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小説「廃屋の町」(第69回)

2017年9月10日ニュース

 時計の針を確認した風間は十数人の同級生らを前に挨拶を始めた。
「それでは時間になったので始めます。本日はご多用の中、甘木君の事務所開きに大勢の同級生や支持者の皆さまからご出席をいただきましてありがとうございました。この度、甘木陣営の選対本部長という大役を仰せつかりました風間健一でございます。昨年8月に開催された同級会の席で甘木雄一君から市長選挙への出馬表明がありました。皆さんのご協力を頂きながら、知名度不足の甘木君の人柄を市民の皆様にお知らせするとともに、市長選の政策作りの基礎資料にしようと、市内の各地域、地区を隈なく歩いて回って、市内全世帯の3分の2が終わりました。甘木君と一緒に回ってみて、大変いい感触を得ました。特に子育て中の女性やお年寄りからは多くの励ましの言葉を頂戴しました。新人候補ということもあって、当初、知名度不足が心配されましたが、徐々に甘木君の名前や人柄について、知られるようになりました。告示日まで、あと3か月となりましたが、残り3分の1を踏破したいと考えています。よろしくお願いします」
 続いて甘木雄一が挨拶に立った。
「本日は足元の悪い中、多くの同級生や支持者の皆さんから事務所開きに集まっていただき大変ありがとうございました。私、甘木雄一は皆さんのご協力をいただきながら市内各地域を隈なく歩いてきました。告示日まであと3か月しかありませんが、市民の皆さまの切実な思い、願いをしっかりとこの胸に受け止めて、市民が主役の市政を実現したいと考えています。引き続きの御支援、御協力をよろしくお願いします」
 最後に久保田恵子が締め括った。
「それでは最後に団結ガンバロウで締めたいと思います。皆さん、御起立願います。甘木雄一君の市長選勝利に向けて、団結してガンバロウ!ガンバロウ!ガンバロウ!」
 ガンバロウ!ガンバロウ!ガンバロウ!
 事務所の中は拍手に包まれた。挨拶を終えた甘木は長野日刊新聞記者の田辺結花の取材を受けた。
「政治家経験も行政経験もない甘木さんが立候補を決断した理由は何ですか?」
「田沼市が疲弊している現状を一番よく知っている中学時代の同級生の後押しがあったからです」
「田沼市が疲弊している現状というのは、どういうことですか?」
「一言でいえば、土建屋が栄え商店街が衰退しているという状況です」
「建設産業が栄えている現状が悪いという意見ですか?建設産業は地域経済を支える基幹産業の一つだと思うのですが……」
「誤解しないで下さい。田沼市が疲弊した原因が建設産業の隆盛にあるとは言っていません。今後、田沼市の人口が着実に減少していくなかで、無駄な公共施設の建設や公共事業が多過ぎます。無駄な公共事業に回す予算を削ってその分を生活者のために使うべきだと考えるからです。子育て世帯や高齢者世帯が安心して暮らしていけるまちづくりが必要です。そうすることで、商店街での消費を喚起し商店街も潤うという好循環を作っていくことができます。公共事業に偏重した市の予算配分はおかしいと思います。ハード中心のまちづくりでは人口問題は解決できません。人口問題を解決するには、ソフト対策の充実が欠かせません。15歳未満の年少人口がどんどん減っていくなかで、将来の利用人口を無視した大型の公共施設の整備が来年度の予算案に盛り込まれるそうですが、立派な公共施設が出来上がっても、人口減少に伴って利用者が減ってくれば、その施設は無用の長物、遊休施設になってしまいます。一方で施設を建設するために抱えた借金の返済は何十年も続きます。無駄な公共施設のための借金を返済するのは子育て世代や子供たちです。田沼市の合計特殊出生率が県内最下位の1・16ですが、これは無駄な公共施設の借金負担を子供たちに負わせたくない親心の裏返しだと考えています」
「井上陣営は文化会館と総合体育館の建設を市長選挙の主要政策に掲げていますが、甘木さんは建設反対の対場で選挙戦に臨むということですか?」
「全く反対の立場ではありません。まずは新たな公共施設の必要性について時間を掛けて検討します。その結果、新たな施設が必要だということになれば、将来の人口規模に見合った適正な規模にします。それと並行して合併前の旧四か市町村にある類似施設の集約化も必要です。新たな公共施設の建設は既存の類似施設を統廃合した上で行われるべきです」
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者