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小説「廃屋の町」(第53回)

2017年8月11日ニュース

 ゲラ刷りの上部には、「まちづくり八策 コンパクト&スマートシティー構想~50年先を見据えたまちづくりを提案します!」というチャッチコピーが入っていて、その下には8項目の政策(まちづくり八策)が列挙されている。
1.お年寄りが歩いて買い物に行ける、歩いて通院できる、介護サービスも充実した高齢者に優しい街(コンパクトシティー)づくりを目指します。
2.人口減少をストップさせるため、子育て世代の定着と市外からの流入に向けた支援策を強化します。
3.世界の檜舞台で活躍できる人材を輩出できるまちづくりを目指します。
4.市役所内に人口問題を検討する部局横断の組織を新設し、全市挙げて人口減少対策(人口維持対策)に取り組みます
5.地域の絆(きずな)づくりを応援します。
6.地元の農商工業者の事業承継に向けた支援(後継者対策)を実施します。また雇用創出につながる企業誘致・起業化支援を推進します。
7.エネルギー効率の高い街(スマートシティー)づくりを目指します。
8.将来世代(子供たち)に資産として引き継げるように、合併前の旧市町村時代に建てられた公共施設の統廃合を進めます。
「僕が提案した後継者対策も入っているね。この『まちづくり八策』って言葉は、もしかして、坂本竜馬の『船中八策』を真似たのかい?」小島が尋ねた。
「当たり!小島、よく分かったね。いま小島が言ったように、『船中八策』は坂本龍馬が土佐を出港し上京する折に、船中で藩士の後藤象二郎に示した新政府のグランドデザインだよ。『まちづくり八策』は、建設業者の利益を最優先に考える井上市政と決別して、市民の利益を最優先に考える甘木市政を実現しようという意味合いを含んだ言葉だよ」風間が答えた。
「ゲラ刷りがもう一枚あるけど、甘木の顔写真と経歴、それに中学時代の写真も何枚か載せているね。これって、運動会の時の写真じゃないの?ああ!俺だ。風間や恵ちゃんも写っているね。お互い、この頃は若かったね。髪もふさふさしていたしー、そうだろう、健ちゃん?」小島が言った。
「余計なこと言うなよ!お前の頭だって、今じゃ白髪頭じゃないか」
「お互い様だけどね。このゲラ刷りは『まちづくり八策』と同じサイズだけど、セットってこと?」
 小島が尋ねた。
「ああ、チラシの片面だよ」風間が答えた。
「チラシ?」
「『まちづくり八策』はB4版両面刷りのチラシにして、正月明けに新聞折り込みで市内に配布する予定なんだ。今、その準備をしているところだよ。チラシの一面には甘木の人柄を知ってもらおうと顔写真と経歴を載せて、二面には政策を載せることにしたんだ」風間が言った。
「チラシか。いいことを思いついたね。うちも時々、新聞にチラシを入れるけど、スーパーのチラシとは全然、違うね」小島が言った。
「それは、そうよ。スーパーのチラシは値段が全てでしょう。商品の写真は小さくて、値段の方は大きな字で書いてあるわ。それに、主婦の立場で言わせてもらうと、値段の付け方って巧妙よね。89円とか138円とか、一の位を四捨五入すると十の位に切り上がってしまうのよね」
「痛いところを突かれたな。例えば92円の商品と89円の商品は3円しか値段は違わないけど、買う方から見れば、それ以上の開きがあるように感じてしまうよね。でも、ウチの店では、特売日になると赤字覚悟で御奉仕しているよ」小島が言った。
「孝雄ちゃん、百津屋さんの常連客として言わせてもらうけど、特売日を増やしてもらいたいわ!」
「はい、前向きに検討させて頂きます」小島が言った。
「それって、お役所言葉じゃない?役人はよく、『検討します』って言葉を使うけど、結局やらなんだよね」甘木が突っ込みを入れた。
「私は役人ではありませんので、嘘は言いません!」小島はきっぱりと答えた。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第52回)

2017年8月9日ニュース

 12月中旬、甘木は小島孝雄が見つけてくれた商店街の空き店舗に選挙事務所を構えた。
「こんにちは」小島が甘木の事務所に顔を出した。
「あら、孝雄ちゃんじゃないの。今日はお店、お休みなの?」事務所番の久保田恵子が言った。
「ばか言えよ。ウチは年中無休だよ。配達のついでに、立ち寄ったんだ。これ、陣中見舞いだよ」
 小島がペットボトルの飲料が入った段ボール箱を床に置いた。
「孝雄ちゃん、ありがとう。ここは選挙事務所にはお誂え向きの場所だわ。ここにいると商店街の様子がよく分かるのよ。商店街を歩いている買い物客のほとんどはお年寄りね。それもおばあちゃんがシルバーカーを押して歩いているわ。きっと近所に住んでいるお年寄りだわ」
「ウチの店の顔なじみのお客さんもシルバーカーを押して買い物に来るね。シルバーカーってよくできているよ。杖代わりにもなるし、腰掛けにもなる。それに荷物入れも付いているので、お年寄りが買い物に行く時には便利な道具だね」
「熱いコーヒーでもどうぞ」
「ありがとう」
「シルバーカーってお年寄りにとっては必需品よね。うちの母もシルバーカーを押して近所のお友達のところに出掛けたりしているわ」
「甘木は外に出ているの?」
「健ちゃんと挨拶回りに行っているわよ。3時には帰って来るはずよ」
 久保田は部屋の時計を見ながら言った。
「ただいま」甘木と風間が帰って来た。
「お帰りなさい。外は寒かったでしょう。今、熱いコーヒーを入れるわよ」
「あれ、小島じゃないか?お店の方は大丈夫なのかい?」風間が言った。
「この時間帯は近所に住むお年寄りが買い物に来る程度で客は少ないね。もっとも4時になると、お年寄りはぴたりと来なくなるけどね」小島が言った。
「あら、どうして?」久保田が尋ねた。
「4時になると時代劇のテレビ番組が始まるんだ。再放送だけどね。お年寄りはその番組を見たくて、4時になると外出を控え、また外出先から帰って来るんだ。ウチのお袋も毎日、欠かさずに時代劇を見ているよ」小島が言った。
「それ、分かるよ。甘木と挨拶回りをして気づいたんだけど、平日の昼間に挨拶回りに行っても、家に居るのはお年寄りばかりだね。特に4時頃にお年寄りの家を訪ねると、テレビの大きな音が玄関先まで聞こえてくるんだ。時代劇を見ているんだなって分かったよ。大相撲が始まると相撲中継を見ているおじいちゃんもいたよ」風間が言った。
「特に、寒くなるとお年寄りは家に引きこもりがちだわ。話し相手のいないお年寄りにとって、テレビがその代役を務めているのかもね」久保田が言った。
「何だい?このゲラ刷りの紙は?『まちづくり八策』って書いてあるけど」小島が言った。
「市長選向けに作った政策で、いま校正しているところだよ。僕が市長に当選したら、こういうまちづくりをしたいという思いを政策にしたものだよ」甘木が言った。
「この『まちづくり八策』には、甘木と俺たち同級生が3か月余りかけて、田沼市内を隈なく回って集めた住民の声や地域の実情がこの政策に集約されているんだ。小島からもらった意見や要望も入っているよ」風間が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第51回)

2017年8月7日ニュース

 12月中旬、市議会副議長の小林俊二氏が4月の市長選に出馬するとのうわさが流れた。小林氏は市議会最大会派「田沼クラブ」の幹事長で会派の中では若手のホープに目されていた。しかしこの噂話は間もなく消えた。水面下では、保守票が割れることを心配した井上陣営は保守候補を一本化するため、小林副議長の出馬を断念させようと多額の現金を使った調整が行われた。
 1月上旬、例年、政府の新年度予算案が決定された年明け後に県や市町村では新年度の予算編成が始まる。田沼市では市長選挙のある年は、公共事業予算を中心に大型予算が編成されることが慣例となっている。仕事始めの1月4日、建設課長の佐々木健一は課内会議に集まった係長を前に年頭の挨拶を行った。
「明けましておめでとうございます。今年は例年ない大雪に見舞われ、職員の皆さんからは、年末年始の休暇にもかかわらず、除雪車の出動連絡業務にあたっていただきありがとうございました。冬型の気圧配置がまだしばらくは続くようです。仕事始めの今日からは通行車両が増え、また除雪作業の影響もあって道路は大変混雑しているようです。引き続き除雪車の出動連絡業務にお難儀をかけますが、よろしくお願いします。さて、これから新年度の予算編成作業が始まるわけですが、先ほど行われた部課長会議で、新年度の公共事業予算については、今年度の3割増しで予算計上するようにと、井上市長からご下命がありました。皆さんも承知のとおり、新規事業の目玉として文化会館と総合体育館の建設が、それぞれ文化振興課と生涯学習課で予算計上されることになっています。うちの建設課の関係では、新規事業として国道バイパスへのアクセス道路の整備が3か所ありますし、継続事業では消雪パイプの新設、住宅リフォーム助成事業、下水道の整備、橋梁の付け替え工事などがありますが、まだ3割増しには届いてないので、市道の改良、老朽した消雪パイプや消雪井戸の更新、道路側溝の改修など、以前から自治会要望として出されていた事業で、まだ執行していない事業を掘り起こしていただきと思います。新年度予算に計上する公共工事が決まったら、事業名、施工個所、事業量、概算事業費を入れた一覧表を作って来週の月曜日までに私に提出してください。よろしくお願いします」
 佐々木は今年3月で定年退職を迎える。4月からは田沼市建設課長の天下り先になっている建設業協会事務局長の椅子が用意されている。
「土日を入れても5日しかない。休日出勤して仕事をしろということか。課長は部下に命令するだけだから、いいよな。仕事をするのは、我々、下々の者だ。課長は4年に一度の『お祭り』だって言っているけど、我々にとっては4年に一度の『苦役』だよ」
 課内会議を終えて席に戻った道路維持係長の横田紀夫はぼやいた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「廃屋の町」(第50回)

2017年8月5日ニュース

「さっき、入札等監視委員会で、落札率が県内平均よりも高くなっていることや、予定価格に近いところで、入札価格が等間隔に並んでいることが指摘されているようだけど、田沼市が発注する公共工事の落札率は、一体どれくらい高いんだ?」風間が尋ねた。
「地元の建設業者しか入札に参加できない制限付き一般競争入札の場合は、落札率は常に95%を超えているんだ」
「ええ!そんなに高いのか!歩切りをして予定価格を低く設定していれば、予定価格を上回る価格で札を入れる業者だっているだろう。それが、実際は、ほとんどが予定価格の範囲で札を入れているってことは、予定価格が事前に業者側に漏れているってことだろう?」風間が言った。
「それは何とも言えないね。分母になる予定価格が歩切りによって引き下げられた結果、落札率が高くなったということも考えられるね」
「そうだとすれば、市外の業者も入札に参加できる一般競争入札や指名競争入札だって落札率が高くなってもいいんじゃないのかな」甘木が言った。
「確かに、市内業者しか参加できない制限付き一般競争入札に比べ、通常の一般競争入札や指名競争入札の落札率は低くなっている。でもこれだって、状況証拠でしかないよ」
「ところで予定価格を決めるのは誰なんだい?」風間が尋ねた。
「最終決定権者は井上市長や、金額によっては榎本定男副市長だ。入札執行の稟議書が最終決裁権者の市長や副市長に回ってくると、予定価格を記入した後、その紙を封書に入れて封印するんだ」
「入札の時に予定価格の入った封書が開けられるの?」久保田が尋ねた。
「そのとおり。入札を執行する入札課の職員が開封して、業者が入れた入札価格と予定価格を比較して、最も安い価格を入れた業者が落札者となるんだ」
「予定価格を超えなければ、どんなに安い価格を入れてもいいの?」久保田が尋ねた。
「『安かろう、悪かろう』で、粗雑な工事になってしまうことを防ぐ目的で、入札価格の下限額が設定されているんだ。この下限額のこと『最低制限価格』と呼んでいるよ。予定価格が分かれば、自動的に最低制限価格も分かる仕組みになっている」
「予定価格を上回ってもダメ。最低制限価格を下回ってもダメ。でも、なるべく儲けが出るように高い価格で仕事を請け負いたい。業者の人って大変ね」久保田が言った。
「入札前に業者間の談合で落札者を決めておく。その落札予定者がなるべく高い価格で工事を受注させるために必要な入札情報、特に予定価格が発注者側から漏れている官製談合。これが田沼市の入札の実態じゃないか。その予定価格の情報提供が金銭で取引されているとした場合に、どうなるの?」
 風間が言った。
「予定価格の漏洩に合わせて金銭の授受があれば、贈収賄になるね」甘木が言った。
「官製談合も贈収賄も証拠がなければ、どうしようもないよ」杉田が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第49回)

2017年8月3日ニュース

「工事の発注者が事前に設定する落札価格の上限額のことで、工事の内容や技術的程度に応じて決まる見積価格のことだよ。入札参加業者は予定価格よりも下回る価格で札を入れ、最も安い価格で札を入れた業者が落札者となる。時々、予定価格を上回る価格で札を入れて失格になる業者もいるけどね」
「利幅を考えれば予定価格に近い価格で落札した方がいいかもしれないけど、どうしてもその工事を受注したいと考える業者にとっては、利幅は少なくなるけど、予定価格よりもかなり低い価格の札を入れないと落札できないわけか」甘木が言った。
「そこで、業界の利益を最大化するため談合が行われるわけだ。落札率って、落札した業者が札に書き入れた価格を予定価格で割って出すんだろ?田沼市の落札率が県内の市町村平均よりも突出して高くなっているというのは、入札前に予定価格が業者側に漏れているってことじゃないかい?つまりは、官製談合が行われているってことだろう?」風間が言った。
「田沼市の落札率が県内平均よりも高いからといって、官製談合、つまり入札前に予定価格が漏れていると断定することは難しいね。限りなく黒に近いグレーだとは思うけど、状況証拠でしかないよ。入札等監視委員会でも、県内平均よりも落札率が高くなっていることや、予定価格に近いところで入札価格が等間隔に並んでいる状況を見て、談合を疑う委員さんもいるけどね」
「そういえば、田沼市は『歩切り』をして予定価格を低く設定しているので、落札するのが難しいって、親戚の建設会社の人が言っていたけど。『歩切り』って何のこと?」久保田が尋ねた。
「見積金額、正式には『設計書金額』っていうんだけど、この設計書金額をよりも低い価格で予定価格を設定することだよ。国からは設計書金額を予定価格にするようにと指導が出ているけど、田沼市の場合、『歩切り』をして設計書金額よりも低い価格で予定価格を設定しているんだ」
「どうして、そんなことをするんだろうね?」甘木が言った。
「入札参加業者に予定価格を知られないようするためなんだ。入札参加業者は入札書に記入する金額を決めるために、発注者から事前に公表される設計図書を基に、積算ソフトを使って工事費用を算出するんだ。この積算ソフトを使えば、設計書金額、つまり予定価格を、かなりの精度で割り出すことができるんだ」
 田沼市の場合、歩切りは設計書金額の10%の範囲で減額する方法で行われていた。表向きは入札参加業者に予定価格を知られないようにするためだが、実際の運用は違っていた。落札予定業者に有利になるようにと歩切りの幅を細かく調整していた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「廃屋の町」(第48回)

2017年8月1日ニュース

「ごめん。話を本筋に移すよ。公共工事の入札は大きく二つに分けられる。条件を満たした業者なら誰でも参加できる一般競争入札と、あらかじめ発注者側が入札参加業者を絞って参加させる指名競争入札があるけど、一般競争入札が原則になっている」
「指名競争入札にするのか、一般競争入札にするのかを分ける基準ってあるの?」久保田が尋ねた。
「地元業者だけでは施工できない大規模な工事とか、特殊な技術が必要とされる工事の場合は指名競争入札で行われることが多いね。一方、小規模な工事や維持系の工事は一般競争入札で行われているよ」
「井上市長は市長選の公約に文化会館と総合体育館の建設を挙げているけど、この二つは大きな建設工事だわ。さっきの基準に合わせると、指名競争入札で行われるってこと?」久保田が尋ねた。
「多分ね。さっきも言ったように、地元業者、県内ゼネコン、全国ゼネコンで構成する共同企業体を幾つか作らせておいて、それらの企業体を指名して入札が行われることになると思うよ」
「そうなると、さっき健ちゃんが言った井上市長と関係が深い信州建設も入って来る可能性が大ありってことね?」久保田が言った。
「充分にあるね」
「公共工事の入札は一般競争入札が原則と言ったけど、条件を満たせば市外の業者も入れるの?隣町で建設会社を経営している親戚がいるんだけど、田沼市の公共工事の入札に参加できないってぼやいていたわ」久保田が言った。
「市外の建設業者が参加できないような条件を設けているからだよ」
「それはどんな条件?」久保田が尋ねた。
「地域要件の付いた制限付き一般競争入札といって、田沼市に主たる営業所か従たる営業所がある建設業者しか入札に参加できない仕組みになっているんだ」
「『主たる営業所』とか『従たる営業所』って?」久保田が尋ねた。
「『主たる営業所』は本店や本社のことで、『従たる営業所』はそれ以外の支店や支社、営業所や出張所のことだよ。久保田さんの親戚関係の建設会社は田沼市内に支店とかあるの?」杉田が尋ねた。
「ちっちゃい建設会社だから、田沼市に支店とか出張所なんかないわ」久保田が答えた。
 田沼市は地元の建設業者の育成を名目にして、市内に本社や本店がある建設業者に優先的に入札参加資格を与える「制限付き一般競争入札」を採用している。大規模な建築工事や高度な施工技術が必要な工事で、市内業者だけでは施工できない場合には、市内業者と市内に従たる営業所を置いている県内ゼネコンとを組み合わせた共同企業体(JV)を作らせて、その共同企業体に入札参加資格を与えている。
「県内ゼネコンの信州建設は田沼市に支店があるから、一般競争入札にも参加できるってことね。指名競争入札で大きな工事を取って、一般競争入札で小さな工事まで取ってしまうの?まるでハゲタカみたいね。健ちゃん、そう思わない?」久保田が風間の顔を覗き込んだ。
「恵ちゃん、どうして俺の頭を見るんだよ。俺は情け知らずのハゲタカじゃなくて、血も涙もある『仏の風間』だよ」風間が言った。
 杉田と甘木が、く、く、く、と笑った。
「それと入札を行う場合、必ず予定価格を設定することになっている」
「予定価格?」久保田が尋ねた。
(作:橘 左京)

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橘左京の暮らし雑感(第1回)~お金は汚い?

2017年7月31日ニュース

 私は、先日、町内会主催のイベントに使うグッズの購入経費(レシート)の合計金額と町内会から預かったお金の残金を計算していた。私は封筒から取り出した残金を一万円札、五千円札、千円札の紙幣と五百円玉、百円玉、五十円玉、十円玉、五円玉、一円玉の硬貨を金種別に分けて、机の上に価値の高い順に並べていた。私がお金を手際よく振り分ける様子を6歳になる娘が、傍らで興味深そうに眺めていた。
 突然、娘から「お父さん、一番大きなお金はどれ?」と尋ねられた。私は娘にお金について教える好機と考え、一万札を娘に見せながら「これが一番高いお金の一万円札だよ」と教えた。娘は紙幣の価値よりも印刷されている人物に興味がそそられたようで、「この紙に人の顔が書いてあるけど、この人は誰?」と尋ねた。私は「福沢諭吉という偉い人だよ」と答えた。娘は「ここにも人の顔が書いているわ」と言って、五千円札や千円札を指して言った。私はお札を娘に見せて「これは樋口一葉だよ。これは野口英世という人だよ。二人とも偉い人だよ」と答えた。娘からは「ええ!そうなんだ」という言葉が返ってきて、第一ラウンドの会話はそこで終わった。娘から「偉い人ってどういうこと?」と言われたらどう答えようか、内心、びくびくしていたが、それ以上の追及はなかったのでほっとした。
 娘は貨幣価値の高い紙幣にはこれ以上の関心は示さず、キラキラ光る硬貨に視線が向かった。硬貨は10枚ずつ積み上げながら分けた。五百円、百円、五十円、五円は10枚までは積み上がらなかったが、十円と一円については10枚のタワーが2、3棟出来上がった。金種別に積み上がられた硬貨の山を見た娘から「これって全部でいくらになるの?」と尋ねられた。私は娘にお金の計算方法を教える好機ととらえ「五百円玉が1枚で五百円。百円玉が6枚で600円。五十円玉が2枚で100円。十円玉が……。全部足して1559円だよ」と答えた。娘はお金の計算よりも穴の開いた硬貨に興味を示して、「お父さん、このお金、穴が開いているよ!」と言った。私は「そうだね。五十円玉と五円玉は穴が開いているんだよ」と相槌を打った。娘から「この硬貨、どうして穴が開いているの?」と質問されたらどう答えようか、内心、びくびくしていたが、娘からはそれ以上の追及はなく、第二ラウンドの会話は終了した。
 私は娘にお金の計算方法を教える好機と考え、五百円玉1枚、百円玉1枚、十円玉2枚、五円玉1枚、一円玉3枚を娘に渡し、「幾らになるか計算してごらん?」と言った。娘はしばらく考えた後「お父さん、分かんないよ」と言ったので、私は「628円だよ」と答えた。娘には10倍ごとに次の桁に上がっていく十進歩を理解させるにはまだ早かったのかもしれない。
 傍らで私と娘の様子を見ていた妻が、突然、娘に向かって「後で手を洗いなさい」と言った。妻から言われた娘は「はい」と答えた。娘から「どうして、手を洗わなくてはいけないの?」と言われたら、妻は娘にどう答えただろうか?妻が娘に言った言葉を聞いて、私は子供の頃に母親から言われた同じような言葉を思い出した。微かに残っている当時の記憶を辿ってみると、お金を触った手を洗わなければならないのは「お金は大勢の人の手を介在していることから、手についた汚れや黴菌がお金に付着していている。汚れたお金を綺麗な手で触れば汚れが手に移る。だから手を洗う」という理屈だったと理解している。
 子供の頃は母親から受けた注意に対し何ら疑問を持つことなく「はい」の一言で終わってしまったが、これは明らかな誤りだ。しわくちゃになった紙幣や摩耗したお金は所持したことはあるが、汚れた状態のお金を持ったことはこれまで一度もない。生活するうえで大事なお金はいつも綺麗な状態で流通している。災害などで持ち主の手元から離れたお金は一時的に泥などで汚れているかもしれないが、泥まみれになった硬貨は水で洗えば「綺麗」になるし、汚れの付いた紙幣は発券銀行(日本銀行)に持って行けば「綺麗」なお札に代えてくれる。人間の手からお金に移った目に見えない黴菌(有害な微生物)だって、食べ物(養分)の無い硬貨や紙幣では生活はできない。むしろ皮脂にまみれた手の方が居心地が良い。
 しかし、不正な方法で得られ流通しているお金は外見上は「綺麗」なお金であっても、最初から「汚れ」たお金だ。詐欺で得たお金、麻薬など禁制品の取引で得たお金、賄賂、賭博で得たお金、公職選挙法違反の買収資金……。汚れた心で流通する「汚れたお金」。母親が私に教えたかった「お金が汚い」本当の意味はこういうことだったのではないだろうか。(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第47回)

2017年7月30日ニュース

「冬場に備えて消雪パイプの補修が必要だし、冬になれば道路除雪も出てくる。雪崩が起きる場所だってある。雪が解けると、今度は除雪作業で傷んだ道路の補修が必要だ。梅雨や台風の時期になれば土砂災害で林道が流されるとか、毎年繰り返される小さな自然災害による道路の損傷に備えて、一定量の維持補修予算が確保されているんだ。維持系の公共事業予算って呼んでいるんだけどね。これが地元建設業者の安定した収入源になっている。建設業者の食い扶持ってとこかな。一方、道路の新設や公共施設の建設など、新設系の公共事業の方は、事業が終われば予算は付かなくなる。もっとも、道路が損傷した場合の維持補修や老朽化に伴う施設の修繕は維持系の公共工事として残るけどね。建設業界を有力な支持母体に持つ民自党の県議会議員は、維持系の公共事業予算の確保に腐心しているよ。特に選挙の年になると、建設業界の票を当て込んだ民自党からは県政与党という立場を利用して、公共事業予算の増額要望が県に出される。要望どおりの予算を確保した後は、『箇所付け』といって、公共工事の施工場所を巡って民自党の議員の間で予算の分捕り合戦が行われるんだ。この時に、個々の議員の力量の違いが出てくる。より多くの公共事業予算を自分の選挙区に持ってくれば、選挙の時に建設業界が強力な集票マシーンとなって動いてくれるからね。その点、田沼市選出の山田県議は大きな力を持っているよ」
「この前、ウチの店で建設業協会の総会があって、その後に行われた懇親会の席で、来賓の山田県議が挨拶の中で、田沼市内で行われる県の事業予算を大幅に増やしたことで、民自党の同僚議員からやっかみを買ったというような話をしていたけどね」風間が言った。
「これだけ沢山の公共事業予算を地元に持ってくるんだから、来年春の県議選には沢山の票を集めて欲しいってことね。田沼市内で行われている県の公共事業って、どんなのがあるの?」久保田が尋ねた。
「大きな事業といえば、田沼川の河川改修工事があるね。田沼川は安曇野連峰を水源に田沼市内を流れる二級河川で県が管理している。田沼川は総延長が約40キロある河川で、国が管理している一級河川の信州川に合流している。田沼川は川幅が狭いので、梅雨期に水量が増えると堤防が決壊する恐れがあるということで、今、河口から20キロの区間で川幅を広げる工事をしている。右岸側は市街地になっているので、左岸側の田んぼを買収して川幅を広げる工事が行われているんだ。総事業費は約400億円、事業の実施期間が20年だ」
「400億円と言えば市の年間予算と同じくらいだね。400億円を20年かけて田沼川の改修工事につぎ込む。平均すれば毎年20億円もの公共事業予算が田沼市内で使われているんだね」甘木が言った。
「そして県工事を受注するのは田沼市の建設業者ということか。当然のことながら、山田県議の実兄が経営する山田組も工事を受注しているってことだろうね?」風間が言った。
「もちろんだよ」
「上手くできているね。山田県議は挨拶の中で『田沼川の改修工事は私のライフワークだ』って言っていたけど、実兄が経営する建設会社の利益確保という趣旨も含んでいたんだね」風間が言った。
「公共工事や予算のことについてはだいたい分かったわ。市が発注する公共工事の入札で官製談合が行われているって話だけど、入札についてはまだ分からなことが多いわ」久保田が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第46回)

2017年7月28日ニュース

「今、杉田君が話したように、土木工事とか建築工事とか、公共工事っていろいろと種類があるみたいだけど、その辺、私のような素人でも分かるように説明してもらえない?」久保田が言った。
「ごめん、ごめん。つい専門用語が出てしまった。公共工事といっても様々な『業種』に分かれているんだ。入札に参加できる建設業者が登録された『入札参加資格者名簿』をみると、登録業者数が多い業種の順で『土木』、『建築』、『電気』、『菅』、『舗装』、『機械器具設備』などがあるよ。例えば、道路や河川工事の場合は『土木』に、道路の舗装工事だけであれば『舗装』の登録業者に発注される。一方、公共施設を建設する場合は、『建築』、『電気』、『機械器具設備』の登録業者に発注されるけど、移転新築の場合は、建設用地の造成工事を伴うので『土木』の登録業者も加わってくるんだ。もっとも大手の建設業者は『土木』と『建築』というふうに複数の業種で登録されていることが多いね」
「『菅』って何?」久保田が尋ねた。
「管工事のことで、道路の下に水道管や消雪パイプなど、長い管を敷設する工事のことだよ。そして、この『入札参加資格者名簿』には、業者名、本店の所在地、総合評点、格付結果が記載されているんだ。」
「総合評価、格付結果って何のこと?」久保田が尋ねた。
「総合評価は、公共工事の施工実績や技術力などを総合的に評価して点数化したものだよ。点数が高いほど評価が高くなる。格付結果は総合評価点を基にAからDまでランク付けされている。格付けの順番はAが一番高くて二番目がB、一番低いのがDということになるよ」
「田沼市内に本店を置いている地元業者にはどういった業種が多いの?」甘木が尋ねた。
「大手業者では『土木』、次に「建築」かな。中小の業者では『土木』、次に多いのが『菅』だね」
「『建築』を受注できる中小の地元業者が少ないんだね」甘木が尋ねた。
「そのとおり。建築工事には様々な専門技術者が関わっている。これらの人材を確保できるのは大手業者しかないんだ。専門の技術者を確保できない中小の建設業者は受注できる工事は土木工事や菅工事に絞られてしまうんだ」
「井上市長は文化会館と総合体育館の建設を市長選の公約に挙げるそうだけど、この施設を請け負える地元業者は大手しかないということ?」久保田が尋ねた。
「そうだね。受注できる業者は限られてくるね。それと、これら公共施設の入札は、たぶん共同企業体(JV)方式で行われると思うよ」
「共同企業体方式って?」久保田が尋ねた。
「ごめん、ごめん。また、お役所言葉が出てしまったよ。共同企業体方式っていうのは、一社だけでは請け負うことのできないような大規模な工事を複数の業者が協力して請け負うことだよ。文化会館と総合体育館の建設工事の入札が共同企業体方式で行われるということになれば、地元業者と県内ゼネコン、大規模な工事になればスーパーゼネコンも入ってくるかもしれない」
「県内大手の信州建設も入って来るかもしれない。社長の佐川郁夫は田沼市の出身だし、井上市長とは県庁時代から昵懇の間柄だ。何かきな臭い匂いがするよ」風間が言った。
「田沼市だけのことじゃないけど、建設業者のなかでも土木業者が多くなっている一因に、降雪が多くて山間部が多い長野県の地理的な特徴が関係しているよ」
「地理的特徴?」甘木が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第45回)

2017年7月26日ニュース

「確証はないけど、市が発注する公共工事の入札情報が入札前に業者側に漏れている『官製談合』が行われているんじゃないかと思っているよ」
「官製談合って何?」久保田が尋ねた。
「公共工事の入札は、発注者が『設計図書』っていう工事の仕様書を入札に参加する業者に示して、幾らで工事を受注できるかを、業者間で競わせて、一番安い価格を提示した業者と契約をするんだ。ところが入札前に業者同士が話し合って、落札する業者や落札価格を決めておいて、業界全体で不正に利益を分け合うことを『入札談合』っていうんだ。この入札談合は刑法で禁じられている違法な行為だ。この入札談合に発注者側の公務員が関与することを『官製談合』と呼んでいるんだ」
「杉田君の考えでは、市が発注する公共工事で官製談合が行われているってことね?」久保田が尋ねた。
「そう、田沼市内で行われる公共工事の落札率が県内市町村平均よりも高いのは、官製談合が行われていると思われてもしかたがないよ」
「官製談合には上層部も関わっていると思うけど誰か分かる?」風間が尋ねた。
「上層部では井上市長、市議会の遠山議長、小林副議長あたりだね。それと、山田良治県議会議員だよ」
「井上市長は県の土木部出身だし、遠山議長や小林副議長は市議会の最大会派『田沼クラブ』のツートップだ。田沼クラブは民自党の山田良治県議会議員系列の会派だからね」風間が言った。
「さっき、杉田君が、『田沼市内で行われる公共工事の落札率が県内市町村平均よりも高い』って言っていたよね。これは市が発注する公共工事だけでなく、県が発注する田沼市内の公共工事の落札率も高くなっているってこと?」甘木が尋ねた。
「そのとおり。田沼市内で行われる県の公共工事でも入札談合や官製談合が行われていても不思議じゃないね。井上市長は県の土木部出身だ。県の土木部には井上市長の部下だった職員だって多いだろう。また山田県議の実兄は山田組の社長だ。山田社長は建設業協会の会長をやっている」
「それと、『官製談合』に関わっている市の関係部署ってどこか分かる?」風間が尋ねた。
「道路や河川などの土木工事であれば建設課だし、新たな公共施設の建設になれば、出来上がった施設を所管する部署になる。それと入札業務を統括している入札課だ」
「この前、教育委員会に務めている妹から聞いた話だと、井上市長が市長選挙の目玉政策にしようと、文化会館と総合体育館の建設を公約に挙げるそうよ」久保田が言った。
「文化会館も総合体育館も教育委員会の所管だからね。でも入札に必要な設計図書の作成は、一級建築士のいる建設課が担当することになるよ」
「杉田君の話では、公共工事の入札を巡って政官業の鉄のトライアングルができているってことか」
 甘木が言った。
「そう、まさに『一蓮托生』の関係だね」杉田が言った。
(作:橘 左京)

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