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小説「廃屋の町」(第86回)

2017年10月14日ニュース

「山田県議さんがおいでになりました」
 秘書係長の日下部俊夫が山田を市長室に案内した。
「井上市長、顔色が悪いみたいだけど、どうかしたかね?」
「いいえ、何でもありません。さあ、どうぞ」井上は山田に着座を促した。
「今日は、田沼川の改修工事の件で市長に頼みたいことがあって、来たんだけどね」
「私に頼み事って、いったい何でしょうか?」
「市長も分かっていると思うけど、20キロの改修区間のうち15キロは用地買収も終わって、今は、残りの5キロ区間の用地交渉を行っているんだが、一か所、買収単価で地権者と揉めているところがあってね。用地交渉が上手くまとまるように、市からも間に入って調整してもらいたんだ」
「用地買収なら土地改良区が間に入って上手く進めているんじゃないですか?」
「買収する土地が田んぼなら土地改良区に任せてもいいんだが、そこは田んぼじゃないんだ」
「田んぼじゃない?田沼川の左岸側に広がる田んぼを買収して川幅を広げる計画じゃなかったですか?」
「田沼川と国道が交差している場所に工場が一棟建っているんだが、この工場の所有者が、こんな安い単価じゃだめだと言って、頑として首を縦に振らないそうだよ。県の担当課長がそう言ってたよ」
「鉄工所ですよね。あの工場は2、3年前に経営不振で廃業したんじゃないですか。固定資産税が滞納しているって話を、税務課長から聞いたことがありましたが……」
「家屋が建っている土地は、田んぼよりも買収単価は高く設定されているんだが、それでも地権者は納得しないようだ。県の用地担当も困っている。市の方からも、用地交渉が上手く進むように、取り計らってもらえないだろうか?」
「分かりました。早速、建設課に指示を出します。県議さんの用向きはこれで終わりでしょうか?」
「ああ、これだけだよ。どうしたの?そんなに深刻そうな顔をして。何かあったの?」
「実は、県議さんに折り入ってご相談したいことがありまして……」
「相談って何だね?」
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者