2024年4月
« 3月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

ブログ

小説「視線」(第24回)

2017年3月28日ニュース

 夕飯時に妻がこの事件を持ち出した。
「あなた。今朝の新聞を見た?全国のコンビニチェーンのATMで、偽造カードを使って現金16億円も引き出されたって事件だけど。現金を引き出されたコンビニチェーンって、この前、強盗事件のあった近所のコンビニと同じチェーン店だわ」
「ああ、知っているよ。今朝の新聞に出ていたね」
「お昼のワイドショーでも大きく取り上げていたわ。100人以上の人が1600台のATMから一斉に引き出したっていうけど、そんなことできるのかしら。警察では犯罪グループによる組織的な犯行とみているそうよ」
「全国的な犯罪グループといえば暴力団が考えられるけど、暴力団員100人が不正に引き出したということは考えにくいね。暴力団員から雇われた『出し子』がATMから現金を引き出したんじゃないかな」
「何?その『出し子』って?」
「振り込め詐欺など、犯罪に使われた預金口座から現金を引き出す役のことだよ。それと、電話を掛けて相手をだます役を『掛け子』、現金を受け取る役を『受け子』って言うんだ」
「振り込め詐欺で思い出したけど、この前、町内会報と一緒に回ってきた防犯チラシに、一人暮らしのお年寄りを狙った振り込め詐欺と見られる電話が増えているって書いてあったわ」
「住所や電話番号など個人情報が知らないうちに売買され、それが犯罪に使われてようだ。以前は、電話帳に個人宅の電話番号が載っていたけど、今は載せていないからね」

「確かに、電話会社から配布される電話帳にはお店や事業所の電話番号は載っているけど、個人の家の電話番号は載っていないわ。ところで、今回の不正引き出しに利用された個人情報は信販会社が発行するカードから盗まれたっていうけど、犯人はどうやって、カードから個人情報を盗んだのかしら?」
「カード情報を盗む手口はいろいろあるけどね。『スキミング』といって、カードの磁気ストライプに記録されている情報を、スキマーという機器で盗み取る手口だけどね」
「あなたが持っているカードは大丈夫だったの?この前、ショッピングセンターで買い物をした時に代金をカードで支払っていたわね」
 男は妻と一緒にランチを兼ねた買い物でショッピングセンターに行った時のことを思い出した。雄太との工作用に使うスキャナーを買った時、カードで代金を支払った現場を妻に見られたことを覚えている。
「私のカードはICチップカードだから大丈夫だよ」
「ICカード?」
「ICカードは今まで使われていた磁気カードと比べて、大量の情報を記録できるし、偽造されにくいという特徴を持っているんだ。クレジットカードがセキュリティの強化されたICカードに移行したことでスキミングはできなくなったね。今、はやっている手口は、『ネット通販』といって、インターネット上の通販サイトで買った商品の購入代金をカードで支払う際に、パソコンの画面上にカード情報を入力した時に盗まれるケースだよ」

「この前、雄太と工作する時に使う材料。そうそう小型のモーターよ。確かインターネットを使って買ったって、言ってたわね。その時にあなたのカード情報だって盗まれたかもしれないわ」
「最初から個人情報を盗む目的で開設した偽の通販サイトだったら、そういうこともあるかも知れないけど、僕が小型モーターを購入した通販サイトは本物のサイトだったし、カード情報が盗まれるなんてことは、絶対にないよ」男は嘘をついた。
「そう、分かったわ。さっきも言ったように、今回、ATMの不正引き出しが行われたコンビニチェーンは先月、強盗事件があった近所のコンビニと同じチェーン店だわ。不正引き出しに使われたのかしら」
「1600台のATMの中に、先月、強盗事件のあった近所のコンビニが含まれているのかは分からないね。店の売上代金が奪われた強盗事件と違って、被害者は店じゃなくて、カード情報を盗まれた個人や信販会社だからね」
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者