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小説「強欲な町」(第10回)

2018年3月23日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

「確か『ヨンイチ』の開通は平成25年の予定だったと聞いていましたが、3年も早く完成するんですね。民自党富山県連会長の山田先生が本気になれば、国の公共事業であっても工期を短縮することは簡単にできるんですね」佐川が山田のコップにビールを注ぎながら言った。
 民自党富山県連会長は、慣例により小選挙区選出の衆議院議員が就任していたが、平成15年の8月に行われた衆議院選挙で県連会長を務めていた現職が落選したことから、当時筆頭副会長だった山田良治が県連会長に就任した。山田は連続7期当選の最古参の県議会議員だ。
「佐川さん、園田政権の経済政策『ソノダミックス』の一つに『政府による機敏な財政出動』があるのは知っていますよね?」
「ええ、大規模・大胆な公共投資のことですよね。昨年4月に行われた地方統一選挙向けに政権与党の民自党が打ち出した『国土甲殻化計画』が基になっていたんじゃなかったですか?」佐川が言った。
「そのとおり。『国土甲殻化計画』は、都会と比べてインフラ整備が遅れている地方に国の公共事業予算を重点的に配分することによって、地方統一選挙を有利に展開しようと、打ち出されたってわけですよ」
「山田先生は県連会長として、県だけでなく国の公共事業予算の個所付けで大きな権限をお持ちになっているという話を聞いたことがありますが、本当だったんですね」
 個所付けは、道路や河川などの公共事業予算について、個別事業ごとに予算を配分することをいう。国の公共事業予算案の編成過程において、最初に総枠である「全国枠」が示され、次に地方への「個所付け」が行われる。地方への「個所付け」は年明けから始まる。地方自治体は地方に配分された個別事業予算を踏まえて、次年度の予算案を編成する。
 公共事業予算の「全国枠」決まると、政権与党内で「個所付け」を巡って、公共事業予算の分捕り合戦が行われる。特に地方出身の与党議員は、地元建設業界の支持を得ることで次の選挙を有利に展開しようと、自身の選挙区への「個所付け」に腐心する。
「民自党にとって地元建設業界は強力な支持基盤ですよ。皆さんのおかげで、私も、昨年連続7期目の当選を果たすことができましたよ。選挙でお世話になっている皆さんに恩返しをするのは当然ですよ」
 山田が言った。
「ところで、市立病院の建設予定地の田んぼは松本理事長さんが所有する土地だったと聞いたことがありますが…」顏を赤らめた高橋が松本に尋ねた。
「いや、まー。結果的にそうなったということです」松本は困惑した表情を見せた。
 土地改良区は農業水利施設の新設・改良や管理、開田畑、干拓、これらの災害復旧、農地の区画整理、交換分合などの土地改良事業を施行する公共的法人だ。土地改良法が定める資格(3条資格)をもった15人以上の者が、土地改良事業の施行を目的として知事の認可を受けたときに設立される。土地改良区の構成員は原則として耕作農家であり、土地改良区は土地改良法の定めるところにより定款を定め、また役員として理事、監事を置いて業務を執行しているが、重要事項については土地改良区総会・総代会で決定される。松本は黒部川水系の田沼川から引水する田んぼを受益地区とする田沼市土地改良区の理事長を務めている。
「『結果的に』ってどういうことですか?」高橋が松本を問い詰めた。
「小区画の田んぼを集約して大区画の田んぼにするため、あの地区の田んぼを施行区域にして県の圃場整備事業が行われました。工事完了後に行われた換地処分によって、散らばっていた松本さんの田んぼが一か所に集約されたってことですよ。集約された松本さんの田んぼが、たまたま『ヨンイチ』バイパスのインターチェンジ付近だったということです」井上は窮地に立たされた松本に助け舟を出した。
「井上市長は県の耕地整備部出身だけに詳しいですね」高橋が言った。
 耕地整備部の技術職として採用された井上は部内の要職を歴任し、最後は部内ナンバーツーの技監にまで登り詰めた。
「井上市長、市立病院の移転先が松本さんの田んぼになったということも、『たまたま』ということでしょうか?松本さんは市長の後援会長でしょう?」今度は、井上が詰問された。
「高橋議長さん、誤解しないでください。私が市立病院の移転先を決めたわけじゃないんですよ。市議会の会合でもご説明したとおり、新病院建設予定地検討委員会でご審議いただき、合議の上、3つあった候補地の中からバイパスのインターチェンジ付近が選ばれたわけです。私の一存で決めたということではありません!」井上は憤然とした顔付きで答えた。
「山田県議さん、どうしてあの場所に『ヨンイチ』バイパスのインターチェンジを建設したんですか?あの場所に奥さんの実家の田んぼがあったって話を聞いたことがありますが…」
 今度は、山田が矢面に立たされた。
「高橋さん、あの場所にバイパスのインターチェンジを建設したのは、県道と交差する場所だからですよ。妻の実家の田んぼが、用地買収に『たまたま』ひっかかったってことですよ」
 山田はうんざりとした顔付きで答えた。
「『たまたま』ですか?『運よく』じゃなかったですか?」高橋は尚も食い下がった。
「もうそれくらいしませんか。自慢の鴨肉が汁を吸ってブヨブヨになっていますよ」
 佐川が菜箸で鴨肉を突きながら言った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者