小説「祭ばやし」(第6回)
ピーシャラ ピーシャラ
ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
トコトン トコトン
チンチン、カンカン
太鼓の練習が始まって今日で三日目。徹はいつものようにベンチに腰を掛けて春香の練習を見守った。
りーん、りーん、りーん
暗くなった公園の草むらから秋の虫たちの声が聞こえる。昼間はジー、ジーと蝉の声が騒々しく家の中に侵入してくるが、夜になると柔らかな虫の声が周囲の家々に浸透してくる。
ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
和太鼓の練習をしている二人の男の子のバチさばきが滑らかになった。2台の太鼓のリズムがそろってきたようだ。
トコトン、トコトン
樽太鼓から少し離れた場所で、春香と雄太君は先輩たちと一緒に木の板を叩いて練習している。樽太鼓のリズムと少しずれているようだ。
ピーシャラ、ピーシャラ
太鼓のそばで篠笛を演奏しているのは二人。一人は祭典委員の中村さんで、もう一人は中村さんのお孫さんで中学2年の剛志君だ。
チンチン、カンカン
太鼓の練習を見守りながら鉦を叩いているのは井上さんだ。井上さんの娘さんで中学1年の香織さんと交代で鉦を叩いている。
井上さんの話では篠笛や鉦の演奏は元々中学生が担当していたが、成り手の中学生が見つからなくて困っているという。
ピー
井上さんがホイッスルを鳴らした。
「はい、今日の練習はこれで終わりにします。笛や鉦の音とだんだんと合うようになってきました。この調子で頑張ってください」
子供たちは井上さんの講評を聞いた後、後片付けを始めた。徹は後片付けを終えた春香と家路についた。
りーん、りーん、りーん
家に帰る道すがら秋の虫たちの声が聞こえてくる。
「お父さん、虫が鳴いているよ。もしかして鈴虫?」
「そうだね。鈴虫の声だね」
徹は思わず童謡「虫の声」を口ずさんだ。
「あれ松虫が 鳴いている ちんちろ ちんちろ ちんちろりん…」
「私、その歌、知っているよ」
「春香、一緒に歌おうか。最初からね」
「あれ松虫が 鳴いている ちんちろ ちんちろ ちんちろりん あれ鈴虫も 鳴き出した りんりんりんりん りいーんりん 秋の夜長を 鳴き通す ああおもしろい 虫のこえ」
(作:橘 左京)