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小説「廃屋の町」(第101回)

2017年11月13日ニュース

 1月中旬、田沼市役所に入った長野日刊新聞記者の田辺結花は2階フロアーに向かった。
「すみません、長野日刊新聞の田辺結花と申しますが、取材に伺ったんですが……。中山部長さんはいらっしゃいますか?」田辺が窓口にいる職員に名刺を渡して言った。
「少々、お待ちください」
「部長、長野日刊新聞の田辺さんという方が取材に来ましたが……」
 窓口職員が田辺記者の名刺を中山に渡して言った。
「何の取材だろう?いいよ。部長室に通してくれないか」
「はい、分かりました」窓口職員は田辺記者を部長室に案内した。
「総務部長の中山ですが、どういった件での取材でしょうか?」
「官製談合の件でお聞きしたいことがありまして、伺いました」
「ええ、官製談合だって!それって、入札情報が発注者側の市役所から業者側に漏れているっていうことですか?そして入札情報の漏洩にうちの職員が関与しているってことですか?」
 中山は動揺した様子で言った。
「官製談合が行われたのは、3年前に行われた公共工事の入札ですが、田沼市が発注した市立病院の移転新築工事の入札情報が市役所から業者側、正確に申し上げますと建設業協会に漏れていたという通報が、昨日、ウチの新聞社に寄せられました」
「ええ!市立病院の移転新築工事だって!」
 当時、入札課長だった中山は顔面蒼白になった。田沼市は3年前に老朽化した市立病院の移転新築工事を発注した。国道バイパス沿いの農地を病院用地として買収し病院を新築した。井上将司市長は市立病院の移転新築を三期目の市長選の公約に挙げていた。総事業費は土地の取得費や造成費を含めて約130億円に上った。新病院の建設工事の入札は共同企業体(JV)方式で行われ、全国ゼネコン、県内ゼネコン、田沼市に本社のある地元建設会社の3社でJVを組織して入札に参加することになっていたが、実際に入札に参加したのは、県内ゼネコンの信州建設と森山組、それと地元建設業者の山田組の3社で構成するJV一者しかなかった。1回目の入札は応札額が予定価格を上回ったことから不落になった。10分後に2回目の入札が行われた。入札に一者しか参加しなかったことや、1回目の応札額に本来であれば控除されるべき消費税分が入っていたこと、落札額が予定価格に近い99.9%だったことなど、入札執行に不自然な点が多いと、改進党系の議員から指摘され、当時の市議会で議論になったが、未だ真相は闇の中だ。
「オタクに官製談合をリークしたのは誰ですか?うちの職員ですか?」
「情報源は申し上げられません。中山部長は、市立病院の建設工事の入札が行われた当時の入札課長でしたよね。この入札執行については覚えていらいしゃいますよね?JV一者による入札参加、1回目の応札額に本来は含めない消費税分が入っていたこと、間を置かずに2回目の入札が行われたこと、予定価格に極めて近い落札額だったこと、など不自然な点がたくさんあったじゃないですか!」
「その件については、当時の市議会の一般質問にも出されましたが、法令や財務規則、入札要綱に基づき適正に行われた入札だと、私は答弁しています。何なら議事録を見て確認してくださいよ。たまたまそうなっただけで、不正な事は一切行われていませんよ!不愉快だ。帰って下さいよ!」
「そうですか。ご協力ありがとうございました」
 中山は2階の窓から、長野日刊新聞の田辺記者が市役所庁舎を出たことを確認して、急いで市長室に向かった。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者