2017年10月
« 9月   11月 »
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

ブログ

小説「廃屋の町」(第82回)

2017年10月6日ニュース

「ねえ、恵ちゃん、これ見た?井上市長の選挙公約が書かれたパンフレットだよ。ウチの郵便受けに山田県議の後援会報と一緒に入っていたよ」
 風間健一が事務所番の久保田恵子にパンフレットを渡した。
「ああ、これね。私も見たわ。選挙公約というよりは、田沼市の新年度事業予算のいいところをぱくって載せたって感じよね。来月始まる市議会で審議、承認されないと執行できない新年度の事業予算を選挙公約にするなんて、議会軽視も甚だしいわ」久保田が言った。
「仕方がないですよ。市長派議員が3分の2を占めている今の市議会の状況をみれば、新年度の事業予算は原案のまま承認されるんじゃないですか。特に、公共事業予算は市議会の最大会派「田沼クラブ」の意向を踏まえて作られています。このパンフレットを見ると、太字で書いてある文化会館整備事業と総合体育館整備事業がひときわ目立って見えますね」
 元田沼市選挙管理委員会事務局長の米山修二が言った。
「文化会館と総合体育館の建設は、井上市長の選挙公約の中では目玉になる事業だからね。しかし、このパンフに載っている事業はほとんどが公共事業だ」風間が言った。
「そうね。いかにも建設業界向けに作った選挙公約って感じよね」久保田が言った。
「建設業界の票は確実にもらえる組織票だから、業界関係者の心をしっかりとつかんでおきたいんだろうね」風間が言った。
「子育て世代や高齢者向けのソフト事業も少しだけど載っているわ。井上陣営はこの人たちの票も取り込みたいのかしら?」久保田が言った。
「そうだね。ところで、この『まちなかコンビニ塾』って何だい?1200万円も予算がついているよ」風間が言った。
「ウチの母から聞いた話だけど、高齢者向けの趣味講座だそうよ。趣味もなく、友達付き合いもなくて、家に閉じこもりがちのお年寄りや、時間を持て余しているお年寄りの生きがい対策として、市が趣味の教室を開設するそうよ」久保田が答えた。
「趣味の講座なら公民館を使って自主的にやっているし、市がやるにしても、公民館行事として既にやっているじゃないか。どうして、同じような事業を税金を使ってやる必要があるんだい」
 風間が語気を強めて言った。
「空き店舗対策と六光学会の会員の小遣い稼ぎが本当の目的らしいわよ」久保田が言った。
「恵ちゃん、それって、どういう意味だい?」風間が尋ねた。
「商店街にある空き店舗を趣味講座の会場に使うことで、商店街に賑わいを取り戻そうということらしいけど、これは表向きの理由で、実際は六光学会の会員の空き店舗を借りることになっているみたいよ。その上、趣味講座の講師も六甲学会の会員からやってもらうことで話がついているらしいわよ」
 久保田が答えた。
「それって出来レースってことじゃないかい。空き店舗を使うったって、タダで借りるわけではないし、講師だって、ボランティアで引き受けてくれるわけでもないだろうし。みんなお金のかかる話だよ」風間が憤慨した面持ちで言った。
「それが事実だとすれば、公職選挙法の買収罪(第221条第1項第1号)になりますね」
 田沼市選挙管理員会元事務局長の米山修二が公職選挙法令集を手に持って言った。
「米山さん。買収罪になるって、どういうことですか?」久保田が尋ねた。
「当選させるために、選挙人(有権者)に対して金銭、物品その他の財産上の利益を若しくは公私の職務の供与を約束した場合は買収罪になります。空き店舗の借り上げは『財産上の利益』にあたりますし、講師をやってもらうことは『公私の職務の供与』になります。六光学会は、今回の市長選挙では現職の井上市長の支持を表明しています。六光学会の上層部にいる人は、選挙人というよりは選挙運動者と呼んでいいかも知れませんね。なかには組織的選挙運動管理者もいるでしょう」米山が答えた。
「組織的選挙運動管理者って?」久保田が尋ねた。
「候補者と意思疎通ができる人で、選挙運動の計画立案や調整、選挙運動に従事する人を指揮監督する立場にある人のことです。この組織的選挙運動管理者が買収罪を犯した場合、候補者の当選は無効になり、5年間、同じ選挙で同じ選挙区から立候補できなくなります」米山が答えた。
「いずれにしても、馬の目の前に好物の人参をぶら下げて早く走らせようとするように、有権者受けする新年度の事業予算を見せて票を釣ろうという戦法じゃないの?全く有権者をバカにしているよ」
 風間が吐き捨てるように言った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者