小説「山田研一 ただ今 単身赴任中」(第5話)
夕食の食材が入った買物袋を持って社宅へ帰る道すがら赤提灯が見えた。会社帰りに時々立ち寄る居酒屋だ。今日は平日だが、研一は休日出勤の振替休日に充てていた。一日限りの休日だったこともあり、研一は帰省せずに社宅で休日を過ごしていた。
(ちょっと立ち寄ってみようかな。)
居酒屋の暖簾をくぐって中に入ると数人のお客が入っていた。この店は椅子席のない立ち飲みの居酒屋だ。軽く飲んで家路に付くサラリーマンには都合のいい店なのかもしれない。今日も数人のスーツ姿のお客が入っている。
研一は顔なじみになった店の主人に「いつものお願いします。」と注文を入れる。
しばらくして、「はい、どうぞ。」と店主から差し出されたのは一合瓶の冷酒と焼き鳥三本のセットだった。
私服姿の研一に気づいた店主が、「山田さん。今日は会社、お休みですか。」
「ええ。振替休日で休みになりました。」。
「新潟には帰らなかったんですか。」
「はい。交通費も掛かるし、それに一日限りの休みですから、こっちで過ごすことにしました。」
山田は店主に答えた。
居酒屋で軽く飲んだ後、研一は社宅へと向かった。社宅に帰った研一は夕食の支度を始めた。今晩は軽めの食事でいいな。由紀子からは、会社の飲み会などの宴席があった場合の細かい注意点を書いたメモも渡されている。このメモにはお酒を飲むときの心構えが五項目に渡って書いてある。
一、飲む前の心得
○チーズを食べる。
○牛乳を飲む。
二、飲んでいる間の心得
○野菜類などの植物性食品を多くとる。
○塩分控えめで食物繊維を多く含んだ食べ物をとる。
○たんぱく質の豊富な食べ物が好ましい。
【おすすめのおつまみの例】
焼き鳥、枝豆、サラダ、刺身、卵焼き、豆腐、チーズ、アサリの酒蒸し、しらすおろし
三、飲んだ後の心得
○果物を食べる。
○柑橘系の果汁が入った飲み物を飲む。(例:グレープフルーツジュース)
四、お酒の「適量」
「節度ある適度な飲酒」を心がけ、週に二日は休肝日とすること。
○ビール…中びん1本
○日本酒…1合
○焼酎…0.61合
○ウイスキー…ダブル1杯
○ワイン…1/4本
○缶チューハイ1.5缶
五、御法度
○はしご酒
○仕上げのラーメン
研一はこのメモを「五箇条の御誓文」と呼んで手帳に綴じて、時折り確認している。しかし四項目のお酒の「適量」については、家で飲む晩酌では厳守しているが、外での飲み会ではなかなか難しい。その代わりに、飲み会があった日の翌日と翌々日の二日間は休肝日にすることにしている。
(作:橘 左京)