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小説「廃屋の町」(第67回)

2017年9月6日ニュース

 小正月を過ぎた1月下旬、甘木と風間健一、久保田恵子、小島孝雄、高橋義夫など十数人の同級生や支持者が集まって事務所開きを行った。
 事務所に集まった甘木と同級生たちはできたばかりの室内用ポスターを事務所の中に貼った。ポスターには背広姿の甘木の上半身の写真と下には「甘木雄一」と名前が表記されている。チャッチコピーには「市民が主役の市政を実現します!」と書いてある。このチャッチコピーは甘木と風間たち同級生が昨年の暮れごろから考えていたものだ。
「甘木君の顔写真、綺麗に撮れているわね。どこで、撮ってもらったの?」
 久保田がポスターを手に持って言った。
「斎藤フォトスタジオだよ」甘木が答えた。
「同級生の斎藤静夫君のお店ね。斎藤君は、中学時代の部活は写真部だったんじゃなかった?」
 久保田が言った。
「そうだね。親父さんに似てプロ級の腕前だったね。写真コンテストで何度か賞を取ったこともあったよね。運動会や文化祭、修学旅行の時の写真撮影は、彼に任せられていたね」風間が答えた。
「今、気が付いたんだけど、甘木君の鼻の脇にある黒子って、中学の頃からあったけ?」
 久保田が尋ねた。
「中学の頃は、黒子が小さくて目立たなかったんだけど、少しずつ大きくなったみたいだね」
「悪性の黒子もあるっていうから、皮膚科に行って見てもらった方がいいわよ」
「良性だから大丈夫だよ。でも見栄えが悪いようだと取っちゃってもいいかもね」
「ええ!手術をして取っちゃうの?」
「画像修正で黒子を取っちゃうという意味だよ。斎藤君の話ではデジタルカメラで撮った写真は修正がしやすいんだって」
「この顏写真は選挙用のポスターにも使うんでしょう?」
「そのつもりだよ。選挙が始まれば、これと同じポスターを選挙管理委員会が設置した掲示場に貼るんだ」
「有権者は甘木君の素顔を見て投票するんだから、このままでいいわよ。健ちゃんは10月の市議選に出るんでしょう?カツラを被った写真なんか駄目よ」
 久保田が風間の頭部を見ながら言った。ゲラ、ゲラ、ゲラ 事務所は笑い声に包まれた。
「恵ちゃん、何で俺に振るんだよ。親父譲りの禿げ頭。ハリウッド俳優のブルース・ウィリスのようにスキンヘッドにして、市議選に臨むつもりだよ」風間が言った。
「『ダイ・ハード』の主人公ジョン・マクレーン役を演じたブルース・ウィリスね。スキンヘッドもいいけど、ブルース・ウィリスを真似るんだったら、頬の贅肉も削いだ方がいいわよ。健ちゃんの顏ってブルドックみたいじゃないの?」久保田が言った。
 ゲラ、ゲラ、ゲラ 事務所は再び笑い声に包まれた。
「恵ちゃん、それはないだろう。これが俺の素顔だよ!」風間はむっとした顔で言った。
「しかし、井上市政を見ていると、このチャッチコピーとは真逆のことをしているね。市民ではなくて建設業者が主役の市政になっているよ。甘木に市長になってもらって、市民のための市政に戻してもらいたいよ」小島が甘木のポスターを満足そうに眺めながら言った。
「そうよね。井上市長は地元建設業者のために不必要な公共事業ばっかりやっているわ。この前、市役所に勤める妹から聞いた話だけど。文化会館と総合体育館の建設を市長選挙の目玉にするそうよ」
 久保田恵子が言った。
「ほんとうかよ!」風間が驚いた様子で言った。
「文化会館と総合体育館の話は本当らしいよ。それぞれ今年度の補正予算で調査費を計上し、新年度予算に設計業務委託費を盛り込むらしいよ。ウチでは2月号で市長選挙の特集記事を組む予定だ。立候補予定者の顔写真と略歴、政策を掲載することになっている。今のところ立候補予定者は現職の井上市長と甘木の二人だけだけどね」月刊たぬま新報編集長の高橋義男が言った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者