手く進むように、取り計らってもらえないだろうか?」
「分かりました。早速、建設課に指示を出します。県議さんの用向きはこれで終わりでしょうか?」
「ああ、これだけだよ。どうしたの?そんなに深刻そうな顔をして。何かあったの?」
「実は、県議さんに折り入ってご相談したいことがありまして……」
「相談って何だね?」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第85回)

2017年10月12日ニュース

「井上市長、この記事を買い取っていただけませんか?」と言って、根津はゲラ刷りの見開き2頁の記事を井上に渡した。
「こ、これは!」
 ゲラ刷りを見た井上は顔面蒼白になった。ゲラ刷りには、「平日昼間の逢瀬?井上将司田沼市長、公用車に愛人を乗せて別宅のマンションで密会!」という見出しと記事、それと車から降りてマンションに入る男女の姿を撮った写真が掲載されていた。
「あんた、私を見張っていたんだな?」
「どうやら、この男の人はご自身のようですね。女の人は、市長が県職員時代に部下だった人でしょう?名前は分かっていますよ」
「誰だ?あんたに情報提供した人物は。市の職員かね?」
「情報源は言えませんね。この記事は3月号に掲載される予定です。こんなスキャンダルな記事が選挙前に出たら、まずいんじゃないですか?」
「何が目的だ」
「ビジネスです」
「ビジネス?幾ら出せばこの記事をボツにできるんだね?」
「両手で、どうですか?」
「100万円かね?」
「ご冗談を。一桁違いますよ」
「え、え!それじゃ、1000万円かね?」
「そんなところですね」
「随分と吹っ掛けるじゃないか!」
「スクープ記事ですからね。これくらいの値打ちはありますよ。1週間以内にご返事をください」と言って、根津は帰っていった。
 井上は茫然と立ち尽くした。
(作:橘 左京)

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