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小説「廃屋の町」(第91回)

2017年10月24日ニュース

「佐々木君、ちょっと市長室まで来てもらえないかな」
 井上市長は、内線電話で建設課長の佐々木健一を呼んだ。
「失礼します」佐々木が市長室に入った。
「まあ、掛けたまえ。実は、君に頼みたいことがあるんだけどね」
「何でしょうか?」
「県の公共事業だけど、県が事業主体になってやっている田沼川の改修工事は、君も知っているよね?」
「はい、知っています。山田県議がライフワークとして取り組んでいる県事業ですね。山田県議のおかげで毎年数10億の公共事業予算が付くので、建設業界も、毎年、一定量の仕事がもらえるって喜んでいますよ」
「実は、先日、山田県議が来て、用地買収が難航している個所があるんで、市からも用地交渉が上手く進むように協力してもらいたいという相談があったんだ。田沼川の川幅を広げるため、左岸側の田んぼを河川用地として買収する計画だけど、田沼川と国道が交差している場所に建っている工場が河川用地に引っかかっていて、県の用地担当課はこの工場の所有者と用地交渉をしているそうなんだが、買収単価でもめているらしいんだ」
「分かりました。ウチの用地担当が県と地権者の間に入って用地交渉が上手くいくようにします。その工場って、確か、2、3年前に経営不振で廃業した工場ですよね?」
「そうらしいね。税務課長の話では、工場の固定資産税が滞納になっているそうだ」
「ええ、そうなんですか?あの工場は、財政課の予算係長をしている坂井盛男の実家が持っている建物ですよ」
「ええ、職員の実家の建物だって!困るね、市の職員の実家が税金を滞納しているようじゃ。恥ずかしいと思わないのかね?ところで、佐々木君の実家は、建設用の砂利を製造しているんだろう?市税の滞納はないよね?」
「もちろんですよ。毎年、一定量の公共工事があるおかげで、ウチの実家も助かっていますよ。滞納なんか絶対にありません」
「分かった。用地交渉の件、よろしく頼むよ」
「承知しました」佐々木は市長室を後にした。
 プルルル、プルルル 財政課予算係長の坂井盛男は内線電話を取った。
「はい、財政課の坂井ですが……」
「部長の中山です。坂井さん、ちょっと部長室まで来てもらえませんか」
「はい、今、行きます」
「失礼します」
 坂井が部長室に入ると、中山邦夫総務部長、佐々木健一建設課長、百瀬慎二税務課長の三人が在席していた。
「坂井さん、すみませんね。予算編成で忙しい時期に呼んで……」中山が言った。
「大丈夫です。新年度予算の編成作業もいいところ終わりましたから……」
「実は、坂井さんにお願いしたいことがあるんです」中山が言った。
「部長、お願いって、何ですか?」
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者