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小説「廃屋の町」(第74回)

2017年9月20日ニュース

「しかたがありませんよ。県の土木部出身の殿は、ヒトよりもコンクリートがお好きなようですから」
 佐野が言った。
「複合施設にした方がいいって、殿に入れ知恵をしたのは中山部長だろう?」杉田が佐野に尋ねた。
「吉野市長政策課長じゃないですか?市長の政策ブレーンを自認する吉野課長はその辺のことは熟知していると思われます」佐野が言った。
 市長政策課長の吉野昌夫は井上市長の懐刀として庁内で幅を利かせていた。吉野課長は異例のスピードで課長に昇進して、次の総務部長と目されている。
「『殿、ご乱心』と言って、暴挙を止めさせる者がいないのかね?」杉田が冗談めかしに言った。
「殿中にはいませんねえ。殿を代えるしかないと思います」佐野が言った。
「殿を代えるしかないか……。ところで坂井さん。健全化法の4指標はどうだったかな?昨年度の決算額から出した健全化判断比率だけれど?」杉田が尋ねた。
「今、資料を持ってきます」坂井係長が資料を取りに自席に戻った。
 地方公共団体(都道府県、市区町村)の財政状況を統一的な指標で明らかにし、財政の健全化や再生が必要な場合に迅速な対応を取るために、財政健全化法が平成21年4月に施行された。同法で設定された財政の健全性を示す次の4つの指標(健全化判断比率)が設けられた。
1.実質赤字比率(税収や地方交付税に対する赤字額の割合)
2.連結実質赤字比率(公営ギャンブルや宅地造成、観光事業などの特別会計を加えた赤字額の割合)
3.実質公債費比率(税収や地方交付税に対する地方債などの借金の割合)
4.将来負担比率(第三セクターや地方公社など関連団体を含めた将来の借金負担の重さを示す)
 上記、4つの健全化判断比率に基づいて、早期健全化基準以上である地方公共団体は「財政健全化団体」に、財政再生基準以上である地方公共団体は「財政再生団体」に認定され、国の指導の下で財政再建に取り組まなければならない。
 早期健全化基準は、自主的な改善努力による財政健全化が必要な水準(黄色信号)で、実質公債費率が25.0%(財政再生基準)を超えると、財政健全化計画の策定が求められる。実質公債費率が35.0%(財政再生基準)を超えると、国等の関与による確実な再生が必要な水準(赤信号)となり、財政再生計画を策定し、国から厳しい財政再建が求められる。平成19年に財政破たんした北海道夕張市が財政健全化法に基づき「財政再生団体」第1号に認定された。
 テーブル席に戻った坂井が資料のコピーを配って説明を始めた。
「実質赤字比率と連結実質赤字比率は、赤字が発生していないので、『該当なし』です。次に実質公債費比率ですが、これは24.5%になっています。4番目の将来負担比率は320.0になっています。これら2つの指標は、いずれも早期健全化基準の25.0%、350.0%に近づいています」
 坂井が言った。
「北海道夕張市のように、田沼市が財政破たんしないことを祈るばかりだよ」
 杉田が苦笑いしながら言った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者