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小説「強欲な町」(第12回)

2018年3月27日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

 佐久間はパソコンを起動させ事務所に届けられたメールボックスを開けた。月曜日のメールボックスには週末2日分のメールが溜まっているため件数が多くなる。なかには海外にあるサイトから発信されたと思われる出所不明なメールもある。不明なメールはその場で削除している。うっかり添付ファイルを開くとウイルスに感染することがあるからだ。
「何よ、これ。変なメールばっかりだわ。あれ?このメールは…」
 佐久間は「田沼市立病院建設予定地の利権を暴露する!」という、衝撃的なタイトルに目を留めた。
「所長、これを見てください!」佐久間が甘木を呼んだ。
「どうしたんですか?佐久間さん」甘木は佐久間が開いたパソコンの画面を覗き込んだ。
 甘木は「田沼市立病院建設予定地の利権を暴露する!」という見出しを見て驚いた。
「佐久間さん、添付ファイルをウイルスチェックしてください」
「分かりました」
 佐久間は素早く、ウイルスチェックソフトを起動させ、
「所長、大丈夫です。このファイルにはウイルスが仕組まれていません!」
と言って、ファイルを開いた。

 田沼市民オンブズマン代表 甘木雄一 様

 向春の候、益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。
 名前は申し上げられませんが、私は田沼市で農業を営んでいる者です。昨年4月に就任した井上将司市長は、就任間もなく、現在地で建て替えるはずの田沼市立病院を『ヨンイチ』バイパスのインターチェンジ付近に移転新築することを決めました。建設予定地の造成工事が昨年12月に終わり、今年の6月からは建設工事が始まるそうです。甘木さんはご存知ないかも知れませんが、病院の建設予定地のほとんどは、田沼市土地改良区理事長の松本正蔵氏が所有していた田んぼでした。周辺の田んぼは6年程前に県が行った圃場整備事業によって、1町(約1ヘクタール)区画の大きな田んぼに整備されていますが、整備前は2反(約20アール)区画や4反(約40アール)区画の小さな田んぼでした。圃場整備前の松本氏が所有する田んぼは県道から離れた場所に点在していました。ところが圃場整備が終わった後に行われた換地処分によって、バイパスインターチェンジ付近の県道沿いに集約されたのです。井上市長は、新病院の建設場所先を集約された松本氏の田んぼに決めました。
 道路沿いの田んぼは、将来的には商業施設や住宅団地などの開発用地として転用される恐れがあります。多額の税金を投入して整備された優良農地は、『農業振興地域』に編入され、農地以外の用途に転用することができない『農用地区域』に指定されます。県道沿いに集約された松本氏の田んぼは『農用地区域』に指定された農地です。転用が禁止されている農地が、なぜ新病院の建設場所になったのか疑問に感じています。税金を使って美田を作っておきながら、その美田に再び税金をつぎ込んで公共施設として開発することは税金の無駄遣いではないかと考えています。
 甘木さんもご存知のとおり、松本氏は井上市長の後援会長を務めています。また、井上市長は富山県庁耕地整備部の技術畑の出身です。これら不自然・不可解な取り扱いの背後に、田沼市選挙区選出の山田良治県議会議員が深く関わっているものと考えています。山田県議は県議会議員に当選して以来、常任委員会は経済建設委員会に所属しています。山田県議が所属する経済建設委員会は土木部や耕地整備部など、公共事業を担当する部局を所管しています。側聞するところによれば、山田県議と県職員時代の井上市長は昵懇の間柄にあったと聞いています。甘木さんはご存知ないかも知れませんが、井上市長の奥さんは山田県議の実妹です。新病院の建設場所の決定は山田県議、井上市長、松本理事長の3人が結託して仕組んだ悪行と考えています。市民オンブズマンの力で、新病院建設予定地の選定を巡る利権の構図を明らかにしてもらいたく、メールしました。
                          田沼市の将来を憂慮する市民Xより
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者