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小説「廃屋の町」(第62回)

2017年8月27日ニュース

「野上さんに現金を渡した須藤紀夫は逮捕されなかったんですか?」風間が尋ねた。
「時効の壁だね。収賄の時効は5年だが、贈賄は3年で時効が成立する」野上が答えた。
「野上さんの上司は事件に関わっていなかったんですか?」甘木が尋ねた。
「私を利用して悪事を働いた上層部の連中はおとがめなしだ。結局、私は『トカゲのしっぽ切り』にされたんだよ」
「上層部の連中とは?」甘木が尋ねた。
「私が認識しているのは、直属の上司であった内藤隆志建設課長だが、その上の上層部だって入札情報の漏洩には関わっていたと思っている」
「野上さんは入札情報の漏洩に市長や市議会議員も関わっていたと思いますか?」甘木が尋ねた。
「市長は関わってはいなかったと思うよ。入札情報の漏洩に関与していたとすれば、助役や民自党系の市議だよ」
「市長を補佐する立場の助役が不正に関わっていたんですか?」甘木が尋ねた。
「当時、甘木富雄って人が市長をしていたが、甘木市長は改進党系の市議から市長に転身した方だ。質実剛健、公平無私な人だったよ。しかし、市議会では民自党系の市議が過半数を占めるなかで、議会対策に腐心していたね。特に議会承認が必要な助役の人事案件については、ことごとく否決されていたよ。甘木市長は、やむを得ず民自党系の市議の中から助役を登用することになったんだ。その助役が民自党系の市議と結託して不正に関わっていたと思っているよ」
「実は、今、ここにいる甘木雄一は、甘木富雄元市長の孫なんですよ」風間が言った。
「ええ!そうだったのか。甘木富雄市長は、昭和54年の10月に起きた長野県北部地震の時には、災害対策本部長として、被災地の復旧・復興に向けて陣頭指揮をとっていたね。市議会があのような状況のなかで、市政運営は大変だったと思うよ」
「ついでにお伺いしますが、風間博之という市議会議員を覚えていますか?」
「風間博之?ああー、思い出したよ。甘木市長と同じ改進党系の市議じゃなかったかな。『タコ入道』という異名で知られていたね。市議会議員をやっていた頃の甘木さんとタッグを組んで、舌鋒鋭く当局を追求していたよ。風間さんは、甘木さんが市長をやっていた時は議長だったはずだ」
「実は、風間博之って市議は私の爺さんだった人なんです」風間が言った。
「そう言われてあんたを見ると、髪毛が薄いところなんか、お爺さんとそっくりだね」野上が言った。
「余計なこと言わないでくださいよ」風間が苦笑いして言った。
「甘木さんが市長になってからは、入札談合によって高止まりしていた公共工事の落札率を下げようと、入札改革に取り組んだけど、結局は、談合による甘い汁を吸えなくなる建設業界に反感を買われ、思うような入札改革はできなかったんだ。4年後の選挙で、甘木市長は再選を目指したが、建設業界が県の耕地整備部出身の対抗馬を立てて、甘木市政は1期で終わってしまった」
 甘木は腕時計を見て風間に目配せをした。
「貴重なお話をいただきまして、ありがとうございました」二人は礼を述べて野上の家を立ち去った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者