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小説「廃屋の町」(第83回)

2017年10月8日ニュース

「それと、ウチの母が言うには、六光学会の婦人部の人がこのパンフレットを持って回っているそうよ。先日、六光学会の婦人部に入っている母の友人が家にやって来て、『市長選挙には井上将司市長をお願いします。田沼支部婦人部は4月の市長選挙で井上将司市長を推薦しました』と言って、このパンフと六光学会田沼支部の会報を置いていったそうよ。会報には『田沼支部婦人部は4月の市長選挙で井上将司市長を推薦しました』という記事が載っていたわ。それに、母の話だと井上市長の奥さんが六光学会の婦人部長だそうよ」久保田が言った。
「確か、田沼市内の六光学会の会員数は3500人余りと言われているよ。会員のほとんどが女性会員で、この票が井上支持に回るとなると大きな脅威だな。井上陣営は建設業界の票を固めただけでなく宗教団体の票まで固めていたようだね」風間が心配そうな顔で言った。
「米山さん、井上市長の選挙公約が載ったパンフレットを一般家庭に配って回ることは、選挙違反にならないんですか?」久保田が尋ねた。
「この場合のポイントは2つあります。一つは戸別訪問にあたるかどうか。もう一つは政治活動との関連です」
「戸別訪問って何ですか?」久保田が尋ねた。
「有権者の家を訪ねて投票を依頼する行為です。戸別訪問は公職選挙法では禁止されています」
「それじゃ、母が、家を訪ねて来た友人から『市長選挙には井上将司市長をお願いします。田沼支部婦人部は4月の市長選挙で井上将司市長を推薦しました』って言われたけど、これって選挙違反になるってことですか?」久保田が尋ねた。
「事実とすれば戸別訪問にあたり、選挙違反になりますが、今のケースだと、『言われた』、『いや、言わなかった』ということになり、お母さんのお友達が言った言葉が録音されていれば別ですが、投票を依頼されたという事実が証拠として残っていなければ、どうしようもありません」
「もう一つの政治活動との関連というのは?」風間が尋ねた。
「このパンフの作成・配布が政治活動として行われたものなのか、それとも選挙目当ての普及宣伝活動として行われたものかの違いです。政治活動として行われていれば規制されませんが、選挙目当てに行われた活動であれば違反になりますが……」
「このパンフには井上市長の選挙公約が載っていますし、母は、このパンフを持って来た人から『市長選挙には井上将司市長をお願いします』と言われました。それに六光学会の会員でもない母に会報を置いていったことから考えれば、選挙の目当ての票集めだってことは、誰だって分かるんじゃないですか?」久保田が言った。
「しかし、このパンフには井上市長が市長選に立候補するだとか、選挙公約だとか、選挙に関する言葉が一切載っていません。このパンフを持ってきたお母の友人が言った『市長選挙には井上将司市長をお願いします』という言葉も証拠として残っているわけじゃありません。それに、このパンフの右上に『将進会報・号外』とあり、下の余白に小さな字で『発行責任者 松本正蔵』と書いてあります」
 米山がパンフレットを見ながら言った。
「『将進会』って、確か井上市長の後援会(政治団体)の名前だったよな。それに松本正蔵は将進会の会長で田沼市土地改良区の理事長だよ」風間が言った。
「外見上は、政治活動用に作られ配布された文書ということになりますが、後援会の会員でない家にまで配布されているとすれば問題ですね。政治活動用の文書は、本来、政治団体が開催する演説会、研修会などの政治集会に参加した人に配られる文書ですから、その文書を一般家庭に配れば違反になります」米山が言った。
「井上陣営は選挙違反しているって、警察に通報した方がいいじゃないの?」久保田が言った。
「この程度の違反じゃ、文書警告で終わってしまいますよ。警察が一番目を光らせているのは買収ですよ。お金を支払って有権者の票を買い取る買収は最も悪質な選挙犯罪です。しかし、お金をもらった人も罪に問われることから、なかなか表に出てきませんが……」
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者