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小説「視線」(第21回)

2017年3月22日ニュース

 ある日、男が利用しているクレジット会社から利用明細書の葉書が届いた。男は明細書の封を開けた。先月の利用実績を見ると、身に覚えのないキャッシングの利用があった。それも限度額いっぱいの100万円を借りている。男は、これまで、買い物代金やホテルの宿泊代を支払う時などにクレジットカードを使ったことはあるが、お金を借りるためにクレジットカードを使ったことは一度もない。不審に思った男はクレジット会社に電話を入れた。電話に出たオペレーターが本人確認を行うために、
「恐れ入りますが、お客様のカード番号と氏名、生年月日をお伺いします」と男に質問し、男は答えた。
「どういったお問い合わせでしょうか?」本人確認を終えたオペレーターが男に尋ねた。
「実は、先月分の利用明細の中に、使った覚えのない100万円の借り入れがあったのですが……」と男はオペレーターに告げた。
 オペレーターは慌てた声で「少々、お待ちください。担当の者と替わります」と言って、電話は担当部署に回された。電話に出た担当者が男に尋ねた。
「私の方で、もう一度、確認させてください。お客様の先月分のご利用明細について、100万円の借入はなかった、ということで、よろしかったでしょうか?」
「はい、そうです。全く身に覚えのない借り入れです」と男ははっきりと答えた。
「少々、お待ちください」と担当者が言うと、電話は保留状態を示すメッセージ音が流れた。間もなくして電話は担当者の声に代わった。
「お客様の100万円の借入は、兵庫県内にあるコンビニのATMから引き出されていますが、お心当たりがありますか?」
「ええ、兵庫県内のコンビニで引き出されたって!私は生まれてこのかた、兵庫県に住んだこともないし、行ったこともありませんよ!」
「クレジットカードを落としたとか、盗まれたとかはありますか?」
「クレジットカードは今、手元にあります。半年程前に、カードを落としたことがありましたが、その時は、直ぐに、紛失したカードの失効手続きをとって、新しいカードに更新しました。幸いなことに、紛失したカードが使われたことはなかったようですが……」
「それでは、お客様はネット通販で買い物をしたことがございますか?」
「ネット通販?」
「失礼しました。『ネット通販』というのは、インターネット上の通信販売のことですが、これまでインターネットを使って買い物をしたことはありますか?」
「ええ、何度かありました」
「商品の代金をクレジットカードで支払ったことはありますか?ネット通販で買い物をした場合、注文した商品を運搬した業者に代金を支払う『代引き』、指定された銀行口座に振り込む方法、コンビニで支払う方法、それとクレジットカードで支払う方法など、代金の支払い方法を選べますが、お客様はどのような方法でお支払いになりましたか?」
「最初の頃は代引きで支払ったりしましたが、手数料が別に取られるので、今はクレジット払いにしています」
 男は雄太との工作に使うモーターなどの金属製の部品を、インターネットを使って購入したことを思い出した。その時の購入代金はクレジットカードで支払った。
「お客様がカードで代金を支払った時、お客様の氏名や生年月日、カード番号、暗証番号などのカード情報をパソコン画面上で入力しますが、何か変だなと感じたことはありましたか?」
「確か、模型に使う小型モーターを買った時だったと思いますが、画面上にカード情報を入れた後に、突然、『ネットワークに繋がっていません』というメッセージが流れ、画面が途切れてしまったことがありました」
「もしかして、お客様はフィッシング詐欺に遭われたのかも知れません」
「フィッシング詐欺?」
「インターネット上に、実在する通販サイトのページに似せた嘘のページを作っておいて、そのページに誘い、知らないうちに個人情報を盗む詐欺行為のことです」
「ええ、そうなんですか!私が詐欺に遭ったということですか?どうすればいいんでしょうか?」
「すぐに最寄りの警察署に行って被害届を提出してください」
「ところで100万円の借入は、私が返済することになるのでしょうか?」
「警察に提出した被害届の写しを、こちらに提出していただければ、100万円の借入実績は利用明細から抹消されますので、ご安心ください」
「ああ、良かった。どうもありがとうございました」男は担当者に礼を言って電話を切った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者