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小説「強欲な町」(第9回)

2018年3月21日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

「市長さん、『ヨンイチ』バイパスのインターチェンジ付近に移転する市立病院ですが、建設予定地の造成工事がまもなく終わるそうですね」
 山田組社長の山田力が井上の杯に銚子を向けて言った。
「ヨンイチ」は、富山県富山市へから愛知県名古屋市に至る一般国道41号のことを指す。総延長は268キロメートルあり、岐阜県美濃加茂市までの区間は、概ねJR西日本とJR東海の「高山本線」と一致している。「ヨンイチ」は田沼市内を東西に横断し、隣の戸板市に抜けている。「ヨンイチ」は田沼市の中心市街地をL字カーブで通過していることから、朝晩の交通渋滞や交通事故が多発していた。このため、通過車両が市街地に入って来ないように、周辺に広がる農地(田んぼ)にバイパスの路線が引かれ、現在、建設工事が行われている。
「9月から始まった造成工事ですが、昼夜兼行の突貫工事のおかげで12月中に工事を終えることができそうです。工事を請け負った業者の方には御難儀を掛けてしまいました」井上が答えた。
「一冬寝かせれば地盤も締まって固くなりますからね。特に、今年の冬は『エルニーニョ』の影響で北陸地方は大雪になるという予報が気象庁から出ているようですが…。市長さんの地盤のように、例年以上に固い地盤になるんじゃないでしょうか?」山田が言った。
「山田さん、冗談を言わないでください。私は4月の選挙で市長に当選したばかりですよ。一冬寝かせたからといって固くはなりませんよ。まだ軟弱な地盤ですから4回は寝かせないとだめですね」
 井上は苦笑いしながら答えた。
 4月に行われた市長選では、新人で立候補した井上は現職と市議会の前副議長を大差で破って初当選を果たした。
「4回ですか。次の選挙までは4回の冬を迎えますからね。4年がかりで強固な支持基盤を築いてもらいたいと思います。我々、建設業界は、市長さんのために一肌でも、二肌でも脱ぐ覚悟はできていますから」山田が言った。
「は、は、は」一同、笑い声を発した。
「しかし、前市長が当選していれば現病院の敷地内での建て替えになったわけですが、現在の病院は市街地のど真ん中にあります。現病院裏手の空きスペースに新病院を建設しても、充分な広さを持った駐車場は確保できません。確かに公共交通に頼っていた昔は、市街地に病院があった方がなにかと便利だったかもしれませんが。車が普及した今は、むしろ郊外に広い駐車場を備えた病院の方が通院には便利です。また現在地での工事となると、現場で作業する重機や現場を出入りする車両の騒音で、入院患者や通院で病院に来る患者さんにとっては迷惑千万ですよ」松本が言った。
「松本さん、入院患者や通院患者だけじゃないですよ。現病院の裏手は住宅街になっていますから、騒音に悩まされる周辺住民にとっても迷惑な話ですよ」井上が言った。
「前市長は、市の借金残高をこれ以上増やさないといって、建設費を抑えるために現在地での建て替えに固執していましたが、長い目でみれば、広い駐車場が確保でき、市内全域からの交通アクセスも抜群に良い『ヨンイチ』バイパスのインターチェンジに建設地を変更したのは正しい判断だった思いますよ」松本が言った。
「井上市長、『ヨンイチ』バイパスは、新病院が完成する平成22年には全線開通の見込みだよ。県連から党本部に毎年、要望している国の公共事業予算の中でも、『ヨンイチ』バイパスの事業予算については、党の最優先の項目に挙げているよ」
 富山県議会議員の山田が言った。山田良治は山田組社長の山田力の実弟である。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者