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小説「廃屋の町」(第48回)

2017年8月1日ニュース

「ごめん。話を本筋に移すよ。公共工事の入札は大きく二つに分けられる。条件を満たした業者なら誰でも参加できる一般競争入札と、あらかじめ発注者側が入札参加業者を絞って参加させる指名競争入札があるけど、一般競争入札が原則になっている」
「指名競争入札にするのか、一般競争入札にするのかを分ける基準ってあるの?」久保田が尋ねた。
「地元業者だけでは施工できない大規模な工事とか、特殊な技術が必要とされる工事の場合は指名競争入札で行われることが多いね。一方、小規模な工事や維持系の工事は一般競争入札で行われているよ」
「井上市長は市長選の公約に文化会館と総合体育館の建設を挙げているけど、この二つは大きな建設工事だわ。さっきの基準に合わせると、指名競争入札で行われるってこと?」久保田が尋ねた。
「多分ね。さっきも言ったように、地元業者、県内ゼネコン、全国ゼネコンで構成する共同企業体を幾つか作らせておいて、それらの企業体を指名して入札が行われることになると思うよ」
「そうなると、さっき健ちゃんが言った井上市長と関係が深い信州建設も入って来る可能性が大ありってことね?」久保田が言った。
「充分にあるね」
「公共工事の入札は一般競争入札が原則と言ったけど、条件を満たせば市外の業者も入れるの?隣町で建設会社を経営している親戚がいるんだけど、田沼市の公共工事の入札に参加できないってぼやいていたわ」久保田が言った。
「市外の建設業者が参加できないような条件を設けているからだよ」
「それはどんな条件?」久保田が尋ねた。
「地域要件の付いた制限付き一般競争入札といって、田沼市に主たる営業所か従たる営業所がある建設業者しか入札に参加できない仕組みになっているんだ」
「『主たる営業所』とか『従たる営業所』って?」久保田が尋ねた。
「『主たる営業所』は本店や本社のことで、『従たる営業所』はそれ以外の支店や支社、営業所や出張所のことだよ。久保田さんの親戚関係の建設会社は田沼市内に支店とかあるの?」杉田が尋ねた。
「ちっちゃい建設会社だから、田沼市に支店とか出張所なんかないわ」久保田が答えた。
 田沼市は地元の建設業者の育成を名目にして、市内に本社や本店がある建設業者に優先的に入札参加資格を与える「制限付き一般競争入札」を採用している。大規模な建築工事や高度な施工技術が必要な工事で、市内業者だけでは施工できない場合には、市内業者と市内に従たる営業所を置いている県内ゼネコンとを組み合わせた共同企業体(JV)を作らせて、その共同企業体に入札参加資格を与えている。
「県内ゼネコンの信州建設は田沼市に支店があるから、一般競争入札にも参加できるってことね。指名競争入札で大きな工事を取って、一般競争入札で小さな工事まで取ってしまうの?まるでハゲタカみたいね。健ちゃん、そう思わない?」久保田が風間の顔を覗き込んだ。
「恵ちゃん、どうして俺の頭を見るんだよ。俺は情け知らずのハゲタカじゃなくて、血も涙もある『仏の風間』だよ」風間が言った。
 杉田と甘木が、く、く、く、と笑った。
「それと入札を行う場合、必ず予定価格を設定することになっている」
「予定価格?」久保田が尋ねた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者