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小説「廃屋の町」(第75回)

2017年9月22日ニュース

 一月下旬、井上は市長政策課長の吉野昌夫を市長室に呼んだ。市長室には田沼市建設業協会長の山田信夫と山田の実弟で県議会議員の山田良治がいた。
「吉野君、座りたまえ」井上が言った。
「吉野君、今ほど新年度事業から市長選の公約に盛り込む政策について山田会長と山田県議とで話し合っていたんだが、公共事業の絞り込みはほぼ終わった。あとはソフト事業の中から市長選の公約に入れた方がいいものを君に伺いたいが……」
「そうですね、田沼市は少子高齢化が周辺の市町村よりも進んでいますから、子育て世帯向けの政策と高齢者向けの政策を打ち出した方が広く有権者にアピールできると思います」
 吉野課長は、昨年行われた国勢調査の結果をまとめた資料を配って説明を始めた。
「田沼市の総人口に占める15歳未満の人口の割合は2割です。一方、65歳以上の人口の割合は3割です。田沼市は県内19市の中で最も子供の割合が少なく、お年寄りの割合が最も高くなっています。分かり易く言えば、10人いると子供が2人、お年寄りが3人、残りの5人が働いている世代ということです。また一人の女性が生涯に産む子供の数を示した合計特殊出生率も田沼市は県内最下位の1.16です。これは何を意味するかといえば、田沼市の子育て世帯の多くは子供が一人しかいないということです。ちなみに県内で一番高い出生率になっているのは戸板市の1.96です。市営の工業団地に企業進出が続いたおかげで、普通交付税の不交付団体になっている戸板市は財政力が県内一位です。自由に使える財源が潤沢にある戸板市は子育て政策が充実しています。一例を挙げれば、保育料の無料化とか、学校給食費の無償化とか……」
「吉野君、金持ちの戸板市の話はもう、それでいいよ。要するに、私の選挙公約に何をチョイスしたらいいのか、君の考えを聞かせてもらいたい」
 吉野課長は新年度のソフト事業(新規)の一覧表を3人に配って説明した。
「まず、子育て支援策から申し上げますと、子育て世帯の住宅建設資金の助成なんかどうでしょうか?子育て世帯が市外に流失しないための施策ですが、子育て世帯が住宅建設したり取得したりした場合、建設費や取得費の一部を助成するものです。保育料の無料化もいいと思います。これまでは、対象世帯を生活保護世帯や住民税の非課税世帯に限っていましたが、子供が2人以上いれば全員、無料にします。次に、高齢者対策としては、高齢者の人間ドック受診費用の助成なんかどうでしょうか?会社勤めの頃は、会社の助成があって安く受診できたのに、退職したら全部自己負担になったので何とかして欲しいという声が沢山、市に寄せられています。それと高齢者の体育施設使用料の免除なんかもいいと思います。最近、健康寿命を延伸しようと室内スポーツを始める高齢者が増えていますから……」
「吉野君、ありがとう。もういいよ」吉野課長は一礼して退席した。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者