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小説「廃屋の町」(第113回)

2017年12月7日ニュース

 3月上旬、居酒屋「寄り道」の奥座敷「竜宮」で関係者が集まって、統一地方選挙の対策会議が開かれた。会議には、県議会議員の山田良治、田沼市長の井上将司、市議会議長の遠山信一、田沼市土地改良区理事長の松本正蔵、田沼市建設業協会長の山田信夫、信州建設社長の佐川郁夫、森山組社長の森山富市の7人が集まった。山田会長の横には妻の麗子が控えている。
「皆様方におかれましては、選挙準備で大変お忙しいなか、竜宮にお越しをいただきありがとうございます。本日、皆さまのためにご用意させて頂いた料理は、験を担いでかつ丼にしました。料理について、簡単にご説明させていただきます。使用した豚肉は飯田の八千代豚、鶏卵は信州黄金シャモの卵でございます。お米は長野県のブランド米『風さやか』で、お茶碗は田沼城主溝口家ご用達の田沼焼でございます。どうぞ、お時間の許すまで、ごゆっくりとご歓談ください」
麗子は挨拶をした後、部屋を出て行った。
「統一地方選挙まで、あと一か月となりました。皆さんにおかれましては、年度末の業務多忙な中、選挙準備に御尽力を頂き、感謝申し上げます。戦況について立候補予定の山田県議と井上市長から報告をしていただきます」山田会長が挨拶した。
「県議の山田でございます。皆さんにはお難儀をおかけしております。泣いても笑っても選挙まで、あと1か月です。引き続きのご支援をよろしくお願いします。まずは、私の方から県議選の田沼市選挙区の状況について説明させていただきます。結論から申し上げれば、田沼市選挙区は今回も無競争となりそうです。元国会議員秘書の手島一郎君が、県議選への出馬を模索していたようですが、彼はまだ40代と若いので、まずは市議になってもらい、私のように市議としての経験を積んでから、次のステップとして県議選に出てはどうかと話したところ、本人から了解してもらいました」
「今ほど山田県議が話した件について、私から補足説明をさせていただきます。私が会長をしています『田沼クラブ』は所属議員が17人と、市議会では最大会派ですが、年々高齢化しております。10月の市議選では世代交代を進める必要があるとの判断から、会派の最年長者である山崎光蔵議員が今期限りでの引退を決断されました。その穴を埋めるために手島君を「田沼クラブ」の新人候補として擁立することになりました」遠山が言った。
「手島一郎は本当にそれだけで、県議選への立候補を取り止めたんでしょうか?手島は稲田元議員の秘書時代に政治資金を着服したって聞いたことがありますが……。立候補を取り止める条件として、手島から金を要求されたんじゃないですか?」佐川が尋ねた。
「私からはこれ以上のことは申し上げられません」遠山は不機嫌そうに言った。
「次は、井上市長から状況報告をお願いします」山田会長が井上に目配せした。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第112回)

2017年12月5日ニュース

 2月下旬、部課長会議を終えて席に戻った総務部長の中山邦夫は、机に置かれた茶封筒を手にとった。封書には親展とあり、宛先人に「田沼市総務部長 中山邦夫様」と書いてあった。差出人は公正取引委員会とあった。
「何だろう?」
 中山は封書を開け、3つに折り畳まれた1枚の文書を取り出した。文書に目を通した中山は顔面蒼白になった。
「こ、こ、これは!」中山は声を震わせながら呟いた。
 公正取引委員会委員長から田沼市長に宛てた公文書には、市が発注した市立病院の建設工事について、田沼市の職員が入札談合に関与した疑いがあるとして、行政調査を行うというものだった。下欄の連絡先に「公正取引委員会事務総局審査局管理企画課 担当者:不正競争監視室長 斉木正則」と書いてあった。中山は文書を封書に入れると、慌てふためきながら市長室に向かった。
「日下部さん、市長は部屋にいる?」中山は秘書係長の日下部俊夫に向かって言った。
「今の時間帯であれば、大丈夫ですよ」中山は市長室に入るなり、
「市長、大変なことが起きました!」
「中山君、そんなに慌てて、どうしたんだね?」
「市立病院の建設工事で官製談合の疑いがあったということで、来月、公正取引委員会の調査が市役所に入ります」中山は、市長に宛てた公正取引委員長名の公文書を差し出した。
 中山から渡された文書を見た井上は、
「誰が公取委に通報したんだろう?」と驚いた様子で言った。
「たぶん自殺した坂井盛男だと思います。坂井は釈放された3日後に自殺していますから、その間に公取委に通報したんだと思います」
「覚悟の自殺だったというわけか。しかし、遺書は残していなかったんだろうね?」
「新聞には、遺書は残されていなかったと書いてありましたが……」
「問題は、坂井がどのような証拠書類を公取委に提出したかだね」
「入札調書などの公文書のコピーとかだと思われますが……」
「公文書を調べたところで、不正が行われた証拠は見つからないよ」
「もう一つ考えられるのは、入札室で交わされた関係者のやりとりを記録したメモです。あの時、坂井は入札執行職員として部屋にいました」
「市議会でも改進党系の明間市議が、一者入札だった点や、不落で終わった1回目の入札から直ちに2回目の入札が行われ、予定価格に極めて近い落札率だった点を追及していていたからね。関係者のやり取りを録音したテープなら、不正行為が行われたことを示す証拠になるが、やり取りを記録したメモでは伝聞情報だし、それに、メモの裏付けは取れない。メモした本人はこの世にいないからね。『死人に口無し』だよ」
 数日後、長野日刊新聞の社会面に「市立病院の建設工事で官製談合か? 公正取引委員会の調査開始」という見出しで、次の記事が市立病院の写真入りで掲載された。
「公正取引委員会は、3年前に行われた田沼市立病院の移転新築工事の入札で、官製談合が行われたという通報が寄せられたことから、工事を発注した田沼市と工事を受注した建設会社三社に対して行政調査を行うと発表した。田沼市立病院の移転新築工事の入札については、不自然な入札執行だったことや予定価格に極めて近い価格で落札されたことから、当時の市議会でも議論された」
 2月下旬に発行された政財界信州3月号に「市立病院の建設工事で官製談合?市職員の怨念晴らします!公取委の調査始まる!」という見出しで、次の記事が市立病院の写真入りで掲載された。
「3年前に行われた田沼市立病院の移転新築工事で官製談合が行われたという通報が公取引委員会に寄せられた。公取委に情報を提供したのは、先月、無免許運転で現行犯逮捕され、その後、懲戒免職となった元市職員のS氏(故人)。S氏は釈放後、廃業した実家の工場で首を吊って自殺した。関係者の話によれば、S氏は市立病院の工事入札を執行した職員であり、官製談合について何らかの事情を知っているS氏の口を封じるために、無免許運転の現行犯逮捕と懲戒免職が行われたとの見方が出ている……」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第111回)

2017年12月3日ニュース

 開札時刻の9時30分になったことから、封かんされた入札書を開封しました。次に、井上将司市長から記入してもらった予定価格の封書を開封しました。予定価格(税抜き)は68億731万1000円でした。一方、入札額の方は73億2500万円でした。私たち入札執行職員は予定価格と入札額を比較して入札額が予定価格を上回ったため、業者に、このことを伝えて、第1回目の入札は不調にしました。その場で再入札が行われましたが、2回目の入札も予定価格を上回る金額だったために不調になりました。なお、市の財務規則では再入札は1回が限度とされています。しかし、中山課長は予定価格が記入された文書と入札書を、私たちから取り上げて、
「もしかして、消費税分が入っているんじゃないか?」と言った後、電卓を叩いて出した数字をメモ書きし、そのメモ書きを予定価格と一緒に業者に見せて、
「これを見て分かるように、入札金額に本来は含めない消費税分が入っていたようですね。この金額を記載したもので再度提出してください」と業者に伝えました。
 私は中山課長に「再入札はもうできません」と言ったら、「2回目の入札書は廃棄して、これから提出される入札書を再入札の札にするように」という指示を受けました。
 中山課長からメモを受け取った業者は「この金額だと予定価格に近い額になって、不自然じゃないですか?」と言いましたが、中山課長は「この入札は総合評価方式で行われていますから、予定価格の範囲内であれば、落札率が高くなっても、全く問題はありません」と言って、指示した金額を業者に書かせ提出させました。私たちは、業者から示された入札額を見てびっくりしました。落札率が99・9%と予定価格に極めて近い金額だったからです。
 業者が帰った後、中山課長は私たち二人に向かって、「このことは、絶対に市役所内だけでなく外部にも漏らさないように。もし、君たちがこのことを漏らせば守秘義務違反で懲戒処分を受けることになるからね」と脅され、他言するなと釘を刺されました。
 中山課長が行ったことは、本来、業者に対して公開されていない予定価格の漏洩であり、入札談合等関与行為防止法第2条第5項3号に規定する「発注に係る秘密情報の漏洩」にあたると考えています。貴職におかれましては、市立病院建設工事の入札で行われた官製談合の真相を解明していただきたく通報しました。
 入札課に配属されて分かったことですが、市が発注する公共工事の落札率が95%以上と、県内の市町村平均よりも高止まりになっていることが気になっていました。もしかして、入札前に発注者側の市から受注者側の建設業者に予定価格が漏れているのではないかという疑念を抱きながら、仕事をしてまいりました。
 田沼市が発注する公共工事のほとんどは、市内に本社または営業所を置く建設会社しか入札参加を認めないという「制限付一般競争入札」で行われています。特に、道路の新設・改良工事、下水道や消雪パイプの敷設工事、公共施設の改修工事の場合は、田沼市に本社を置く建設会社しか入札に参加できない仕組みになっています。この場合は、落札率も98%以上となり予定価格に極めて近い金額で落札されています。
 以前から市役所内では、官製談合が行われているんじゃないかという噂話が流れていました。自分が入札課に配属になって、官製談合の現場を初めて目撃することになり、大変、ショックを受けました。入札課に在籍している時は、パワハラが怖くて、上司から言われるままに入札業務を執行してきましたが、入札公告を無視した入札執行などおかしなことだらけでした。4月の市長選挙を間近に控えたこの時期、井上将司市長の評判を落とすような不祥事が外部に漏れないようにと、公務員の守秘義務違反を楯に取った緘口令が敷かれています。私の通報が契機となって、公益を害する官製談合や入札談合が田沼市から一掃されることを切に願うものです。
平成28年2月24日
長野県田沼市川東町五番地三八
坂井 盛男(携帯080-****-*****)
 坂井盛男が自殺した数日後、長野日刊新聞の社会面に、「懲戒処分を苦にした田沼市職員 首を吊って自殺」という見出しで、次の記事が掲載された。
「田沼市元職員の坂井盛男さん(42歳)が実家の工場で首を吊って死んでいるところを家族が発見して警察に通報しました。坂井さんは今月、酒気帯び運転と無免許運転をしたことで、市から懲戒免職処分を受けていました。警察では懲戒処分を苦にして自殺を図ったものとみて調べを進めています。なお、遺書は残されていないということです」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第110回)

2017年12月1日ニュース

 坂井盛男は懲戒免職処分の通知書を田沼署の留置場で受け取った。逮捕されてから20日間の留置・拘留の後、釈放された坂井盛男は数日後、廃業した実家の工場の中で首を吊って自殺した。坂井は自殺した日の前日、公正取引委員会委員長宛てに一通の手紙を投函した。

 公正取引委員会委員長 様
 向春の候、益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。
 私は長野県田沼市職員で財政課予算係長をしています坂井盛男と申します。3年前に行われた市立病院建設工事の入札で官製談合が行われたものと考え、貴職にお手紙を差し上げた次第です。当時、入札課に在籍していた私は入札執行職員としてこの工事の入札を担当しました。
 病院の建設工事は建築、電気設備、機械設備の3つの工事種別に分割され、それぞれの工事について、特定共同企業体(JV)による入札方式で行われました。JVは3社で構成され、必ず1社は市内に本社を置く建設業者を入れることが条件になっていました。
 電気設備と機械設備の2つの工事は、それぞれJV二者が入札に参加しましたが、建築工事の方は、一者だけの入札参加で行われました。建築工事の入札に参加したJVは、県内ゼネコンの信州建設と森山組、それに地元業者の山田組の三社で構成されていました。
 建築工事の入札は総合評価方式で行われました。この入札方式は、建設業者から提示された入札価格だけでなく、施工計画、施工実績、企業の社会性、地域貢献度など、あらかじめ設定された評価項目も考慮して、総合的に落札業者を決定するものです。
 言い換えれば、総合評価方式の場合、入札価格が他の業者が入れた価格よりも高くても、評価点が高ければ落札できるという入札方式です。田沼市では総合評価方式による入札が行われたのは、今回が初めてのケースでした。また、入札執行日は建築工事が2月10日、電気設備と機械設備の2つの工事が2月20日に行われました。建築工事の入札は、電気や機械の入札よりも早く行うようにとの課長の指示でしたが、どうして別の日に行う必要があるのか、疑問に思いました。
 JV方式による入札、総合評価方式による入札、入札執行日を建築と電気や機械とで分けた理由について、当時の入札課長だった中山邦夫総務部長に尋ねたところ、中山課長からは「全ては上層部の意向で決まった」と言われました。
 2月10日に建築工事の入札が市役所本庁舎3階にある入札室で行われました。入札書を持って来た業者は幹事社である信州建設の営業部長でした。入札書を持って来た人が代表者本人でなかったので、入札を始める前に、入札書と一緒に提出された委任状で、営業部長に代理権があることを確認しました。入札執行職員は私と野上敏夫入札係長の二人でした。また、立ち合いで中山課長が同席していました。入札室には、業者側は信州建設の営業部長一人、市の方は入札執行職員の私と野上係長、立ち合いで中山課長の4人が在室していました。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第109回)

2017年11月29日ニュース

 杉田が市長室に入ると中山邦夫総務部長が、
「杉田課長、懲戒審査委員会では、坂井さんが起こした交通違反事件に対して、管理監督者の立場にある貴方に対しても、懲戒処分が相当として市長に報告がありました。これから井上市長から懲戒処分をお伝えします。市長、よろしくお願いします」と言って、井上に目配せした。
「えーそれでは、懲戒処分通知書を読み上げます。懲戒処分通知 杉田昇、
市職員分限懲戒審査委員会での審議の結果、地方公務員法第第29条の定めに従い、貴殿に以下の処分を課すことが決定したので通知します。減給10分の1、2か月。本件の直接的責任は坂井盛男の交通法規違反にあることは明らかですが、貴殿の指導監督も未熟で不十分な点が認められます。貴殿の監督次第では未然に防止できた不祥事であり、深い反省を要します。今後はこうした不祥事を起こさぬよう一層職務に専心されることを切望します。以上。なお、この処分に不服のある場合は、行政不服審査法に基づき、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に公平委員会に対して不利益処分に関する不服申立てを行うことができます。平成28年2月13日、田沼市長井上将司」
 坂井盛男が逮捕されて10日後、田沼市は無免許運転の現行犯で逮捕された財政課係長の坂井盛男を懲戒免職にしたことをマスコミに発表した。翌朝の長野日刊新聞の社会面に、「無免許運転の田沼市職員 懲戒免職」という見出しで、次の記事が掲載された。
「田沼市は、無免許運転の疑いで逮捕された田沼市財政課係長の坂井盛男(42歳)を懲戒免職処分にしたことを発表した。坂井元係長は、2月二日、市役所前の国道を無免許で自家用車を運転しているところを田沼署の署員によって逮捕されていた。また、上司の財政課長は監督責任を問われ減給10分の1、2か月の懲戒処分となった」
 坂井盛男の無免許運転による懲戒免職処分が新聞に掲載されたことで、市役所の職員は震え上がった。井上市長が市職員の交通違反歴を調べ上げ、井上市政に批判的な職員に対する粛清が行われたのではないかという噂が広まった。
 坂井盛男と採用同期の建設課道路維持係長の横田紀夫は、坂井が市役所から排除されたのは、3年前に行われた市立病院建設工事の官製談合をリークしたからでは思った。横田は坂井が入札課の主任だった頃、同期の飲み会で、坂井から「市立病院の工事入札で不正行為が行われた」という話を聞いたことを思い出した。市道の維持補修の発注業務を担当している横田は、上司で建設課長の佐々木健一から時々、奇妙な用事を頼まれることがあった。その用事とは、糊付けされた茶封筒を田沼市建設業協会の栗山守男事務局長に届けるというものだった。栗山守男は佐々木課長の前任者だ。田沼市建設業協会の事務局長のポストは、代々、建設課長の天下り先のポストになっている。今年の3月末で退職する佐々木が栗山の後任として建設業協会事務局長に天下ることになっていることを横田は知っていた。佐々木課長から渡されたあの茶封筒にはどんな内容の文書が入っていたのだろうか。もしかして、予定価格などの入札情報だろうか?
「くわばら、くわばら」横田は自分の身に危害が及ばないよう念じた。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第108回)

2017年11月27日ニュース

 2日後、長野日刊新聞の社会面に、「田沼市職員 無免許運転で現行犯逮捕」という見出しで、次の記事が掲載された。
「田沼署は、2日午後6時頃、田沼市内の国道で自家用車を運転していた田沼市職員坂井盛男財政課係長(42歳)を無免許運転の疑いで逮捕した。坂井係長は一昨年8月に県外で酒気帯び運転をして免許取消2年の行政処分を受けていたが、免許取消中にもかかわらず自家用車や市役所の公用車を運転していた。上司の話によれば、坂井係長が無免許運転をしていたことに全く気付いていなかったという。井上将司市長は、『全体の奉仕者として市民の模範となるべき市職員がこのような不祥事を起こしたことは、誠に遺憾の極みであり、市政を預かる者として市民の皆様に対し、深くお詫びを申し上げる次第です。直ちに市職員分限懲戒審査委員会を開催しその報告を待って不祥事を起こした職員はもとより関係職員に対する厳正な処分と対応をしてまいりたいと考えております』と回答した」
「中山君、ちょっと市長室に来てもらえないか」
 井上市長は中山総務部長を市長室に呼んだ。
「中山君、よくやったね。君も今朝の新聞を見ていると思うけど、こんなに大きな活字になって載っているよ」
 井上は満足そうな顔で、坂井盛男が無免許運転で逮捕された長野日刊新聞の記事を中山に示しながら言った。
「はい、同じ無免許運転でも、公務員がやると活字が一回り大きくなりますね。早速、職員に対して市長名の綱紀粛正の通知を配布したいと考えています。通知には新聞記事の写しも添付したいと考えています」
「中山君、気が利いているね。君を総務部長にした甲斐があったよ。坂井盛男は当然、首だろう?」
「懲戒審査委員会の審議結果は間もなく出ると思われますが、坂井は十中八九、懲戒免職ですね。それに上司の杉田課長の方も監督責任を問われ懲戒処分となると思います」
「杉田は甘木の中学時代の同級生だろう?市立病院の官製談合の件が杉田の口から甘木陣営に漏れていることも十分考えられる。彼に対しても灸を据えないとね」
 田沼市の市職員分限懲戒審査委員会は、坂井盛男に対して懲戒免職、坂井の上司である財政課長の杉田昇に対しては減給10分の1、2か月が相当として、井上市長に報告した。
「杉田課長、市長がお呼びです。市長室にお越しください」
 杉田は秘書の日下部からの内線電話を受け取った。
「今度は俺の番か。ちょっと市長室に行ってくる」
 杉田は課長補佐の佐野に離席を告げて市長室に向かった。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第107回)

2017年11月25日ニュース

「え、え!免職ですか?職務上の秘密を洩らしただけでは免職にはできません。漏らしたことにより公務の運営に重大な支障を生じさせないと免職や停職にできないことになっています」
「酒気帯びと無免許運転ならどういう処分になるんだね?」
「酒気帯びは減給ですし、無免許運転の場合は停職ですから、合わせれば免職でしょうか?」
「そういうことになるね。君の場合は、富山県内で30キロオーバーのスピード違反を2回やっているようだが、どうなるのかね?一番重い処分が停職だったはずだが……」
「すみません。妻の実家が富山県内なものですから、県外ということもあって、ついついやってしまいました。でも市長はどうして、私がスピード違反をやったことをご存知なんですか?」
「職員の交通違反歴は全て調べてある」
「え、え、そんな!」
「君のスピード違反は不問に付すよ。その代わり、私の指示に従って動いてもらうけれど、いいね?」
「は、は、はい。承知しました。ところで坂井は無免許運転では捕まっておりませんが」
「これから捕まるんだ」
「え、え、これから捕まるって!どういうことでしょうか?」
「坂井は車を運転して市役所に通勤しているんだろう?」
「はい、そのとおりです」
「免許取消中の坂井が車を運転すれば無免許運転だよ」
「そうですね」
「そこで、君に頼みたいことがあるんだよ」
「はい、なんなりとおっしゃってください」
「坂井が市役所から帰宅する時に、彼の車が公道に出たところを取り押さえられるよう、田沼署の交通課に連絡して、手筈を整えておきたまえ!」
「は、は、はい。承知しました。すぐに取り掛かります」
 中山は慌てて市長室を出て行った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第106回)

2017年11月23日ニュース

「市長、いいことを思いついたよ。『田沼市職員 現行犯逮捕 免許取消期間中に無免許運転』という見出しで、新聞沙汰になるというシナリオはどうかね?」
「そんなことができるんですか?」
「坂井はいまでも車を運転しているんだろう?」
「ええ、調べればすぐに分かりますが、坂井は車で通勤していると思います。また公用車を運転することだってあるでしょう」
「公用車じゃまずいから、坂井盛男が自分の車を無免許運転しているところを、警察に逮捕させるんだ。公務員の坂井盛男の名前は一回り大きな活字になって新聞に載るだろう。坂井の無免許運転が新聞に載ったら、今度は坂井に対する懲戒処分をマスコミに発表するんだ。そうすれば、坂井盛男の名前はもう一度新聞に掲載されるだろう。トップに楯突くとどういう仕打ちを受けることになるのか、職員に知らしめるにはいい機会だと思うよ。坂井が無免許運転をしていることを所轄署に連絡しておく必要があるが、それは市長の方でやってもらいたい」
「分かりました。ところで、中山邦夫のところに速度超過、点数12点、取消1年とありますが……」
「ああ、それかね。中山部長は30キロオーバーのスピード違反を2回やったようだ。2回とも富山県内だそうだ。その結果、免許取消1年の行政処分になった。市長、中山部長も懲戒処分の対象になるんじゃないのかね?」
「ええ、重い方から停職、減給、戒告の順になりますが、彼には、まだやってもらうことがありますから、処分保留ってところですか」
「中山部長の件は市長に任せるよ。いずれにせよ、私も市長も、選挙を目前に控えた大事な時期だ。選挙に影響するような不祥事が外部に漏れないように情報管理はしっかりやってもらいたいよ」
「分かりました」
 山田が帰った後、井上市長は中山部長を呼んだ。
「失礼します」
「まあ、掛けたまえ」
「はい」
「君が入札課長の時、入札係の主任をしていた坂井盛男って職員、今は財政課の予算係長をしているそうだが……。彼ね、一年半前、新潟県内で酒気帯び運転をして警察に捕まっているそうだよ」
「え、え、本当ですか?確か奥さんの実家が新潟県内だって、彼から聞いたことがありましたが……。酒気帯び運転をした場合は減給処分になりますが、どうしますか?」
「坂井が犯した大罪は職務上知り得た入札業務に関する秘密を漏えいした守秘義務違反だぞ。減給で済む問題ではないだろう!」
「では、どのようにすればよろしいでしょうか?」
「免職だ!」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第105回)

2017年11月21日ニュース

 それから3日後、山田県議が市役所に井上市長を訪ねた。
「この前、市長から渡された職員の免許証のコピーを使って、入札課職員15人の交通違反歴を調べたら、幾つか出て来たよ。これがその一覧表だ」山田が井上に紙を渡した。
「違反者が7人もいたんですね。この数字は何ですか?2とか3とか6とか書いてありますが……」
「交通違反の点数だよ。点数に応じて免許停止とか免許取消とかの行政処分が下される」
「坂井盛男のところを見ると25点とあって括弧書きで『酒気帯び』とありますが……」
「坂井盛男ねえ。彼は新潟県内で酒気帯び運転をして捕まったらしいよ」
「新潟県内?」
「何でも奥さんの実家が新潟にあって、その実家に帰省中に酒気帯びで捕まったらしいよ。酒気帯びなら、重い処分が下されるんじゃないのかね?」
「減給ですね」
「懲戒処分を行った場合、マスコミに発表するんだろう?」
「はい、処分を受けた職員の年齢、性別、職名、処分事由が発表されますけど……」
「名前は発表されないの?」
「免職以外は職員の名前は伏せて発表します。それに、一年半前に県外で起こした交通違反ですから、マスコミ発表しても、果たして新聞に載るかどうかは分かりません」
「坂井盛男って職員は、市長や私の政治生命にかかわる情報をマスコミにリークした人物だ。トップの怒りを買ったらどうなるのか、職員に知らしめるためにも、坂井盛男の名前が新聞に載るようにしないと見せしめにならないよ」
「坂井盛男の行政処分が取消2年とありますが、処分を受けたのが一昨年の九月ですから、まだ免許取消期間中ということですね。ということは、坂井は車の運転はできないってことですか?」
「そういうことになるね」
「運転免許の取消期間中に車を運転すれば無免許運転になりますよね?」
「そういうことになるね。酒気帯びで取消2年。取消期間中に無免許運転となれば、行政処分は加重され取消4年になるよ」
「無免許運転で捕まっても懲戒処分は停職だから、マスコミに発表する時には氏名は除かれます」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第104回)

2017年11月19日ニュース

「いやー、あの時は、県議さんには大変お世話になりました。金で解決できましたからね。本当に感謝しています」
「『政財界信州』のスクープ記事は金を払えばボツにできるが、日刊紙の長野日刊新聞は、金を使ってもボツにするのは難しいね。うちの県連にマスコミ対策の専門家がいるから、それとなく、長野日刊新聞に探りを入れてみるよ」
「よろしくお願いします。今回も手数料は掛かるんでしょうか?」
「要らないよ。昼間の逢瀬は市長の不用心が招いた市長自身の不祥事だが、市立病院の建設工事の入札は私も関わっていたこともあり、官製談合が行われていたなんて話が選挙前に公になれば、私の政治生命も終わりになるよ」
「当時は、資材単価や労務単価が急騰したことから、入札参加業者がなくて、不調に終わった公共工事が多かったんですが、市立病院の建設工事の方は、県議さんからお骨折りをいただき、JV一者の参加でしたが入札を執行できました。いやー、本当にありがとうございました」
「そんなこといいけど、長野日刊新聞社にリークしたのは職員かね?」
「多分そうだと思います。中山部長が入札課長だった頃に入札係の主任をしていた坂井盛男って職員がリークしたんじゃないかって、中山部長が言っていました。今は財政課の予算係長をしています。県議はご存知ないかもしれませんが、坂井の上司にあたる財政課長の杉本昇は甘木雄一の中学時代の同級生です」
「そうすると、市立病院の官製談合の件は甘木陣営に漏れている可能性もあるね」
「そうは思いたくはありませんが……」
「とにかく、早く手を打たないと、取り返しのつかないことになる。坂井盛男って職員の免許証のコピーを至急、用意してもらえないか?」
「はい、分かりました」井上は携帯電話を切った。
「日下部さん、立川総務課長を呼んでもらいたい」
「はい、承知しました」
「失礼します」総務課長の立川智が市長室に入った。
「ちょっと、お願いしたいことがあるんだが……」
「また免許証のコピーでしょうか?」
「そうだよ。今度は入札課職員全員の運転免許証だよ。今の職員と3年前に入札課に在籍していた職員の免許証のコピーだよ。だぶりは除いてね」
「入札課長の免許証のコピーも必要でしょうか?」
「もちろんだよ」
「3年前の入札課長って中山部長ですが?中山部長の分も要りますか?」
「もちろんだよ」
「あのー、どのような用向きで入札課職員の免許証のコピーが必要なんでしょうか?免許証は職員の個人情報にあたりますから、慎重に扱わないと……」
「つべこべ言わずに、持って来なさい!」
「は、は、はい、今すぐにお持ちします」立川は慌てて市長室を出た。
(作:橘 左京)

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