2024年4月
« 3月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

ブログ

小説「廃屋の町」(第87回)

2017年10月16日ニュース

「県議さんがここに来る前に、政財界信州の根津雅人っていう記者が、4月の市長選挙のことで取材させてくれって、私の所に来たんですよ。でも本当の目的はこれでした」
 井上は根津から渡された政財界信州3月号のゲラ刷りを山田に見せた。
「井上さん、やられたね。根津っていう男は、有る事無い事、ゴシップ記事を書くのが得意な記者だよ。民自党県連の若い連中も、彼にスキャンダルを書かれたことがあったよ。選挙が終わった後に出たからよかったが、それが選挙前だったら落選していたかもしれないね。もしかして、根津からこの記事を買ってくれって言われたの?」
「はい、そうなんです。1000万円で買ってくれって言われました」
「へえ、1000万円!足下を見られたね。もっとも相手が市長ならこれくらいの相場になるのかね。しかしタイミングが悪いよ。この記事が出るのは2月下旬頃だろう?市長選を二か月後に控えている大事な時期に、こんな記事が出れば女性票が逃げてしまうよ。市長の奥さんは六光学会の婦人部長だろう?早く火消しをしないと、延焼して取り返しのつかないことになってしまうよ」
 六光学会は全国的に組織している宗教団体で、田沼支部の会員数は3500人余り。有権者総数の4・1%を占める組織票で、そのうち4分の3は女性票だ。
「根津記者には1週間以内に返事をすることになっていますが、どうしたらいいんでしょうか?」
「県連にマスコミ対策の専門家がいるから相談してみるよ。ところで、市長は公用車を使って別宅のマンションに行くことがあるのかね?」
「時々ありますが、彼女と一緒に公用車に乗ってマンションに行ったというは、今回が初めてです」
「マンションでひとときの逢瀬を楽しんだってことかね?しかし、二人が公用車から降りたところを撮られたのはまずかったね」
「普段は彼女の方が先にマンションに入って私を待っているんですが、その日は彼女の行き付けの美容院を経由してマンションに向かったものですから、そういうことになりましてね」
「しかし、一体、誰が雑誌社に情報を流したんだろうね?この記事には公用車に乗ってマンションに向かったとあるけれど、雑誌社にリークしたのは市役所の職員かね?市長の公務日程を管理しているのは秘書だろうし、実際に市長をマンションまで乗せていったのは公用車の運転手だろう?」
「二人にはそれなりの便益を与えていますから、二人から情報が洩れるなんてことはまずないと思います」
「便益?」
「人事や服務規律といった労務管理の面ですね。私に恩義を感じている二人がリークするなんてことはあり得ないことですよ」
「ということは、二人以外の職員から情報が漏れたことになるね。井上市長が選挙で不利になるような情報が市役所内部からマスコミに漏れたということは、市長に反感を持っている職員がいるってことだよ」
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者