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小説「廃屋の町」(第54回)

2017年8月12日ニュース

 12月上旬、商店街にある居酒屋「寄り道」の奥座敷で、田沼市長の井上将司、市議会議長の遠山信一、県議会議員の山田良治、田沼市建設業協会長の山田信夫、信州建設社長の佐川郁夫、森山組社長の森山富市の6人が集まって酒宴が開かれた。信州建設と森山組は県内ゼネコンのツートップだ。また、佐川と森山は県の建設業協会の会長と副会長をそれぞれ務めている。
 和服姿の端正な顔立ちの女性が部屋に入ってきて、山田信夫の脇に座った。山田がおもむろに口を開いた。
「皆さんに紹介します。妻の麗子です。この店の経営者です」
「麗子と申します。主人がいつもお世話になっています。本日は年の瀬も押し詰まったなか、『竜宮』にお越しをいただき、ありがとうございます。お時間の許すまで、ごゆっくりとご歓談ください」
 麗子は、居並ぶ賓客の前で両手をついて頭を下げた。
「奥さん、今ほど『竜宮』とおっしゃいましたが、この店は『寄り道』ってお店じゃなかったですか?」遠山が尋ねた。
「それは表の店の名前で、この奥座敷は『竜宮』と申します」
「でも『竜宮』という看板はありませんが……」
「こちらは会員制の料亭でございます。一般のお客様は入れませんので、看板は掛けておりません」
 麗子が答えた。
「私も一つお聞きしたいんですが、『竜宮』って名前にしたのは、どんな意味があるんですか?」
 佐川が尋ねた。
「ホ、ホ、ホ。竜宮城に連れて行かれた浦島太郎のように、時が過ぎるのを忘れるほどに楽しく過ごしていただける場所という意味ですわ」
「私も一つ質問させてください。それでは表の『寄り道』という名前の由来はなんですか?」
 今度は森山が尋ねた。
「お勤めの帰りに気軽に寄っていただきたいということで、『寄り道』にしました。特に作業着でお越しいただいたお客様には生ビールを半額でご提供させていただいております」
 麗子は一礼して部屋を出て行った。
「新聞折り込みに『作業服でのご来店大歓迎!』というチラシが入っていたようですが。市役所でも、普段、作業時を着て仕事をしている建設課の職員は、安い居酒屋を見つけたって喜んでいましたよ」
 井上が言った。
「通りに面した正面が居酒屋で奥が料亭の座敷になっているなんて、正直、この店の造りには驚きましたよ。それにこの部屋は土蔵ですね。しかし窓がないのが、ちょっと気になりますが……」
 佐川が言った。
「佐川さん、この部屋は夜しか使わないので窓はいらないんですよ。この店は昔、乾物問屋だったらしいですよ。表の居酒屋と裏の料亭は壁で仕切られ入口も別々です。前と奥との行き来はできない構造になっています。前の店は看板があって誰でも入れる大衆酒場なら、こちらの奥座敷は看板のいらない、要人やエグゼクティブを迎え入れる貴賓室ですよ」山田が言った。
「窓もなければ壁も分厚くて、中の明かりも話し声も外に漏れる心配もない。この部屋は秘密の会合には打ってつけの場所ですね。ところで、そこにあるテレビのようなモニターは何ですか?」
 森山が尋ねた。
「これですか」山田がリモコンのスイッチを入れた。
 おおー!その場の一同が声を上げた。
「こ、こ、これは!居酒屋の中じゃないですか?」森山が言った。
「そうです。店内の防犯カメラで撮っている映像です。こんなのもありますよ」と言って、山田はスイッチを切り替えた。モニターには通りを行き交う人や車が映し出された。
「今、映っている映像は居酒屋の入口にある防犯カメラが捉えた映像です。物騒な時代になりましたからね。二台のカメラで店の中と外を監視しているんですよ」山田が言った。
「何か、覗き見をしているような感じですね」森山が言った。
「さー、料理長が腕に縒りを掛けて作った『信州黄金シャモ』の鍋料理です。熱いうちに召し上がってください」山田がグツグツと音をたてている鍋の蓋を開けて言った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「廃屋の町」(第53回)

2017年8月11日ニュース

 ゲラ刷りの上部には、「まちづくり八策 コンパクト&スマートシティー構想~50年先を見据えたまちづくりを提案します!」というチャッチコピーが入っていて、その下には8項目の政策(まちづくり八策)が列挙されている。
1.お年寄りが歩いて買い物に行ける、歩いて通院できる、介護サービスも充実した高齢者に優しい街(コンパクトシティー)づくりを目指します。
2.人口減少をストップさせるため、子育て世代の定着と市外からの流入に向けた支援策を強化します。
3.世界の檜舞台で活躍できる人材を輩出できるまちづくりを目指します。
4.市役所内に人口問題を検討する部局横断の組織を新設し、全市挙げて人口減少対策(人口維持対策)に取り組みます
5.地域の絆(きずな)づくりを応援します。
6.地元の農商工業者の事業承継に向けた支援(後継者対策)を実施します。また雇用創出につながる企業誘致・起業化支援を推進します。
7.エネルギー効率の高い街(スマートシティー)づくりを目指します。
8.将来世代(子供たち)に資産として引き継げるように、合併前の旧市町村時代に建てられた公共施設の統廃合を進めます。
「僕が提案した後継者対策も入っているね。この『まちづくり八策』って言葉は、もしかして、坂本竜馬の『船中八策』を真似たのかい?」小島が尋ねた。
「当たり!小島、よく分かったね。いま小島が言ったように、『船中八策』は坂本龍馬が土佐を出港し上京する折に、船中で藩士の後藤象二郎に示した新政府のグランドデザインだよ。『まちづくり八策』は、建設業者の利益を最優先に考える井上市政と決別して、市民の利益を最優先に考える甘木市政を実現しようという意味合いを含んだ言葉だよ」風間が答えた。
「ゲラ刷りがもう一枚あるけど、甘木の顔写真と経歴、それに中学時代の写真も何枚か載せているね。これって、運動会の時の写真じゃないの?ああ!俺だ。風間や恵ちゃんも写っているね。お互い、この頃は若かったね。髪もふさふさしていたしー、そうだろう、健ちゃん?」小島が言った。
「余計なこと言うなよ!お前の頭だって、今じゃ白髪頭じゃないか」
「お互い様だけどね。このゲラ刷りは『まちづくり八策』と同じサイズだけど、セットってこと?」
 小島が尋ねた。
「ああ、チラシの片面だよ」風間が答えた。
「チラシ?」
「『まちづくり八策』はB4版両面刷りのチラシにして、正月明けに新聞折り込みで市内に配布する予定なんだ。今、その準備をしているところだよ。チラシの一面には甘木の人柄を知ってもらおうと顔写真と経歴を載せて、二面には政策を載せることにしたんだ」風間が言った。
「チラシか。いいことを思いついたね。うちも時々、新聞にチラシを入れるけど、スーパーのチラシとは全然、違うね」小島が言った。
「それは、そうよ。スーパーのチラシは値段が全てでしょう。商品の写真は小さくて、値段の方は大きな字で書いてあるわ。それに、主婦の立場で言わせてもらうと、値段の付け方って巧妙よね。89円とか138円とか、一の位を四捨五入すると十の位に切り上がってしまうのよね」
「痛いところを突かれたな。例えば92円の商品と89円の商品は3円しか値段は違わないけど、買う方から見れば、それ以上の開きがあるように感じてしまうよね。でも、ウチの店では、特売日になると赤字覚悟で御奉仕しているよ」小島が言った。
「孝雄ちゃん、百津屋さんの常連客として言わせてもらうけど、特売日を増やしてもらいたいわ!」
「はい、前向きに検討させて頂きます」小島が言った。
「それって、お役所言葉じゃない?役人はよく、『検討します』って言葉を使うけど、結局やらなんだよね」甘木が突っ込みを入れた。
「私は役人ではありませんので、嘘は言いません!」小島はきっぱりと答えた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「廃屋の町」(第52回)

2017年8月9日ニュース

 12月中旬、甘木は小島孝雄が見つけてくれた商店街の空き店舗に選挙事務所を構えた。
「こんにちは」小島が甘木の事務所に顔を出した。
「あら、孝雄ちゃんじゃないの。今日はお店、お休みなの?」事務所番の久保田恵子が言った。
「ばか言えよ。ウチは年中無休だよ。配達のついでに、立ち寄ったんだ。これ、陣中見舞いだよ」
 小島がペットボトルの飲料が入った段ボール箱を床に置いた。
「孝雄ちゃん、ありがとう。ここは選挙事務所にはお誂え向きの場所だわ。ここにいると商店街の様子がよく分かるのよ。商店街を歩いている買い物客のほとんどはお年寄りね。それもおばあちゃんがシルバーカーを押して歩いているわ。きっと近所に住んでいるお年寄りだわ」
「ウチの店の顔なじみのお客さんもシルバーカーを押して買い物に来るね。シルバーカーってよくできているよ。杖代わりにもなるし、腰掛けにもなる。それに荷物入れも付いているので、お年寄りが買い物に行く時には便利な道具だね」
「熱いコーヒーでもどうぞ」
「ありがとう」
「シルバーカーってお年寄りにとっては必需品よね。うちの母もシルバーカーを押して近所のお友達のところに出掛けたりしているわ」
「甘木は外に出ているの?」
「健ちゃんと挨拶回りに行っているわよ。3時には帰って来るはずよ」
 久保田は部屋の時計を見ながら言った。
「ただいま」甘木と風間が帰って来た。
「お帰りなさい。外は寒かったでしょう。今、熱いコーヒーを入れるわよ」
「あれ、小島じゃないか?お店の方は大丈夫なのかい?」風間が言った。
「この時間帯は近所に住むお年寄りが買い物に来る程度で客は少ないね。もっとも4時になると、お年寄りはぴたりと来なくなるけどね」小島が言った。
「あら、どうして?」久保田が尋ねた。
「4時になると時代劇のテレビ番組が始まるんだ。再放送だけどね。お年寄りはその番組を見たくて、4時になると外出を控え、また外出先から帰って来るんだ。ウチのお袋も毎日、欠かさずに時代劇を見ているよ」小島が言った。
「それ、分かるよ。甘木と挨拶回りをして気づいたんだけど、平日の昼間に挨拶回りに行っても、家に居るのはお年寄りばかりだね。特に4時頃にお年寄りの家を訪ねると、テレビの大きな音が玄関先まで聞こえてくるんだ。時代劇を見ているんだなって分かったよ。大相撲が始まると相撲中継を見ているおじいちゃんもいたよ」風間が言った。
「特に、寒くなるとお年寄りは家に引きこもりがちだわ。話し相手のいないお年寄りにとって、テレビがその代役を務めているのかもね」久保田が言った。
「何だい?このゲラ刷りの紙は?『まちづくり八策』って書いてあるけど」小島が言った。
「市長選向けに作った政策で、いま校正しているところだよ。僕が市長に当選したら、こういうまちづくりをしたいという思いを政策にしたものだよ」甘木が言った。
「この『まちづくり八策』には、甘木と俺たち同級生が3か月余りかけて、田沼市内を隈なく回って集めた住民の声や地域の実情がこの政策に集約されているんだ。小島からもらった意見や要望も入っているよ」風間が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第51回)

2017年8月7日ニュース

 12月中旬、市議会副議長の小林俊二氏が4月の市長選に出馬するとのうわさが流れた。小林氏は市議会最大会派「田沼クラブ」の幹事長で会派の中では若手のホープに目されていた。しかしこの噂話は間もなく消えた。水面下では、保守票が割れることを心配した井上陣営は保守候補を一本化するため、小林副議長の出馬を断念させようと多額の現金を使った調整が行われた。
 1月上旬、例年、政府の新年度予算案が決定された年明け後に県や市町村では新年度の予算編成が始まる。田沼市では市長選挙のある年は、公共事業予算を中心に大型予算が編成されることが慣例となっている。仕事始めの1月4日、建設課長の佐々木健一は課内会議に集まった係長を前に年頭の挨拶を行った。
「明けましておめでとうございます。今年は例年ない大雪に見舞われ、職員の皆さんからは、年末年始の休暇にもかかわらず、除雪車の出動連絡業務にあたっていただきありがとうございました。冬型の気圧配置がまだしばらくは続くようです。仕事始めの今日からは通行車両が増え、また除雪作業の影響もあって道路は大変混雑しているようです。引き続き除雪車の出動連絡業務にお難儀をかけますが、よろしくお願いします。さて、これから新年度の予算編成作業が始まるわけですが、先ほど行われた部課長会議で、新年度の公共事業予算については、今年度の3割増しで予算計上するようにと、井上市長からご下命がありました。皆さんも承知のとおり、新規事業の目玉として文化会館と総合体育館の建設が、それぞれ文化振興課と生涯学習課で予算計上されることになっています。うちの建設課の関係では、新規事業として国道バイパスへのアクセス道路の整備が3か所ありますし、継続事業では消雪パイプの新設、住宅リフォーム助成事業、下水道の整備、橋梁の付け替え工事などがありますが、まだ3割増しには届いてないので、市道の改良、老朽した消雪パイプや消雪井戸の更新、道路側溝の改修など、以前から自治会要望として出されていた事業で、まだ執行していない事業を掘り起こしていただきと思います。新年度予算に計上する公共工事が決まったら、事業名、施工個所、事業量、概算事業費を入れた一覧表を作って来週の月曜日までに私に提出してください。よろしくお願いします」
 佐々木は今年3月で定年退職を迎える。4月からは田沼市建設課長の天下り先になっている建設業協会事務局長の椅子が用意されている。
「土日を入れても5日しかない。休日出勤して仕事をしろということか。課長は部下に命令するだけだから、いいよな。仕事をするのは、我々、下々の者だ。課長は4年に一度の『お祭り』だって言っているけど、我々にとっては4年に一度の『苦役』だよ」
 課内会議を終えて席に戻った道路維持係長の横田紀夫はぼやいた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「廃屋の町」(第50回)

2017年8月5日ニュース

「さっき、入札等監視委員会で、落札率が県内平均よりも高くなっていることや、予定価格に近いところで、入札価格が等間隔に並んでいることが指摘されているようだけど、田沼市が発注する公共工事の落札率は、一体どれくらい高いんだ?」風間が尋ねた。
「地元の建設業者しか入札に参加できない制限付き一般競争入札の場合は、落札率は常に95%を超えているんだ」
「ええ!そんなに高いのか!歩切りをして予定価格を低く設定していれば、予定価格を上回る価格で札を入れる業者だっているだろう。それが、実際は、ほとんどが予定価格の範囲で札を入れているってことは、予定価格が事前に業者側に漏れているってことだろう?」風間が言った。
「それは何とも言えないね。分母になる予定価格が歩切りによって引き下げられた結果、落札率が高くなったということも考えられるね」
「そうだとすれば、市外の業者も入札に参加できる一般競争入札や指名競争入札だって落札率が高くなってもいいんじゃないのかな」甘木が言った。
「確かに、市内業者しか参加できない制限付き一般競争入札に比べ、通常の一般競争入札や指名競争入札の落札率は低くなっている。でもこれだって、状況証拠でしかないよ」
「ところで予定価格を決めるのは誰なんだい?」風間が尋ねた。
「最終決定権者は井上市長や、金額によっては榎本定男副市長だ。入札執行の稟議書が最終決裁権者の市長や副市長に回ってくると、予定価格を記入した後、その紙を封書に入れて封印するんだ」
「入札の時に予定価格の入った封書が開けられるの?」久保田が尋ねた。
「そのとおり。入札を執行する入札課の職員が開封して、業者が入れた入札価格と予定価格を比較して、最も安い価格を入れた業者が落札者となるんだ」
「予定価格を超えなければ、どんなに安い価格を入れてもいいの?」久保田が尋ねた。
「『安かろう、悪かろう』で、粗雑な工事になってしまうことを防ぐ目的で、入札価格の下限額が設定されているんだ。この下限額のこと『最低制限価格』と呼んでいるよ。予定価格が分かれば、自動的に最低制限価格も分かる仕組みになっている」
「予定価格を上回ってもダメ。最低制限価格を下回ってもダメ。でも、なるべく儲けが出るように高い価格で仕事を請け負いたい。業者の人って大変ね」久保田が言った。
「入札前に業者間の談合で落札者を決めておく。その落札予定者がなるべく高い価格で工事を受注させるために必要な入札情報、特に予定価格が発注者側から漏れている官製談合。これが田沼市の入札の実態じゃないか。その予定価格の情報提供が金銭で取引されているとした場合に、どうなるの?」
 風間が言った。
「予定価格の漏洩に合わせて金銭の授受があれば、贈収賄になるね」甘木が言った。
「官製談合も贈収賄も証拠がなければ、どうしようもないよ」杉田が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第49回)

2017年8月3日ニュース

「工事の発注者が事前に設定する落札価格の上限額のことで、工事の内容や技術的程度に応じて決まる見積価格のことだよ。入札参加業者は予定価格よりも下回る価格で札を入れ、最も安い価格で札を入れた業者が落札者となる。時々、予定価格を上回る価格で札を入れて失格になる業者もいるけどね」
「利幅を考えれば予定価格に近い価格で落札した方がいいかもしれないけど、どうしてもその工事を受注したいと考える業者にとっては、利幅は少なくなるけど、予定価格よりもかなり低い価格の札を入れないと落札できないわけか」甘木が言った。
「そこで、業界の利益を最大化するため談合が行われるわけだ。落札率って、落札した業者が札に書き入れた価格を予定価格で割って出すんだろ?田沼市の落札率が県内の市町村平均よりも突出して高くなっているというのは、入札前に予定価格が業者側に漏れているってことじゃないかい?つまりは、官製談合が行われているってことだろう?」風間が言った。
「田沼市の落札率が県内平均よりも高いからといって、官製談合、つまり入札前に予定価格が漏れていると断定することは難しいね。限りなく黒に近いグレーだとは思うけど、状況証拠でしかないよ。入札等監視委員会でも、県内平均よりも落札率が高くなっていることや、予定価格に近いところで入札価格が等間隔に並んでいる状況を見て、談合を疑う委員さんもいるけどね」
「そういえば、田沼市は『歩切り』をして予定価格を低く設定しているので、落札するのが難しいって、親戚の建設会社の人が言っていたけど。『歩切り』って何のこと?」久保田が尋ねた。
「見積金額、正式には『設計書金額』っていうんだけど、この設計書金額をよりも低い価格で予定価格を設定することだよ。国からは設計書金額を予定価格にするようにと指導が出ているけど、田沼市の場合、『歩切り』をして設計書金額よりも低い価格で予定価格を設定しているんだ」
「どうして、そんなことをするんだろうね?」甘木が言った。
「入札参加業者に予定価格を知られないようするためなんだ。入札参加業者は入札書に記入する金額を決めるために、発注者から事前に公表される設計図書を基に、積算ソフトを使って工事費用を算出するんだ。この積算ソフトを使えば、設計書金額、つまり予定価格を、かなりの精度で割り出すことができるんだ」
 田沼市の場合、歩切りは設計書金額の10%の範囲で減額する方法で行われていた。表向きは入札参加業者に予定価格を知られないようにするためだが、実際の運用は違っていた。落札予定業者に有利になるようにと歩切りの幅を細かく調整していた。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第48回)

2017年8月1日ニュース

「ごめん。話を本筋に移すよ。公共工事の入札は大きく二つに分けられる。条件を満たした業者なら誰でも参加できる一般競争入札と、あらかじめ発注者側が入札参加業者を絞って参加させる指名競争入札があるけど、一般競争入札が原則になっている」
「指名競争入札にするのか、一般競争入札にするのかを分ける基準ってあるの?」久保田が尋ねた。
「地元業者だけでは施工できない大規模な工事とか、特殊な技術が必要とされる工事の場合は指名競争入札で行われることが多いね。一方、小規模な工事や維持系の工事は一般競争入札で行われているよ」
「井上市長は市長選の公約に文化会館と総合体育館の建設を挙げているけど、この二つは大きな建設工事だわ。さっきの基準に合わせると、指名競争入札で行われるってこと?」久保田が尋ねた。
「多分ね。さっきも言ったように、地元業者、県内ゼネコン、全国ゼネコンで構成する共同企業体を幾つか作らせておいて、それらの企業体を指名して入札が行われることになると思うよ」
「そうなると、さっき健ちゃんが言った井上市長と関係が深い信州建設も入って来る可能性が大ありってことね?」久保田が言った。
「充分にあるね」
「公共工事の入札は一般競争入札が原則と言ったけど、条件を満たせば市外の業者も入れるの?隣町で建設会社を経営している親戚がいるんだけど、田沼市の公共工事の入札に参加できないってぼやいていたわ」久保田が言った。
「市外の建設業者が参加できないような条件を設けているからだよ」
「それはどんな条件?」久保田が尋ねた。
「地域要件の付いた制限付き一般競争入札といって、田沼市に主たる営業所か従たる営業所がある建設業者しか入札に参加できない仕組みになっているんだ」
「『主たる営業所』とか『従たる営業所』って?」久保田が尋ねた。
「『主たる営業所』は本店や本社のことで、『従たる営業所』はそれ以外の支店や支社、営業所や出張所のことだよ。久保田さんの親戚関係の建設会社は田沼市内に支店とかあるの?」杉田が尋ねた。
「ちっちゃい建設会社だから、田沼市に支店とか出張所なんかないわ」久保田が答えた。
 田沼市は地元の建設業者の育成を名目にして、市内に本社や本店がある建設業者に優先的に入札参加資格を与える「制限付き一般競争入札」を採用している。大規模な建築工事や高度な施工技術が必要な工事で、市内業者だけでは施工できない場合には、市内業者と市内に従たる営業所を置いている県内ゼネコンとを組み合わせた共同企業体(JV)を作らせて、その共同企業体に入札参加資格を与えている。
「県内ゼネコンの信州建設は田沼市に支店があるから、一般競争入札にも参加できるってことね。指名競争入札で大きな工事を取って、一般競争入札で小さな工事まで取ってしまうの?まるでハゲタカみたいね。健ちゃん、そう思わない?」久保田が風間の顔を覗き込んだ。
「恵ちゃん、どうして俺の頭を見るんだよ。俺は情け知らずのハゲタカじゃなくて、血も涙もある『仏の風間』だよ」風間が言った。
 杉田と甘木が、く、く、く、と笑った。
「それと入札を行う場合、必ず予定価格を設定することになっている」
「予定価格?」久保田が尋ねた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者