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小説「山田研一 ただ今 単身赴任中」(第3話)

2016年12月8日ニュース

 週末を家族と過ごした研一は、月曜日の朝早い時間の新幹線に乗って東京に向かった。今日から金曜日までの5日間は東京での一人暮らしが、また始まった。8号車の座席に座った研一は、朝食のおにぎりを食べながら、由紀子から手渡されたメモに目をやった。メモには5日間の献立表と必要な食材や調理方法が詳しく書いてある。

 由紀子から手渡されたメモを見ながら、研一は長かった独身の頃を思い出した。由紀子と結婚するまでは、研一の食生活は外食中心の不健康な食習慣が続いていた。朝は自宅アパートでトーストと目玉焼きの簡単な食事で済ませ、昼と夜は外食。残業で帰宅が遅くなる日は、自宅近くの居酒屋で一杯やって帰ることが多かった。

 一人暮らしの研一には、自宅アパートで帰りを待つ人がいない、自宅で研一の体調を気遣う人がいない。自由気ままな一人暮らしが研一の不健全な食生活を助長させていた。食習慣の乱れが会社で受けた健康診断に表れた。生活習慣病の診断項目の一つになっている血糖値に異常値が出たのだ。社員の健康管理を担当する職員課から「要再検査」の通知を受けた研一は会社近くの病院で再検査を受けた。再検査の結果、担当医師から糖尿病の診断を下された。以来、研一は、定期的にこの病院に通院し糖尿病の治療を受けることになった。この病院では治療と併せて栄養指導も行われている。研一の栄養指導を担当した管理栄養士が妻の由紀子だった。研一はこの病院に定期的に通院して、毎回、ヘモグロビンA1cを調べる血液検査と由紀子から栄養指導を受けることになった。これが縁となり研一は由紀子と結婚した。

 研一は現在も糖尿病の治療を受けている。二月に一回の割合で、自宅に帰った週末土曜日に自宅近くのクリニックに通院している。このクリニックで体重測定、尿検査、血圧検査、血液検査を受けて二か月分の薬を処方してもらっている。家では由紀子から糖質制限の食事を作ってもらっている。由紀子のおかげで68キロあった体重が今では58キロになって10キロの減量に成功した。通院先のクリニックで受けている血液検査でも、ヘモグロビンA1cが正常値の6.2%未満を維持している。担当医師からも良好な状態を維持していると褒められ、由紀子に感謝の気持ちでいっぱいになった。

 5日間の献立表には朝昼晩の献立と調理に必要な食材リスト、食材のグラム数、一食当たりの消費カロリー、最後に一口アドバイスが書いてある。献立表に載っている料理はどれも手間をかけずに簡単に調理できるものばかりだ。なかには作り置きのできるものもある。野菜や肉・魚などの生鮮食品を買う場合、一食分以上の量になってしまうが、数食分まとめて作っておいて冷蔵庫にストックしておけば、買った食材は無駄にならないし、ストックした料理は保存期間内であればいつでも食べられる。意外と重宝するのが缶詰と冷凍食品だ。缶詰の場合は味付けしていない水煮にしたものを、冷凍食品の場合には、調理していないチップ状の生野菜を買い置きしておく。

 味付けされた缶詰や調理済みの冷凍食品はご法度だ。これらの加工食品には、塩などの調味料が多めに使用されているからだ。もちろん惣菜の類も味付けが濃くなっているため厳禁だ。5日間の献立表に並んでいる料理を調理するのはもちろん研一であるが、手書きの献立表の文字には、研一の健康を気遣う由紀子の気持ちが込められている。自分一人の体じゃない。週末になれば由紀子や弥生に会える。研一は、そう自分に言い聞かせて東京での一人暮らしの不便さを克服しようとしている。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者