2017年9月
« 8月   10月 »
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

ブログ

小説「廃屋の町」(第77回)

2017年9月26日ニュース

「井上さん、あんたも県職員を長くやっていたから、その辺の事情が分かるだろう?田沼市にある県営東部工業団地は元々、工業団地には不向きな場所だったんだ。高速道路のインターからは遠いし、国道のバイパスから工場団地に通じる県道も市街地を通っているためにアクセスは非常に悪い。あれは渡辺前知事とあんたの前任の長谷川寅蔵前市長が仕組んだ公共事業だよ。当時県の土木部長だった長谷川さんが田沼市長選挙に出るというもんだから、渡辺前知事が長谷川さんの持参金代わりにしようと、あの場所に100ヘクタール規模の工業団地構想をぶち上げたんだ。田沼市内で行われる県の公共事業が先細りするなかで、市内の建設業界の票を長谷川さんに集めるためにやったものだ。もちろん私の選挙のためもあるけどね」山田県議は苦笑いをしながら答えた。
 20年前の4月に行われた統一地方選挙で長谷川寅蔵前市長と山田良治県議会議員は初当選を果たした。山田県議は話を続けた。
「県営工業団地がある場所は牛の飼料用に使っていた採草地だった。ガットのウルグアイ・ラウンドで米国産の牛肉とオレンジの輸入自由化が決まった以降、国内の畜産業が衰退していった。肉牛中心の田沼市の畜産業も大きな打撃を受けて廃業する畜産農家も沢山あった。そんな中、要らなくなった採草地を県の企業局が買い取って工業団地として造成したものだ。二束三文の土地が県事業の公共用地として高く売れたもんだから、廃業した畜産農家も喜んだよ」
「確か、山田さんの実家も畜産農家だったんじゃないですか?」井上は山田兄弟に向かって言った。
「正直なところあの時に入った土地代金でウチもAランクの業者に仲間入りできました。それに5年間続いた工場団地の造成工事のおかげで我々地元の建設業界も息を吹き返しましたよ。あの工業団地の造成工事がなければ畜産農家のように我々の業界も干上がっていたでしょうね」
 山田会長は苦笑しながら答えた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者