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小説「廃屋の町」(第6回)

2017年5月7日ニュース

「僕の方は関口博産業建設部長から監視されていたね。僕から見た井上前市政の弊害は、『市政の私物化』だね」木下が言った。
「市政の私物化って、どんなこと?」
「ウチの課が担当している仕事で言えば、井上陣営が市長選告示日の日曜日に、市が管理している瓢箪池の駐車場を出陣式の会場に提供したことさ。丁度、瓢箪池の桜祭りが始まっている最中だったよ。観光客用の駐車場が一時閉鎖され、井上陣営の出陣式の会場になったんだ。駐車場は、国会議員、県議会議員、周辺市町村長の黒塗りの公用車に占拠されてしまったよ」
「そうそう、思い出したよ。僕の乗った選挙カーが瓢箪池の前を通った時に、駐車場に井上陣営の選挙カーや黒塗りの公用車が何台も停めてあって、ダークスーツを着た御歴歴が壇上の横に並んでいるのが見えたよ」甘木が言った。
「花見客が来ない朝早い時間帯だから大丈夫だろうって、関口部長から言われて、しかたなく観光客用の駐車場を選挙に使わせたんだ。通常、駐車場を目的外に貸し出せば使用料が発生するんだけれど、結局はタダで貸すことになった。使用料といっても僅かな金額だけどね」
「金額がどうあれ、それは市政の私物化だね。実際、観光客には迷惑が掛からなかったの?」
「日曜日の当日は天気も良く気温も高かったので、朝早くから花見客の車が瓢箪池に来たんで、少し離れた所にある第二駐車場に案内したところ、一番近くにある駐車場がどうして使えないんだって、花見客からブーブー文句は言われ、散々な目にあったよ」
「今、木下から『市政の私物化』の話を聞いて思い出したんだけど、甘木が市長選の政策説明をするために、市の公民館を借りようとしたら、断れただろう?」杉田が言った。
「そうそう、公民館は政治集会に使えないって言われて、断られたよ」
「市の公民館条例では、選挙に関して特定の候補者の支持を目的にする集会では使えないことになっているんだ。しかし、井上前市長は市政報告会という名目で公民館に支持者を集め、選挙公約の説明会場として使っていたんだ。市政報告会といっても実態は政治集会だよ」
「ひどい事をするね。ダブルスタンダードってことか」風間が言った。
「それに側近の市職員がその集会に参加したそうだよ」
「市の職員は政治的には中立な立場にある一般職の公務員だから、政治活動は制限されているんじゃないかい?」甘木が言った。
「そのとおり、れっきとした地方公務員法違反だよ。本来なら懲戒処分になるんだけれど、井上前市長の政治集会に参加した側近の職員に対しては、全くのお咎めなしだよ」杉田が言った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者