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小説「山田研一 ただ今 単身赴任中」(第6話)

2016年12月16日ニュース

 8月上旬の金曜日。今日は由紀子と弥生が東京に遊びに来る日だ。研一は金曜日に有給休暇を取って土日を入れた三連休にした。由紀子と弥生を乗せた新幹線が午前11時半に上野駅に到着した。研一は新幹線のホームで由紀子と弥生が乗っている車両の入口付近で二人の到着を待っていた。車両のドアが開いて大勢の親子連れがホームに降りた。由紀子と弥生の姿を見つけた研一が、手を振りながら弥生に声を掛けた。
「弥生。こっちだよ。」
「あ、お父さんだ。」
由紀子と弥生が研一の立っている場所にやってきた。
「お疲れさま。今日の新幹線は混んでいなかった。」研一は由紀子に尋ねた。
「指定席を取っておいてよかったわ。自由席に入りきれない乗客が指定席の通路にまで入ってきたの。」由紀子が答えた。
「親子連れの乗客が多かったけれど、夏休みに入った子供たちが親と一緒に東京に遊びに来たみたいだね。」研一は話を続けた。
「そうなのよ。私たちが乗った8号車の乗客のほとんどは親子連れだったわ。」由紀子が答えた。

「お父さん。私、お腹がペコペコよ。お昼はどこで食べるの。」弥生が研一に尋ねた。
「上野公園にあるレストランでハヤシライスを食べよう。」研一が弥生に答えた。
 ハヤシライスは弥生の好きなメニューの一つで、家でも由紀子が時々、作ってくれる料理だ。上野駅の中央出口を出た三人は上野公園にあるレストランに向かった。このレストランの人気メニューがハヤシライスだ。研一が都内の大学に在学していた頃に、何度かこのレストランでハヤシライスを食べたことがあった。学生時代に食べたハヤシライスの味をもう一度楽しみたい、そんな思いでこのレストランを選んだ。
 三人がレストランに着くと入口には長い列ができていた。係りの人に待ち時間を聞くと、1時間近くになるとの返事だった。この後の日程を考えて、研一はハヤシライスを諦め、動物園の中でお昼を食べることに変更した。研一が考えていた今日の日程は、上野動物園、浅草、東京スカイツリーの順で見て回ることになっていた。
 
 研一たちは動物園内のファストフードでお昼をとった後、園内を回った。動物園は夏休みに入ったこともあって、大勢の親子連れで混雑していた。スマトラトラ、インドライオン、アジアゾウ、ジャイアントパンダなど上野動物園の人気動物を一通り見て回った。研一が初めて上野動物園を訪れたのは、中学3年生の修学旅行の時だった。日中国交正常化を記念して1972年に中国から上野動物園にジャイアントパンダの「カンカン」と「ランラン」が贈られ、当時は全国的なパンダブームに沸いていた。研一が上野動物園で初めて見た「カンカン」と「ランラン」は、厳重な警備態勢のもと、ガラス越しで見たパンダの姿であった。今でもパンダはこの動物園では一番の人気者らしく、パンダ舎の前には黒山の人だかりができていた。後ろからはパンダの姿は見えない。
「お父さん、後ろからじゃパンダ見えないよ。」
「分かったよ。」
研一は弥生を肩車に乗せた。これなら弥生もパンダの姿を見ることができる。
「お父さん、パンダが今、笹を食べているよ。」
 弥生はパンダの実物を見て喜んでいるようだ。テレビで放映される野生にいる動物と違って動物園で飼育されている動物はどこかのんびりしている。食物連鎖、弱肉強食の中で生きている野生動物には緊張感や張り詰めたような雰囲気があるが、動物園で飼育されている動物は食べ物の心配はいらない。食物連鎖の頂点にいるはずのライオンやトラを見ても猛獣としてのイメージとは程遠い。人気動物を中心に園内の動物を一通り見て回った三人は、上野動物園を出た後、地下鉄に乗って浅草に向かった。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者