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小説「廃屋の町」(第121回)

2017年12月23日ニュース

「ごめんください。こちらは、甘木さんの事務所でしょうか?」
 30代くらいの女性3人が甘木の事務所を訪ねてきた。
「はい、そうですが。どちら様ですか?」久保田恵子が尋ねた。
「私たちは子育て中の主婦ですが、甘木さんに是非、市長に当選してもらいたくて千羽鶴を持ってきました。これを甘木さんに渡して下さい」女性グループの代表が久保田に千羽鶴を渡した。 
「わあ、すごい!こんなに大きな千羽鶴。どうもありがとうございます。甘木は間もなく戻ってくると思いますので、どうぞ、お掛けになってお待ちください」久保田は3人に椅子を勧めた。
「私たちは同じ団地で活動している子育てグループです。現在子育て中の7人のママが集まって『ひまわりクラブ』というサークルを作って活動しています。実は、去年の暮れに甘木さんともう一人の方が、私たちが住んでいる団地に、市長選挙に出られるということで挨拶回りに来られたんです。甘木さんが私の家にお出でになった時、丁度、私たち3人が家に居まして、お二人から子育てについて困っていることがあったら何でもいいから聞かせてもらいたいって言われ、私たちグループが日頃から思っていることを、お二人にお話ししました。そしたら、甘木さんから、私が市長になったらすぐにやりますって、おっしゃっていただき、本当に心強く思いました。グループの会合でそのことを話したら、甘木さんが市長になれば、田沼市の子育て環境がもっと良くなるんじゃないかってことになったんです。甘木さんを市長にするために、私たちができることは何かしらって考えていたら、千羽鶴がいいよってことになって、私たち7人が3か月掛けて折りました」
 久保田が入れたココアを飲み終えた3人は、この後の予定があるといって、帰って行った。
「『祈必勝』か。為書きなんかより、ずっと御利益があるよ」
 高橋が千羽鶴に吊るされている短冊を手に取って言った。
「女性グループの代表の方から、当選したらこの封筒の中に入っている札に取り換えてくださいって言ってたわ」久保田が白い封筒を高橋に渡した。
「封じ口が開いているね。ちょっと、なかを覗いてみようか」
 高橋が封筒の中から短冊を取り出した。短冊には「祝当選」と書いてあった。
「さっきの女性たちは勝利の女神らしいね。甘木たちが帰って来たようだ。恵ちゃん、この封筒は仕舞っておいて」
 高橋は「祝当選」の短冊を封筒に戻して久保田に渡した。久保田は封筒を事務机の抽斗に入れた。
「ただいま帰りました」と言って、甘木と風間が帰ってきた。
「お帰りなさい」久保田が言った。
「どうしたんだい?この大きな千羽鶴は。『祈当選』と書いてあるけど?」風間が言った。
「『ひまわりクラブ』っていう子育て中のママさんグループが届けてくれた千羽鶴よ。甘木君には絶対、市長に当選してもらって、子育て環境を充実させて欲しいって言っていたわよ」久保田が答えた。
「もしかして、風間と二人で新興住宅地を回っていた時に、子育てについていろいろと意見や要望をもらった家があったけど、その家の中にいた女性グループかな?」甘木が言った。
「そうみたいね。この千羽鶴、7人で3か月掛けて折ったそうよ」久保田が答えた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者