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小説「祭ばやし」(第3回)

2017年1月17日ニュース

 例大祭の時期になると、町内会から「仁和加(にわか)」という山車が参加して町内を巡行する。この山車に乗って太鼓、篠笛、鉦などのお囃子を演奏するのが地元の小中学生だ。小学4年生の春香も今年から「仁和加(にわか)」に乗って太鼓を叩く囃子方になった。例大祭が始まる10日程前から、囃子方を務める小学生が町内の公園に集まって練習を始める。今日はその初日だ。練習は午後6時に始まる。

「あら、もうこんな時間だわ。春香、もうすぐ太鼓の練習が始まるわよ」
 由紀子がテレビを見ている春香に声を掛ける。
「あ、そうだった。お父さん、一緒に来て」
 春香が風呂からあがった徹を誘った。
「行ってきます」
 徹と春香は練習会場の公園に出掛けた。2人が公園に着くと十数人ほどの小学生が集まっていた。春香の同級生の雄太君もいる。
「今晩は、雄太君。今日から練習だね。がんばろうね。」
「春香ちゃん、今晩は。僕は小さい頃からお祭りを見ているから、ばっちりだよ。」
 二人で挨拶を交わした。
 公園の一角にある物置小屋から出された山車(仁和加)がブルーシートに包まれた状態で置かれていた。練習初日とあって子供たちの保護者も公園に集まっていた。公園には祭り用のテントが張られ、電線に沿って赤、黄、青、緑、橙の5色の提灯がそれぞれ2個ずつ順番に吊り下げられていた。
「お晩でございます。春香ちゃんも今年から囃子方ですか」
 向かいに住む藤田さんが徹に声を掛けた。
「藤田先生、お晩になりました。春香も4年生なり今年から太鼓を叩けるようになりました」
 藤田さんは小学校の元教員だ。20年ほど前に春香が通う小学校の校長を最後に退職したそうだ。八十過ぎの藤田さんは老いてなお矍鑠としている。藤田さんは現在、奥さんと二人でこの町で暮らしている。藤田さんには3人の子供がいるが、3人の子供たちも小学生の時に「仁和加(にわか)」の囃子方を務めたそうだ。毎年、夏祭りの時期になると隣町に嫁いだ娘さんが2人の孫を連れて実家に戻り、祭りに参加している。

「これから太鼓の練習を始めますので、こっちに集まってください」
 子供会の役員をしている井上さんが子供たちに号令を掛けた。
「今日から22日まで、この公園で太鼓の練習をします。今年から練習に参加することになりました野上春香さんと池上雄太君です」
 子供たちの視線が井上さんの横に並んだ二人に向けられた。二人は、はにかみながらお辞儀をした。
 井上さんは話を続けた。
「野上さんと池上君は初めての練習なので、あそこに敷いてある木の板を叩いて太鼓の叩き方を覚えてください」
「はい」二人は返事をした。
 練習会場には和太鼓と樽太鼓がそれぞれ2台ずつ、それに足の付いた板が用意されていた。この板は広さが半畳ほどある板で下駄のように両脇に足が付いている。地面から板までの距離は十センチほどある。バチで板を叩くと樽を叩いたような音がする。新人の春香と雄太君は、この板を使って練習し、樽太鼓の叩き方を覚えることになった。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者