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小説「視線」(第17回)

2017年3月14日ニュース

 男は話を続けた。
「この前テレビで見た特報番組で自販機荒らしの手口を放送していたよ。昔は、夜間になると無人になる工場や倉庫、それに工事現場などにある自販機が狙われることが多かったそうだ。バールやハンマーを使って、なかには工事現場に置いてある重機を使って、自販機を壊して現金を抜き取っていたそうだ。しかし、人がいなくなる前に、自販機から現金を回収して、電源を切ってしまうことで、被害に遭わなくなったんだ。それに加えてパトカーの見回りが増えたこともあるそうだ」
「じゃ、犯人はどうやって、音も立てずに富田さんの店の自販機から現金を抜き取ったのかしら?」
「番組では自販機に物理的な力を加えずに現金を抜き取る手口が紹介されていたよ。自販機内部の回路をショートさせる方法だ。ニクロム線に繋いだ十円玉をコインの投入口に入れて、十円玉が入りきったら、ニクロム線に単三電池で電流を流す。すると自販機内部の回路がショートし、なかのコインが全て出て来るという仕掛けだ。しかし、こちらの手口も最新式の自販機には通用しないそうだ。富田さんのお店の自販機が最新式のものかどうかは知らないけど、最近の自販機には必ず防犯カメラが設置されているので、カメラに記録されている映像を分析すれば自販機の前で不審な動きをした人物は特定されるよ」
「富田さんの自販機が最新式のものかどうかは、私も知らないけど、盗まれたのは硬貨だけじゃないわ。紙幣も盗まれたのよ」
「そうか。紙幣も盗まれたのか。もしかして、インターネットを使って自販機を誤作動させる手口だったのだろうか?」
「インターネットを使って機械を誤作動させるって、どういうこと?」
「最新型の自販機のなかには、インターネットを介して外部の情報機器とデータのやり取りができる集積回路を内蔵している機種があるらしいんだ。例えば、自販機内の飲み物の在庫情報がインターネット経由でリアルタイムに販売会社に伝えられ、在庫が不足すれば補充される。一方、販売会社からは季節に合わせた飲み物の温度設定の指示がインターネット経由で自販機に伝えられる。これまで人間が行っていた監視を機械が代行できるようになったんだ。自販機の飲み物の補充は、まだ人間の手で行われているけど、いずれ機械が代行する時代が来るかもしれない。また、集積回路を内蔵した自販機は販売管理にも役立っている。何時、どんな飲み物が売れたのかも分かるので、売れ筋の飲み物を、一番多く売れる時期に投入することで、自販機を効率よく稼働させることができる。このように、コンピューター以外の多種多様なモノがインターネットに接続され、相互に情報をやり取りすることをIoT(アイ・オー・ティー)というんだ。話を元に戻すと、富田さんの自販機荒らしは、インターネット端末を使って自販機の集積回路にドアを開けるように指示を出して、現金を抜き取ったのかもしれないね」
「そんなこと、本当にできるのかしら」
「富田さんの自販機がこの手口でやられたのかどうかは分からないけど、不可能なことじゃないよ。IoT(アイ・オー・ティー)は家電製品だけでなく、自動車にも導入されているんだ」
「車がインターネットで繋がっているってどういうこと?」
「うちの会社、いや、務めていた会社でも、今、IoT(アイ・オー・ティー)を搭載した試作車を作っている段階だ。車に搭載されたセンサーや道路に設置されたカメラなどをインターネットと接続させることで、車同士の情報交換に行える。渋滞などの道路情報のほかに、道路の先の障害物情報や天候情報など、運転に必要な様々な情報がリアルタイムで送られてくるんだ」
「便利な時代になったものね」
「モノ同士がインターネットを介して情報交換できることで、確かに生活が便利になるけど、間違った情報が伝えられるとか、個人情報が流出するとか、セキュリティの面ではまだ、課題が残っているけどね」
「IoT(アイ・オー・ティー)が悪用されて、富田さんの自販機がやられたってこと?」
「断定はできないが、そういうことも考えられるということだよ」
 自販機荒らしは未解決なまま時が経過していった。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者