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小説「廃屋の町」(第76回)

2017年9月24日ニュース

「失礼します」建設課長の佐々木健一が入れ替わりで市長室に入ってきた。
 佐々木は山田会長と山田県議に一礼した。
「佐々木さん、いつもお世話になっています。4月からはよろしくお願いします」
 山田会長が佐々木に挨拶した。
「あ、そうか。佐々木君は4月から建設業協会の事務局長になるんだってね?」井上が言った。
「はい、事務局長のポストが4月に空席になるんで、山田会長さんからウチに来てくれないかと頼まれまして……」佐々木が言った。
「この前、佐々木君に頼んでおいた来年度発注予定の公共工事の一覧表はできたかね?」
 井上が言った。
「はい、出来上がっております」
 佐々木は「平成27年度田沼市建設工事発注見通し」と題する資料を3人に配った。
 この資料には建設課が来年度に発注する公共工事について、工事名、施工場所、施工期間、工事概要、概算事業費、入札契約の方法、入札予定時期などが書いてある。資料に目を通した井上は山田会長に言った。
「山田さん、これらの公共工事を受注する業者を建設業協会の方であらかじめ決めておいてほしいんですが……」
「分かりました。例年よりも発注件数が多くなっているようですが?」
「はい、今年度よりも予算規模が3割増しになっていますし、それと、より多くの会員企業に仕事をしてもらおうと、大きな工事は細かく分けたので発注件数が多くなっています」
 井上は山田会長に答えた。
「佐々木君、ありがとう。もういいよ」佐々木課長は一礼して退席した。
 山田県議が資料を見ながら県の補助事業について説明を始めた。
「井上市長、市長選の公約の柱になっている文化会館と総合体育館の整備事業については、私が県の担当課に頼んで補助額を嵩上げしてもらったよ。それに国道バイパスに接続する市道の新設についても県の担当課に掛け合って補助率を引き上げてもらった。それと、これは県事業だが国道から県営工業団地に伸びる県道のバイパス新設が決まった。来年度予算で用地測量が行われることになっているよ」
「さっき、吉野君から財政が裕福な戸板市の話がありましたが、あそこは市営の工業団地に工場がたくさん進出した結果、固定資産税などの市税収入が増えて、交付税の不交付団体になったんですよね。田沼市の子育て世代が、就業の場がたくさんあって、子育て支援も充実している戸板市に逃げているというような話も聞きます。それに比べて、ウチにある県営工業団地の方は、分譲を開始して20年近くにもなりますが、さっぱり工場が増えていません。それどころか団地の半分近くが太陽光パネルで埋まっています。どうしてあんな不便な場所に、県は100ヘクタールもの工業団地を造成したんでしょうかね?」井上は山田県議に尋ねた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者